閑話:その頃元の世界では(33話前後)
元の世界の陛下達のお話。主従愛全開。
相変わらず読まなくても本編には支障はありません。
※一瞬だけ弱ったリゼルあり。何に対しても崩れる事なく飄々としたリゼルが好きな方はご遠慮下さい。
我らが王は生まれながらの支配者だ。
溢れる威光、怜悧な瞳、絶対的な命令を孕む声、思わず膝を付く程の威圧。
月のような銀の髪と星のような琥珀色の瞳を持ちながら、まるで太陽が具現したのではという程の存在感。
しかし畏れられはしても恐れられる事は無く、孤高であろうとも独裁者にはならず、平民には親しみと敬いを同時に持たれ、我々臣下には憧憬と畏敬を捧げられる歴代最高と名高い王。
そんな彼に帝王学を叩き込んだ(暴力的要素は一切無い)のが、私の直属の上司であるリゼル様だ。
大の大人でさえ手に負えない、幼い頃から色々ぶっとんでいた国王が大人しく教育係の言う事を聞く筈が無いと心底思う。どういった経緯でまだ若かったリゼル様が抜擢されたのかは私は知らないが、今となってはそんな国王が素直に言う事を聞く唯一の相手なのだから適任だったのだろう。
自由奔放ぶりに忘れてしまいそうになるが、国王陛下はかなり優秀だ。
時折どこかに行ってしまうものの、全て終わらせていくのだから大きな問題になったことはない。まぁ問題にならないようリゼル様が調節してたっていうのもあるけど。
数多の執務を軽々とこなす姿は堂に入っており、年齢にそぐわぬ威厳さえも感じさせる。
それがリゼル様の教育の成果なのだろうし、つまりそれだけの優秀な王を育てられる人が突如消えてしまうと言う事は。
「陛下、軍部の予算が例年を下回っておりますが……」
「いつもリズがどっかから持って来てんだろうが。アイツが出来んだから不可能じゃねぇどうにかしろ」
「陛下! 財務の人手不足で政務が止まりそうです!」
「他から借りろ。リズがこの時期は前もって色んなトコから財務に回してんだろうが自力でやれ」
「陛下……交易路に盗賊が出没したのですが、騎士が手一杯でとても……」
「頭固ぇな。リズだったら個人的に懇意にしてる凄腕傭兵に依頼すんだろうが伝手が一個も無ぇとは言わせねぇぞコラ」
「陛下、隣国の国王からいつも季節の変わり目に届く酒が来ないのだがどうかしたのかと」
「知るか! 俺の機嫌だけとってりゃ良いって言ってあんだろうが何やってんだアイツ!」
イコール私たちの危機。
「ったく俺はリズの事探してぇっつうのに足引っ張りやがって無能共!」
ようやく静寂を取り戻した部屋で陛下が全力で苛立っている。
仕方が無い、仕事を聞きに来る者達が者達なのだから。今日指示を仰ぎに来た者達の中に陛下の側近は一人もいない。
いや、某隣国の王の知らせを持って来た者だけは身内だが。
「リゼル様捜索予算に文句を付けるような人間が、恩も知らずヌケヌケと厚顔無恥にも程が有りますね。生きる価値ゼロです」
「……お前意外と口悪ィんだな。ま、その通りだけどよ」
口も悪くなる。何せ私にとってリゼル様は命の恩人なのだから。
輝く銀髪を大雑把に掻き混ぜて陛下が舌打ちした。
「リズが止めなきゃ全員ぶっ潰すのに」
「止められているんですか? 確かに国王陛下なら気に入らないと感じた瞬間家ごと爆破させると思いますが」
「お前根に持ってんの? 性根は腐ってようと仕事はそこそこ出来んだろアイツら、仮にも古株だぜ。だから『消すのはいつでも出来ますし、次が育ちきるまで上手く使った方が(陛下が)楽ですよ』っつってた」
リゼル様は穏やかだけど平和的かと言われれば微妙だ。
その全てを陛下の都合が良い方に動かすためか、物騒な手段を度々とる。気がする。
なにせ全然証拠残さないし、動いたかどうかも悟らせないしで、確証を持って断言が出来ない。
それに何より、陛下の全てを肯定する人だ。
以前も陛下が何を思ったのか、貿易の関税を不当に値上げして商人から金を巻き上げていた領主を粛清した事が有る。
具体的にいえば港に下着一枚の格好で縄で亀甲縛りして吊るした。おっさんだから見るに堪えない。
そして何処からか売り物にならない大量の虫食いトマトを木箱十箱分持ってきて、“ご自由にお投げ下さい”の看板を吊るされたおっさんの真下に丁寧に設置して、大笑いしながら自分もバンバントマト投げつけて帰って来た。
この方、そういう所に手を抜かない。輝く嫌がらせだ。
『リズ、気に入らねぇ領主吊るして来たから後宜しく』
『証拠は?』
『残してねぇ。まー俺だってのはバレバレだけど証拠はねぇよ』
『それは良かった。お風呂にでも入ってゆっくりして下さい』
この時すでにリゼル様によってその領地の領主交代が終わっていたのだから凄い。
その後、リゼル様が陛下の転移魔術で現場に行ったらトマト汁で真っ赤に染まった領主が吊るされたまま放置されていたそうだ。商人たちの恨みも一入だったのだろう。
翌日には『正義の国王悪の領主を討つ!』みたいな噂が国中で流れてて、リゼル様の手回しの早さを知った。ちなみにこの件でリゼル様から陛下への御叱りの御言葉は一切無い。
「これ終わったら研究所行ってくる」
「了解致しました」
運びこまれた事案の書類を早くも終わらせつつある陛下が言った。
研究所とは城の一角にある、国付きの優秀な魔術師が研究に明け暮れる場所だ。今はそこがリゼル様捜索の最前線となっている。
国王の仕事など少しのサインと話し合いしかないとリゼル様に丸めこまれた人なので、今の忙しさにブチ切れるのではないかと思っていたが意外にも真面目に仕事を終わらせている。
勿論リゼル様の捜索に時間を割く為だとは分かっているが、何となく嵐の前の静けさのようで恐ろしい。
ペンを置いた直後にふっと姿を消した陛下を見送り、無意識に詰めていた息を吐きだした。
「おい、いい加減リズに繋げたかカマ野郎」
「ふふ、やだぁ、お兄様って呼んで」
「てめぇは質問に答えてりゃ良いんだよ」
転移魔術で移動した研究所で、黙っていれば憂い気な空気を纏っている男に話しかける。
正真正銘俺の実兄で、魔術オタクすぎて王位継承権を放棄し研究所所長に就任した男だ。
こいつが王位継いでりゃ俺も楽出来たんだがな。何が「優秀すぎる弟とリゼルちゃんのお陰であっさりお役ごめんだわー」だよいっぺん埋まれ。
ただ才能だけはあったらしく、リズの為に魔銃を使えるようにしてやったり今も捜索の指示を一手に引き受け次々と成果を上げている。
「リゼルちゃんの部屋から魔力残滓を漁って裏世界との仮想接点を作ったでしょ? 豊富な予算のお陰で最高魔石が手に入ったからそれを媒介にログを写し込んで疑似的に……」
「結論から言え」
「今日、貴方次第でリゼルちゃんが見つかるかもしれないわ」
リズが、見つかる。
突然消えて、ずっと俺と居るっつったくせに何も言わず消えて、探しても見つからなくて、あの微笑みと掌の温度と髪の感触と甘い瞳と脳内揺さぶる声と。繰り返し想っては隣に居ない事実に苛立った。
限界なんてとっくに超えてる。アイツみたいに想うだけで満たされるような謙虚さなど生憎持ち合わせてはいない。
「早くしろ!」
「こっちよ」
急かす俺に、カマ野郎が微笑んで促す。
仮にも兄弟だ、俺が我慢の限界というのは分かりきっているらしい。気に入らないが、今はそれどころじゃない。
促されるままに人一人分ほどの大きさをした鏡らしきものの前に連れて行かれる。
様々な魔術陣や魔石に囲まれたそれは宙に浮き、しかし目の前に立っても俺の姿は映さなかった。良く見ると鏡は魔石で、以前カマ野郎にリズの捜索の為だからと頼まれて危険度SSSの魔物で溢れるどこぞの谷から採って来たものだ。
何重にも重なる魔術陣の中央に立つ。
「簡単に説明すると、貴方がするのは二つだけ。一つ目は、私たちが何百もの魔術陣で固定した道にその馬鹿みたいに大きい魔力を注ぎ込むこと」
「馬鹿っつったなテメェ後で覚えてろよコラ」
「ふふ。二つ目は、最終点をリゼルちゃんのピアスに一応指定してあるの。貴方の魔力が膨大に詰まったあのピアスね。けれどとても曖昧だから、貴方が探すのよ」
「あァ?」
「魔力を送りながら常にリゼルちゃんを思い浮かべるの、強く強く。あのピアスは貴方の魔力に反応するように出来ているから、道を開いた時点で何らかの反応は感知出来る筈よ。その瞬間を逃さないようにね」
強く思い浮かべろと言われても、そんなモンいつもの事だ。
カマ野郎が離れたのを確認して魔力を開放する。同時に光を放つ大量の魔術陣が眩しくて鬱陶しい。
目を細めながらカマ野郎を見ると、瞳を輝かせて持っていたバインダーに何かを書き込んでいる。
「この数の魔術陣の稼働なんて世界初よ! 出来るとは思っていたけど、やっぱり規格外ね……ッ。そう、そのまま維持して! ああ、世界中の魔術師が集まって起動させても十秒と持たない規模の魔力の放出……私は貴方が弟で幸せだわ」
恍惚とした表情が気持ち悪い。
周りの研究者たちの視線も痛い。こいつらって俺の事実験体か何かと勘違いしてんじゃねぇの。
観察されるような目が鬱陶しくて、片足を思い切り床に叩きつける。バァンッと腹に響く音に我に返ったのか視線は一斉に散って行った。
カマ野郎は凝視してるけど。こいつに関してはもう無視だ。
周囲の魔術陣が一斉に回転を始めた。
目の前にある魔石の鏡が淡く光る。表面に映し出された数字と記号の波が続々と流れていく。
ひたすら続くそれらの羅列の流れが徐々に勢いを無くし、直後光が研究所を満たした。
「ッおい!」
「今よ! ようやく向こうの世界を見つけたの、後はリゼルちゃんを見つけて空間を開くだけ!」
決して眩しくは無い光に包まれながら目を閉じた。
何かの気配を感じる、カマ野郎曰く表裏一体の向こう側と此方側が繋がった事で部分的に空間が重なったらしい。
向こう側の獣か、人か、それとも植物に過ぎないのかも分からない微かな気配。薄らとしたそれを振り払い、リズを探した。
「リズ」
懇願するような微かな声が漏れた事に舌打ちし、魔力の放出を強める。
ただアイツを求めるだけじゃ足りない、自分の記憶の中にあるリズを次々と引き摺りだす。
『初めまして、殿下』
出会った頃。
新しい教育係が来ると聞いたが嫌で朝っぱらから部屋を逃げ出して秘密の場所に行った。ら、其処にいた。
アイツはしばらく自分が教育係だって名乗らないまま毎日そこに現れて、最初は気に入らなかった俺が何をしようと微笑んで流して、気に入ってからしばらく経つと知らず知らず色々な事を教わっている事にある日気が付いて。
『オマエが俺の教育係だったら良かったけどな』
そう言った俺に、自らの素姓を明かした。大概性格が悪いと当時は思ったものだ。
『リズ、外行こうぜ!』
『今日の勉強が終わってからなら良いですよ』
『おっし』
普通ならば止められる提案もアイツは止めなかった。
出先が敵国だろうと、危険な渓谷だろうと、ただの城下だろうと何時だって誘えば付いて来てくれた。
基本的に保身の考えを持つリズが、少しも迷うことなく頷いてくれた。
俺が全てをねじ伏せられると信じて、魔物如きに後れを取らないと信じて、民に無体を働かず醜態を晒さないと信じて、嫌だとは絶対に言わなかった。
『なぁ、俺って結構お前のこと連れ回してるけど嫌じゃねぇのか』
『貴方が私を必要としてくれるなら、それ以上の幸福はありません』
問えば、心からの笑みを向けられた。
今も昔もリズがそう言うのは当然だと思っているが喜びを感じない訳じゃない。満足気な俺を、可笑しそうに笑いながら優しく髪を梳いてくれた。
『なぁリズ、これ見ろよ!』
『魔銃なんて持ちだしてどうしたんですか? 殿下が反動をものともせず使えるのはこの前見ましたよ』
『違ぇし! 見てろよ、こうして転移魔術で魔力込めると繰り返し使え』
初めて叱られた。
引っ叩かれた頬に呆然とし、手から飛んで行った銃など気付かなかった。
笑みが消えた顔を初めて見た。いつも俺に向けられる甘い瞳が細められるのを初めて見た。紡がれた声が優しさを失ったのを初めて聞いた。
『は、なに……りず……』
何をするんだと怒鳴る事も出来ず、何が悪かったのかと謝る事も出来ず、多分人生で初めて茫然自失を経験した。あの時は人生初を経験してばかりだった。
『どうして迷宮品なんかに手を加えるなんて危ない事をしたんですか』
『ッだってこれだったらリズも使えんだろ! 衝撃だけなら何とかなるかもって兄貴が言ってたんだし、リズだって前に俺について行くには実戦で力不足とか訳分かんねぇ事言ってたし、だから……ッ新しい武器があればって用意してやったんじゃねぇか!!』
『そう、私の所為なんですね』
告げられた言葉に口を噤む。
リズが今度から付いて来てくれなくなったら嫌だと思っただけだ。
喜んでくれると思った。今思えば解析不能な迷宮品に手を出して死ぬ可能性ってのは思うほど低くなく、むしろくじ引きのような感覚で生死が掛かっていたのだが、当時はそれに気付かなかった。
ただ叱られた事にショックを受けて、叩かれた事に嫌われたと絶望して、素直に謝罪をするのは矜持が許さなかった。
『ッそうだよ、お前の為って言ってんだろうが! 別に成功したんだから黙って受け取っとけば良……』
『それならもう、私は貴方の傍にはいられません』
目を見開く。
『貴方を危険に晒すような人間が貴方の傍にいる事を、私は許せない』
アイツを傷付けた。
俺でも嘘だと分かるぐらい、下手な作り笑顔を浮かべさせた。
『叩いてごめんなさい、殿下。痛かったでしょう』
『ぁ、』
伸ばされた手は頬に触れず、直前で握りこまれて引かれていく。
もう一度謝罪の言葉を口にして部屋を出ていくアイツを追えもせず、立ち尽くす俺を発見したのは当時まだマトモだった兄で。
いつもだったら鬱陶しいと舌打ちの一つでもして伸ばされた手を叩き落としただろうに、まともに働かない思考が正常な反応を返せる筈が無く、促されるままにポツリポツリと事情を話せば殴られた。これは無意識に避けたが。
その日はいつの間にか自室に居て、明日になれば大丈夫だと何の根拠も無く祈る様に目を閉じたが一睡も出来ず、翌日リズが俺の元に来ることも無かった。
親父に教育係の変更を告げられ愕然とし、どうにもならない感情に耐えられず目の前にあった馬鹿でかい机に拳を叩きつけブチ壊した。粉々になった木片が舞う中、さっさと謝って来いと親父に吹っ飛ぶ程ぶん殴られなければ城は半分無くなっていたかもしれない。
『……リズは?』
『やぁ、殿下お久しぶりです。うちの息子に随分な事をしてくれたみたいだね』
『ッ答えろクソ野郎』
昔からアイツの父親は苦手だった。
ニコニコニコニコ、同じ笑顔でもリズとは違い胡散臭い笑みを浮かべていた。
笑顔のまま無言で指差された方向はアイツの家の書庫で、各国に大図書館の異名で知られている程に巨大な其処へと走って行く。
音一つ鳴らない扉を開き見たものは、普段は慈しむような手つきで扱う本を無造作に散乱させ、それに埋もれる様に床に座り込み本を読むリズの姿で。文字を追いながらも何も映さない瞳は時折ふいに揺らぎ、アイツは俺を危険に晒した自分を責め続けていたのだろう。
後にも先にもアイツが平常心を失った姿はあれっきりだったが、ひどくショックを受けた事を覚えている。
俺は物心付いて以来、初めて泣いて、初めて人に謝った。
今まで甘え続けていた事にようやく気付いた俺は、その時初めてアイツの上に立って守れる立場の王に興味を持ったんだと思う。
『即位おめでとう御座います、陛下』
『おう』
色々な式典やお披露目の怒涛の予定が終わり、寄こされた祝いの言葉に素直に喜べなかった。
リズは俺の教育係だ。つまり俺の即位が役目の終わりで、教育係から配下になる。
何人もいる配下の内の一人、唯一人の教育係じゃない。立場上将来的には側近や重鎮になるのは分かりきってるが、それだけではとても足りなかった。
『リズ、お前さ』
『はい?』
『良いのかよ』
自分ばかり気にしているようで嫌になる。問い掛けると、リズは微かに首を傾げて微笑んだ。
『私が貴方のモノなのも、貴方が私の王なのも、何も変わりは無いでしょう』
『俺は嫌だ』
笑われ、ガキ扱いされているのかと顔を顰めた。
その時ふと思いついた妙案を即行採用して、若干の仕返しのつもりを込めて戴冠式で堂々宰相の地位を作り任命してやった。
ざわめく奴等なんざ目に入れず不敵な笑みを向けると、仕方無さそうに微笑んでいたのが見えて勝てねぇなと愉快になった。俺がそう思う奴はアイツ一人だけ。
国王になっても変わったのは呼び名ぐらいで、その相変わらずの態度に微かな安堵を抱いたのは此処だけの話だ。
色々あった。リズの事なら一つだって忘れていない。
戦争を吹っかけられた時、アイツの言う通りに転移魔術で次々と兵を送り込んで圧勝したこと。
やりすぎた御忍びで相談役の爺に自重しろと苦言を貰った時、一緒に怒られてくれたこと。
命令して酒を飲ませた時、いつもとの違いに驚き次の日覚えていなかったアイツに爆笑したこと。
嫌がるリズから無理やりピアスへと魔力を引きだして自分の耳に刺し、アイツの耳にもブッ刺したこと。
海賊の巨大戦艦を潰して無傷で欲しかったと言われたこと。川に棲む幻のヌシを釣り上げて見せたら帰してこいと言われたこと。暗殺者に狙われたと報告したら遊ばないよう言われたこと。
アイツに、アイツの母親を殺しても良いかと、そう ―――
「見つけた」
捉えた。凝縮された俺の魔力と寄り添うようにある穏やかで繊細な魔力。
逃さないよう魔力の放出を強める。普段は全力など出せない程に巨大な魔力を初めて解放する。
城が揺れた、魔術陣の光に目が眩む、国一つ消し飛ばせる魔力を目の前の鏡に流し込む。
「ちょっと待って……ッちょっと、城が消し飛ぶわよ! 止め、ッおい馬鹿止めろって言って」
「消し飛べば良いだろうが!!」
アイツの為なら俺は、此の国が消えようと躊躇わない。
「リズ!!」
鏡の真ん中にヒビが入った。
光溢れる其処をこじ開けるように魔力を集中させる。あと少し、その光の向こう側にリズは居る。
広がって行く隙間の向こう側に見えた色は見慣れたもので、これ以上は無理だという所まで空間の窓を広げるとゆっくりと魔力を収縮させていく。向き合った瞳に、幸せそうに微笑むその顔に、どれ程焦がれたか。
「、へいか」
甘い声に惹かれるように、俺の喉から勝手に声が零れ落ちる。
「リ――――」
「やぁ、もう繋がったのかい?」
世界を滅ぼすかと思った。
閉じていく窓が完全に消えるまで合わせ続けた視線の余韻を感じながら、ゆっくりと目を閉じる。
元気そうだ、怪我はしていない、微笑みも陰らず俺への忠誠は少したりとも揺らいでいない。
顔を見ている間は言葉を交わす事に集中していたが、思い返したその姿から不自由はしていないのだろう確信を持ち深く息を吐いた。覗いたあちら側に遺体があったらと思った事など無いが、全く心配していない訳ではない。
「リゼルちゃん元気そうで安心したわ。でも、二度目はしばらく無理ね」
「あ?」
「ほら、再生不可能よ」
指を指され、目の前の鏡を見る。
無残にど真ん中から真っ二つに割れた魔石は、確かにカマ野郎の言う通り再利用などとても不可能だろう。
あれだけの魔力を注いだのだから当然か。しかし注がなければ窓を開けなかったのだから仕方ない。
「また採って来て頂戴ね、今度はもっと大きい奴がいいわ」
「あれ谷の中で一番でけぇ奴だったぜ。それより……」
「え? むごっ」
「良くもテメェこの俺に向かって馬鹿馬鹿言ってくれたなオイ」
顔面を掴み、持ち上げる。
どさくさに紛れて聞き流すとでも思ってたかコラ。
「つーかあのオッサン何処行きやがった! いい加減首刎ねんぞコラ!」
「むぐぐぐぐ(嬉しそうに帰ったわよ)」
「テメェになんざ聞いてねぇんだよオイ誰かオッサン俺の前にしょっ引いて来い!」
アイツは許さない。絶対にだ。
いくらあの時テメェの息子傷つけたからって何時までもネチッこい嫌がらせしやがって親馬鹿野郎。
「死ぬ気でリズを取り戻せ、一度の成功上回るなんざ俺の下にいるテメェらにとっちゃ楽勝だろ!」
「「はい!」」
声を揃える研究者たちに唇を吊り上げ、再会の日を思いながら扉を蹴り開けた。
良く「陛下好きすぎて元の世界に帰る時ジル達どうなるんだろう…」という不安の御言葉を頂きますが、ハッピーエンド至上主義につきひどい事にはならないのでご安心を。




