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第34話 家族との決別

「なんですの、そのドレス!!ソアレス公爵令嬢も、同じようなものを着ていたわ!そんなドレスがあるなら、私に渡すべきじゃなくって!?」


今まで虐げていたローザマリアが、美しいドレスを着て、自分よりも注目されていることが気に食わないアマーリエは、捲し立てるように言い放った。その隣に立つエミリオも、顔を歪めながらローザマリアを見つめている。


「お前のような黒髪が、なんで殿下と一緒にいるんだ!?どうやって取り入った!!メーア国との同盟だと!?王宮に勤めている僕が知らないっていうのに、どういうことだ!」


エミリオは、アーヴァイン侯爵を手伝いながら王宮にも顔を出している。これまで、王太子と関わり合いもなかったローザマリアが、先王や王太子に認められたことが気に入らない様子であった。


「なぜ、そんなに幸せそうなのよ…!?不幸になるように辺境に送ったっていうのに…!!なぜいつもいつも、邪魔をするの!!」


ローザマリアの母を恨み続けている義母は、幸せそうなローザマリアを受け入れられず、髪を振り乱しながら、怨念の籠った目で見つめてきた。


三人とも理由は違えど、これまで見下して、辺境に追いやったはずのローザマリアが、美しく着飾りながら、楽しそうに過ごしていることが受け入れられない様子であった。


その視線を遮るように、バルドヴィーノは、ローザマリアを背に庇った。


「挨拶も無しに、ひどい言い草ですね。これまで、ローザがどのように育ったのか、よく分かりましたよ」


バルドヴィーノは、怒りを抑えるように、ぎゅっと手を握るも、それを柔らかな手が包み込んだ。


「バルド様…」

「ローザ、下がってろ。俺が…」

「いいえ、最後に、言いたいことがありますの」


穏やかな顔を向けるローザマリアに、バルドヴィーノはしぶしぶと手の力を抜くと、そのままローザマリアの腰に手を回し、守るようにピタリと体を寄せた。頼もしい体に身を寄せたローザマリアは、忌々しそうに睨みつけてくる家族に、目を向けた。


異様な雰囲気に、周りからも注目を浴びていた。これまで、家の中でローザマリアを虐げることはあっても、このような大衆の前でボロを出すことはなかったというのに、あまりにも変貌を遂げたローザマリアを認められないのか、三人は醜い姿を晒していた。


「旅立ちの際は、誰も見送りにいらっしゃらず、きちんとご挨拶できなかったので、改めてご挨拶させていただきますわ。…今まで大変お世話になりました。皆様からは、本当に、色々なことを学ばせていただきましたわ。これからは、ファーウェル辺境伯の妻として、辺境のことを第一に考えていくつもりです。結婚式も、辺境で挙げるつもりですわ。ですが、長距離の移動は大変かと思いますので、皆様を招待するつもりはございません。ご安心くださいませ」


無表情で告げるローザマリアの発言に、周りからはどよめきが起こった。


「挨拶もなかったって、どういうことだ?義理とはいえ、家族だろう?」

「ローザマリア嬢が、侯爵家の後継は荷が重いと、自分から進んで辺境に行ったんじゃなかったのか?」

「結婚式にも招待しないって、事実上の絶縁ってことか?」


ざわざわと周りが勝手に話を進めるのを聞いて、まずいと思ったのか、三人はさらに言葉を言い募った。


「なんて親不孝なの!?そんな不吉な髪でも家族として育ててきたというのに!これまで育ててきた恩を忘れたっていうの!?」

「そうよ!家族のことを、何も思ってないの?ひどいわ、お義姉様!」

「アマーリエを泣かせるなんて…。君は、相変わらず人の心が分からない人だね!」


先ほどまでの自分たちの言葉も忘れて、義母たちは揃ってローザマリアを非難した。これまで、家族に認めてもらおうと、愛情に飢えていたローザマリアにつけ込むように、罪悪感を煽るような言葉を投げつけた。


「いい加減にしろ!!これまで彼女にしてきた仕打ちを考えれば、当然のことだろうが!人の心が分からないだって?それは、あんたたちの方だろう!!これまでローザが尽くしてきた思いを無下にしときながら、今更何を言ってんだ!!」


流石に我慢ができなかったバルドヴィーノは、敬語も忘れて声を上げた。しかしその言葉も、彼らには通じていないようで、バルドヴィーノの迫力に怯みながらも、不満そうにこちらを睨みつけていた。


それを見て、これ以上は無駄だと悟ったバルドヴィーノは、怒りを抑え、静かに言葉を続けた。


「人に文句をいう暇があるのか?あんたたちの領地がどうなってるか、知らないはずはないだろう?」

「領地?なんのことよ!?そんなの、領地管理人がいるから、何もしなくて平気よ!」

「…先が思いやられるな。宰相にもよろしく伝えてくれ。いつまでその席にいられるか、分からないがな」

「…なんですって!?」


王太子は、国王を引きずり下ろしたついでに、王宮内の膿を一掃すると言っていた。国王の機嫌を取るばかりで、領地の管理もままならず、なんの実績もないアーヴァイン侯爵が、血筋が良いというだけで座っていた宰相の座に、そのまま居座ることができるかどうかは、すぐに分かるだろう。


「…メーア国との同盟と、王太子殿下が王に即位されることは、王宮の役職を持つ者には、あらかじめ内密に告げられていたはずだ。でも、あんたは知らなかったんだろう?つまり、侯爵も知らなかったんじゃないのか?…こんな国の大事なことを知らされないってことは…。つまりは、そういうことだ」

「そ、そんなこと、あるわけないわ!!私たちは、誇りあるアーヴァイン家なのよ!?そうでしょう、エミリオ!」

「あ、ああ…」


歯切れの悪いエミリオを、アマーリエが問い詰めるも、その顔色は悪かった。自分以外の王宮の人間は、事前に知らされていたと聞き、エミリオは激しく動揺していた。そんなエミリオを見て、義母と義妹も、最悪の可能性を考えて愕然とした。


バルドヴィーノがローザマリアを見やると、彼女はただ無表情で彼らを見るのみで、その目には何の感情も映していなかった。他に言うことも無さそうなので、バルドヴィーノは、ローザマリアの腰に回していた手をグッと引き、その場を去るために歩き出した。


「ま、待て!どこへ行く…」

「今後、彼女に近づかないようお願いします。もしそれを違えた場合は、我がファーウェル家を敵に回すことになるとお考えください」


言い募るエミリオに被せて、鋭い目線とともにバルドヴィーノは宣言した。国一番の武力を持ち、次期国王の信頼も厚く、メーア国とも通じているファーウェル辺境伯を敵に回したとなれば、アーヴァイン家に味方する者は、誰もいなくなるであろう。


呆然とする三人をそのままに、バルドヴィーノたちは早足で立ち去った。




「悪い、結局口を出しちまったな…。大丈夫か?」


しばらく歩いたところで、バルドヴィーノは心配そうにローザマリアに話しかけた。


「…はい。申し訳ありません、バルド様にご迷惑をおかけしてしまって…」

「ローザが謝ることじゃねーだろ?…本当に、平気か?」

「ええ…。今まで、あんなにあの人たちに認めて欲しかったのに、今ではもう、何も思いませんの」


落ち着いて答えるローザマリアの言葉に、嘘はなかった。こうして再び顔を合わせたら、何か感じたり、言いたいことが出てくるかもしれないと思っていたのだが、不思議と心は凪いでいて、喜びも悲しみも、怒りすら感じなかったのである。


「ただ、領地のことは気になります。領民に罪はありませんもの…」

「殿下がなんとかしてくれるだろう。あの方は、辺境のことも気にかけてくれたんだ。心配すんな」

「…そうですわね」


国のことを第一に考える王太子であれば、なんとかしてくれるだろう。これまでの王太子の人柄を思い出して、安心したようにやっと笑顔を見せたローザマリアに、バルドヴィーノはほっと息を吐いた。


落ち着きを取り戻したところで、ダンスの始まりを告げる、優雅な楽器の演奏が聞こえてきた。


せっかくの夜会を、あんなつまらない出来事で台無しにされたままではたまらないと、気分を変えるためにも、バルドヴィーノはローザマリアに手を差し出した。


「踊っていただけますか?」


気恥ずかしそうな目を向けるバルドヴィーノに、ローザマリアは満面の笑みを向けるのであった。


「はい!」


いつかの祭りの時のように、バルドヴィーノの力強いリードに身を任せ、ローザマリアは軽やかにステップを踏む。ひらりひらりとドレスが揺れる度に、クズ石がキラキラと光を反射した。


バルドヴィーノの熱を帯びた褐色の瞳と、ローザマリアの透き通った薄紫色の瞳が交差する。こうして見つめ合っていると、まるで世界に二人しかいないようで、さっきの嫌なことも、全て忘れてしまいそうであった。


情熱的なダンスを踊る二人に、会場からは祝福するような拍手が湧き上がったのであった。


あと一話で完結なので、今日中に更新します。


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