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126・王都へ行ったので新型農具の追加導入を要請した

 辺境での療養の後、俺はその足で王都へと向かう事になった。


「よく来た、ウルホ」


 兄がいつものように玉座でそう言う。今回はどうしてもというのでホッコも連れて来ているが何もしゃべらす気はない。


「まさか、キエシがあのような技を編み出すとは思わなんだ」


 兄もそう言ってくる。それには俺も同感だ。


「あれには驚きましたが、何分、速射性には難があったようで、シッポによって討ち取りしました」


 そう伝えると何やら満足そうだった。


「辺境都まで攻め入ったそうだが、やはり、不要か?」


 そう聞いてくる。


「はい。辺境北部があれば十分です。なにより、南部を得たとしても交通の便が悪く、産物は王都へそのまま運ぶ方が早く、必要な農具の輸送にさえ困ります」


 そう、山脈によって隔てられており、河川交通に適した川が流れていない。そんなところをなぜ欲しがらなければならないのか。

 ふと横を見るとホッコが非常に不満そうだった。


「ところでウルホ、その者は森の民だな?」


 兄がホッコに興味を持った。


「はい。ケッコナン族を率いて辺境都を落としたのは彼です」


 そう紹介すると周りの大臣や騎士が騒がしくなる。


「なるほどな。ここも落とせる。そう言う顔をしているな」


 ホッコが何か言いそうだったので蹴飛ばして止めた。


「その必要はないので、仮定の話でしかありません」


 代わりにそう答えておいたが、ホッコは不満そうにこちらを睨むが、無視だ。



「それで、南方へ送る農具を新たに追加したいとの事だが、どういうことだ?」


 今回の戦役前に兄から依頼があった神盾兵団が入植する地域への農具なのだが、色々調べてみると少し不安が出て来たので、一般的な犂だけでなく、チゼルを馬用に開発して送ることにした。


 そもそも、山脈北部のあの地域でも塩害と共に地力低下がみられた訳だが、その原因の一つは犂耕にあるのではないかと思ったからだ。


 犂耕のメリットは深く爪を差し入れて下層の肥えた土を表層へと持ち上げる事にある。天地ガエシなどともいわれるように土を下層と上層でひっくり返す事になるので、養分を使い果たした土を地中へと追いやり、肥えた土で新たに作物を育てる事が出来るようになる。


 そう言えば非常に利点が大きいように見えるが、継続した肥料の投入が無ければあっという間に地力を使い果たして痩せた土へと変えてしまい、土地が荒れる事になる。


 その対策として用いる事が出来るのがチゼル。


 チゼルは犂に分類されるが、土を反転するモノではなく、反転板なくただ爪だけを土に差し込み、刃で土を持ち上げることで解すように作用させる。


 この爪が一本しかないモノを特にソイラ―といって、普通の耕深の倍に達する30~50cmに差し込み溝を付けることで水の浸透、いわゆる排水性を高める道具となり、チゼル同様に複数の爪を持つ物の中で小さな反転板をもち、攪拌作用を持たせたものをカルチと呼んだりもする。


 実は、日本でも21世紀に入る頃から本州以南の水田への導入も行われている。


 まず、日本で主流のロータリーだが、これは厳密にはロータリーハローというモノになる。漢字で書くと回転爪馬鍬となる。そう、主耕作機械として認知されているが、実は砕土や攪拌を主に使う馬鍬の一種で、本来の意味で耕起を行う犂に代わる道具という訳ではない。


 そのため、比較的浅い所に水を通しにくく根を張りにくくする硬盤層というモノが形成され、水はけを悪くしたり根張りを悪くする原因となっていた。その解決手段としてカルチが導入されているという訳。


 カルチであれば深く爪を食い込ませ、粗く土を攪拌しながら藁や株をすき込む効果を持っているため、秋から春の間に田を乾かしたり野菜や麦の前に水はけや根張りをよくするために使われる。


 南方では主に地力を持続させるために土の反転を抑え、芋を育てる柔らかい土壌づくりを目的として最も簡素なチゼルを準備している。


 そもそも山脈北部やゼロなどでの利用も考えて試作を行っていたのがようやく完成したというのが一番大きな理由だ。


 兄にはベルナ栽培には水はけのよさが大切であること、当地があまり豊かな土地ではないことから犂の利用を最小限にすべきことを説明した。


「なるほどな。食い物を育てるにも知恵と技術は必要か」


 どうやら納得したらしい。


「そしてもう一つ。芋を掘るのは大変なので馬に曳かせて芋ほりが出来る機械も完成しましたので、それも送りたいと思います」


 試験的にナンションナーの畑でベルナを育て、そこでポニーに曳かせた試作機で試行錯誤をして何とか完成している。動力が無いので偏芯させた車輪で振動させるという効率の悪い代物ではあるが、鍬や手で掘って行く事に比べれば随分と楽になるはずだ。


「しかしウルホ、それではまるでお前へ与える物が無いではないか」


 特に何かが欲しいわけでもなく、そればかりはどうしたものかと考えてしまう。


 「すでに大きなものを頂いております。縁辺ではほぼ何の制約もなく活動が出来ておりますのは陛下のおかげ。これ以上望む物はございません」


 何も要らんという訳にも行かず、そう逃げるくらいしか思付きようが無かった。

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