105・そいつはどう見ても変態だった
そうあいさつしたかと思うとササっと寄ってきたイケメンはいきなり俺の手を取りキスをするという暴挙に出た。
お前、事前に分かっていたがその通りだったな。ホッコ以上に雰囲気ありすぎだ。
「ハユハ子爵家次男、シッポにございます。此度は公の弓の腕前に感銘を受け、跳ね鹿を相手に修練を積んでいるところですが、ぜひ、わたくしめを公のお側仕えにしては頂けませんでしょうか」
いうに事欠いていきなり仕官話とかなんだコイツは。
「いきなり過ぎはしないか?シッポ」
おい、声を掛けたからって恍惚な顔をするな。頭おかしいのか?いや、おかしいのは想定内だ。さっさとどっか行きやがれ。
「ハッ、それは重々承知しておりますが、このシッポ。公にこの命お預けするためにここに参っております」
どうしよう、コレ。
俺は周りに助けを求めたが、どうも、意図を理解してくれる奴が居ない。なんでお前らまで感じ入ってんの?違うんだ、コイツ、ホッコ系なんだよ!!
「公、さすがの御名声でございますな」
おい!何言ってんだ?お前なんか今すぐクビだ、いや、その首飛ばしてやりたい。
「長、こいつ弓が使えるなら見てみたいんだが、構わないだろうか?」
どこに食いついてんだ?この森の民は!!おまえんトコのホッコと同じ匂いがしないのか?え?するだろ?強烈に!!なぁ?
山の民は完全にマイペースだし、村の連中はこの変態の行動を英雄に対するソレと誤解している。森の民はホッコに慣れ過ぎてるのかまるで興味ない。どうするよコレ・・・・・・
「そうだな、どうだ?この森の民に弓の腕前を見せてやっては」
逃げよう。コイツに押し付けて逃げよう。
俺はそう言って歩き出そうとした。
「ハッ!弓の名手に見せよとは名誉なお言葉、ぜひ、公にもご覧いただきたく」
しまった。これ、墓穴だったか。コイツの目が怖い・・・・・・
渋々付き合う事になった。流石にこの時期に森で狩りといってもそう簡単に鹿には出会えないので、的を用意してという話になった。
その準備の間、何とか森の民を間に挟むことには成功したのだが、それでもこちらを見るあの目が怖い。
ただ、冷静になってきて思ったが、コイツ、ホッコみたいに攻めて来るというより、アイドルを前にしたファンに近いのかもしれないと思えてきた。
「しかし、公は本当にお綺麗で・・・・・・」
前言撤回
「ヘンナに次いで、冬にはイアンバヌも懐妊した」
あえて直接ではなく、自分が男だと主張しておく。
「それはおめでとうございます」
無難に返されて少々肩透かしだな。
「公は凄いですな、カルヤラ侯爵、山の民、森の民を結ぶ役を為さっておいでで、私はそのお姿に感服しております。戦場では凛々しく、武功もあり、武威もあり、何よりその美貌、カルヤラにふさわしいの一言でございます」
大丈夫かコイツ、どう繋がったんだソレ、関連性が無いぞ、最後の。
「カルヤラを治めるのは兄、それを支えるのが僕の役目、そう思っているが?」
ちょっと攻め口を変えてみた。付き合いきれんから政治ネタに振ろう。
「そ、それはもちろんでございます。しかし、ご兄弟でというのは・・・・・・」
B L 反 対 ! !
「公、準備が整いました」
良かった。ようやくこのSAN値を削る会話が終る。
俺はそそくさと準備ができたという村人に付いていく。
「こんな近いのは私には意味がないな。公に私のモノをお見せするにはもっと遠くでなければ」
この変態、常識的な距離を意味が無いと言いやがった。
そう言いだしたので、的ではなくお前が動けという意味で俺は的から離れるように歩き出す。
「公、お待ちください。いえ、ならばぜひ、公のお示しになる距離で射抜いて差し上げましょう」
そう言いだしたのだから、やって貰おうじゃないか。
俺は自分がやっている遠的距離を意識して変態に位置を指示してやった。
「その辺りが僕の射る距離だな」
顔が一瞬「マジかよ」ってなってたが、すぐに取り繕いやがった。まあ、そうだろう、アレはコンパウンドボウだから届く距離だ。変態は長弓使いらしいが、さすがにどうだろうな。森の民ならともかく、カルヤラ人では無理があるんじゃないのか?
出来るだけ顔に出さずに変態を見据えてやった。
「分かりました。アホカスに連なる武のハユハ、異存はございません」
ほう、案外本物かも?
「長、こいつはやる」
森の民も認めるその弓の引き、カルヤラの強弓は森の民ほどの技術がないためにどうしても無理をしている。無暗に木の棒をしなららせる点で山の民に近い。そう言えば、長い袖で見えなかったが、腕の太さが違うなこの変態。口だけでなく、マジかもしれない。
矢を放った音もなかなかに良い音がする。矢速も速そうだ。
「見事だな。あと6射ほどやって貰おうか」
嫌がらせでそう言うと、「喜んで」と喜々として皆中させやがった。
「如何でしょうか」
なんだその顔。まさか、そっち?マジ勘弁してください。
「なかなかの腕前、そうだな。すでにナンションナーにはそのような腕前の騎士は必要ないが、ここ、辺境山脈の警備を任せるのに良いかもしれない」
ガッカリしていたが、マテ、お前、ガッカリは俺に仕えられないという部分で、辺境山脈の警備なら構わないって部分で喜んだよな?やってしまった。マジ、コイツ扱い難いorz
「辺境山麓をお預け頂けるんですか?」
「警備だけだ、領の差配はカヤーニが行う」
そう言ったが、聞いてるか?変態。
「それで構いません!弓の修練を常に行えるこの環境、それも公の配下として!」
うん、そこは普通なのね。
「ただ、山脈地域というのはかなりの広範囲だ。これから秋播きアマムの畑の開墾も行うだろう。お前が連れて来れる兵はどのくらいだ?」
そう言うと困っている様だった。
「ハユハ家はそう大きな家でもなく、兵を引き抜くのは難しいです。父を説き伏せてここにいる配下はそのまま公の元に参じますが、それ以上となると・・・・・・」
なるほど、20に満たないと。
「兵は現地で賄う事も出来よう。戦をしろという訳ではない。鹿、時には熊の相手もあるだろうが、へ・・その方の弓の技があれば対処は出来よう」
そして詳しく聞いてみると、近衛並みの槍の名手が3人、変態には劣るが弓の出来るものが5人いるそうだ。ならば、カヤーニの所から弓を調達すれば何とかなりそうだな。が、それは面白くない
「お前たちは馬に乗れるか?」
変態の配下に聞いてみると、全員が乗れるという。
「ならば、お前たちを含め騎兵50をこの地に配そう」
弓使いなのにそれを封じるという俺に愕然とする変態。
「シッポ、騎兵は全て弓兵だ」
そういうと、さすがに「何言ってんの?」という顔をして気が付いた。
「いえ、私にはウゴル弓は・・・・・・」
そんな事は知らんが、変態なれど、有能な部分はあるのでそれを使わない手はない。
「森の民の弓職人が作った馬上で扱う長弓をやる。初夏には連れて来るので、それまでにこの地に入る準備をして来い」
変態たちは喜び勇んでいる。まあ、有能なところはありそうだから使ってやろう。アホカス家の配下だし問題は無いと思う。
ハユハ、またはヘイへ。
シモ・ヘイへ氏から名前を拝借しています。彼はつつましやかな性格だったそうですが、シッポはま、何と言うか、アレなんですわ。
因みに、シモ・ヘイへ氏は第8代フィンランド大統領ウルホ・ケッコネン氏とヘラジカ狩りをしたことがあるそうで、そのエピソードからこんな話が出てきてしまった。




