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05.冥府の番犬は“竜の顎門”の底に棲む


挿絵(By みてみん)




 ソランへ手紙を送ることを決めた時、幸運を運ぶ魔力の籠もったシーリングワックスで封蝋することにした。

 平民の出身なので手紙を書く慣習などは無く、印璽をどうするか迷ったが、これを機会に私達3人の為の紋章を造ることにした。

 竜とケルベロスと盾と乙女をデザインした私達のシンボルだ。

 見様見真似だったがこれを見れば私達からの手紙と分かることを願って意匠にも魔力を込め、緋々色金でシグネットリング(指輪印章)を三つ鋳造した。

 ケルベロス・ドラゴンは私の眷属だ。





挿絵(By みてみん)




 昨晩はビショビショになった汗だけ清めて、夕飯を作る気力も無いまま、就寝して仕舞った。少し早起きして朝食の支度(したく)をする。

 体力が全回復しても、どうしようもなく身動き出来なくなるという日がある。


 チャクラを練り、新陳代謝を自由に(あやつ)れるようになると、立ち上る神仙術の気の皮膜も相俟(あいま)って、すっかり冷え込むようになった山の朝も薄いジャージ一枚でヘッチャラになった。

 霜で(おお)われた土を掘り返し、尻を出す冬の朝の用足しもなんと言うこともない。快便は健康のバロメーターなどと言われ、朝礼時に便の状態を大声で報告させられるのにも慣れた。

 幾つか異世界の文化を学習して、セクハラという概念を知ったのは随分あとになってからだった。


 昨日の遠征は、天翔歩法で大陸の端まで行って帰ってくる大変なもので、兎に角師匠のとんでもないスピードに付いていくのに死に物狂いだった。

 野営地のベースに辿り着いて、お風呂を使わせて貰うのが精一杯という有様だ。


 師匠の大浴場は、効能が凄過ぎて、身体の(ゆが)みが直っていくのは好いのだが、本来人間は正中線を境に左右非対称なのが当たり前、それが全く(ゆが)みなく完璧に近い迄に対称に補正されていく様、歯並びさえも歪みなく矯正(きょうせい)されていく様は、私らの身体のことながら、ちょっと人外染みて不気味ですらあった。

 このままだと、私ら全員、作り物のビスクドールみたいな顔になっちゃうんじゃないか、本気で心配だ。


 ここのところ、調理の腕前は可成り上がったと思う。

 法術の理力で大振りの鶏卵を割り、充分に熱したスキレットにたっぷりのバターを落とす。本当は、一日魔力を使い切った枯渇状態じゃないと繊細なコントロールの訓練にはならないが、手を使わない炊事が習慣になって仕舞った。


 スクランブルエッグにカリカリベーコン、発泡ウレタンで断熱した大型クーラー(何でも野外で使うことが前提の道具らしい)に取ってあったオレンジエード、前に手造りの(かまど)で焼いた全粒粉のパンド・カンパーニュ、教えて貰って以来、重宝(ちょうほう)にストックしている缶詰のクラムチャウダー、パーコレーターで沸かした紅茶と、いつもより豪勢なメニューになった。

 自分達で作った発酵バターだけは、魔宮の大膳部(だいぜんぶ)厨房のパントリーにある大型冷蔵庫に、狩ったジビエや魔物肉と一緒に保存して貰っているので、必要な分だけ取ってくる。


 まだ未明の暗い中での炊事作業なので、ライトの魔道具と、(あか)りに寄ってくる虫除けの魔道具は欠かせない。

 私達の栄養事情は飛躍的に改善されたが、ステラ姉はいつも身に付けている脂肪燃焼の腕輪ですっかりスレンダー美人さんになった。

 いや、スレンダーは言い過ぎかもしれない、何故かオッパイだけはまだまだ大きいままだったから。

 “いただきます”の前に順番に検温と、血圧測定をする。

 一人にワンセットずつ与えられた体温計と手首に巻く血圧計を使い、エリスが(まと)めて記録する。


 導師は基本的に眠らない人なので、紙巻き煙草やパイプを(くゆ)らせて一晩中焚き火の番をしてることが多かったが、明日の訓練の仕込みの為に(たち)の悪いトラップを仕掛けたり(問い(ただ)せば何食わぬ顔で否定されるが、絶対悪意が籠もっている)、今の私達の実力に見合った仮想敵の魔獣を配したりと出掛けることもあった。

 ひとつのテントで寝起きする私達は、悲しい夢を見て泣き寝入りすることも随分少なくなっていたが、(たま)に朝起きるとシュラフを濡らしていたり、昨晩、悲しそうな寝言を(つぶや)いていた、とステラ姉達に教えられることがあった。


 ステラ姉とエリスが師匠にお願いして、お祈りの時間を貰うことにした。

 宗派によっては夜間の灯明功徳(とうみょうくどく)などの祈祷もあるが、大半の女神教は夜明けの朝日に向かって祈るからだ。

 キャンプベースを離れて駆け巡る最中に、脚を止め、暫しの間昇る朝日に向かって跪踞(ひざまづ)き、呼吸を整えて静かに外縛印合掌(げばくいんがっしょう)で祈りを捧げる。

 そんな高価なものではないが、街中に出てロザリオと祈祷書、チュールタイプの礼拝ベールも買ってきた。


 情けない話、逃げ回るばかりだった今迄の暮らしに、そんな余裕も無かったのだが、僅かばかりでも祈りの時間が持てるようになると無性に懺悔(ざんげ)の祈りを捧げたくなったのだ。他の大陸に移り、面が割れてないことを幸いに、(ふもと)の山岳教会に降りて付属する売店でメダイやイコンなどの聖品と一緒に買い込んできた。足りない浄財は、狩った山鶉(やまうずら)や鹿をももんじ屋に売って補った。

 思い出したくもない宮廷での糜爛(びらん)した生活や逃亡生活で祈りを捧げることがめっきり少なくなっていたが、本当なら神楽(かぐら)伝承の第一人者だったステラ姉と、破門されて仕舞ったとは謂え、熱心な公国正教会の信者だったエリスは、道を踏み外さなければ間違いなく敬虔(けいけん)な女神信徒だった筈だ。

 ……変態乱交に狂った女達が今更(いまさら)何をと思われるだろうが。


 「「「バハ・スウィーン」」」、虚空印を切りながら統一女神教の聖句を唱える。

 私達は、毎朝の祈りで私達の罪を()いて、静かに泣いた。


 咽喉の直ったステラ姉と、もと聖歌隊の経験者だったエリスが短い賛美歌を捧げるのに、私も付き合った。


 神に対して祈りを捧げるのに(はずかし)めを身体に残したままでは見苦しかろうと、絶対に取ることが出来なかった呪いのピアスと刺青(いれずみ)を、万能の師匠が解呪(かいじゅ)してくれた。

 嬉しかった。決して、そんなことはなかったのだが、傷モノになる前の、清らかな身体に戻れたような気がしたから。




 ***************************




 「無理っ、無理っ、無理っ、無理っ、無理っ、無理っ、無理っ、無理っ、無理っ、無理っ、無理っ、ぜぇーーったい無理っ!」


 「ギャーギャー煩瑣(うるせ)えなぁっ、いっぺん死んでこい!」

 師匠に尻を蹴飛ばされ、断崖絶壁の空中に放り出された私は、咄嗟(とっさ)に浮遊術などを発動するいとまも無く真っ逆さまに落ちていった。


 師匠の転移術で運ばれて、最果ての地、ユフレシア大陸の中部高原地帯、イレアナ高地にあるとされる伝説の禁猟地、“竜の顎門(あぎと)”に来ていた。

 冒険者ギルド連合が世界侵入禁止区域指定したエリアが何箇所かある。

 何故侵入禁止かと言うと、大抵のSランク、またはSSランクパーティでも全滅して仕舞うからで、どうしても行きたいという(やから)は、まず連合の運営査問機関で厳正な審査をパスする必要があるのだとか。

 また、禁を破って無資格、あるいは許可を持たずに侵入する者は例外なく国際指名手配になるらしい。


 でも、連合ギルド法令で所謂(いわゆる)、この禁猟地指定法が施行されてからこっち、指名手配になった者が居た、という史実は無い。多分、生還した者が居ないからだ。

 私達は法令遵守を犯して国際指名手配犯になろうとしていた。

 生きて還れたらの話だが。


 その特異な山容からドーナッツ・マウンテンと呼ばれる外輪山を超え、この世と混沌を分けると言われる三途岩(さんずいわ)を過ぎると、その巨大な奈落の淵が見えてくる。空気が薄い所為かは分からないが、心做(こころな)しか陽が陰って感じられる。

 “竜の顎門(あぎと)”は、考えられ()る限りの総ての世界中のドラゴン種が集まってくる竜の餌場だった。


 「飛竜、火竜、蛇竜、古代竜、世界中の有りと有らゆる竜種がこの穴ぼこに集まってくる、奴等(やつら)が好む長くてニョロニョロした(みずち)の精霊が、この珍しくも(たぐ)(まれ)な渓谷に()いているからだ」

 「いまから二、三百年前、大陸中の竜騎士、竜戦士と呼ばれる者達が、自分の騎乗する竜と盟約を結ぶ為に、この地を好んで訪れていた、(いにしえ)のエンシェント・ドラゴンなら高い知性と人智を超えた魔力さえ有している……だが、言い伝えによるとエンシェント・ドラゴンを従えた豪の者も居たそうだ」


 「め、盟約って、ぐ、具体的にどうするんですか?」

 ビビッて、最初から腰が引けているのに、()えて前向きに挑戦しようとするステラ姉さん……貴女は、私達の希望の星だ。

 そう、今日の馬鹿師匠の無理くりな課題は、何と竜種を眷属にする

 ――――だった!


 「基本的に自分の力と技を見せ付ける! ……それから、心からお願いする、然すれば無事、契約が成立する……多分?」


 「「……………」」、(弟子を不安にさせてどうする!)

 マジ、なみだ目だぜ。


 「案ずるより産むが(やす)しだ、ちょっと行ってこい」


 冗談じゃない、ちょっと近所にお使いに行ってくるのと訳が違う、竜だよ、竜!

 火を噴いて人里を蹂躙したり、ハウリングだけで恐慌効果を(もたら)す、ドラゴンが相手って、心の準備が()るじゃないですかっ、とジタバタする私達の至極当然の抗議を無視して、師匠はドラゴンが群れる餌場に私達を投げ入れたのだった。

 「うっせえわっ、下らないプライドなんか捨てちまえ、そんな肝っ玉だからお前らは自害も出来ねえ……一度は捨てようとした命、死ぬ気で遣って見せろ!」


 「ここにな、ケルベロス・ドラゴンって言う非常に珍奇な希少種が生息してる情報を(つか)んでいる、恐怖に血も凍る地獄の番犬ケルベロスと古代竜も吃驚(びっくり)な上位種ドラゴンのハイブリットだ」

 「これは、幾多の異世界を渡り歩いた俺の目から見ても非常に珍しい、もし、この野郎と盟約出来たら、今晩はカレーライスを(おご)ってやる!」


 頬に風を受けながら落下していく中で、虫のいい師匠の腹積もりに悪態をつきながら、姿勢を直して落下速度を(ゆる)めると、上体を起こして天駆の要領に脚を空漕(からこ)ぎして制動を掛けた。

 飛行魔術でゆっくり降下していく。


 凄いっ! ワイバーン、サラマンダー、バジリスク、本物の巨大ドラゴンまで、くねるように、(もつ)れるように、群れ飛び、掻き回される気流が剛性を持って渦巻いている。強者が持てる濃密な獣臭で周囲は満たされ、息も出来ない程だ。

 繁殖の時期なのだろうか、絡まる群体が蟻集(ぎしゅう)し、巨大な球を作っているのを目にしたときは、鳥肌がたった。


 こんなのの何処に、コミュニケーションの余地があるのだろう、命あっての物種だ。誰がカレーライスなんかで釣られるか!

 周囲を刺激しないように、ゆっくりと更に降りて行った。

 今日までなんとか死なずに導師のスパルタに耐えてきたが、今日こそは本当の本気で死ぬかもしれない……今迄もそんな場面に何度も遭遇して来たが、今日ほど頻繁に危険シグナルが鳴りっぱなしの日はなかった。

 それでも降りた……逃げなきゃ死ぬ、そんな危機感知に(とら)われながら。


 なす(すべ)も無いまま、“竜の顎門(あぎと)”の底に降り立っていた。深い奈落の底は、陽が届かず、薄暗く、空気が(よど)んでいた。

 巨大な孵化した後の殻が……中には、大岩ほどもあろうかという馬鹿デカいものもあって、古いものは苔生(こけむ)したりしていた。

 上を見上げると、遥か上空に何十、何百匹にも及ぼうという竜達が飛び回り、騒がしく鳴き叫んでいるのは、壮観というよりは空恐ろしかった。


 地形を確認するのに、小高い丘に上がると穴底の中央の方に、古代都市国家風の古びた神殿らしき構造物が視覚強化で見て取れた。

 空中を滑るように、近付いていくと、その威容と途轍(とてつ)もない大きさが分かるが、三角形のペディメント部分に、最近読めるようになった古代キリル文字で“常闇(とこやみ)(ほこら)”と刻まれていた。


 「祠? 祠って大きさじゃないよね……」


 ハデス信仰か何かだろうか? 確かに黄泉(よみ)の国、ゲヘナなんかを(あが)める地方ではいまだに街の辻々に小さな(ほこら)が道祖神のように(まつ)られていたりするが、思い返すと目の前の古代神殿を模したような形をしていた。


 と、いきなり何の前触れも無く、巨大な何者かが物凄い勢いで飛び出してきて、衝撃波の(ごと)き音量で吠え上げた。


 「ウグルルウオオォォ――――ンッ!」


 矢庭(やにわ)に響き渡る大音量のハウルは、まるで巨大なハンマーのように容易(たやす)く私を翻弄し、衝撃波に転げ回って、敵対行動の対象を再び視認するまでに数秒を要した。

 突然のことに、最初は心臓が口から飛び出るほど動転したが、訓練の甲斐あって復帰も早い。不意打ちから態勢を立て直して危険を把握するのに遅れるな、遅れればそれだけ不利になる……そう教わっている。

 見上げると、それは漆黒の怪獣だった。

 身の丈、10メートル近くはあるだろうか、こわい短毛でびっしりと覆われた体躯は真っ黒なベルベットのように艶のある濃淡の影を作っていた。

 犬だ、頭が三つある。

 間違いなく、これがケルベロス・ドラゴンとやらだろう。

 怪物の背中には翼があった。やおら蝙蝠のような鉤爪のある翼を(ひろ)げると、巨大なそれは陽の光を(さえぎ)って辺りが暗くなるようだった。

 唸り続ける三つの頭は、狂ったようにガチガチと噛み合わされる牙が不気味で、剥き出しにした歯茎(はぐき)が、こちらを威嚇(いかく)しているようだ。


 威嚇? そうだ私は威嚇されている、落ち着け私!

 冷静な判断は、冷静な観察から、そう教わった筈だ。


 (人間の娘、何用あって、我が住処(すみか)に立ち入る……)


 頭の中に直接声が語り掛けてきた。




挿絵(By みてみん)




 「…………………」


 (此処には然したる宝もなし、何用だ? 静寂の領域たる霊廟を(おか)してまでの侵入とは、正可(まさか)とは思うが数百年絶えた盟約の歎願でもあるまい?)


 「……その、まさかですけど」


 (何と言った、小娘? 我の空耳ではなければ、盟約のと言ったのか?)


 「耄碌(もうろく)して耳が遠くなるなんて、可哀そうですけど、そうです」


 ウゴガアアアアアッ、地鳴りするほどの雄叫(おたけ)びだった。

 これが地獄の番犬ケルベロスと魔獣ドラゴンが合体した咆哮、空気は(しび)れ、辺りは鳴動する程の物凄い迫力だ。

 見上げる程の獣の魔神が、怒り狂っているのだ。以前の私なら(ふる)え上がって身動き出来なかったろう。


 (くふふふっ、面白い、面白いぞ、小娘っ、何百年、何千年と我を従えた強者(つわもの)は一人として居なかった、我の力の前にひれ伏さなかった物なぞ居なかったのだ、お前が塵と消えずに立っていられるか、試して呉れようっ!)


 見る間に、相手の魔力がビリビリと空気を振動させる強烈さで高まり、呼吸が苦しくなるほど濃くなっていくのが分かる。

 先手必勝、()られる前に()る、導師の教えの第一だ。

 私は、今私が撃てる最大の爆裂攻撃を放った。


 「Ω・Ω・Ω!」「Ω・Ω・Ω!」

 私の高速詠唱の練度では、三音までしか短縮出来ていないけれど、威力と速さは充分だ。高位爆裂魔法スーパーノヴァと、最大級爆縮重力子魔法スーパーホワイトホールの重ね掛け、今私が撃てる実質的な最善手だ。

 事前に準備した魔力の溜めも充分過ぎる。


 発動する私の術に、目の前の巨大な魔犬の体内から、体表を割るようにして四方八方に強い光彩が放射された次に、辺り数キロを目も(くら)む熱線の火球が(おお)った。


 私の攻撃の方が、少しばかり早かった。

 一瞬、“竜の顎門(あぎと)”の巨大な竪穴を物凄い爆裂光が噴き上がるように立ち昇る。上方に蝟集する竜達は、真っ白い炎に巻き込まれ少なくない数が焼かれた筈だ。

 間髪入れず、周囲を()ぎ倒す爆風が、逆に爆心へと戻っていく。

 爆縮魔法……破壊対象を無限に集束していく重力子の穴に(とら)える、絶対に(のが)れようのない無属性重力魔法の最上位版。

 低空を飛んでいた矮小種が巻き添えをくって引き込まれ、何体かが暗黒の穴にミチミチと、周りの空間ごと、魂消(たまぎ)る断末魔の叫びごと、(ねじ)れて消えた。



 颶風(ぐふう)の鎮まる一変した様相の中、()()()は立っていた。歯牙(しが)にも掛けず、痛痒(つうよう)のひとつも無い(てい)で。

 しかし竜魔神の瞳に最早(もはや)狂気の光は無く、真摯(しんし)に足許の小さな存在……対衝撃用真空次元の皮膜を何層にも張り巡らして(しの)いだ私を、じっと探るように、確かめるように見詰めているような気がした。


 (驚いた……小娘、貴様の(はや)さだけは認めてやろう、その(はや)さが本物になったとき、お前の強さは何物にも勝るかもしれん)


 (お前の眷属として、付き従わんでもないが……ん? その額の赤い印は、何だ? 何やら正邪を(さば)くような聖なる霊力が感じられるな)


 師匠に貰った、戒めの(くびき)に触れてみると何やら清浄で神秘的な力が流れ込んでくるような気がした。

 「これは師匠に頂いた(いまし)め、清く、正しく、美しく生きる道を導くもの、間違いだらけだったあたし達の生きる指標……」


 (おぉ、そうか! 天秤の神の……よかろう、今日から我は(ぬし)が眷属、いつ、如何なる時も命に従うと誓う、忠誠服従の盟約を交わそうぞ)


 どうやら私は、今日も無事生き残ると共に課せられた最大難関を遣り遂げた……ミッションコンプリート出来たようだ。

 最後の方は良く分からなかったが、これで巻き髭の冷血漢導師にも鼻高々で凱旋の報告が出来る。



 よっしゃ! カレーライス、ゲットォッ♬♬♬






誤字報告を頂きました、訂正しました

気がつくほど読んで頂ける方がいらっしゃるって、わかって嬉しかったです


シグネットリング=手紙などにサイン代わりとしてシグネットリングの封蝋が使われていたが、14世紀に入ると公文書にはシグネットリングで印を押さないといけないという法律が正式に作られる

現代のように小振りなものではなく、元々は丸か四角の台座に家紋を掘ったもので自らの地位を証明する貴族の証として広まっていった

ビスクドール=19世紀にヨーロッパのブルジョア階級の貴婦人・令嬢たちの間で流行した人形で、前身にあたる陶器の人形は1840年代よりドイツで作られていた/磁器製であったことに端を発してチャイナドール〈ポーセリン人形 ・磁器人形〉とも呼ばれる、これらは100年以上が経過した現在、アンティーク・ドールと呼ばれる/「ビスク」とは、お菓子のビスケットと同じく、フランス語の「二度焼き=ビスキュイ」が語源で、人形の頭部、場合によって手や全身の材質が二度焼きされた素焼きの磁器製であったことに端を発している/当初は陶土を型に押し込んで作られたが、後に量産可能な液状ポーセリンの流し込みで作られるようになった/前者をプレスドビスクといい、後者をポアードビスクと呼び区別している

スクランブルエッグ=卵料理の一種で鶏卵に食塩やコショウなどの調味料を加え、かき混ぜながら炒めた料理/最初に卵をかき混ぜながら牛乳、クリームあるいは豆乳と混ぜ、食用油かバター・マーガリンを溶かしたフライパンで炒める/充分に火を通す炒り卵と違い、こちらは半熟状になれば加熱を止めて完成とすることが多い

パンド・カンパーニュ=「田舎パン」あるいは「田舎風パン」を意味し、スープによく合う食事パンである/パン・ド・カンパーニュは丸型が多いが伝統的にはラグビーボール型である/ライ麦粉や精製度の高くない小麦粉を使い、リーン系と呼ばれる粉・塩・水だけで作られる食事用のパンで、大きさは直径15cm 300gから30cm1kg以上、ときには50cmにおよぶ大型のパン/現在たいていは丸く、あるいは伝統的には卵型やラグビーボール型に成型され、焼きたてより冷めてからのほうが美味しく数日はそのままで日持ちする

クラムチャウダー=二枚貝を具としたチャウダーで一般的には玉葱、ジャガイモ、セロリ、人参などの野菜が加えられる/アメリカ東海岸のニューイングランドが発祥地で様々な種類があり、ニューイングランド風は牛乳をベースとした白いクリームスープでボストンクラムチャウダーとも呼ばれる/マンハッタン風は赤いトマトスープである

作り方が簡単なため家庭でよく作られるほか、アメリカのレストランや日本の洋食レストランでも供されることの多い西洋料理の定番である/現代では缶に濃縮したクラムチャウダーを詰めた物が一般的にスーパーマーケットで販売されており、鍋に中身をあけ牛乳を加えながら温めるだけで作れる

パントリー=キッチンの一部分に、あるいはキッチンに隣接して設けられる小室・収納スペースで食品や飲料のほか、日常使う頻度の少ない調理器具や什器類をストックするために利用される/食品貯蔵庫や食器室と呼ばれる

ジビエ=狩猟によって食材として捕獲された狩猟対象の野生の鳥獣、またはその肉を指す/英語圏ではゲームまたはクワォリーと呼ばれ、獲物を意味する/日本語には野生鳥獣肉と訳され、畜産との対比として使われる狩猟肉のことである

ロザリオ=「ロザリオ」という名称はラテン語の rosarium に由来するもので、これは「バラの冠」という意味であり、一般的な説では珠を繰りながら唱える祈りがバラの花輪を編むような形になるからと言われている

チュール布=六角形の網地を織り出す織物の一種で、網地の形から亀甲紗とも呼ばれる、元々は絹織物であった/チュールには製法の違いからラッシェルチュールとボビンネットの二種類があり、ラッシェルチュールはラッシェル編機で製作されたチュールで、経糸を絡ませて網地を編みあげるもので、ほぼ全世界で大量生産されており、一般に女性服やカーテン地に使われるのはこちらのラッシェルチュールである/ボビンネットはボビンネット織機で制作されたチュールで、レース糸を組んで織りあげるもので19世紀に発明された手法だが手間が掛かることから現在はボビンネット織機自体が希少であり、フランスのカレー地方やイギリスのノッティンガム地方などで少量生産されている/織物であるため、生地に張りがあり格調高い印象で型崩れしにくい/チュールに水玉模様を編みだしたポワン・ドゥ・エスプリや、刺繍で模様を施したチュールレースなどもチュール布の一種である

ペディメント=西洋建築における切妻屋根の妻側屋根下部と水平材に囲まれた三角形の部分

古典的な神殿形式の正面における重要な要素であり開口部の頂部に用いられることが多く、ポルティコ(柱廊玄関)の上に位置している

ハデス=ギリシア神話の冥府の神/クロノスとレアーの子、ポセイドーンとゼウスの兄で妻はペルセポネー/オリュンポス内でもゼウス、ポセイドーンに次ぐ実力を持ち、後に冥府が地下にあるとされるようになったことから地下の神ともされる/普段冥界に居てオリュンポスには来ないためオリュンポス十二神には入らないとされる場合が多いが、例外的に一部の神話ではオリュンポス十二神の一柱として伝えられている/また、さらに後には豊穣神としても崇められるようになり、パウサニアースの伝えるところに依ればエーリスにその神殿があったといわれている/生まれた直後、ガイアとウーラノスの「産まれた子に権力を奪われる」という予言を恐れた父クロノスに飲み込まれてしまう/その後、末弟ゼウスに助けられクロノスらティーターン神族と戦い勝利した/クロノスとの戦いに勝利した後、ゼウスやポセイドーンとくじ引きで自らの領域を決め、冥府と地底を割り当てられたとされる

ゲヘナ=伝統的解釈によるとゲヘナは地獄の同義語として使われることが多い/しかしエホバの証人はヘブライ語のシェオルとギリシア語のハデスを同列に扱い、ゲヘナをそれと明確に区別している/ゲヘナは元々罪人の死体処理場であった事、愛の神は人身供犠のような残酷な事を望まない事を根拠に、復活の見込みのない完全な滅びの象徴であり、永久の処罰である「第二の死」を表しているとの見解を持つ/これは霊魂消滅説と関連があり、聖書では「火の湖」は「第二の死」を表しているが、火の湖には死やハデスも投げ込まれる事から彼らはそこが別の種類の死、つまり第二の死である完全な滅びの象徴と見なし、これをゲヘナと同列に置く


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全編改稿作業で修正 2024.09.14


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


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