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第26話 魔物の襲撃

あのお茶会の日から、バルドヴィーノとローザマリアは、一緒に過ごす時間がさらに増えていった。今も一緒に昼食を摂りながら、仲睦まじそうに話をしている。


「ローザは、午後からどうするんだ?」

「今日は、書類仕事をしようと思っています」

「そうか…。途中で休憩がてら、また茶でも飲まねーか?」

「まあ!嬉しいですわ!」

「おう。じゃあジュリアン、頃合いになったら声かけてくれ。集中してると、時間が分からなくなっちまうからな」

「はい、かしこまりました。ローザマリア様のおかげで、閣下が休憩してくださるようになって、ありがたい限りです」

「ああ?」

「ふふふ。バルド様も、あまり無理なさらないでくださいね?」

「…ローザが毎日来てくれたら、ちゃんと休憩するぜ?」

「そんなことおっしゃると、毎日伺いますわよ?」

「そうか、それは楽しみだな!」


いつの間にか愛称で呼びあい、楽しそうな二人を、使用人たちは微笑ましそうに見守っていた。オーウェンなど、長く仕えてきたバルドヴィーノの幸せそうな姿を見て、度々目を潤ませていた。


後ほど会う約束をして、それぞれの部屋に向かおうとしていると、そこに門を警備していた兵が急いでやってきた。


「閣下!大変です!!」

「何事だ?」

「と、砦から急ぎの伝令です!魔の森から、大型の魔物が現れたと!!」

「何だと!?」


周りに一気に緊張感が走った。バルドヴィーノは、努めて冷静に指示を出した。


「直ちに砦に向かう。馬を用意しろ!ジュリアン、お前は準備をして、後から来い!」

「閣下!?しかし…!!」

「大丈夫だ。砦は強化されているし、生半可な魔物は入ってこれねーはずだ。俺が先に行って指揮を執る」

「…かしこまりました。私も準備ができ次第、すぐに向かいます!」

「おう、任せたぜ」


ジュリアンはバルドヴィーノに一礼すると、早足で準備に向かった。それを見送ると、バルドヴィーノは強張った顔を緩めて、ローザマリアの方を向いた。


「…そういうわけだから、ローザ。悪いが今日の茶会は無理そうだ」

「そ、そんなことより…、バルド様、大丈夫ですか…?」

「心配するな。ファーウェルの兵は、そんなやわじゃねーよ。すぐ戻ってくるから、待っててくれ」

「…はい。ご武運を」


領主として、領地を守るためにも、バルドヴィーノは前線に向かうしかない。何よりも領地のことを一番に考えている、バルドヴィーノの思いを知っているローザマリアに、それを止めることなどできはしない。ただ待っていることしかできない自分が、ひどくもどかしいが、今はただバルドヴィーノを信じ、自分ができることを成すしかないのだ。


そう覚悟を決めた目で見つめるローザマリアが、バルドヴィーノはひどく頼もしく思えた。


「やっぱり、ローザは最高だな」

「は…、あの、こんな時に何を…!?」

「絶対帰ってくるから、あとは頼んだぜ?…ローザになら、任せられる」

「…はい。お任せください!」


ローザマリアの返事を聞くと、バルドヴィーノは力強く頷き、そのまま早足で去っていった。

その後ろ姿を名残惜しそうに見つめた後、ローザマリアもやるべきことをするために、動き出したのであった。




それから数日、バルドヴィーノは城に戻ってこなかった。砦からの連絡もなく、ローザマリアは眠れない夜を過ごした。


以前、バルドヴィーノがライン砦で過ごしてた時も、彼の安否や体調を気にしてはいた。しかし、こうして想いが通じ合った今では、あの時ほど落ち着いてなどいられなかった。バルドヴィーノのことを信じていない訳ではないが、それでもふとした時に不安に襲われた。


だが、いずれはこの辺境伯家の妻になる身として、そのような不安を見せないよう、気丈に振る舞いながら、魔物の討伐に必要な物資をかき集めては、ライン砦に送っていた。


あとはただ、淡々と仕事をこなす日々であった。

今までローザマリアが進めてきたものは、ある程度成果を出しているものの、まだまだ途中の段階だ。


作物の収穫量は上々だったが、これからは冬に向けて、さらに畑の整備が必要となってくる。この辺境では、冬でもそこまで気温が下がらないようなので、冬でも育つ野菜を植えてもいいかもしれない。


王太子殿下から注文のあったオーダーメイドのコルデラは、王都で人気になったようで、依頼の手紙が届いている。誰を優先し、どのように進めるのかなど、考えないといけないことはまだまだたくさんあるのだ。


そうして新しい施策に追われるうちに、バルドヴィーノがライン砦に向かってから一週間が経った。


その日の午後、ようやく砦から連絡があった。

オーウェンが急ぎ知らせてくれたそれには、無事討伐が完了したと書かれていた。砦も兵も無事とのことで、バルドヴィーノも近々戻ってくるようだった。


その報告を聞いたローザマリアは、これまでの緊張の糸が切れたかのように、力が抜けて座り込んでしまった。


「ローザマリア様!?」

「だ、大丈夫よ。ちょっと力が抜けただけだから…」


心配そうなラーラに支えられながら、ソファーに座り直したローザマリアは、ふーと長い息を吐いた。


「無事で良かったわ」

「はい。本当にようございました。またあの時のようになるのではと、心配しておりましたが…。やはり閣下は素晴らしいお方です」

「…あの時って、前にもこんなことが?」

「はい。…普段襲ってくるのは、小型の魔物ばかりなのですが、今回のように、稀に大型の魔物が発生するのです。…先代の辺境伯様は、前回現れた大型の魔物との戦いで、そのまま…」

「そう…。辛いことを話させてしまって、ごめんなさいね、オーウェン」

「いいえ。いずれ、ローザマリア様にもお話ししなければと思っておりましたので…。とりあえず、閣下も無事お戻りになるようですし、ローザマリア様もゆっくりなさってくださいませ。ずっと気を張っていらっしゃって、お疲れでしょう?」

「そうですよ、ローザマリア様!今日はゆっくりしてください!」

「…ええ、そうするわ。ありがとう」


働き詰めで顔色も良くなかったローザマリアは、有無を言わさず、ラーラとオーウェンによって部屋まで連行されるのであった。

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