132・それはさすがに無理な事が判明した
何とか出来上がった自脱型コンバイン。
収穫時期となったので実際にシヤマムの収穫に使用してみることにした。
さて、今更ではあるが穀類の乾燥には穂が付いた状態で田畑に重ねて、あるいは立てかけて乾燥させる方法がよく知られている。
洋の東西を問わず乾燥とは基本的にそうやって行い、2、3週間後に何らかの方法で脱穀を行う。
しかし、機械化されて後には乾燥機という専用の機械で乾燥を行うようになるのだが、まあ、コレがまた製作しようと思うと問題が多い。
前世、一般に利用されていた乾燥機と云うのは循環式乾燥機と呼ばれるもので、箱形のタンクの底は網状のダクトが通り、ファンが設置されている。
その通風によって周囲の穀物を乾燥させるのだが、当然、それだけでは乾燥が均一に出来ない。
そこで、タンクの下に搬送スクリューが設置されており、昇降機へと常に最下層の籾が送られ、最上部へと送られていく。
こうして乾燥機が稼働している間じゅう穀物は乾燥機内を巡り続けることでほぼ均一な乾燥が行われる仕組みが出来ている。
当然だが乾燥機が作られた当初からこんな装置が完成していた訳ではない。
乾燥機の歴史を紐解けば明治頃に炭を入れる部屋を持つ容器に籾を投入する仕組みのモノがあったという。
そこから動力式のファンが開発されるとバーナーで熱した温風を床の下へ通す、床暖房みたいな仕組みの箱へと籾を投入する平型乾燥機へと発展していく。
平型乾燥機は籾を循環させる機能は無いので、人間が時折籾をかき混ぜて乾燥が均一になる様に手を加える必要があった。
が、送風ファンを作る事がこの世界では今のところ目処が立たない。水車を利用する手が無いではないが・・・・・・
なので、もっと原始的なムシロに収穫した籾を撒き広げて乾燥させる昔ながらのやり方をしている訳だ。
食味上、脱穀前に乾燥した方が良いらしいが、機械があるのに使わない手は無いではないか。
「ポニーでは力不足の様だな」
田にコンバインを曳かせたポニーを入れて歩かせたのだが、二頭曳きでも進むより止まる時間が長い。
自脱型コンバインが発売されたころの馬力が5~6馬力程度の二条刈り。関係ないが、小型空冷石油エンジン。形はガソリンエンジンだが、ガソリンは始動時にしか使用せず、運転時には灯油を燃料とするエンジンであった。
ほぼその程度の能力相当を目標に作ったのだが、ポニーには重荷であったらしい。
「この大きさで牛が必要ってんじゃあ、さすがに使えなくないか?」
ルヤンペやミケエムシもそんな感想を持っているらしいが、それには同意だ。
何より、乾田化してあるナンションナーの圃場でなら使えるが、辺境北部の湿田で使える機械ではないという当たり前の現実を、今の時点で見ない事にしている趣味の産物でもある訳だが、そこに触れてはいけない。
「やはり無理があったか。構造も複雑な分、内部で力を使う。小さく作ったところでポニーに引けないのでは実用化できない」
そう結論するしかなかった。
この世界に内燃機関があれば実用化も夢ではないのだが、石油がどこで手に入るのか分からないのではどうしようもない。
アルコール燃料と言う手もあるにはあるんだが、高純度エタノール製造のために穀物や芋を大量生産すると云うのも何だか矛盾している気がする。
そもそも、マグネトーを自身で作る事が出来ない。磁石とコイルとコンデンサーが必要という事は知っているが、農機具に搭載されたエンジンに付属するマグネトーユニットしか扱ったことが無いのだからどうしようもない。
この世界で作るなら、焼き玉、あるいはグローエンジンだろうか?
といっても、グローエンジンなら構造はガソリンエンジンや石油エンジンと大差ない。スパークプラグの代わりにグロープラグが付いているのが違いだ。
熱した棒が刺さっているだけだからスパークプラグの様な効率は望めないし、マグネトーやデスビのように点火時期調整できないのは欠点かもしれない。
確かにラジコン用エンジンとしてアルコール燃料で動くモノが出回っていたはずだが、サイズは手のひらサイズ、最低でも300~500ccで5馬力程度の出力が無いと農機具を動かす動力としては使い物にならないが、そんなものが存在したかどうかは知らない。
焼き玉エンジンならば燃料の心配が少ないが、無水エンジンなら構造は俺の知るレシプロエンジン一般に近い筈だが、沸騰蒸発型の水冷エンジンだからどう考えてもデカくなるのは避けようが無い。
同じ6馬力程度として、空冷ガソリンエンジンならば菜園で利用される小型管理機のサイズに収まるのに対し、一般的な水冷ディーゼルの場合、サイズが2倍近くある本格的な耕転機になってしまう。焼き玉でもサイズはぼほ同じとみて良い。
グローエンジンが実用出来るなら今のサイズに載せられるが、焼き玉ではサイズが大きすぎる。
はじめっからコンバインやトラクター前提の比較的小さなエンジンを作ろうというトンでもな考えという点も含め、出来る気がしない。
蒸気機関?知らないエンジンですね。
さて、出来そうに無いものは仕方がない。
「いっその事、誰かが補助としてハンドル付けて回すか?」
ルヤンペがそんな事を言いだしているが、それは何の解決にもなっていない。自脱型はしばらくお蔵入りにするしかないだろう。




