108・新たな鎧を作ることになった
海が近いので塩水選を海水でやってみようという事になった。
ピヤパに関しては籾が軽いのでこれで十分だったが、シヤマムは米と同等なので、やはり塩分濃度が低すぎるようで、大半が沈んだままだった。
楽が出来るかと思ったが、それほど簡単にはいかなかった。
そもそも塩水選というのはそんなに古い技術という訳ではない、考案したのは明治の人で、塩水選だけで収量は一割増えたとかなんとか。それほど画期的なモノだったそうだ。
その塩の量は海水の塩分濃度どころではなく、水に対して二割ほどにもなる。
どんだけ塩をぶち込むんだと思うが、そのくらいやらないと意味がないそうだ。海水でやってみて、更にシヤマムが見た目に違わずコメなんだろうなと改めて認識したが、その割には味気なさすぎる。品種改良となると知識も時間もかかるから俺の専門外になってしまうが、誰かやってくれる奴を探した方が良いんだろうか?
今年の栽培に関しても、土木工事は運河の建設に集中している関係で水田の整備は進んでいない。
昨年のシヤマム栽培がどうなるか分からなかったから、本格的に取り組むのはこれからだし、運河が完成しない事には大規模な造成も難しい。
この辺りが畑と水田の違いだろうな。
畑作の多くは天水栽培が基本となるので、丘や山を切り拓いて耕せばほぼそのまま使える。中にはほぼ平坦な土地というのもあるだろうが、畑というのはこうした起伏があっても問題が無い。
日本だって北海道や山間地での畑作を見ればそれは分かると思うが。
水田の場合は水を張るから水平が基本で、丘や山を削って谷間を埋めて造成して水路まで作る必要がある。
それも、導水だけでなく排水路も必要な訳で、この排水設備の技術が低かった昭和前半までは、日本には多くの沼田、深田と呼ばれる通年で水に浸かった田んぼがそこらに存在していたらしい。
明治以降は畜力や機械力の導入の関係でただのデメリットでしかないが、江戸時代までは障害としての価値もあったのではないかと思う。
敵の進軍を止めるのにこれほど都合が良いモノも無いのだから、わざわざ乾田化して人が歩きやすくする必要もない。腰くらいまで泥に埋まるような沼がそこらにあればそれだけ攻めにくいのだから。
辺境のシヤマム栽培もご多分に洩れず、湿地帯で栽培がおこなわれているが、ナンションナーでは乾田における栽培を行っている。常に水に浸すのではなく、水を抜く期間を設けて生育を見ている。
気候の関係か、それとも水管理の関係か、昨年はナンションナーでも一応、納得できる収穫が行えている。
今年も同様に水管理を行って収穫を安定させたいのだが、出来るだけ早く植えてみようと思っている。
これについてはどちらが良いのか分からない。
最終的には気候と相談しながらになるだろう。
そう言う意味でも、栽培の専門家を常駐させたい。
ナンションナーでシヤマムの準備を行っている頃、ホンデノがクフモへ第一陣の弓を届けてくれたらしい。
扱い方の違いもあるので、指導者も派遣してくれている様だが、流石に慣れない弓に戸惑いもあると報告が来た。
しかも、ただ射るだけならまだしも、騎射となるとクフモの騎兵がこれまで使っていた短弓とは根本から違うので、まずは騎射の在り方からやり直しになっているという。正直、そこまで大事になるとは思っていなかった。
なんでも、短弓を前提にしたこれまでの鎧では、和弓モドキを引ききるのが難しく、姿勢の制限も大きすぎるんだとか。
そのため、鎧から作り直しになるのだという。
そりゃあそうか、いくら軽装といっても、西洋の鎧のデザインと大差がないカルヤラの鎧と日本の鎧では大差がありすぎる。
特に騎射を主としていた鎌倉時代ごろの大鎧って、肩口周辺って、腕が自由に動くようになってるよね。しかも、よくよく考えたら、短弓なら腕の動きで射線を変える事が出来るけど、和弓だと腰から動かないと射線も変えられない。
今の鎧じゃ和弓モドキを射る事はかなり難しいんだな。
ただ、こんな時に限ってルヤンペが居ない。水門の工事をやっているから既存の盾や剣を作る鍛冶師たちに任せることになるんだが、うまく行くんだろうか?
ただ、俺自身は鎧に詳しくないので、完全お任せになる。いっそ、カヤーニと鍛冶師とホンデノに丸投げしておこうか。
「長、馬に乗れるよな?」
そんな事を考えていたらホンデノがやってきた。
シヤマムの苗たては播種機を作るのが面倒なので手作業でやっている。なにせ、土を薄く播いて、種を播いて土をかぶせていくなんて言う細かな作業をできる機械を作ってどう維持するんだ?
手作業なら刷毛を二種類作るだけで済むし、時期的に人手もあるから問題ない。
そんな泥だらけになっての作業中だった。
「乗れるが?」
どうやら俺の鎧も作るのだという。重いものは着たくないが。今ある軽鉄の鎧で良いじゃないか。
「長もあの長弓があるから騎射も出来るようにしてもらおうと思ってな」
そんな事を言いだした。流鏑馬やる訳じゃないんだがな。
「僕が常に使うのは機械弓だ」
だが、それでは騎射には向かない。
「ゼロと辺境の境辺りで行動するには騎射も出来た方が良いと思うんだ」
ゼロと辺境の境、確かにあそこら辺はゼロへ向かう街道から抜けて辺境北部へくる道がある。以前来た貴族軍もその道を来たわけで、何かあればそこらあたりが防衛線になるのは間違いない。
確かに、山脈の途切れる周辺がその街道ではあるが、また攻めて来るとでもいうのだろうか?さすがに無いと思うが。
「なにも貴族軍だけじゃない、熊や跳ね鹿ばかりが獣ではないからな。あのあたりには猪や普通の鹿も居る。野盗や山賊だって居ないとは限らんだろう?」
なるほど、そう言われればそうだよな。相手は貴族軍と決まった訳ではないか。たしかに境界が入り組む周辺という事もあって、取り締まりの空白になっているという話は聞いている。
そうなると、騎兵の役割には治安維持も追加すべきか。
「話は分かった。そう言う事なら、山脈方面へ騎兵の視察に行くとき用に鎧も作って貰おう。騎射も出来た方がよさそうだ」
盗賊団の討伐に出向く事は無いとは思うが、あって損はないだろう。どんな鎧か気にもなるしな。




