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■肉を買おう!

         ※

         

「くーださいなー!」

「ヘイらっしゃい! って、おお、兄ちゃんか。どうよ、獲れたか、ケダモノは?」

 

 ここ数日の逗留とうりゅうの間にすっかり村の住人となじみになったハルトは、狩りの準備の相談に乗ってくれた肉屋のオヤジさんに声をかけた。

 野生のケダモノを中心に扱うこの店は、店主からして元猟師だ。


「それがさー、全然ダメだわ、からっきし。かすりもしねーわ、弓は壊れるわで、散々よ」

「ガッハッハッ。素人さんじゃあ、そんなもんさ。それでも怪我しなかった分だけマシってもんだ。ワイルドボアとか、シャレになってねーからな。うっかりすると、死ぬやつだからな」

「マジかよ。うへえ、むかしは練習相手だったのになあ」

「まあ、猟師連中もそのへんはわかってて、にーちゃんには初心者向けの狩り場を紹介したはずだぜ? ガチな獲物との遭遇率が高い場所を教えるわけにはいかねえからな」

「あ、そーか。みんないろいろ気を使ってくれてたんだなあ」


 ハルトの表裏のない返答に、オヤジはフッ、と笑った。

 そういう配慮だけではなく、良質の狩り場を他所者に簡単には教えたりしない、という部分がまるで理解できていないヒトの良さ、にだ。

 

 もちろん、猟師連中にも悪気があったわけではない。

 短弓を使うのも初めてだという新米では、大物相手はあきらかに無理だったからだ。


 そもそも、狩り場には普通、他所者を入れたりしない。

 たとえそれが初心者向けの狩り場であったとしても、自らの生業を左右する大事な場所を素人に荒らされたくない、というのは当たり前の感情だろう。

 

 そんな猟師たちに初心者向きとはいえポイントを伝授させてしまうくらいには、このハルトという男には不思議な魅力があったのだ。

 

 いや、もしかしたら勇者:ハルトブレイブと同じ愛称を持ちながら無職ニートというどう見ても不名誉なクラス名に甘んじている男の存在が、同情票を集めただけなのかもしれなかったが。

 

「で、ウチに来たからには、空振りに終わった狩りの補填ほてんをしに来たってとこだな?」

「まーねー。話が早くて助かるよ、オヤジさん」

「かわいいお連れさんに良いとこ見せられなくて残念だったな。だが、まかせとけ! ウチのケダモノ肉を食ってオチないオンナはいない!」

「うっひょ、オヤジさん、頼りにしてるぜ!」

「まあ、落ちるのはホッペタのほうだがな!」


 イシシシシシ、となにがおかしいのか顔を見合わせ笑う男ふたり。

 ちょっと頭が悪いんだと思う。

 

「さてと、それじゃあかわいコちゃんが待ってるってことはだ。選り抜きの上肉でなけりゃいけねえな。ご予算は?」

「こんだけ」


 ハルトは得意げにさきほど無心むしんした本日最後の1ギルファ硬貨を、さし出して見せた。

 

「ほー、それなりにものの値段がわかっちゃあいるんだな。ようがす。百獣屋ももんじや:ニックスキーの名にかけて、最高のヤツを用意しちまうぜ!」

「マジか。オヤジさん、ありがとう! 今日はさ、オルデヒアの前でカッコ悪いとこばっか見せちゃったからさ。ここらで挽回しときたいわけよ!」

「わかる、わかるぜえ、兄ちゃん。あのな、あのコはほんっとに手放しちゃいけねえぞ。次はねえぞ」

「だから、肉だ、肉だ、ニックスキーのオヤジさんよ、最高の肉をくれ!」

「あいよ、まいどっ」


 というわけで、ハルトの眼前に現れたのはすごく大きくて見事な霜降りの肋肉だった。

 それが全部で6本連なった極上のスペアリブだ。

 

「スッゲ! マジでいいの、これ! デカッ、うまそっ!」

「初夏のベリーや木の芽を食べて育ったワイルドボアの上肉よ。ちょっとそこらじゃお目にかかれないぜ」

「これ、いくら?」

「ほんとは1ギルファと3シルヴァは頂きたいとこなんだけどな。お兄ちゃんの恋路のためだ。今日は出血大サービス! 1ギルファぴったしで手を打とう!」

「マジかよ。スゲーお買い得じゃん!」

「どうする?」

「買ったッ!! 買わなきゃ損だろこれッ!!」


 さてさて、これでたしかにハルトは最上のシシ肉を手に入れたわけだった。

 

「ちゃんとかわいコちゃんとケンカせずに済むように、偶数にしといたからな!」

「オヤジさん、やるう! かっこいー!!」

「でだ。どうする、焼くか? 焼いとくか、ウチで? あとで宿に届けてやろうか? もちろん無料サービスで」

「え、えっ、いいの? あれ、でも……どうしようかな?」


 肉屋のオヤジからの親切きわまりない申し出に、なぜだか思案顔になり、ハルトは首を捻ってみせた。

 

「なんだい。どうしたい」

「いやっ、今日はさ、オレがかっこいいところを見せたいんだよね、オルデヒアには」

「おう」

「だからさ、やっぱり、自分で焼くわ。あと、今日はキャンプにする」

「え、こいつを自分で焼くのは……けっこう大変だぜ?」


 巨大な肉塊をにらみ両腕を組んで、ニックスキーは唸った。

 このサイズの肉をキレイに焼き上げるのは、なかなかの熟練を要する。

 野外ともなればなおだ。

 この時代の肉焼き網は携帯するにはいかにも不向きな大きさと重さを誇っていたし、串焼きにしろ専用のごっつい鉄串がいる。

 野生動物の肉は、たしかに美味だが、寄生虫や病気の問題もある。

 火の通し加減は本気で重要だった。

 

「お兄ちゃん、本気か」

「ああ、マジだ。今度はオレのワイルドさをバシッとアッピールしたいわけよ!」

「……そこまで言うんじゃしょうがねえ。ちょっとまってろ、一本一本切り分けてやる。それでダイブ違うはずだ」

「くー、オヤジさん、かっこいーッ! 頼りになるなるーッ!」


 という感じで、肉は調達されたのだった。

 とりあえずは、無事に。

 調達だけは。

 




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