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111・それは予想外だった

 トンでも料理を食わされた翌日、俺たち一行は山脈の麓へと向かった。


 ただ、誤算も起きている。秋播きの栽培を試験的に始めてみたのだが、どうやら生育が遅れているらしい。


 カルヤラにおけるアマムは前世の麦と似た植生なので、本来は秋に蒔くモノだ。そして、一般的には5~6月に収穫を行い、その後に田植えを行う。


 そう、それを普通だと思っていた。


 しかし、何事にも例外はある。


 日本においても北海道の場合、秋播き小麦は本州同様に秋に蒔くことは変わりないが、春に雪が残らない本州の主要な産地においては四月には背が伸び、五月には穂が出始める。そして、五月下旬から六月初旬が主格時期となるのだが、北海道では雪が残る事、気温の上昇が遅い事によってこれがひと月以上遅れていく。そして、収穫が始まるのは七月の話になる。対して、春まきの場合、八月中旬に収穫となり、その差はひと月程度でしかない。


 辺境北部山脈沿いの降雪や気温はクフモやナンションナーと比べると遥かに暖かく雪もあまり残らないのだが、山脈の南、辺境南部と比べた場合、明らかに気温が低く、アマムの生育は遅い。


 そのため、収穫は早くて初夏という話だった。


「そうだな、これならわざわざ秋に蒔く意味があるのかないのか難しい所だな。考えていたような二毛作をやろうとすれば、かなり限定されたモノになる。アマムやピヤパは無理だ、そうなると、ベルナやピッピ辺り、或いは夏物野菜しか無理かもしれんな」


 同行しているミケエムシに相談してみたが、やはり、そう返されてしまった。俺もそう思う。


 冷蔵技術が無いご時世、野菜を大量生産しても意味がない。もし、生産したとして、出来るのは漬物程度だ。カルヤラにおいて野菜は都市近郊の農園で育てるものであって、遠隔地で大量生産するものではない。

 仮に、日持ちのする野菜を育てるにしても環境の違いから都市の嗜好に合った品種が育つとは限らない。育てられたとしても輸送に日数が必要なため、品質の問題から都市近郊に比べて安く買いたたかれるのは目に見えている。

 穀類や豆類に比べてどうしても手間と人手を要する野菜はそれ相応の利益が見込めないと栽培する訳にはいかない。野菜を育てたところで、冬越しの穀類は手に入らないのだから。まさか、漬物や干物だけで冬を越せとでもいうのだろうか?


 瓶詰や缶詰が量産できればいいのだが、瓶詰は漬物よりはましだが、缶詰ほどの保存性やレパートリーは望めない。


 そうか、缶詰を作れば良いのかと、思ったが、缶詰にはいくつかの関門が存在する。


 まず、缶詰には容器の内側が腐食しにくいように加工しなくてはいけない。そのため、缶詰にはブリキが主として使われていた。20世紀中期以降には錫メッキ以外の素材の開発が行われ、それらが使用される事も多くなっているが、さて、ルヤンペは錫メッキが出来るのだろうか?出来たとして、現在のフェン、いわゆる乾麺のような大量生産が可能なのだろうか。


 そして、缶詰に欠かせないのがそのカシメ構造。カシメが開発される以前は蓋をハンダ付けしていたそうで、鉛中毒がよく発生していたそうだ。この世界に鉛の様な毒性のある金属以外のハンダがあれば良いのだが、まさか、ハンダの成分を知らずに19世紀欧州の様な惨劇を演じたのでは目も当てられない。


 さらに、缶詰は湯煎などの加熱による殺菌効果で保存期間を延ばしている。敢えて発酵させるシュールな缶詰も存在するが、そんなゲテモノを量産するのは俺の本意ではない。


 缶詰を本格的な長期保存と大量生産を目指せばレトルトと呼ばれる圧力釜を必要とするが、さて、そんなものが開発可能なんだろうか。ルヤンペならば勝手に造りそうなものだが、未だその様なシロモノが無いのを見ると技術的に無理なのかもしれない。


 そう言った点を考えて、野菜の栽培は却下せざるを得ない。ま、そもそも、カルヤラで人気の野菜類は環境や土壌の違いから辺境北部や縁辺では育てづらいのだから無理をして失敗する必要もないだろう。



 ただ、これで狙った事は出来ないと分かった。欲しかったのは本州の麦のように完全に二毛作、あるいは二期作に出来る作物だったのだが、ピッピやベルナでは他の地域と変わりが無くなる。敢えて言うなら、田畑当たりの収穫物が増えるというだけで、わざわざ山脈の麓で二毛作に勤しまなくとも開墾できる土地がある現状では、輪作の導入でそれぞれの地味を有効利用するのが良いのではないかと思ってしまう。どうしよう・・・・・・


 そんな事を想いながら到着した試験中の畑は見事にまだ穂が出ていない青々とした草が茂っている状態だった。山向こうならばすでに穂が出そろいだす時期だろうのに、こちらではまだその兆候すらない。



「これは、ようこそお越しくださいました」


 出迎えた村長や主要な農家の人たちに話を聞いたが、俺とは違う感想を持っていた。


「この地で秋播きを育てるのはなるほど、収穫時期を考えるとほとんど利点は無かったです」


 まあ、そう言うのは分かり切っていた。


「しかし、いつもなら忙しい春先の農作業が楽だったのは良かったです。秋播きなので、収穫から種蒔きまでの余裕もあるのできっと以前より我々の作業も楽になります。あ、もちろん、あの農具があれば春播きでも以前とは比べ物にならない程はやく終われますが、秋にアマムを撒いた事で春に野菜や豆を播く余裕が増えました」


 意外な事にそんな答えが返ってきた。秋播きにはそれ相応のメリットがあるらしい。まあ、それはこの地域の土地利用と秋播きが巧くかみ合う可能性であって、クフモやナンションナーでも同じとは言い切れない。

 クフモは分からないが、ナンションナーではデメリットしかない。気温や積雪を考えれば生育にも疑問が残るし、そもそも、秋はフェン作りの準備で忙しい時期なので、種まきする余力が無い。


 そう考えると地域性を考えない画一的な政策というのはあまりよろしくないんだと改めて実感できた。

 

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