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117・そして、辺境北部へ行く事にした

 兄から手紙が来たという。


 シヤマム用コンバインはすぐに出来るわけではない。引き起こし部の構造から作らないといけないのだから、そう簡単ではない。

 今のところ、抵抗の少ない搬送用のフィードチェーンもうまく行っていない。だから、掻きこんでしまえば内部で風とドラムと振動で排出していく普通型なのだが。


 さて、兄からの手紙とは何だろうか?


 そう思って屋敷へ帰るといつも商人が持ってくるモノだった。特に急ぐとも思えないが、ヘンナは夜まで待てなかったのだろうか。


 手紙の内容もそう重大なモノとは思えなかった。いつものように跳ね鹿の催促とか神盾をはじめとした武器類、神盾兵団の入植に必要な農具や大工道具の類に関する話が大半だった。


 気になる事があるとすれば、とうとう反縁辺派を押しとどめきれなくなったから迷惑をかけると言った話ぐらいだろうか。これは事前に聞かされていたし、その為に北部警備隊を急いで編成したんだが。


「ヘンナ、兄も随分苦労しているらしいな。やはり、反乱貴族がやって来るらしい。北部山脈で迎え撃つことになりそうだ」


 現状でカルヤラ貴族が海を渡ってやって来ることはあり得ない。どうやっても不可能なのだ。


 なにせ、制海権は完全に山の民にある。あの操船術と造船技術に勝つ術はない。

 

 カルヤラ王国はカルヤラ海という内海にあって、山の民が住むハルティ半島によって外海とは隔てられており、波穏やかな内海用の船しか持たないのに対して、山の民は外海へも乗り出し、海の向こうの島国とも交易しているのだ。航海術も船の規模もまるで話にならない。


 カルヤラの軍艦といえばガレー船だし、商船はそれから櫂を省いた鈍重な帆船でしかない。対して山の民が持つのは外洋を走れる丈夫な帆船や高速帆船。


 どうやって勝てばいいんだ?


 争うだけ無駄だ。


 それが分からない貴族は既に居ないだろう。そんな奴らならば海に沈んでいる。


 そのため、貴族軍の進撃路は山脈とゼロの谷の間にあるあの道を来るしかない。


 そんな事を考えながらヘンナに手紙を渡した。


 何時もの事だが、ヘンナは同じ手紙から俺とは違う事を読み取る。今回も何かあるかも知れないな。


 手紙を読むヘンナの顔がどんどん厳しくなり唸る。


 一体、何をどう受け取ったんだ?


 そして、深刻そうな顔で俺を見据えてくる。


「陛下も厳しい事を仰いますね」


 それがヘンナの第一声だった。


「何がだ?僕にはよく分からないが」


 そう聞き返すと、隠しもせずに大きなため息を吐く。


「ウルホ様のそう言う点は美徳ではありますが、政には向いておりませんね」


 うん?えらく貶められた気がする。


「神盾兵団への農具や大工道具の手配は、陛下の名において行われるものです。もし、今回の貴族連中が彼らに手をだせば、カルヤラの存続にも関わり兼ねないからです」


 そうなの?わざわざ直接農具を渡したりしようとは思わん。ただ、ゼロで試作が進むベルナ用の芋ほり機はそのうち渡したいと兄に伝えた気はするが。


「いえ、言い過ぎました。神盾兵団は王国の盾としてウゴルと対峙しておりますので、ウルホ様の援助は今後とも必要です」


 うん?いや、話しがよく分からん。


 神盾兵団が開墾しているのはウゴルとの境で、環境的にも恵まれていないとは聞いている。栽培できる作物も限られる様で、少しのアマムに適した土地以外は主にベルナやピヤパの栽培だそうだしな。縁辺は気温だが、向こうは降水量や土質が原因らしい。


「今回、ウルホ様に味方する勢力は王国にはございません。いえ、ウルホ様自ら味方となる勢力を潰す必要があるかも知れませんね」


 ん?さらに良く分からない話になってきた。


「何だ?それは。僕でも兄が助けに来ないのは分かる。兄としては国内の不穏分子を排除したい。だが、その不穏分子が必ずしも自身に反抗してくるわけでもないというのだろう?矛先が向いているのは僕だ。だから、兄のために僕が矢面に立つ」


 そう、理解しているのだが違うのだろうか?


「一面ではそうですが、しかし、最大の問題は公を王へと望む勢力なのです」


 ハァ?


「私は忠臣アホカスの者として、反王国勢力は許すことはできません。母も同じです。今回、母へ反王派討伐の密命が下っている事でしょう。辺境北部へやって来る勢力はその餌です」


 ヘンナによると、上手く合わせて芝居を打ってくれと手紙に書いているそうだ。よく意味が分からんが。ドコに書いてある?


 しかし、それはそれで難しくはないだろうか?


「反王派はほとんど残っておりませんので大きな問題ではありません。辺境候は反縁辺ですので、主にアホカスへと近付き、寄子として隠れている不穏分子を炙りだすのが主な目的になろうかと存じます。そちらは母が巧くやるでしょう。我らは不穏貴族を出来るだけ引き付け、反王派の排除の時間を稼ぐことです」


 巧くやれと言うのはそう言う事らしいが、そんなうまく行くのだろうか?特に変態とか変態が。


「辺境の警備隊が不安ですか?」


 俺は頷く。


「いくらミンナ(飼い主)が居るとはいえ、アレだ」


 ヘンナもそこは否定できないらしい。変態が何をやり始めるかは分からない。


「確かに、シッポはあのホッコ殿が認めるような逸材・・・」


 などと深刻そうにヘンナに話してはいるが、俺の心配はもうすぐ刈り取りが始まる秋播きアマムだ。

 さて、作柄はどうだろうか?なにより、気温の問題で品質が気になる。


「アレの制御は僕でないと無理だと思うんだ」


「しかし、ウルホ様」


 危険なところには行かしたくないのだろう。


「カルヤラでアマムの収穫が終わって兵の動員が出来る時期は初夏、遅くなれば兄が抑え込むだろう。連中は兄の隙を突いて動く、そう予想しているというのだろう?ならば、僕が行ってシッポ(変態)を制御しておくのも手ではないか?」


 などと、都合よく受け止めてもらえる理由を述べておく。


「確かにそれが最良かもしれませんが、上手く行きますか?それよりも私の方が母との連携は採りやすいですが」


 それでは困るのだよヘンナさん。主にアマムの問題において。


「森の民による連絡を用いればよいだろう。ヘンナはナンションナーで反王派に悟られないように指示を出す方が良いと思うぞ?」


 そういうとヘンナは考え込む。


「分かりました。では、公はくれぐれも作物や跳ね鹿にばかり気を取られませぬようお願いいたします」


 完全に見透かされているらしいが動揺を見せたら終わりだ。


「もちろん、何が重要かは理解している」


 もっともらしく応えておいた。


 

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