129・それはまた違う名前で現れた
翌朝は造船工房の見学をすることになった。
海から見た工房群を陸から見るとより巨大だった。
「どうですか。特殊な船以外はこうしてほぼ分業で作っております」
そう言って説明された。
そこには船のパーツを工房ごとに分業して、最終的に船台で組み上げていくという非常にシステマチックな状況を見る事が出来た。
骨格の寸法というのは規格が決まっているので工房でパーツを次々作って問題ないそうだ。
しかも、ここは平地というよりその背に丘陵地を抱えているのも特徴だが、その理由は水車動力だった。
「水車を用いてその上、今ではガイニで作られたあの筒、水圧機という物を使って木を曲げる事が出来るんですよ」
熱気のこもった工房内では釜から上げた木を何かプレス機の様な機械で曲げていた。
ああして船の湾曲した部材を造り出しているのかと感心してしまう。
この造船所で作っているのは主に内航船らしい。そして、外洋へ出る船を作る造船所は半島の外洋側にあるのだという。
「材料は何処から持ってくるんだ?」
これも大きな疑問である。
この辺りは既に木を伐り尽くしており、僅かな林と草原や畑が広がるばかり。確かに山も見えるが、あれは辺境山脈の様に険しいそれだろうから材木の供給地にはなり得そうにない。
「材木に関しては、外洋を超えてほぼ一回りする形で運んできています。その帰りに、こちらで作った部材を造船所まで運ぶこともあります」
何とも凄い話だ。
船の部材が規格化されていて一か所で大量に作れる。そして、それを他の造船所へ供給も出来るというのだからすごい話だ。
その分、材料を他に頼っているようだが。
ただ、ここまで凄い設備があるのならばいっそ鉄船が作れるんじゃないのかと思ってしまうのだが。
「鉄の船ですか。ええ、確かに軽い皿だけでなく重い釜すら海には浮きますが、鉄で船を造るとなると凄い数の鍛冶師が必要になります。なにより、一隻船を作るのに必要な鉄の量を考えると割に合いませんよ」
なるほど、鉄など浮かんとかいう盲信ではなく、採算性や生産能力という部分が大きいのか。
確かに、船用の鋼材を量産して一隻作るとなれば、カルヤラ王国の年間予算にも匹敵するだろう。そう考えるとおいそれと鉄船が作れないのは納得だ。
鉄船を作るには、まずは鋼材の大量生産が実現しないといけないが、鍛冶師がその技術力でもって少量生産している程度ではまだまあ不可能なんだろうな。
と言っても、大量生産する技術なんて俺は知らないし、金属についてはルヤンペの領分だ。俺にはサッパリわからん。
一通り造船所の見学を終えて一つ疑問に思った。
「あの木くずはどうするんだ?」
そう、前世でオガライトなるものがあったのを思い出した。おが屑を集めて圧縮成形すれば出来るはずだから、そうすれば薪代わりの燃料になるはずだ。
「木くずは使い道が無いので、草原に撒いたり、燃えにくいですがそのまま燃料にしたりですね」
というので圧縮成形したら薪代わりになる事を教えた。
「ほう、そんな事が出来るのですか。それは確かに便利そうですな。試してみましょう」
案内人はそう言って何やら考えている様だった。
見学から帰ると朝食が用意されていた。
「これは?」
それはお粥に葉物や魚が入っているので雑炊、或いはリゾットの類だろうと思う。
「それはサヨです。こちらでの朝食の定番です」
という返事が返ってきた。スプーンで掬うと昨日のご飯ポイ粒がふやけているのが分かる。そして、細切れの魚や葉物。港町だから肉ではなく魚なのだろう。そこはナンションナーにも通じる部分だ。
「同じようなものが森の民の食事にもある。あちらは収穫量が少ない穀物を使う宴料理だったが、確かにこのような煮込んだものは朝食に向いているな」
もっともらしい事を言っておく。
朝食はどうやらこれと飲み物だけらしい。それでも量自体は朝としては十分なモノだった。
朝食を終えて近郊の畑の視察へと向かったが、そこではすでに脱穀機や唐箕が使われている事を聞かされた。随分便利になったそうだ。
そして、ナンションナーから導入された馬鍬や犂の使い勝手も良いという。
やはり山地のガイナンカとは違い、普通に畑があり気温も温暖な事から農業も盛んで種類も豊富だった。
「こちらでアピオは育てていないのか?」
そう聞いてみると意外な事にほとんど育てていないという。
「ここならアマムも育つ。なによりベルナの方がアピオより芋が大きいからベルナの方が主流となっている」
そんな答えが返ってきた。
そして、未だナンションナーには入っていないトウモロコシを見付けた。
「これは?」
そう聞いてみる。
「そいつは家畜のエサだ。人が食うと毒があるみたいで、そのうち気が狂ったり変な病気になって死ぬんだ」
という答えが返ってきた。
そう言えば中南米では生地にするトウモロコシをアルカリ水に付けて一晩置くとか料理の豆知識で見た。豆でもないのに豆みたいなことをする風習だと思った記憶があるな。
「そうなのか、確か、この粒を石灰か木灰を溶かした水で煮立たせて一晩置くと毒が抜ける筈だ」
実際には毒抜きではなく、アルカリの影響で必須栄養素の吸収が良くなるんだったような?
「それは、ウゴルの食べ方で?」
そう言えば、カルヤラでウゴルを撃退したのは伝わってるよな。ならば、そう言う事にしておこう。
「そうだ」
そういうと納得してくれた。流石にまだ伝わっても居ないはずの飼料がカルヤラで食料なわけが無いものな。
で、名前だが、マイシィというらしい。ベルナ同様、全く俺の知らない言葉になってやがる。




