22.パイロキネシスそのⅡ〈ノーモア・ロンリーナイト〉
物心つく頃にはネズミの死骸に蛆が湧くような、不潔な街のドン底で這いずり回ってた。
ずっと小さい時にあまりにもお腹が減ったので蛆虫を食べたら、ゲェゲェ吐いた。「辛い」と「苦しい」が頭の中で、ずっとグルグル回ってる……そんな思い出しかなかった。
穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い!
穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い!
穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い!
穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い!
穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い!
穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い!
穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い!
穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い! 穢い!
大人は皆んな穢い。
嘘吐きで色と欲にまみれてる。
生まれてきて良かったなんて、今まで一度も思ったことが無い。
大人に食い物にされるのがあたいの運命なんだ。
つらくて、悲しくて、生きて行くのが苦しい。
ボスも、ボスの情婦のクララの婆あも、色と欲にまみれてる。
安ウイスキーで飲んだくれてるボスは、卵の腐ったような臭い息を吐いて、ギロギロと充血して濁った眼を剥き出しては、力の弱い子供に暴力を振るう。
そのくせ、ドンの部下達にはヘイコラするような意気地無しだ。
守り料を誤魔化してバレた時は、前の出納帳簿係だったジーノに罪を擦り付けた。
厚化粧のクララは、ボスがジーノの後釜としてストリップ劇場の踊り子だったのを無理矢理引き抜いて来た。
昔、一流銀行の融資課に勤めていたと低い鼻を精一杯高くして自慢たらたらに嘯いていたが、実はただの闇金の高利貸しで窓口をしていただけなのを、あたいは知っている。
鼻が捥げるかと思う程、安い香水を振り撒いてるのは、物凄い腋臭のせいだ。
こいつも、よくあたい達のあがりをちょろまかしている。
この間まで、あたいにスリのイロハを教えてくれたイザベル姉ちゃんも、ボスの手が付いた途端に愛人気取りで、あたいらなんかに見向きもしなくなった。
今はボスの寝座で小間使いみたいなことをしてる。
今より少し小さかった頃、あたいと仲の良かったイジメられっ子のパパゲーノはあたいを売って、ドロッセルのグループに行った。
あの時の袋叩きにあったリンチで、あたいは大事な商売道具の指の腱を切って、依頼あたいの指は上手く動かない。
ドロッセルやその取り巻きの野郎には、ほとぼりが冷めた頃、こっそりと復讐してやった。
あたいの力で、マッチのように燃やしてやった。顔や頭を焼かれたあいつらは、生涯醜いケロイドを抱えて生きるんだ。ザマアミロだ。
嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い!
嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い!
嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い!
嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い!
嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い! 嫌い!
嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、大人は皆んな大嫌い。
そんな大人の顔色を伺うクソガキ共も、皆んな大っ嫌い。
憎んで、恨んで、泣いた。
泣いても何も変わらなかったから、あたいは泣くのをやめた。
それからのあたいは、涙を流すことも無かったけど笑うことも無くなった。
生まれてからこの方、笑ったことがあったのかさえ、あまりよく思い出せない。
あたいの父ちゃんと母ちゃんは、どこの誰なんだ?
あたいを産んで捨てたのか? 死んじゃったのか?
なんであたいは孤児院じゃなく、こんなゴミ溜めで臭くて不味い飯を食っていなきゃいけないんだ?
それとも窃盗団が、あたいをどっかから攫ってきたのか?
ボスの頭を読んでみても分からない。ボスの考えていることは、酒と女と博打のことばっかりだ。
気がつくとあたいは、スリと置き引きのケチな窃盗団“暁の獅子舞”の溜まり場の地下納骨堂で多分8歳になっていた……何故多分かというと、実際には、あたいはあたいの本当の歳を正確には知らないからだ。
強盗や詐欺の犯罪グループで成り立ってる盗賊ギルドでも、あたい達のグループは最下層だった。
他人の考えてることが分かるのはあたいだけの力だって、気が付いたのは多分5歳ぐらいのときだった。
知恵が付き始めたあたいは、生き延びるためには力のことを内緒にしていた方がいいって、どこか本能的に悟っていた。
おかげで他の子供に比べたら、歳のわりには耳年増になった。
世の中はドブ泥だ。醜くないことの方が少ない。
会う人、すれ違う人、皆んなおべんちゃらの裏に悪意の本音が隠されている。
女神教の神父さんや、托鉢のお坊さんの心を読んでみてもがっかりだった。
馬鹿みたいに女神様をありがたがって、自分の善行には全然関心が無い。
中には自分の教会のお布施で女遊びをする破壊僧や、腕自慢の修行のために出家した筋肉馬鹿の坊主もいた。
ふざけるなよ、女神様なんかいないんだよ!
本当に女神様がいるんなら、なんであたいみたいな不幸な子供が生まれてくるんだよ!
公設市場を歩けば売り子のおばちゃんやあんちゃんの売り声がこだまする。
「ちょいとそこの若旦那、いい男だねぇ、上等の子持ち岩魚が残り少ないよ、今なら大負けに負けて、半額出血大サービスだ!」
(なんだい、しょぼくれた奴だねぇ、こちとらこいつを売り切らないとおまんまの食い上げなんだ……腐り掛けだけど、構うもんか、腹下しでも死にやしないさ)
「いや、いまちょっと間に合ってるんで……」
(腐れババア、不味そうな魚なんか売りつけるんじゃねえよ、死んじまえ!)
「見め麗しいお嬢さん方、宮廷御用達の放出品アクセサリーが今だったら格安でお買い求め頂けます、今だけのお買い得ですよ!」
(貧乏娘にゃ、模造品でも贅沢だろうぜ、その不細工な容姿じゃ男から買って貰える訳もねぇ、いいから買え、ブス!)
「えぇ~、お兄さん口が上手!」
(気安く話し掛けるんじゃねえよ、お前みたいな下層階級と話したらこっちの口が腐る!)
同い歳の子が学校に行ってるのが羨ましくて、忍び込んだこともあった。
「はい、また委員長がこの間の試験で満点でした、皆さんも見習って頑張りましょう」
(はぁ、親から多額の寄付を貰ったからって、このうすらバカを引き立てるのは無理があるだろう、さっさと卒業しろや、疫病神が)
「はあいっ先生、僕らも頑張ります!」
(駄目だな、この平々凡々馬鹿教師、全然わかってない……こんな地味な贔屓じゃ、また減給されて左遷だな)
(何故もっとよいしょしない! こいつの財布にたかってる俺達の身入りが減るだろ!)
……「先生ごきげんよう、また明日」
(何ジロジロ見てんのよ、スケベ教師、お前が女子生徒ばっかりジットリ見てるのはバレバレだってえの)
(変態教師は家でセンズリこいてろよっ!)
「気を付けて帰りなさい、寄り道などしないように」
(早く帰れよメスガキ、これから秘蔵のパンツコレクションと戯れるんだから、こいつらなんか変質者に犯されちまえばいいんだ)
あたいは忌み児で味噌っかすだった。誰も見向きもしないボッチなので、リスクの大きい一人働きしかできなかった。
指が思ったように動かないので、ノルマを稼ぎ出せなくてボスに良く殴られた。仕方がないから、あたいは連れ込みホテルの客のいる部屋に忍び込むことを覚えた。
力の使い方が良く分からなくて、最初とまどったが、壁抜けっていうか、鍵の掛かった部屋の中に移動できた。
最初の内は男と女が裸で縺れ合っている隙に、硬貨入れの中身を失敬していたが、そのうちアジトの寝床より断然清潔なベッドが羨ましくて、つい客を縛り上げ、気絶させて、一晩ベッドを占拠するようになった。
饐えたような臭いが気になったが、贅沢は言っていられない。
何よりアジトじゃ風呂にも入れないが、ここにはきれいなお湯の出るシャワーがある。
たまに気を失ってる男女の客の心が読めることがある。
難しいことはよく分からないが、前に医術者の心を読んだとき知った知識で、確か深層心理とかいうんだと思う。
女は人妻で、家族を裏切って不倫相手とよく火遊びを楽しんでいたが、避妊に失敗して相手の子種を宿してしまい、子供と亭主を捨てて不倫相手と一緒になるか悩んでいた。
世の中、世紀末かって思う。あたいの知ったことじゃないが、捨てられるお子さんと旦那さんのことは考えないんだろうか?
一方相手の男はクズで、女から金を巻き上げることしか考えていなかった。
また、別のカップルは恋人のいる同僚を悪戯半分に寝取り、それをネタに相手を強請ろうとする女と、関係を結んだ女の口を封じるのに悪仲間に強姦させてしまおうと、密かに画策を始めた破廉恥な男、似た者同士の鬼畜だった。
こう言う場合は大抵、男が数を頼りに強姦して女は娼館に売り飛ばされたりする。自業自得だって思うあたいは助けたりしない。
こんなに穢い世の中で、男と女が愛し合う意味なんて、あるのかなって、
あたいはそう思うんだ。
あたいは、あたいのこの力が何なのか知りたくて、大学街や魔法使いギルドのある帝立賢者学会通りをよくうろついた。
結局、あたいのこの力が何なのか知ってる奴には誰一人会えなかった。
魔法や魔術は何か呪文を唱えるし、スキルっていうのは後から与えられるか取得するらしい。
あたいは呪文どころか文字だってちゃんと勉強したことが無いし、この力は多分生まれたときから備わっていた。
誰にも頼れないんだったら、あたいはスリとして生きて行くしか無いんだなって諦めた。
リハビリしても利き手の指は一向に良くならない。仕方がないからあたいは左手でスリ盗る練習を始めた。
ボタはたき用の切り出しナイフも用意した。
何とか左手でできるんじゃないかと思えるようになったので、街で実践して見ることにした。
その日は、最近咲き出した白いニゲルの花達がどんどん勢いを増していた。昔、一度食ったことがあるけど、すごく不味かった。後で知ったけど、なんか有害な毒があるらしい。
***************************
今日は雲で靄っていて、スリには仕事がし易い。
カモの商売人らしき男に目を付けて、様子を見ていた。
スリ盗る相手の品定めと観察は大事だ。西ゴートは武術をやる奴らが多いので、そんな奴らに仕掛けてお縄になった連中をいやってほど見てる。
利き手の指が少し痛むのが、コンディション的に不安だった。
俄かで鍛えたテクニックなので、左手のコントロールに微妙に影響してしまう、ような気がする。
スリの心得、貧しきから盗らず、幼きから盗らずはイザベル姉ちゃんの受け売りだったけど、そんなの馬鹿正直に守ってる奴なんて居やしない。
第一、当のイザベル姉ちゃんは我が身可愛さに、さっさとボスの愛人になった。
迷っていても仕方ない、やるか……
あたいは勇気を振り絞って、カモの斜め後ろから仕掛けた。
スったと思った瞬間、あたいはミスったことに気が付いた。
金袋に革紐が付いている。あたいは無理矢理革紐を千切って、金袋を手にした。
最悪だ。失敗した。
「スリだぁっ!、誰か、そいつを捕まえてくれえっ!」
男の叫びを背に受けて、あたいはすでに駆け出していた。
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!
こんなときのために練習したカモフラージュの駆け方を使って、男を引き離す。路地裏に駆け込んで人目が無くなれば、遠くまで飛んで逃げ切れる。
「お嬢ちゃん、掏った金は返して貰ったよ」
誰かが、耳許で怒鳴った。
ビクッと立ち止まったあたいは、思わず後ろを振り向いたけど誰もいない。
門番のいる物見塔の方に女がいて、手を高く掲げているのに気が付いた。あたいは懐中をまさぐって自分が持ってる筈の、スったブツが無いのに気が付いた。
女の手には確かにあたいがスった筈の金袋が握られている。
畜生、畜生、何で、何であたいの邪魔をするんだよ! あたいはスリとして生きていかなきゃならないんだ!
ここで引いたらあたいの負けだ。あたいは、あたいの獲物を取り戻そうと覚悟を決めて、猛然と何処の誰だか知らない女に迫った。
避けられた。あたいは力で速さと勢いを増した動きで、燃やす力を開放した。
……効かなかった? 違う、燃えなかったんだ!
どういう理屈か分からないけど、あたいの力が握り潰された。
そして、あたいは見た。
女の顔……その女の人の顔を、さっきまでと全然違う人の顔を見たんだ。
生きている女神様がそこにいた。
見たこともないキレイな女の人だった。
あたいは訳が分からなくなって、混乱していた。さっきあたいが突貫した筈の女がいなくなって、この人が代わりにいた。
うぅうん、違う。これが、この人の本当の姿なんだ。あたいは本能的に悟っていた。下界に降臨された女神様の姿だ。
罰せられちゃう……逃げなきゃ!
頭に血が上って思わず解放しちゃったけど、あたいは人に見られているところでは、絶対に使わないと心に決めていた本当の本物の力を使って、なりふり構わず大きく飛んで逃げた。
慌てていて、あまり遠くまで飛べない。
ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい。
女神様を信じてなくてゴメンなさい。不信心でゴメンなさい。
地獄に落とさないでください。もう悪いことしません。盗みもしません。
ヒィーッ、女神様が追ってきた。あたいは血の気が退いていく中、必死で走りながらスタンプを押せるだけ押した。
力の使い方を色々試していて工夫した、遅れてやってくる燃やす力だ。
逃走用に考えていた使い方で、一番短い時間差で10数える奴だ。
後ろを振り返らずに、見る力だけで女神様を足止めできたのが分かった。これなら逃げれる!
あたいは、なけなしの気力を振り絞って飛んだ。
***************************
あたいは、地下納骨堂にあるライオン・ダンスのアジトより更に奥深くの、あたいの場所に逃げ帰ってきた。
膝を抱えて、ガタガタ震えた。どれぐらいそうしていたかよく覚えていない。
あたいは生まれて初めて神様に祈った。神父さんや修道女達の心を読んだときに知った、空覚えの様々な祈祷文を呟いて聖句を何度も何度も繰り返した。
女神様に許しを乞うのに、今までした善行が何か無かったか思い出していた。
初めてスった仕事では、イザベル姉ちゃんに教わった通り、全部盗らないでカモのお婆さんに少し小銭を戻してあげた。しょぼい。
ドロッセル達に復讐したとき、あたいを裏切ったパパゲーノは燃やさないであげたし、あいつらの命までは盗らないであげた。
ダメだな。あたいはあたいの残虐な行いに、胸がスーッとなったのを覚えてる。
連れ込み旅館で枕探しみたいなことをしてたけど、客には宿泊の支払い分は残してあげた。顔を見られたので記憶を操作して忘れて貰ったけど、浮気や不倫のカップルには家庭を顧みるように罪悪感を植え付けさえした。
これもダメだな。面白半分に互いを罵り合うような嫌悪感を植え付けたりした。
あぁ、あたいは生まれてから今まで、善いことなんか、ひとっつもしたことないんだ。
だって、本当に女神様がいるなんて思ったことなかったから……
世の中が憎かった。こんな生きたくて生きてる訳じゃないちっぽけなあたいに、ちっとも救いの手を……誰一人として救いの手を、差し伸べようとしない世の中のすべてが憎かった。
おかげで、あたいの心は、このカタコンベの暗がりのように真っ黒になった。
そうだ! 最近知ったここよりもっと下の穴蔵にある神殿!
たまに邪教徒らしき人達が覆面の法衣で集まって、サバトみたいなことをやってるあの神殿……あれはきっと、邪教に違いないから女神様の敵だ。
あの神殿を探って、女神様にご報告すれば、手柄として恩寵を頂いたりできないだろうか?
そうだ、そうしよう。あたいにしては、良い考えに思えた。
***************************
そこは、ボス達の目から逃れたくて何ヶ月か前、地下納骨堂のもっと奥を探って、深いところまで潜っていたときに偶然見つけた。
“イフリート拝火教”とかいう古代ゴート文明の頃からずっと続いてる邪教の秘密結社らしい。
聖ドロテア教会の祭主様とか、シルベスタン魔術師ギルドのギルド長とか、あたいでも知ってる有名人が参加している。
今日は運良く、何か異端の祭祀があるらしく覆面の邪教徒達がいつもより沢山集まっていた。何か秘密の儀式なのか篝火に照らされ、幻覚剤が焚かれる邪神殿は熱に浮かされているようだ。
あたいは、炎帝イフリートとかいうでかい魔神像の首の後ろにへばりついて身をひそめていた。
「◉◉◉◉◉◉◉◉、◉◉◉◉◉◉◉◉◉◉◉◉!」
祭祀長のような男が、何かを叫ぶ。古代ゴート語なのか、シャーマンの呪文なのかよく分からないが、禍々しくて気持ち悪い響きだ。
(大いなる炎帝の偉大なる力、その異能の一端を我ら使徒の前に示したまえ!)
男の考えてることは、こうだった。
生贄の祭壇の上に、脚を括られた黒山羊が投げ上げられ、首を落とされた。
何かが来る……いけない!
こいつは甦らせちゃいけない奴だ。あたいには、いよいよヤバいときに発揮される未来を知る力がある。普段は眠ってる力なので、今まで役に立ったことはなかったけど、こいつだけはダメだって、頭の中でガンガン鐘が鳴ってる。
何もできずに凍りついていると、その気配はグングン膨らみ、大きくなっていく。
何かが雷撃のように閃いた。黒い稲妻のような何かは、そこに居た全ての衆徒を貫いて、一瞬で打ち滅ぼした、というか生命力を奪ったのがあたいには分かった。
いよいよ膨らんだ力が破裂して、弾けようとした瞬間に物凄い轟音が起こった。
あたいには、天地が裂けたかと思えるほどの激しい轟音と共に、伏魔殿に大穴が空いて、禍々しいものは視えない圧倒的な何かに押し返された。
煌々と差し込む光は、まるで地上の陽の光のようだった。
女神様がいらっしゃった。
今日、出会って、追いかけられた女神様だ。
***************************
「見つけた……」
女神様は、まるで悪戯っ子を見つけたぐらいに、何でもないことのように微笑まれて、神像の後ろに隠れて見えない筈のあたいのところに一瞬で飛んできた。
「やっぱりか、心配した通りだったよ……君、他人の心が読めるだろう?」
女神様は、じっとあたいの様子を伺うととても悲しそうに眉を顰められた。
シルベスタンでも時折見かける巡礼者の印のマントを羽織っていたけど、中には黄金よりも白く輝く見たことも無い見事な鎧を纏われていた。
天界の甲冑なのだろうか?
「最初の内は無防備で無遠慮な素の悪意に押し潰されて、人間不信になったりするんだよ」
「おいで、大体事情は調べた、今日から君はうちの子だ……」
差し出される手は、あたいに初めて向けられた真心からの善意だった。
あたいは、差し出された手を取ることも忘れて、声を限りにわんわん泣き続けた。
ブラウザ・バックですか? 勉強になります
やっぱり一話に何らかの盛り上がりを入れて、簡潔に3000字以内に纏めるっていうのは私にはハードル高いです
でも折角だから人には見て貰いたいけど、自分のスタイル崩してまで迎合するのはなあ……って思ったりします
インパクトのあるタイトル作りも同様です(自分ではスタイリッシュなつもりなんですけど)
悲惨だったキキの前身をより深く抉ってみました
21.10.17加筆修正
サクラメント=キリスト教において神の見えない恩寵を具体的に見える形で表すことであり、それはキリスト教における様々な儀式の形で表されている
カトリック教会では秘跡、聖公会では聖奠、プロテスタント教会では礼典、正教会では機密と呼ばれる
ヘレボレス・ニゲルの毒性について=クリスマスローズに含まれる毒性は強心配糖体であるサポニンやヘレブリン等で心臓の収縮に働きかける、また樹液には空気に触れてプロトアネモニンに変化する成分が含まれ皮膚につくと炎症やただれを引き起こす
クリスマスローズの毒性はさほど強いものではないが、口にすると口内の炎症やめまい、吐き気、腹痛、下痢などの中毒症状を引き起こし、致死量を摂取した場合は死に至る
応援して頂ける、気に入ったという方は是非★とブックマークをお願いします
感想や批判もお待ちしております





