表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/12

第十話 野球場の戦い:数学者の来訪【28番】

前話の内容:ロシアの数学者ネフロフは、背番号28を持つ能力者。彼は、”神”から与えられた能力を反逆のために使った【38番】を許せなかった。その存在を削除するため、彼は日本へ向かった。

深夜0時。例の野球場に、俺、朝比奈、そして──小宮はいた。


これで3日連続になる、夜の秘密特訓。


「もっと速く! 落とし穴、大きく!」


朝比奈真央はマウンドでメガホン片手に叫んでいた。完全に体育会系の監督だ。どこで手に入れたんだ、それ。


小宮は外野フェンスにもたれて、タブレットを操作中。俺の“巨大化維持時間”や“落とし穴の直径”を記録してくれている。


彼の口から出るのは、相変わらずのオカルト寄りの推測と、世界の異常情報。


--------


この3日間で、世界はさらに狂っていた。


通称「バックナンバーズ」と呼ばれる巨人たちは、毎日のようにどこかで現れていた。また、「バックナンバーズ」と関連する証拠はないものの、幾多の異常現象が報告されていた。小宮は、信憑性がありそうなものを逐一整理して、俺たちに伝えてくれる。


---


◆「カリブ海の巨人」──【29番】

毎日、同じ時間に姿を現し、船を沈めていく。

現地では“気象レーダーに映らない台風”が頻発し、「海神の怒り」とまで呼ばれている。


---


◆「ブラジルのカメレオン型生物」──【32番】

出現場所を日々変えながら、高層ビルを焼き尽くす。

ランダムな出現に、警察も軍も対処不能。非常事態宣言が続いている。


---


◆「ナイロビの時間逆行」──

ある地域の時間だけが“11分6秒”巻き戻ったという報告。

亡くなった少年が「戻ってきた」と語る家族の映像が、海外ニュースに取り上げられている。


---


◆「ロシアの村全滅」──

モスクワ近郊の小村。全住民が“痕跡を残さず”消えた。


---


◆「日本の高級温泉旅館」──

宿泊客全員の宿泊日の記憶が“消えた”。

当初はフェイク扱いだったが、SNSに投稿された写真すら消えていたことが確認され、噂が現実味を帯び始めている。


---


「これはまだ序章に過ぎないかも」


彼の言葉が冗談に聞こえないのは、たぶん──俺たちがすでに、“その渦中”に足を踏み入れてるからだ。


「次に来るのは、自分たちの住む町かもしれない」──世界全体に不穏な空気が蔓延している。


--------


俺は特訓を続けていた。2人が本気だから、俺だけ気を抜くわけにもいかない。ただ“巨大化”できればいいわけじゃない。問題は、変身後の持続時間と理性の維持だ。


心拍数が130〜135を超えると、背中が熱くなり、番号が発光する。

そして、あの不気味な声──『チキュウジンヲ……センメツセヨ』──が脳内に響き、そこで抵抗しなければ意識が一瞬飛び込び、俺は巨大化している。


だが──

巨大化が進むにつれ、意識の奥底で何かが剥がれ落ちていく。

“自分”という輪郭が、ぼやけるのだ。


まさしく、今もそうだった。


「ヒロト!腕!!」


朝比奈の声が、遠くで炸裂する。


はっとして顔を下げると、俺の腕が、小宮の頭上をすっぽりと覆っていた。

その腕は、まるで──誰かの命令で動いたかのように。


(……っ、やばい)


全力で意識にブレーキをかけた。


次の瞬間、俺の巨大な体がふわりと沈み、崩れるように地面に戻っていく。

そして気づけば、俺はグラウンドの上に仰向けに倒れていた。


「持続時間、6分12秒。……最長記録だな」


小宮がそっと俺の肩を叩いた。驚くほど冷静な声。けど、その指先はわずかに震えていた。


「今日はここまでね。もう無理させられないわ」


朝比奈がそう言って立ち上がる。すでに手にはトンボ。巨人の足跡は消しておかないとマズい。


「ヒロトは休んでて。さっ、小宮くんやるよ」


小宮も黙って立ち上がる。

素直に従うところを見ると──この2人、なんだかんだ息が合ってきた気がする。


土を均す朝比奈の背中と、それに続く小宮の姿をぼんやりと見ながら、

俺は、自分の中の“何か”が、少しずつ変わってきているのを感じていた。


--------


俺は息を整えて、立ち上がろうとした──その時だった。


「……な、なにこれ……」

小宮が胸を押さえ、顔をしかめる。


「動悸がするわ……速い……」

朝比奈も地面に手をついてしゃがみ込む。


そして──俺も。

心臓が、ドクンドクンと跳ね始めた。


背中が、灼けるように熱い。


(……まさか)


『チキュウジンヲ……センメツセヨ』


あの声が、──聞こえてきた。


次の瞬間。

意識が真っ白になり──気づけば、俺は、巨大化していた。


「ヒロト君っ……!」


「マジかよ!さっき変身してから10分も経ってないぞ!」


2人の声は、俺の足元で遠く小さく響いている。


その時だった。

風が──止まった。


虫の声が消えた。世界が、密封されたような沈黙に包まれる。四方八方、周囲は土の壁。


俺が上空を見上げると、星も、月も──夜空そのものが“存在していない”。。


「いや……空が……遠い……?」


「おかしい……おかしいぞこれ……」

小宮が震える声を漏らした。


「あそこ……」


朝比奈が指差した先、──バックスクリーンに黒いスーツの男が立っていた。銀縁の眼鏡。冷たく整った顔立ち。外交官のような姿──だが、目に“人の温度”はなかった。


「……ようやく、見つけた。──君が38番か。そして……この2人は、観客かね?」


「おまえ、誰だ」


「私はアレクセイ・ネフロフ。“数を再定義する”者だ。」


「数を再定義?この場所をどうしたんだ?」


小宮が引きつった顔で言った。


「このスタジアムの高度を、海抜マイナス100メートルに設定した。どうだい? 周りから見えない。闘技場のようで合理的だろう」


男は俺を見上げて、笑った。


「S市の全住人──約2万8000人。 彼ら全員の心拍数を“150”に揃えた。反応して巨大化したのは……君、ただ一人だ」


「どうやってここに?」と朝比奈が声を上げる。


男は一歩進んで、こう言った。


「このスタジアムと私との距離をゼロにした。簡単な計算だ」


「…………」


小宮と朝比奈が、無言で目を見合わせる。


「合理性を乱すノイズ。この世界に、君の存在理由はない。」


男は冷たく笑った。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたなら、とても嬉しいです。


ブックマークやレビューを頂けると、大きな励みになります。


第十一話は、4/13(日) 16時頃に更新予定ですので、よければまた覗きにきてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ