31.聡美さんの餃子(1)
それは、諒が私んちに来て寛いでたときのことでした。
Cucumberで軽くひっかけて、店長の久さんにスペシャルお持ち帰り弁当(イタリアンちらしずし!海老とズッキーニとトマト、黒オリーブのお寿司でしたよ!)をもらったのでそれを晩ごはんにいただいて、食後にのんびりゲーム(今ごろドラクエ5とかやってるw)なぞプレイしていましたところ。
LINEの着信音がポキュッ♪と鳴りましたんです。
「諒のスマホじゃない?」
「ん。なあこれ、もう少し装備揃えたほうがいいかな? 武器屋ってどこにあったっけ?」
とか、ゲームに気を取られながらスマホをチェックした。ら。
「えっ!!」
驚きの声。思わず立ち上がらんばかりに驚愕し、スマホの画面を見据える諒。
「どうしたの?」
「餃子だ」
…………。返事になってねえな。どうしちゃったんだ、諒さんよ。
「母さんが餃子つくるって」
「……へえ?」
諒の物言いは、戦況を勘案する戦国武将のようで、餃子がどうしてそこまで由々しい事物として扱われるのか皆目わからん。
なんだよー。説明しろよー。
聡美さんの主張によると「餃子は量よ!」とのことで、高橋家では「店か!」というくらい大量につくるのだそうです。
LINEの事前通告は「各自、幾つ食べるか申告せよ」という通達なのでした。
もちろん、諒は私にも聞いてきて、なんだかよくわからずに、
「ん、んー? 10コくらいかな?」
と応えると、わかってねえな、という顔をされました。
その他の回答例は、以下です。
博至:水15、焼5
圭:水28、焼6
諒:水22、焼8
修:水30、焼10
聡美:水6 焼0
水、というのは水餃子、焼は焼き餃子のこと。
……あー、確かに、水餃子なら結構いけちゃうかな。しかしそんなに食うのか。
基本的には水餃子なんだけれど、焼きも食べたくなるので、両方つくるんだそうです。
そして、その他のお名前もお見かけしましたんですが。
凪沙:水20、焼12
直美:生60(持ち帰り)
凪沙ちゃんは、フルネームを坂井凪沙ちゃん、とおっしゃって、3兄弟の幼馴染み、修くんの彼女です。私と同じくらい高橋家によく遊びに来てる。
へー。凪沙ちゃんも結構食べるんだ。
川藤直美さんは、聡美さんのお姉さんで、3兄弟からは伯母に当たる方だそうな。どうやら火を通していない生餃子60コをもらいに来るらしい。
普段の私の食事量と好みから勘案するに、諒の予想では
「そうだなー、あい子なら水20ちょい、焼5はいくんじゃないかな」
だそうで、
あい子:水23、焼6
ということになりました。
計算すると、予測数値は
水144、焼47、生60、合わせて251コ!
「それでも足りないと困るし、余裕分も含めて275コだな」
275コ!!
要するに25枚入りの餃子の皮、11パックぶん=275コ、という計算なんですね。ぴったり300コじゃないところが逆にリアリティ。
行きつけのスーパーに餃子の皮やら豚挽肉2700g(肩ロースとバラのミックス。割合を指定して挽いといてもらう)やらを注文しておくのは炊事部長・諒のお役目。
餃子デー前日に、肉餡の仕込みをします。
普段使ってるボウルとかじゃ全然ん足りなくて、寸胴鍋いっぱいのぱんぱんにつくるんだって。それをひと晩寝かしておくの。
マジで店かよ……。
「いっぱいつくったほうがおいしいし、いっぱい食べるんだもん」
とのことですが、うん。まあ。そうですね……(程度ってものがあるんじゃないかと思うんですが黙っといてみた)。
聡美さんがつくる、とは言っても、実際作業は兄弟ズ+αです。
私は諒とともに白菜刻み係に任命されました。圭さんはニラを刻み、修くんと凪沙ちゃんが椎茸やネギを刻む。博至さんはショウガをすりおろす係。ニンニクは入りません。
「聡美さんは制作総指揮、って感じなんだね」
「まあそうだね。それと、肉餡の味決めは母さんが最終決定するんだ。これだけは誰も手が出せない」
聡美さんは真剣な表情で調味料の計量をなさっております。
すべての材料を刻み終え、下ごしらえが済んだところで、捏ね作業に入りますよ。
キャンプで使うような大きな平たい鍋をボウル代わりに、最初に挽肉と塩をぶちまけ、兄弟三人がかりでこねます!
「このやろこのやろ!って日頃の鬱憤込めてこねるといいのよ」
……鬱憤て。そんなもん込めないでくださいよ……(呆)。
兄弟ズは楽しそうに「このやろこのやろ!」「アホ師長サボんな」「何がメガバンクだエラそうにうぜえ」「主任ムカつく滅びろ」とか唱えながらこねまくってました。
……ていうか、いいのか君らそれで。いいか。楽しそうだし。
肉が粘って白っぽくなってきたら、調味料を投入。醤油、胡椒、オイスターソース、ごま油、紹興酒、おろし生姜など。調味料が馴染んで肉がゆるんだところに、刻み野菜を投入して、今度はさっくり混ぜます。
肉餡の味見は、少し掬って電子レンジで加熱して食べてみるとよいですよ。
聡美さんの指示で微調整して肉餡の完成。
平たい鍋から深い寸胴鍋に、空気を抜きながら移し、ぎゅうぎゅうに詰め込んで表面をぴったりラップで覆い、鍋ごと冷蔵庫で明日まで寝かせておきます。
「はーやれやれ。すごい分量の作業だったね。こんなの初めて。明日の包み作業が楽しみなようなコワいような」
でも気持ちいいなコレ。大量!どっさり!やったったぜ!な達成感。
「まあね。どうせ面倒な作業なんだから、いっそのこと盛大にやっちまえ!みたいな、ヤケクソなところもあるよな」
諒は苦笑というか呆れ顔というか、微妙にフクザツな面持ちで言う。
「ていうか、そもそもの餃子デーってのが、母さんの嫌がらせデーだから」
「嫌がらせ?」
おいおい。穏やかじゃないぜ。
いったいどういうことなんでしょうかしら?(微妙に語尾がもたついております)




