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第33話 穏やかな談笑

「バルド、今回はよくやってくれたね。見てたかい?皆の顔を。すっごく驚いていたね」


楽しそうに笑う王太子は、ソアレス公爵令嬢をエスコートして、ローザマリアとバルドヴィーノに近づいた。二人は揃って頭を下げ、挨拶をする。


「殿下、お久しぶりです。まさか本当に、こんな短期間で国王を退任させるとは…。さすがですね」

「このまま国王に任せていては国が滅びかねないと、皆、内心では思っていたからね。お祖父様にも随分助けていただいたよ」


良識のある貴族たちは、国王の無能さと横暴さに辟易していた。そのため、王太子が頼むまでもなく、貴族たちは皆、王太子側についたのであった。先王による後押しも大きいが、これまで国王の目につかないようにしながらも、着実に成果を出し、周りからの信頼を勝ち取ってきた、王太子の努力の証でもあった。


その上、長年、敵国であったメーア国との同盟を、王太子が主導して進めたとあっては、誰も文句のつけようがない。密やかに王宮内の主要機関に根回しされ、特に混乱もなく国王の引退が決まったのであった。


「この機会に、城内の膿を残らず排除しようと思ってね。…害にしかならないものを、置いておく余裕はないからね。しばらく忙しくなりそうだよ。…だから、魔物の方は、よろしく頼んだよ?」

「はい、お任せください」


あの会談の後、すぐにシーラン国から研究者が派遣された。ファーウェル領からも、数名の選りすぐりの兵士を送り、メーア国に結界を張る準備を進めているところだ。これまで魔の森や魔物の研究を中心に行っていたメーア国は、魔石を持て余している状態だったため、結界に使う魔石はすぐに確保することができ、予定よりも早く結界が完成する見込みであった。


グランツ公爵の息子が発明した魔道具も、シーラン国とメーア国の研究者で、改めて調べられることとなった。その結果、やはり魔素を吸収できることが判明したのであった。時期尚早の声もあるものの、冬の間は魔物の活動が弱まるため、早ければ来月にでも、バルドヴィーノとグランツ公爵を含む連合隊が組織され、魔の森に向かうこととなっている。


「頼りにしているよ。…キースから、会談の話を聞いたけど、ローザマリア嬢もかなり尽力してくれたみたいだね。やっぱり、君を見込んだ僕の目に、狂いはなかった!」

「勿体無いお言葉ですわ」

「謙遜しなくていいよ。それと、今回も素晴らしい髪飾りをありがとう。急なお願いだったというのに、相変わらず丁寧な仕事っぷりだね。輝くエヴァの金髪をさらに引き立てるような、美しい髪飾りだ。ああ、エヴァの可憐な愛らしさを言い表すには、こんな言葉じゃ足りないくらいだね…」

「リオネル様、それくらいになさってくださいませ、恥ずかしいですわ。…私からも、改めてお礼を言わせてちょうだい、ローザマリア様。素敵な髪飾りを、どうもありがとう。ドレスも、あなたの紹介してくれたお針子のおかげで、すっごく着心地がよくなったの!」

「恐縮ですわ、エヴァンジェリーナ様」


前回、王太子がオーダーした髪飾りの件から、ソアレス公爵令嬢とローザマリアは手紙のやり取りをするようになり、お互いの名前を呼ぶほど親しくなっていた。こうして直に話すのは初めてではあったが、それを感じさせないほど仲睦まじげな様子であった。


髪飾りは、前回同様に、ファーウェル領のコルデラを作っている職人に依頼したものである。それにクズ石をつけたことで、光が当たるとキラキラと輝いていた。また、新しいドレスが体に合っていないと聞いたローザマリアは、辺境から一緒に連れてきていたユディタをソアレス公爵令嬢に紹介した。人に合わせてドレスを作ることが得意なユディタは、一瞬で調整を終えてしまったのであった。


これまでお披露目の機会がなかったクズ石のドレスも、ようやく日の目を見ることができ、そのドレスを作っているユディタの腕の良さと、ドレス自体の美しさから、すでにソアレス公爵令嬢から注文を受けている。珍しくも美しいドレスは、会場で一番の注目を浴びており、他の貴族から注文が来るのも、時間の問題であろう。


そうして、ドレスやクズ石の話で盛り上がっていると、向かいから一組の男女が歩いてきた。


「おや、キースじゃないかい。遅かったね」

「申し訳ありません、殿下。人を撒くのに手間取りました」

「キース、お前いつ戻ったんだ?」

「昨日ですよ。またすぐに、メーア国に戻ります」


今やキースは、メーア国とのやり取りを一手に引き受けており、会談以降も、ずっとグランツ公爵領に滞在していた。多忙の限りを尽くしているものの、本人はやりがいを感じており、溌剌とした様子であった。


そんなキースがエスコートしている女性は、この国では珍しい赤みがかった瞳をしていた。彼女が、キースの妹のヘレンである。王太子たちへの挨拶が終わるや否や、ヘレンは目に涙を浮かべ、久しぶりのローザマリアとの再会を喜んだ。


「ローザマリア様…!!こうしてお元気そうなお顔を見られて、嬉しゅうございます…!!」

「ヘレン様…!私もお会いできて、嬉しいですわ」


ローザマリアは、ヘレン嬢を慰めるように手を取って、しっかりと目を合わせてこれまでの感謝を伝えた。


「いつも、本当にありがとうございます。突然の婚約だったというのに、わざわざ領地にまで連絡をしてくださって…。ずっと、直接お礼を言いたかったんです」

「とんでもないです!私は、ローザマリア様のおかげで、こうして差別されずに過ごせていますもの。手紙でもいつも気にかけてくださって…。こちらにいらした時よりも、随分明るい顔をされていて、本当に安心いたしましたわ。辺境伯様に愛されているおかげでしょうか?」

「愛され…!?」


かあっと赤くなったローザマリアと、居心地が悪そうに顔を逸らすバルドヴィーノに、王太子とキースは珍しいものを見たとばかりに、大きな声で笑った。初々しい二人に、女性陣からは普段の様子を興味深げに質問されて、終始和やかな雰囲気に包まれていた。


散々バルドヴィーノをからかって満足した王太子は、微笑ましい二人を祝福し、ソアレス公爵令嬢を連れて他の貴族への挨拶に向かっていった。


キースたちとも別れたローザマリアとバルドヴィーノは、ワインで喉を潤しながら壁際に立っていた。


「疲れてないか…?」

「はい、大丈夫です。バルド様も大丈夫ですか?」

「ああ。…こういった夜会に参加するのは久々だが、あんまり変わってねーな」


メーア国との同盟に貢献した上、王太子とも楽しげな様子であったことから、二人はかなりの注目を浴びていた。その視線を鬱陶しそうにしながら、バルドヴィーノは手に持ったワインを一気に飲み干した。


「ローザは、夜会は好きか?」

「…今までは、あまり好きとか、楽しいとか思ったことはなかったですけど…。今日は、王太子殿下やエヴァンジェリーナ様、キース様とヘレナ様にもお会いできて、とても楽しいですわ」

「…なら良かった」

「それに…」

「それに、なんだ?」

「バルド様と、こうして一緒に過ごすことができるのが、一番嬉しいですわ」

「…俺も、あんまり夜会は好きじゃなかったんだが…。今日はローザがいるから、来て良かったって思ってるぜ?……会場で一番、綺麗だ」


熱のこもった目で見るバルドヴィーノに、ローザマリアは全身が熱くなった。


しかし、そんな甘い雰囲気を壊すように、近づいてくる集団がいた。


「お義姉様!どういうことですの!」


そこには、せっかくの美人も台無しになるような、憎々しげな顔をした義妹たちが目の前に立っていたのであった。


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