120・とある国王の画策
新たにウルホから送られてきた跳ね鹿の燻し肉を食う。やはり美味いなコレは。
「それで、どうなった」
宰相はやはり、燻し肉を手にしようとしない。美味いのに。
「はい、アホカス領周辺、そして寄子の統制と掃除は終えたとのことです」
どうやらキエロは俺のために働いてくれているらしい。さて
「縁辺公に仕官したハユハ子爵家次男ですが、パータロ子爵家次女を許嫁として帯同させることで抑えているとの由にございます」
その様に報告を受けたので頷いておく。
俺の所にはさらに詳細な話がウルホ自身から届いている。どうも、その次男というのがヤヴァイ奴らしいが、許嫁が手綱を握る事で暴走しないで済んでいるのだという。
「ウルホはそ奴に騎兵50を与えたそうだな」
宰相にそう問うと、コレはすでに承知しているらしい。
「はい、縁辺公は50の騎兵を与えた由、さらに、森の民が作り出した馬上長弓なるモノで武装していると報告を受けております」
そうらしいな、参考にと渡されたあのおかしな糸車を用いた弓に比せば常識的な弓という話が書かれていた。
「これで、縁辺領にはウゴルの様な強力な弓騎兵が出来てございます。さらに、騎士カヤーニが率いる弓隊はあの糸車の弓を用いており、国内貴族では他に太刀打ちできるものは居りません。さらに、山の民と森の民を従えており、近衛をもってしても持ちこたえるかどうか疑わしいかと」
宰相はどうやら怯えているらしい。
「そうか、因みにだ。この燻し肉、森の民に獲らせたそうだぞ」
そう言うと、宰相の顔から色が失われていく。
「へ‥陛下・・・」
まあ、言いたいことは分かる。貴族用語でいえば最後通牒に値するだろう。いや、この場合は降伏勧告か。
「心配するな。ウルホにそんなつもりはない」
「しかし、事実としてそれが森の民を使って捕らえた鹿の肉というのであれば、挑発、いえ、この場合は畏れながら・・・・・・降伏勧告という可能性も・・・・・・」
恐る恐るそう言う宰相。
「普通ならそうだが、アイツにその気はない。今のところはだろうが」
そう返しても全く信じられない顔をしている。
「時に、連中は動きそうか?」
俺は話題を変えた。
せっかく内乱を収め、ウゴルを撃退したにも関わらず、未だに不満を持つ輩は多いようだ。ウルホを担ごうとする不届き物はアホカスと王軍で抑え込むか始末しているが、如何せん、ウルホを始末したい連中をこちらで簡単に抑え込むわけにはいかない。
その為、敢えて連中が動きやすい様に辺境周辺に集めてある。暴発しても向かう先は縁辺領であり、王国への被害を最小限に出来る。流石の連中もアホカスにまで攻め入る勇気は無いだろう。連中の中には、先のウゴル戦役の手柄をウルホではなくキエロのものと信じて疑わない者も多い。そう思いたいのは分からなくもない。正室腹でありながら、手づかみでものを食らう事に躊躇が無かったウルホを認めたくないのだろう。
何とも馬鹿げた考え方だが、プライドというモノはどうしようもない。ナイフとフォークがそこまで価値を持つのかと、俺自身でも首を傾げてしまうが。
「どうやら、アホカス家と王軍による縁辺公派粛清を自分達に都合よく解釈しているらしく、縁辺討伐の声があちこちで聞こえております」
まあ、そうなってもおかしくない。出来るだけ国を綺麗にするには連中は邪魔だ。さっさと掃除しなければ王国に害が及びかねん。
「それで、あの弓を渡したのか?」
ウルホから送られてきた糸車の付いた弓は、数本送られてきた鉄製の戦矢ならば、神盾に刺さるほどの威力だった。もし、神盾と同じ素材の鎧であれば、あの弓ならば射抜く事も出来るだろう。カルヤラであのような重い鉄矢を作るのは無理があるのだが。
「はい、キエシ伯爵に」
アーッポか。確かに弓の腕は確かだったが、あの極端で猪突な思考には問題がありすぎる奴だな。
「そうか、奴なら弓を受け取ればすぐにも飛び出していくだろう」
そう感想を述べると、宰相は少し困り顔だった。まさか、そう単純な奴ではなかったのだろうか?
「はい、すぐに飛び出そうとして討伐の話が瓦解するところでした」
何とも危ない奴だ。あまりにも考えなさすぎではないか。だからこそ切り捨てたのだが。
「ご安心を。アマムの収穫が終わるまで他の貴族が宥めすかしました」
「という事は、連中はすぐにも縁辺へ向かうという事か?」
そう聞くと、宰相は頷く。
それは予想外に早いではないか。確かにウルホが人手を減らす農具を売って居るとはいえ、そこまで広まっているわけでもなかろう。神盾兵団の連中に持たせた農具は非常に優れたものだと聞いているが、アマムの収穫直後に人手を駆り出せるほどの利便性があるとは聞いていないが。
「予想外に動きが速いが、近衛は動かせるか?」
そう、控えている近衛に問うてみた。
「第二は現在、神盾兵団の演練に出向いておりまして、帰還と出動準備で約一月は掛かるかと」
さすがに王都を留守にして第一を動かす訳にはいかない。そうか、あまりの速さに近衛は間に合わんか。
「ならば、動かせる兵団を早めに準備しろ、辺境周辺領の平定が必要になるだろうからな」
「陛下、もし、縁辺の軍勢や森の民が・・・・・・」
宰相がそう聞いてくる。
「第二が備えに戻れたとして、撃退できんモノは考えるだけ無駄だ。アーッポがまかり間違ってウルホを討つような事が起きない事を祈っていろ」
もし、ウルホが撃たれでもすれば、山の民や森の民が攻めて来ることを考える必要があるだろう。山の民が海を封鎖すれば、上向き出した我が国が困窮する。流石にそんな事態は起きないと思うが・・・・・・




