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124・さすがに軽鉄でも防ぎきれない攻撃だった

 衝撃で弾き飛ばされた俺は馬から落ちるところだったが、後ろに控えていた森の民に助けられた。


 馬は山の民が抑えてくれた。


「公、お怪我は?」


 ちょうど俺を隠す位置から動かずにミンナがそう聞いてくる。


 俺は森の民の助けを借りながら馬へと乗る。


「無事だが、どうやらろっ骨をやられたかもしれん。胸が痛い」


 鎧を触るとわずかに軽鉄がへこんでいる様だ。かなりの威力を持った矢だったんだろうな。


「コレだ」


 山の民が矢を拾って俺に見せる。


「草原の技術では戦矢の強度や硬度、重量を再現する事は叶わず、こんな太くて不格好な矢しかできなかったんだろう。コレを射る奴は相当な手練れだな」


 その評は当たっている。キエシ伯爵というのは王国有数の弓の名手だそうだ。そんな腕でなければコレを射るのは無理があるんだろう。


「キエシ伯爵討ち取ったドー」


 ちょっと噛んだようだが、変態(シッポ)の声が聞こえた。


「そうなるだろうな。こんな矢では手練れであっても番えるのに時間を要する。普通の矢であればあ奴に撃ち負ける事は無かっただろうに」


 山の民が変態の声を聴いてそう感想を漏らした。


 確かに、矢というより棒と言った方が良い様な太い鉄の棒を使っているんだ。バリスタじゃあるまいにこんなものを番えるのは大変だろう。


 だが、考えていると思う。通常の矢を射てもよほど精密に鎧の隙間を狙いすまさなければ相手に刺さらないし、刺さったところで相手を無力化出来なければ意味がない。

 そう考えれば、相手を刺すのではなく殴りつけるという、まるで槍を使うような発想に至ったのは凄い事だった。

 どうやればそんな発想に至るのか俺ではよく分からん。


「シッポはどうしている?」


 ミンナが未だに盾になっているので前が見えない。俺が蹲る様にした馬に乗れていないのだから仕方がないが。


「キエシ伯爵を失った貴族軍は混乱しています。有力な騎士や貴族の意を狙い撃ちにして統率を乱して壊乱させるように動いておりますのでもうしばらくすれば戦いは決するかと」


 どうやら変態は的確に騎兵を指揮できている様だ。勝手に突っ込んだように見えたが、あのイノシシも実は賢かったのだろうか?


 何とか俺が体勢を建て直すとミンナが横へ退いた。目の前には混乱して逃げ惑う貴族軍とそれを追い散らかす迷彩姿の騎兵という画ずらが展開されていた。時折、馬に乗った貴族軍の指揮官らしき姿が矢を射かけられている。森の民と変態率いる騎馬弓隊の技量は完全に貴族軍を圧倒している。


「この鉄の矢で僕を落馬させて一気に押し潰す気だったのだろうか」


 山の民から渡された棒を手にしてそう独り言を言う。


「どうやら、貴族軍はそう考えていたようですね。キエシ伯爵が単身突出して第一矢を放ちましたから。シッポが公の落馬に気づき、矢を射るのが遅れていれば潰されていたのは我々でした」


 なるほど、ミンナは貴族軍から俺を隠したというより、変態が気にするのを避けるためだったのか。確かに、ミンナが退いてから時折変態がこちらを窺っている気がする。


「林に居るという第二陣についてだが・・・」


「それなら心配しなくて良い。縁辺公が落とされかけたとホッコに伝令を出した。明日の朝までには林から敵は消え去っているだろう」


 森の民が途中で遮るようにそう声を掛けて来た。そいつはご愁傷様だ。


 馬が少し動くと酷く痛むのを我慢しながら俺はその場に居続ける。これほどの苦痛はない。指示は全てみんなに任せた。下手に声を出せば馬が動くのでこれ以上喋る事すら難しい。


 何とか耐えていると貴族軍は完全に統制を失いテンでバラバラに逃げ散っていく。


「そろそろシッポを呼び戻します」


 ミンナがそう言うので頷く。


 ミンナの指示がシッポに伝わり、しばらくするとこちらへと一騎駆けて来るのが見えた。


「公!お加減は!!」


 コイツの口の軽さはどうにかならんのか?いくら敵を撃退したとはいえ、まだ完全に終わっちゃいないというのに、俺の負傷を公言してどうする。


 ミンナが睨むがさすがに咎めるようなことは言わない。敢えて負傷を肯定してやる必要も無いだろう。そのくらいの分別もないイノシシというのは困ったもんだ。


 隣へと駆け寄った変態は俺を見て安心している様だ。なにせ、外見上は異常無いわけだからな。


「キエシ伯が矢を射た時はどうなるかと思いました。私がキエシ伯を倒し、第二矢を射かけさせない事が最善と動きましたが、良かった」


 うん、その判断は間違っちゃいなかった。突出したキエシを倒したから敵は混乱し、撃退する事が出来たのだから。


「うるさいシッポ、コレを受けた。衝撃でろっ骨をやられたらしい」


 そう言って棒を見せると流石に変態も唖然としていた。山の民から棒を受け取って眺める変態。


「太さや長さはともかく、重量は戦矢と同等、いや少し重い?」


 さすがにそれを射るのは難しいと判断したらしい。


「これは考えましたな。たしか、神盾を撃ち抜くのにバリスタを用いたはずです。バリスタのボルトの様な重い物体を用いれば、貫通しないまでも相手に衝撃を与え、足場が不安定なら転倒や落馬を誘う事も可能ということでしょう。あの機械弓があったからこそ出来た発想でしょうが、しかし、陛下は何故キエシ伯爵にあの弓を下賜してしまったんでしょうか」


 シッポも矢の効果について思い至ったらしい。が、兄がキエシに弓を与えた理由までは思い至らないか。


「兄が渡したのは決起を誘うためだ。()()()()()の為だ。イタタ・・・」


 さすがに痛くなってきた。


 その時、誰かが後方からやってきた。


「ウルホ、大丈夫?」


 ケッコイだった。


「コレを飲むと良い」


 そう言って水筒を渡され、飲んだ。おいこれ、酒じゃねぇか。そう思ったところで酔いとは違うナニカで眠気が襲ってきた。


「気丈に装って無理をし過ぎてる」


 そんなケッコイの声が聞こえた気がするが、それ以降の事は覚えていない。

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