表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/38

幕間 ローランド視点

「じゃあリタ。あとは頼んだぞ。ローザマリア様をよろしくな」

「ええ、分かってるわ。父さんも、道中気をつけて」

「ああ」


リタと別れたローランドは、辺境で大量に仕入れた商品を乗せて、馬車に乗り込んだ。



ローランド商会は、彼が一代で築き上げたものである。王都近くの平民であったローランドは、王都でも有名な商会に勤め、その才能を高く評価された。そこから独立し、自らの名を冠する商会を立ち上げたのであった。道のりは順風満帆という訳ではなかったが、着々と支店を増やして商会を大きくし、今では王都にも商会を構える、有数な商人として名を馳せていた。


ローザマリアに会ったのは、アーヴァイン領に新しく支店を作ろうとした時だった。


アーヴァイン領は代々、侯爵家が懇意にする領地管理人によって管理されている。元々土壌の良い豊かな土地で、何もしなくとも作物は実るため、管理人の仕事はほとんどない。商会もずっと同じところに注文しており、それで何の問題もなかった。そんなところに、新しく参入しようとやってきたローランドは、商会と領地管理人の目に付いたのであった。


ローランドが気に入らない彼らは、濡れ衣を着せ、無理やり領地から追い出そうとした。何も悪いことなどしていないローランドがそれに抗おうとすると、なんとその管理人は、商会ごと潰そうとしたのだ。たかが領地管理人にそのような力はなくとも、侯爵の耳に入ればどうなるか分かったものではない。今や王都に名を馳せるローランドであれど、侯爵家の権力を使われでもしたら、手の打ちようもない。


それを庇ってくれたのが、ローザマリアであった。たまたまその場に居合わせたローザマリアは、おもむろに帳簿を出してきて管理人の間違いを指摘し、ローランドの濡れ衣を晴らしてくれたのだ。その時のローザマリアは、まだ10歳という若さであったというのにだ。


この人は、いずれ何かを成し遂げる。長年の経験から、ローランドの商人の勘がそう囁いた。その直感を信じたローランドは、ローザマリアの為すことをずっと近くで見てきたのだ。今はまだ当主である侯爵の力が強いが、ローザマリアが跡を継いだ後は、きっと侯爵領は変わっていく。そう思っていたのだが、何がどうなったのか、ローザマリアは侯爵領を追い出され、辺境伯に嫁ぐことになってしまった。


普通に考えれば、あれほどの若さで帳簿を読み解き、領地運営のなんたるかを把握した上で、大の大人を窘め、諭したローザマリアを追い出すなどありえないことであった。とはいえ、侯爵家ではあまり良い待遇を受けていないことは、ローランドもなんとなく悟っていた。しかしまさか、領地の荷物も何も持たせずに、辺境へ追いやるなどとは思いもしなかった。実の親がする所業ではない。


突然の婚約の噂を聞いて、心配でそわそわとしていたところに、ローザマリアから手紙が送られてきた。手紙を読んだローランドは、急いで侯爵の屋敷に向かった。管理人がいない時間帯を狙い、ローザマリアの手紙を突きつけ、半ば強引ではあったものの、ローザマリアの荷物を全て持ち出すことに成功したのである。屋敷の侍女の中には、ローザマリアの待遇で色々と思うところがあった者もいたようで、何人かは協力してくれた。


おそらく侯爵は、ローザマリアの荷物のために、わざわざ人を割いたりするのが嫌なだけだったのだろう。なぜならローランドが屋敷を訪ねた時、侍女や使用人たちは何も知らされておらず、ローザマリアの婚約のことも知らなかったからだ。あまりにも、ローザマリアのこと、領地のことに無関心であると言わざるを得ない。


そうして荷物を運び出し、帰ろうとしたところで、フォード家の使者が、ローザマリア宛の手紙を持って現れたのである。領地の屋敷に手紙を送ってくるということは、おそらくフォード家も、詳細な事情を知らされていないのだろう。そう考えたローランドは、使者と一緒にフォード伯爵令嬢に面会し、自身が知っている情報を説明し、新たな手紙を託されたのであった。


様々な根回しと、7日間という長旅の末に、ようやく会えたローザマリアは、侯爵領にいた時とは打って変わってイキイキとした表情をしていた。


これまで領地のために様々な策を思いつき、実施しようとしても、ローザマリアの意見は通らず、領地管理人が全てを牛耳っていた。秘められたその能力は、発揮できる機会を失っていたのだ。しかしそれが今、ようやく思う存分発揮されようとしているのを、ローランドは感じた。



馬車に揺られながら、ローランドは窓の外を見る。辺りには、荒れ果てた土地しか見えなかった。


ーーやはり、侯爵領から撤退して正解だったな。おそらく、侯爵や領地管理人は気づいていないが、ローザマリア様のおかげで危機を免れたことは、一度や二度ではないはずだ。それに気づかず、ああして追い出すなど、バカな真似をしたものだ。これまでは、何もせずとも豊かで恵まれた土地だったが、逆に何かあれば、あの土地は終わるだろうな…。


ガタガタと揺れる窓から見える景色は、相変わらず土色が続いていた。しかし今度来た時は、今とは全く違う景色が見えるだろう。ローランドの商人の勘がそう告げていた。


ーーリタもまだまだ成長するだろうし、次にこの地に来るのが楽しみだな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ