131・帰ると懸案が待ち構えていた
東で手に入れたトウモロコシを持って意気揚々とナンションナーに凱旋した頃には戦勝気分などすっかり去った後で、秋ピッピやアマムの収穫準備が行われているところだった。
「おかえり」
家へ戻るとイアンバヌのお腹がかなり大きくなっている。もうすぐ出産だろうか。
「イアンバヌ、無理はするな」
元気そうにしてはいるが、やはり妊婦が出歩くのは心配で仕方がない。
「ヘンナや村の人たちが助けてくれるから大丈夫」
そう言って何事も無いように振舞っているが、やはり不安で仕方がない。
「それよりウルホ、キヴィニエミやヘンナが大半の事はやってくれていたし、森の民の連絡便で政務は出来たけど、農具はミケエムシやルヤンペだけじゃ分からないらしいよ」
そう、ちょうどアマムの収穫が始まろうという時期に差し掛かっているが、自脱型コンバインを作りかけのまま辺境北部へと出向くことになっていた。
日本でコンバインといえば北海道を除けば自脱型が大半だろう。なにせ、日本で開発された稲作用コンバインだからだ。
コンバインと云うのは欧米で麦作用に作られたもので、19世紀中ごろには牛馬に曳かせるものが存在していた。
麦と云うのはその性質上、乾燥した状態で収穫が行われるのだが、稲の場合、茎や葉はまだ水分を含んだあおい時期に収穫が行われる。
欧米で利用される普通型コンバインと云うのは一部の例外を除いて茎や葉も刈り取って脱穀胴へと送り込まれるため、水分が多く含まれていると脱穀能力が酷く不効率な事になる。
しかも、日本の場合は収穫時期が台風シーズンと重なる事もあって倒伏によって刈り取り困難であったり、酷く湿っていたりする。
それらの問題を解決して効率的に脱穀を行うには、茎や葉を扱ぎ胴へ送り込まなくて済む、足踏み式脱穀機をさらに発展させ、脱穀と選別が行えるようになったハーベスターを用いる事が必要であり、ならば、ハーベスターに刈り取り機能を装着すれば刈り取り、脱穀が自動で行えることになる。
そのような発想で1966年に完成したのが、日本独自の自脱型コンバイン。場合によっては日本型コンバインとも呼ばれる、日本人がよく見かけるソレになった。
ここカルヤラでは必要が無さそうに見えるかもしれない。
しかし、すでにナンションナーでは米に類似する作物であるシヤマムの試験栽培も始めている。
あって無駄にはならないので試作しているのだが、問題があまりにも多かった。
「だいたいの事は伝えたはずだが、不明点があるなら見に行こう」
荷ほどきをして翌日には農具を製作している工房へと向かった。
「おお、嬢ちゃん帰って来たか。早速で悪いが、ちょっと見てくれ」
工房へ行くとルヤンペが何やら放置していた機械へと案内する。
そいつは作りかけのコンバインであり、初の自脱型だ。しかし、刈り取り部が完成していない。
自脱型コンバインと云うのは、元はハーベスターにバインダーを合体させた複合機械なので、一応、ハーベスターの存在するナンションナーでの製作に問題はない。
当初は足踏み式脱穀機と唐箕を合体させたものから始まって、選別用に揺動板を有するものまで製作している。
これにかき込み式の刈り取り部を備えたのが普通型コンバイン。
そして、手回しで皮ベルトを用いた搬送部を持った脱穀機の製作によってシヤマムの脱穀も今では可能となっている。
そこへ刈り取り装置を備えたるのが、今製作中のコンバインなのだが、どうやら問題があるらしい。
「刈り取り用に爪の付いたベルトを取り付けて、刈り取り刃はバリカンとかいう奴にしたんだがよ、問題はそこからだ」
普通型コンバインでは刈り取った作物はかき込み部に集められてベルトでそのまま脱穀部へと送られる。
そう言うと、自脱型でも同じじゃないかと思うだろうが、事はそう簡単じゃない。
普通型の場合は穂先の向きだとかは一切関係がない、何なら筒の中をベルトで流せばそれでどうとでもなってしまうのだが、自脱型の場合は正確に脱穀部の搬送ベルトへと茎の向きを揃えて送り込む必要がある。
この仕組みが思った以上に難しい。
こんなモノを考え付いたヤツは変態で間違いない。
と云うのも、刈り取り部は当然ながら、移動や旋回時には持ち上げて走行の邪魔にならないようにする可動機構が必要になるので、どう工夫して作ろうと、脱穀部と刈り取り部を単一のベルトで作る事が出来ない。
もちろん、脱穀機ごと可動させれば問題ないが、あまりにも重量がありすぎて現実的ではない。
なので、刈り取り部、搬送部、脱穀部をそれぞれ独立させたベルトでもって縦から横へと綺麗に作物を移動させる、アレを作る必要がある。
「おいおい、それはなかなか難しいな」
ルヤンペですら唸る代物になりそうではあったが、どうにかしてもらいたい。
ベルトといってもベルトだけでは搬送は不可能で、抑えや爪が必要になるので、可動部を密着させすぎる訳にも行かない。
段違いにしたり、案内棒で藁を適切な向きへと変えていくという、言うだけなら簡単だが、一から創り出すのは中々に難しい話となる。
しかも、これは手品のように一度成功すれば良いのではなく、その状態を刈り取り中、ずっと継続できなければならない。タイミング云々の話ではなく、連続した動作を要する。
保管していた藁で動作確認をしながら地道に検証しながら製作していると、あっという間に収穫時期になったのは言うまでもなかった。




