123・とうとう敵が攻めて来た
詳細な陣形の検討を手早く済ませて俺たちは貴族軍目指して出撃することにした。
「騎馬隊に森の民が居るのを悟られてはいけない。森の民にも鎧の着用を命じる」
俺はわずか50しか居ない手持ちの騎馬隊では無理と判断して馬に乗っていた森の民も連れていくことにしたが、あの緑の服では森の民だとバレてしまうので、鎧の着用を指示した。って、鎧が迷彩色なのだから大して変わらない気もしたが、たぶん欺瞞にはなるだろうと思う。
当然のように森の民たちは不満顔だったが、どこかのロシア軍模様の緑系迷彩に彩られた鎧を着こんで隊列に加わってくれている。
「そんな事だろうと思って作っておいて正解だった」
ホッコ付きの隊長格の森の民がそう言ってきた。
なあ、それ、いつもの服を鎧にかぶせただけじゃないのか?と、返したくなったが、本人たちが気にしていないのであえて聞くことはしなかった。
全員が和弓モドキで統一した100ほどの騎馬隊。相手は3千弱らしいから何とかなるだろう。
境界の稜線まで行くと遥かな稜線から隊列を組んだ敵らしき集団が見えていた。そんなに急いでいる風でもなく、こちらが突撃しなければ今日の交戦は無いと言った感じに見える。
「槍兵をそこそこ連れてやがるな」
護衛のためにと付いて来た山の民がそう呟く。
護衛について来た山の民は長刀状の槍、バルデッシュを持って居ない。デカイ盾と短槍で完全に防護に特化している。
「進軍速度を速めるために置き去りにして来たのかもしれない」
そう応えておいた。
あり得る話だ。まずは騎兵でもって蹂躙し、突き崩したところへ歩兵が攻め立てる事で完膚なきまで叩き潰すならば、まず必要なのは騎兵による迅速な進軍。
「あまりに早すぎてクフモからの本隊が到着していないというのに」
歩兵を連れたその姿にミンナも悔しそうにしている。
これが騎兵だけであったならば山の民が簡単に蹴散らして戦いを終える事が出来ただろう。だが、歩兵というのは数の暴力だ。いくら山の民が強兵だろうと、さすがに千も槍隊が攻めて来たのでは50や100でどうこうは出来ない場面が出てしまう。
「馬を下ろすだけなら簡単だったんだがなぁ」
山の民がウゴルに伍した理由がまさにそれだ。
馬は機動力があるが山の民の盾で充分防げてしまう、そして、押しとどめて一刺しすれば押し寄せる騎馬軍団が徒歩に変貌するのだからやり易かっただろう。
だが、そもそも徒歩の長槍が相手では、リーチが違い過ぎる。
「先日の報告では騎馬隊による速攻という話だったが?」
そう聞いてみると、騎馬を休ませて歩兵の到着を待っていたのではないかという。
「さすがに林を抜けて俺たちが潜みにくい草原に出た辺りで歩兵を待ったのかもしれない」
林でならば森の民は容易に同化可能だ。どこに居るのかもわからなくなる。だが、草原ではそうも行かない。
いや、正確には姿を消すことはできる。ただ、襲撃のような行動はどうしてもバレやすい。林の木々に潜んで矢を射るのと、草原で矢を射るのでは発見される危険性が格段に変わるのは誰が考えてもわかる話だ。
林ならば森の民の集団すら隠せてしまうが、草原では多数が動けばバレる。
「猪突のキエシ伯とはいえ、やはり戦慣れした御仁だけに、こちらの利点を潰してくるのは当然と見るべきでしょうね」
ミンナが冷静にそう分析している。
当然の話ではあるが、俺たちはウゴルじゃない、全員がオリンピック級の障害走を楽にこなせるようなレベルにはない。ウゴルというのは義経の逆落としが出来て当たり前という異常な連中だ。モンゴル騎兵よりヤヴァイいかもしれない。
連中であれば槍衾を飛び越え進軍とかやっても驚きはしない。が、俺たちには不可能だ。
「こちらが騎馬を用意している事への対策として長槍をはじめから率いて来た訳か」
簡単に釣り野伏が出来ると考えていたが、どうも相手は賢いイノシシらしい。
「数日遅れで出発と思われる別の軍勢が2千ほど林に入ってきている」
森の民が新たに報告してきた。
「こちらも数日待てばカヤーニが来る。第2陣はカヤーニの到着を待って相手をしても問題ないのだが、コイツラをどうするかだ」
まさか、ここで後続を待つようなことはしないだろう。わざわざ俺たちが体制を整えるのを待って決戦を挑むくらいならば、各個撃破に出てくると思う。
「さっさと仕掛けてしまいましょう。合流されては厄介です」
こちらには賢くないイノシシが居る。ドンだけ突っ走りたいんだこの変態は。
「奇襲を前提にした陣形に突撃しても意味はないぞ」
ミンナが即座に指摘する。やはり、槍隊を相応に揃えてるのはそう言う事なんだな。有能なイノシシなのだろう。こちらの変態イノシシと交換したい。
「明日の昼まで待てるなら、槍隊をいくらか連れて来れるぞ?」
山の民がそう言うが、
「すでに相手の軍勢が見えるという事は、きっと明日の昼までは待てない」
ミンナが即座に否定する。
「なら、予定通りにやるしかないだろう」
森の民がそう断言した。
確かにそうだ。下手に作戦を変えては兵力の分散にしかならない。ならば、当初の作戦通りにやる方が正解。
「それしか無いでしょうね」
ミンナがそう肯定してくる。
その日は双方が敵を視認した段階で夜営に入ることになった。敵はこちらが少数であるため夜襲を警戒しているだろう。
当然、森の民が嫌がらせの夜襲を仕掛けて睡眠妨害を行ったが、出来たことはそれだけだった。
まだ薄明という時間から貴族軍の突撃が始まる。
「夜襲は逆効果だったかもしれない」
ミンナがそんな事をいう。
「俺の弓を魅せてやるぜ!」
変態は状況に酔っているだけだった。まるで話にならない。
山の民と森の民の一部が正面から歩兵を受け止め、俺たちは側面へと回る。騎兵の機動力を生かした機動戦と言うヤツだ。当然、後退を前提にした動きではあるのだが。
当然の様に賢いイノシシはこれを読んでいたらしい。
「来たな!野蛮人共!!」
朱色の弓を持つ男が迂回攻撃を仕掛けた俺たちを出迎える。そして、目ざとく俺を見付けやがった。
「手づかみ王子!お覚悟」
何だよ手づかみ王子って、兄もフライドポテト食ったし、あの場でフォーク使ってた方が少数だったろ。時勢ぐらい読んで欲しいと思う。
キエシ伯が矢を放つ前にミンナが俺の前におほろで壁を作る。変態は機械弓と同射程を良い事に護衛よりも速攻を選んだらしい。
すでに俺が送った戦矢は消費したと聞いている。ならば、おほろで防げるわけだから、まあ、変態の行動も問題ないだろう。
そう安心していたのだが、物体がミンナのおほろを貫くのが見え、気が付いた時には体が弾き飛ばされていた。




