127・それは歓迎の宴にふさわしかった
「ウルホ、何故少しは脅しておかない」
兄との謁見を終えた俺たちは控室へとやってきた。するといきなりホッコがそんな事を言いだした。
脅しておく必要なんかあるのだろうか?俺には必要性が理解できないが、ホッコはそう言う。理解できないという顔で見返していると、顔を近づけてくる。近いんだよ。
だが、すんでのところで防いでくれた。
「こんなところで脅してもただ警戒させるだけでウルホがやろうとしている事を邪魔するだけでしょうね」
ホッコを押しのけてケッコイがそう言う。
「何言ってるんだ、挑発してきたのは向こうだぞ」
「安易に挑発に乗るバカでは話にならないって事も分からないの?」
呆れたように切り返されている。
「ホッコを挑発して何が起こるか見ていたんでしょう。上手くウルホがそれを回避してよりその力を示してみせた。そう言う事」
などとケッコイがうまい事纏めている。俺とすればそんなもんかと逆に感心しているくらいだが、それを口に出すようなことはしない。
「やはり、ホッコだけでは無理があったな。ケッコイを連れて来てよかった」
やはり、身の安全を守る事は最優先で考えないといけないだろう。ホッコだけ連れて来たのでは身の危険があるもんな。
ホッコはどこか不満そうにしているが、何か言い返してくることは無かった。
そうこうしていると晩餐である。今回は兄が王都の料理を用意するというので食材の持ち込みはしていない。
「こ・・これは」
出された料理を見て驚くホッコ。
「驚いてくれたか。モノは縁辺産のピッピという物だが、フェンではなく穀物として持ち込んで作らせた。フェンばかりがもてはやされるが、他の食べ方もあるだろうと思ってな」
目の前にあるのはカーシャと言えば良いのだろうか。ひき割りしたソバの実を煮込んで作ったらしいミルク粥だった。
「兄上、ピッピは森の民の穀物です。しかも、この粥状にするのは彼らの宴の料理ですよ」
そう、兄に教えてやる。
「そうだったのか。シヤマムとかいうもの同様に縁辺や辺境の雑穀だと思っていたぞ」
兄がそう言うのだからそうなんだろう。
「なるほど、肉や香草ではなく、乳で煮込むのはコレは森の民とは違う発想だね」
ケッコイがその粥を食べてそんな感想を述べる。隣で久しぶりのピッピなのだろう。行儀がなってないのがいるが誰も気にしてはいない。
「そうなのか?軽食や前菜として出すのならばこれが良いと料理人も言っていたが」
そんな事を兄が言う。
「ピッピは森の民には宴の主となる食べ物だから、出来るだけ豪華に作るから、こうした軽い食べ方はしていない」
ケッコイはそのように素っ気なく応えるが、不満がある訳ではないらしい。
そんなやり取りを聞きながらそのカーシャモドキを食べる。
「なるほどな。カルヤラでの主食はパンだ。それ以外のモノを副菜や前菜として考えることになる。ピッピにするかベルナにするか迷ったが、ピッピが森の民の宴料理の品ならば、選んでよかったという事だな」
兄がそんな風に納得している。ホッコはあまりそうした事は気にしないらしい。
「結果としてそうなっているでしょうね。私も歓迎されたと受け取ってる」
ケッコイもそう応対してる。本当に役に立たないなホッコよ。お代わりとか要求するんじゃない。
俺はふとそこで考えた。
神盾兵団はベルナを栽培している。なにせ、荒れ地であり、あまり気温が高いわけではないらしいからだ。環境が厳しく冷涼な地域でアマムはうまく育ちはしない。救荒作物としてジャガイモは非常にうってつけと言えるだろう。
ならば、同じく救荒作物と言えるソバはどうだ?
ジャガイモはとくに収穫前の湿気を嫌う。生育中に湿気を嫌うのはソバも同じだ。ならば、連作障害の起きるジャガイモばかり育てるのではなく、輪作として他の作物を育てた方が良くは無いか。
「兄上、ベルナを育てている神盾兵団にピッピを育てさせてはどうでしょう」
そういうと、兄が興味深そうに俺を見て続きを促してくる。
「ベルナには大きな欠点があります。気候次第で年二回収穫が可能なのですが、同じ畑で常に栽培すると収量低下や病害の発生を招きます。出来れば二年、畑を休ませる必要があるのですが、ピッピであれば、ベルナの病害の影響を受けたり収量が低下するようなことはありません。ベルナとピッピ、ピヤパを輪作とすれば畑の利用効率も上がる事でしょう」
兄も聞きながら頷いてる。
「なるほどな。アマムの栽培に向かないからとベルナばかりでは畑をダメにするか。ピヤパのパンムなどはアマムとはまた違った風味になる。確かに、アマムばかり、パンばかりに偏る事も無いわけだな」
そんな事を言う。
確かにそうだ。兄が率先してフォークの利用を撤廃している。そして、パン以外の主食を奨励もしている訳だ。ならば、材料もアマムに拘る必要もない。複数の穀物を栽培することで飢饉対策にもなる。
「そして、更にお前の農具を購入しないとイケなくなるわけだな」
そう言って笑った。
「ピッピやピヤパであれば、馬に曳かせて刈り取り、脱穀、選別が一度に可能なコンバインという機械も使えるでしょう」
そう言うと、さらに笑い出す。
「俺の利益になるだけでなく、自分の利益もしっかり考えているか。お前らしい」
効率から言うと牛で曳く大型コンバインは無理だから、縁辺ほどの作業能率は出せないとは思うが、確かに、更に機械が売れるのは俺の利益と言って良いのだろうな。
その後は他愛もない話をしながら晩餐を終える事が出来た。




