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スティール

 家族や仲間を見捨てようとしたスラングは、セテたちに見捨てられて愕然とする。


 自分は助かるべきと妄想したスラングは、愕然としたままセテたちを見上げた。


「それに、お前の言う安全ってなんだよ。見てのとおり、暴走した覚醒者を制御するための魔法具は壊れたぜ? それなのにお前みたいなお荷物を背負ってどうするよ。ああ、それとも三人の覚醒者が襲ってきた時、お前を放り投げて囮にするのもいいか?」


「や、めろ………」


「なんでだ? お前さ、覚醒者のケアもしないで、適当に放り出して、賭けみたいな覚醒を促すんだろ? 助けを求めた子供たちになんとも思わないだろ? 死んだら外れ。暴走すればそれまで。そんなんで、よくもまぁ………()()()を顕現させようだなんて考えたもんだよ。でもま、所詮は紛い物なんだけどな。俺が与えるのもそれっぽいものを与えてるだけ。………でも俺のは違う。本物のコードだ。手に入れたのは偶然なんだけどさ」


「………コード?」


「あれ、知らない? じゃ、マバドのおっさんに聞いてみな。聞ける時間があればだけど」


「………貴様、なにを言っている? 俺ですら知らない情報を、なぜ知っている」


 スラングには追放者としての矜持があった。セテたちからすれば唾棄すべき悪意にも等しいが。


 国に遣える優秀な父親の後継者。


 しかしその実態は、追放者を管理する組織が作り上げたヒエラルキーの下層に位置し、セテたち同様いつでも切り捨てられる存在であった。


 国の維持のためなんていう上等な文句で、国民を食い物にしようとしているアストラル国王の舵取りにはほとほと辟易するばかりだ。


 その末に、こんなモンスターのような精神をする親子が生まれてしまう。ある意味でも、マバドもスラングもまた、時代の被害者なのかもしれない。同情はしないが。


 隣国とは異なり、英雄のいない国。それがアストラル。二十年前の戦争で被った被害を復活させる危険な国政。セテたちも呆れ返るばかりだ。もう見限ってもいいのかもしれない。


「答えろ! ………貴様ら、いったいなにを知っている!? いや………何者なんだ」


「知ってどうするんだか。………でもまぁ、いいか。どうやら向こうさんたちも気付いたみたいだぜ? お前がガキみたくギャーギャーと騒ぐから、位置を知られちまった」


「イッ………!?」


 喚き散らすスラングが息を呑む。氷で覆われた通路でゴゴゴッと地中を掘削する音があちこちから反響したからだ。


「あっちから来るならいいよ。迎撃するだけだ。お前の身の保証はしないから、これは冥土の土産のつもりで聞いていきな。俺たちのすべてを」


 セテは周囲を見渡した。手を振って、ドレスを着用したサラをスムたちに合流させ、団結してロトムを守るよう指示を送る。距離を取ったところに四人が密集した。


 セテは氷の通路を見ながら、スラングに語った。


「マバドのおっさんは、今でこそ俺やお前の統括みたいな立場にいるけどさ。その昔は追放者だった。………ってのは知ってるか?」


「………知っている。優秀な追放者で、最後に覚醒を促した少年こそ傑作だったと、今でも酒を飲みながら語っている」


「その最後の覚醒者、俺なんだわ」


「………なん、だと」


 スラングはこれも知らなかった。当然といえば当然だ。


 セテはマバドの実験の最高傑作にして、憎悪の的だった。マバドの汚点と称してもいい。醜聞をわざわざ息子に言い聞かせたくもない。


「なにが、あった?」


「マバドのおっさんは、当時………百人くらいの実験の被験者を集めて、こういうダンジョンに放り込んでは試練を与えた。やってることはまぁ、お前のと基本的には同じだけど、それを煮詰めて百倍の濃度にした感じかな。被験者同士の殺し合いもしたっけ。俺はマバドのおっさんに騙されて誘拐されて、百人と殺し合いをしたわけだ。あれは酷かったなぁ。毎秒、人間らしさを失って、どっちが化け物なのかわからなくなる。で、最後に生き残った俺に力が宿った。禁術中の禁術さ。結果的にコードとかいうのが宿った。でも………それに釣り合うものがなかった」


「なにがだ」


「犠牲って意味かな。人間らしさを失った俺は、暴走して………マバドのおっさんが率いた仲間を惨殺した。酷いもんだったぜ。なんつったって、同じ実験に投入された同年代の被験者の奴らまで皆殺しだ。………サラたちが間に合わなければ、マバドのおっさんまで殺してた。まぁ俺じゃなくてサラたちがマバドのおっさんを殺しに行こうとしてたくらいだし。今さらだけど、ブチ切れたサラたちを相手に、よく五体満足で逃げ帰れたよなぁ。このおっさん。今度こそ天誅食らったみたいなザマだけどさ」


「そこまで殺しておいて、無罪放免だと!?」


「いや………その実験、事件そのものが抹消されたんだ。無かったことにされた。だから俺の大量殺人もなかったことになった。不可能だと思うか? 残念。あるんだなぁ、これが。なんつったって、それを強行したのがアストラル国王陛下だからな。ランドスペル辺りに、禁術をほいほいと使って覚醒を促しましたなんて知られたら、アストラルは終わりだ。緘口令ってやつだな。で、マバドのおっさんはその命令に従う代わりに、禁術を比較的簡易的にして、低コストの能力者を増産する計画に着手した。俺は大量虐殺の罪を帳消しになる代わりに、マバドのおっさんの命令に従って、こうして追放者やってるってわけ」


「そんな、馬鹿な………」


「お前が散々馬鹿にしてくれた奴こそ、お前の自慢のパパの最高傑作ってわけ。でもいい加減飽きた。何度も何度も協力してさ。追放者も辛い職だし、義賊ごっこもそろそろ限界だったんだ。これを機にやめることにするわ。恩も恨みも返しただろ」


「は?」


「どこか、俺たちのことを誰も知らない土地………ああ、そうだ。ランドスペル国がいい。亡命ってわけでもないけどさ。日銭を稼ぎながら粛々とやろうかな。人間の人間らしい生活ってやつをさ」


 生い立ちから未来の目標を語り終えたセテは、ついに前方に躍り出る。


「お前は………好きにしな。パパを助けるもよし、見殺しにするもよし。………ああそれと、俺たちを追いかけようとするのはおすすめしない。このアストラルが何十年とかけて秘密裏に実行してきた禁術を、ランドスペル国に密告しちゃうかもしれないしなぁ」


「………追わなければ?」


「なにも起きない。ランドスペルに従属するつもりもないし。お互いに関与しなければ、円満に終われるかもしれない」


「………わかった。お前たちはここで死んだことにすれば、いいのだな?」


「ものわかりがいいじゃねぇか。よし。交渉成立。そういうことならお前をここから出してやるよ。ついでにそこで伸びてるパパもな。アストラルの重鎮どもに、きちっと報告してもらわねぇと困るしよ」


 これが縁切りになるなら上等だ。とセテはいつになく張り切る。嫌気がさしていた職業から、やっと逃げて新天地に赴く決意とともに、ジャケットの袖を捲り上げた。


「マバドのおっさんは、俺の能力をどうにかしてお前に移したいって画策してたみたいだけど、はっきり言っておく。こんな能力得ても、大したことにはならねぇよ」


「なにを言っている?」


「なんでもねぇ。それよりマバドのおっさんを抱えてな。………来るぞ!」


 セテは氷で覆われた通路に、うっすらとだが三つの影があることに気付く。次の瞬間、分厚い氷を割ってふたりの少年と、ひとりの少女が胡乱な目をして躍り出た。


「俺はもっと酷い顔をしてたんだろうな。同情するよ。今、助けてやるからな。お前たちはこれ以上苦しむことはないんだ」


 セテはゆっくりと歩き出す。スラングは腰を抜かしてマバドを抱えつつ後退る。


 虚空を泳ぐセテの右手が、うっすらとだが光を帯びた。




「コード:エス、発動。第1段階解放。スティール!」




 三人がセテを獲物と認識し、襲いかかる。


 しかし所詮は素人に獣の魂が宿った程度だ。熊のような大型の動物ならまだしも、子供の身体能力なら身に余る凶器を携えたほどなら、セテは何度か会敵し、鎮圧した。


 三人が各々の能力を発動する寸前、セテは三人が視認するよりも速く移動。反射的にセテを追うべく視線を動かす時間さえ許さない。


 セテは三人の後頭部に右手を当て、光とともになにかを引き抜いた。次いで、腕輪も取り外していく。


 三人が力なく倒れる。両腕を広げて、受け止めた。


「制圧完了。コードとも呼べない粗悪な能力を移植しやがって。こんなんじゃ、アストラルの未来は暗いままだぜ。スラング」



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