113・そして、元祖変態と話し合う事にした
変態との会話を早々に切りあげて避難した俺はいくつかの畑の視察や必要になるであろうハーベスターや唐箕の類の指導をミケエムシと共に行い、クフモへと戻ることにした。
「随分はやかったじゃないか」
クフモでは何だかのんびりしているホッコに出くわした。変態を避けて帰ってきたら元祖変態が待っていた。コレはどんな罰ゲームだろうか?
「気候の影響で実りが遅い。予定した栽培が出来なくなった」
適当にあしらった方が良いと判断してそう切り出したのだが
「ラッピと大して変わらん気候だ。山やウルホの住むあたり程雪が残らないというだけの事で、作物が草原の国ほど早く育つわけが無いだろう」
何だか当然のようにそんな事を言われて悔しかった。
「そんな顔するなよ。誰にだって間違いはあるんだ」
言葉は常識的だが、その顎に手を置く行動は非常識ではないのか?しかも、何故真剣な目をしてんだこの変態。
「あのバカには会ったか?」
真剣な顔で聞く事か?まるで浮気したかのような言い方じゃないか。そもそも、俺にそんな性癖は無い。ホッコに対しても。
「会った。練成もほぼ終わっているそうだな」
そう返してもまだそのままだ。何がしたいんだコイツ。
「補佐にも会ったか?」
ん?何が言いたいんだろうか?
「マトモそうだったな」
そう言うとなぜかため息をついている。
「ウルホの言う『マトモ』がどんなものか、じっくり聞いてみたいもんだ」
おい、顔が近いぞ、何やってんだはなれろ。
「じっくり聞くのに、立ち話も無いんだから、何か飲みながらにしない?」
微笑みをたたえた女神さまがホッコの肩に手を置いていらした。あまりの恐怖に逃げ出したくなったが、何とか耐える。
「お・・・、そ・・・・、そうだな。そうしようか」
その微笑みに射抜かれたホッコは完全に意識が吹き飛ぶ寸前だったようで、なんとか声を絞り出していた。
クフモで飲み物といえば酒か甘酒くらいだろうか。俺たちが今手にしているのは甘酒だった。どうやら更なる製品開発で更に美味しく成ってやがる。
「酒精のほぼ無い酒かよ」
ホッコが少し嫌な顔をしているが、今は放置で良いだろう。
「たしかに、コレだと持ち歩くには不便かな」
ケッコイにとっても不満があるらしかった。
その原因は、酒でない事。もっと正確には保存性の問題だった。もっとアルコール度数を上げていれば可搬性の容器でもって容易に携行したうえで保存性が上げられるからだ。それじゃあ、濁酒になっちまうんだがな。
まあ、そんな不満はありながら、味には問題ないらしい。
「ところで、ホッコも指導に行っていたらしいが、騎射できるのか」
俺はまず疑問に思った事を聞いたらあきれ顔が帰ってきた。
「森の民を何だと思ってるんだ?牛を飼いならす俺たちに馬が扱えないわけが無いだろう」
そう、ホッコはいう。
森の民が馬を必要としないのは森の中という騎乗に不適な場所を住処としている事、彼らの擬態能力にとって不利であることが大きな要因らしい。身体能力から言っても短距離ならともかく長距離を走破するなら道なき道を行ける森の民に騎乗は必要とはいえない。山の民や森の民の超人的能力はすでに何度も見ている訳だから、理解していたつもりではあったのだが。
「それに、あの弓は良いね。森で使うには邪魔なところがあるけど、騎射や草原で使うにはうってつけ。西方の弓は技術が高い。ホンデノもそこを評価していたよ」
ケッコイがそう言ってきた。
ホッコの使う強弓同等のモノを簡単に造れて、更に扱いも容易になったという。確かに、和弓の1/3付近での番えと言うのは弓の反動を吸収するのに優れた位置なのだとは聞いたことがある。
「森で使うと上が長すぎるのが欠点だが、扱いやすさは随分よくなった」
最終的にベアボウと和弓の良いとこどりをしたのだから当然だろう。かなりとんでもない代物が出来上がっている。が、俺のコンパウンドボウが更なるチートなのだが。
「ところで、あの女なんだが・・・・・・」
ホッコが真剣な顔で話題を変えた。しかも、シッポではなくミンナの事らしい。
「シッポではなく、ミンナのことか?」
ケッコイを見ると、コレが冗談の類でないと分かる。
「ゼロのお前の義母が付けたそうだが、どうにも危なっかしいな」
そんな事を言う。確かに、すぐにシッポを殴る蹴るするDVなところは見られたが。アレにはそのくらいが丁度良くはないだろうか?
「ウルホが役割と行動範囲を明確に伝えたのは良かったよ。彼女はきっとそれに従って動くと思う」
ケッコイも何やら同じような顔をしているのが気になる。
「どういうことだ?」
「ウルホのいう『マトモ』って何かな?」
マトモが何かといわれても、はっきり答えられるものではないんだが。
「そう難しい話じゃなく、今のウルホが何をしたいのか?でも良い。彼らに何をさせたいの?」
さらに良く分からない話になった。
「二人に伝えたとおりだ。50の騎馬による山脈北部の警備。それ以上の何がある?」
そう言うとさらに困っていた。
「分かってるか?アレが10倍居てみろ、草原の騎兵を楽に蹴散らす遊撃部隊の出来上がりだ。巧く使えばひと月もあれば兄の国を手中に出来る手駒だ」
それはまた過大な評価ではないだろうか。そのつもりも無いわけだし。
「そう、ウルホにはそんな気はない。だから、警備や先陣に使える50しか用意しなかったのは分かってる。けど、あなたの兄はどう考えるかな?」
兄とは定期的なやり取りをしているので特に問題はない。
「言い方が悪かった。兄の取り巻きがどう考えてるだろうな」
それこそよく分からない。兄の施政でかなり国は良くなったし、腐敗貴族も汚職官吏も減ったのは間違いない。神盾兵団の様な支持母体を作れもしたわけだから、不満は少ないんじゃないのかな?
「ウルホから見るとそうなるか」
どこか困ったような二人。
「分かっている。あの戦いでアホカスと神盾兵団しか領地を得てはいない。僕への不満を持つ連中が居るというのだろう?」
一応、二人の表情からそれらしいことをひねり出してみた。
「今はそうだね。50の騎兵は確かに起こりえる反乱軍対応には十分な数だよ。バランスを考えてやっているならこれ以上の事は言わないでおく」
多少は安心したのだろう。二人は何処か納得いかない顔ながらそれで話を終えることになった。




