用意された術式は
茶の席で、シアはディアナから誘いを受けた。私の部屋で少し話せないか、と。シアはもちろん頷いて、ディアナについて行った。
「さて、マナ石が無事手元に届いたからね。製作に移る前に、君にきちんと機能の説明をしておきたいんだ」
「マナ石……」
向かい合って席につき、話し始めたディアナにシアは思わず物言いたげな視線を送る。ディアナは爽やかな笑顔を浮かべて、あれはマナ石だよ、と断言した。シアは、えへへ……マナ石……とあいまいな笑顔を浮かべ、説明の続きを待つ。
「私たちは、君を十全に守れるよう必要な機能を持たせたつもりだ。だが、君にとっては不便や不快感があるかもしれない。無理強いはしたくないからね。きちんと説明し、双方納得の上製作に取りかかりたいと考えている」
「はい」
不快感……とシアは真面目な顔つきで頷いた。ただ『頑丈になる』くらいのつもりでいたのだ。真剣な姿勢で話を聞こうとするシアに、ディアナは説明を始める。
「まず、知っての通り『防護』の機能。君の身体は術式で守られ、傷付かない。フィルディードが危害を加えようとでもしない限り、ほぼすべての外傷から君の肉体は守られるだろう。まあ、フィルディードが君を害することはないのだから、すべてと言っても過言ではない」
「はい」
「ここからが本題だが、対となるフィルディードのピアスに、君のピアスの位置を追跡する機能を持たせる予定だ。……君の位置は、常にフィルディードに筒抜けとなる」
「ええと、はい」
深刻そうなディアナの口ぶりに、シアはきょとんとディアナを見つめる。ディアナは、「言いたいことは分かるが、まずは一通り聞いて欲しい……」と難しそうな顔で首を振った。
「それから最後に、双方に『引き寄せる』機能だ。魔石に意識を向けながら名を呼ぶと、相手を引き寄せることができる。呼ばれた方向に向かって身体が引き寄せられるイメージをしてもらえるといい。あるいは、腰に括り付けられた縄が引っ張られるような……と言うところか。フィルディードなんて呼べば即座に現れるだろう」
奴は足が速いからな、と頷くディアナに、シアは中空を見つめて、はやい……と呟いた。『足が速い』で済ませていいのだろうか。確かに足で走っているのだから、言葉としてはあっている。でもそんな単純な言葉で済ませていいものだっただろうか、とシアは悩ましげな表情を浮かべる。ディアナも自分の言葉に疑問を感じたように、首を傾げてからこほんと咳払いをした。
「……まあ、機能の説明は以上だ。どうだろうか、シア。不満でも、何でもいい。思うまま、君の意見を聞かせてくれ」
「あ、はい、ええと」
真剣な顔でシアに問いかけるディアナに顔を向けて、シアは素直な気持ちを口に出した。
「便利そうですね?」
「ンンッ」
予想外の反応に、ディアナは言葉を詰まらせ喉を鳴らす。とまどうシアと顔を見合わせ、ディアナは困惑しながら問いかけた。
「嫌なら素直に言ってくれて構わないんだぞ。我慢することはない。君に負担を強いるつもりはないんだ」
「はい、わかりました……!」
シアはディアナの言葉に頷き、真剣に考えた。怪我をしなくなる、位置が伝わる、引き寄せ合える……シアは目を閉じて考え込んでから、ディアナを見つめて首を傾げた。
「べ……便利そうですね……?」
「ええ?」
ディアナは困惑の声を上げる。そしてたまらずといったように手を落ち着きなく動かして、シアに再び問いかけた。
「いや、いいのか? どこにいるか、常に把握されてしまうんだぞ? それに呼ばれたら引き寄せられてしまうんだ」
「はあ……」
シアはピンとこない顔つきで、あいまいに頷く。夫婦が互いにどこにいるか常に把握している、ということは、シアにとって当たり前のことだったから。シアの母は病弱で、父が主治医だったのだ。ふたりは一日の大半を共に過ごしていたし、手を握り背中を支え、いつも寄り添いあっていた。離れている時間も、互いにどこにいるか知っているのが当たり前だったのだ。シアにとって、それが自然な夫婦のあり方だった。まあそれだけでなく、顔見知りしかいない小さな村なんて、誰がどこにいるか聞けばすぐにわかるのが当然で、誰かを懸命に探さなければならないときなんて、それこそ森で行方不明者が出たときくらいのもので……位置把握、便利でとてもいいのでは……とシアは力強く頷いた。
「位置が伝わるなんて、すごく便利だと思います。引き寄せるのは……そりゃあ、お風呂やトイレの最中にいたずらで呼ばれたら困りますけれど……フィーくんはそんないたずらしないですし」
「そ……そうか」
私も呼ぶときは気をつけなきゃ……! とハッと顔を上げるシアに、ディアナはまごつきながら相づちを打った。距離感が違う、と困惑し、しばらく悩んで……ディアナは「よし!」と大きな声を出す。
「君が良いなら良いだろう! もはや憂いはない。このまま製作に取り掛かるとしようか!」
力強い宣言に、シアは「よろしくお願いします」と頭を下げた。
その晩、夕食にはご馳走が並んだ。アメリディアがシアとの約束通りに、おかえりなさいのご馳走を手配してくれたのだ。
とはいっても、シアが心から楽しめるようにと、ずらりと並べられた料理を皆でわいわい取り分け食べる形式は変わらなかった。シアの皿には、これも食べなさい、これも美味いぞ、と様々な料理が取り分けられる。
皆で乾杯をして、目を見張るほどの絶品に舌鼓を打つ。見るのも初めてだった大きな海老は、殻が驚くほど硬くて、身は強い弾力をもって口の中で弾けるよう。噛めば噛むほど溢れ出る旨みと甘みに、大蒜やハーブの香りが広がって、シアは思わず歓声を上げた。
そんなに気に入ってくれたのなら、次は貝や海の魚と一緒に煮たスープを出しましょうか、とアメリディアは笑顔を浮かべる。シアはアメリディアに笑顔を向けて、「うれしいです!」と明るい声を返した。








