フィルディードのお土産(後)
「そこに置いてくれ。太い方を下に、固定するから」
レンカの作業室に古代龍の角が運び込まれる。フィルディードは背から角を下ろし縄を解いて、レンカが示した固定台に角を置いた。レンカが固定台の万力を締め、角が動かないよう固定する。
固定台の周囲には計器類、天井まで届くほど長い支柱に据えられた、魔力圧で高さが調整できる椅子。床に描かれたたくさんの陣と、階段がついた大型の講壇のようなもの、それから作業台。それなりの広さがある部屋には、魔石を作るために必要なものがみっちりと詰め込まれていた。
角の固定が終わり、レンカはふうと息をはいて立ち上がる。フィルディードと共に角を支えていたディアナが手を離し、うんと頷いた。
「これで製作に移れるな」
「ああ。茶を飲んだらさっそく取り掛かるか?」
「いや、その前にシアに説明をしよう」
順調に進んでいる、と満足そうに角を眺めるふたりに向かって、フィルディードが口を開いた。
「これも貰ってきた」
フィルディードは肩に掛けていた鞄から無造作に何か取り出し、作業台に置く。何だ、と作業台に顔を向けたレンカはヒッと息をのんだ。
作業台に何気なく置かれたものは、淡く光を湛えた純白の角。神聖さを感じさせるそれは指を広げたくらいの長さで断ち切られ、作業台に転がっている。ディアナが床に膝をついて両手で顔を覆う。レンカはわなわなと震えながら、思い切り叫んだ。
「おッ前、これ一角獣の角じゃねえか!!!! 何してきてんだよ!!」
「シアのピアスの土台を作るのに、これ以上の素材はないと思った」
「そっ……りゃあなあ!?」
命に関わる深手であろうがたちまちに癒す神秘の角。角そのものを素材にすれば、その力をピアスに宿せるだろう。確かにこれ以上の素材はないが!? と思いながら、レンカは大きく深呼吸をして、恐ろしいものを見るような目つきで角を眺めた。
「どうやって折ってきたんだよこれ……騒ぎにならなかったか?」
「森に入ってすぐ、一角獣に取り囲まれて」
「ああ、古代龍の角背負ってたんじゃなあ……」
大はしゃぎだったろ、としみじみ呟くレンカに、フィルディードはとても嬉しそうだった、と頷く。それで、とレンカに促され、フィルディードは話を続けた。
「一角獣の角も欲しい、と言ったら、『折れるものなら構わないが』と角を差し出されたんだ。だから折らせてもらったけれど……折った後に少し騒ぎになってしまった」
「お前それはさあ! 『折れるものなら折ってみろ』っていう煽りだよ!! あいつら高慢なんだからさあ!!」
真に受けて折ってくるやつがあるか! とレンカは身震いする。床に膝をついていたディアナは、こめかみを押さえふらふらと立ち上がった。
「ま、まあ、もう言っても今更だ。……それで、どんな騒ぎになった」
「一角獣を泣かせてしまった……泣いている一角獣を大勢で取り囲み、マナを譲り合っていた。最終的には角は形を取り戻して、『もういいから行け』と言われて帰ってきたんだ」
成体の一角獣が仲間からマナを譲られるなど、創始以来の珍事だった。レンカとディアナはそろって深いため息をつく。どうすればよかっただろうか……と少ししょんぼりするフィルディードに、レンカは適当に手を振って投げやりにこたえた。
「いい、いい。もう見た目が元に戻ったならそれでいいだろ」
「そもそもフィルディードを煽る方が悪いんだ。言葉をまっすぐ捉えるに決まっているんだから」
過剰な自信を振りかざした一角獣の自業自得だ、とディアナも首を振る。形は戻っても、硬度は落ちているのだろうなあ、とふたりはまた揃って大きなため息をつき、げんなりとした目つきで作業台の上にある角を眺めた。
「さて……どうやって加工するんだ? これ」
「追々考えるか……」
まずは魔石から着手しよう、と呟いて、ディアナは眉間を揉むのだった。
§
「おいしい……!」
平和そのものの応接間に、シアの明るい声が響く。テーブルの上に用意されたのは、香りも味わいも穏やかで癖のない紅茶と、盛り皿にたっぷりと盛られた碧晶珠。
一粒手に取って、硬い皮をぷつりと剥けば、中からは虹色の光沢を持つ白い果肉が現れた。しっとりと濡れたような果肉は、口に含めばぷるんと弾け、芳醇な香りと甘さが口に広がる。合わせられた紅茶で口を潤せば、こころよい渋みが果物の甘さをいっそう引き立てた。
「フィーくん、これすっごくおいしい!」
「喜んでもらえてよかったです」
フィルディードは嬉しそうに微笑んで、喜んで碧晶珠を食べるシアを見つめた。
碧晶珠の実の中からは大きな一粒の種が出てきて、シアは口からそっと種を出した後、「庭に植えられるかな……?」と呟いた。
マナが濃い場所なら育つかもしれない、雪や寒さには弱い、なんて話しながら、アメリディアは使用人に新しいナプキンを持ってくるよう指示を出す。「とりあえず植えてみればいいじゃない」と差し出されたナプキンに種を包み、シアは笑顔で頷いた。
和やかにテーブルを囲み、皆めいめいに碧晶珠に手を伸ばし、舌鼓を打つ。
碧晶珠をつまみ、ディアナは「今は国の味が心に染みるな……」としみじみ呟いていた。
「角無し(嘲笑)」「我が角を宿した聖剣で容易く折られた自慢のお硬い角(嘲笑)」という擦り合いネタが増えました。








