第六話 商談は
「あったぞアドル、上薬草だ」
「マジすか!?」
上薬草は泉の畔の一角に群生していた。と言ってもそれほど広範囲ではない。しかしまだ成長しきっていない個体を除いても数十本は採取出来そうだ。ただし栽培実検のために根ごと採取するのは五本程度にしておこう。
結果『紅蓮の決死隊』への報酬として五本、ギルド納品用に十本、栽培実検用の五本を含めて二十本を採取して俺たちは王都への帰路に就いた。
「レン君! 無事に帰ってこれたのね!」
冒険者ギルドに着くとジェリカが嬉しそうに迎えてくれた。
「うん、これ納品お願い」
「上薬草十本ね。査定に回しておくわ」
「よろしく」
「それで今日はうちに来られるのよね?」
「もちろん。イートンの肉もあるから今夜は焼き肉にしようよ」
「イートンて別に普通のお肉……もしかしてキパラ大森林の天然モノ!?」
「うん。『紅蓮の決死隊』がごっそり狩ったからお裾分けもらった」
「天然モノって美味しいって聞くけど実は食べたことないの!」
「現地でも食べたけどかなり美味かったよ」
養殖のイートンが特筆するところのない安い肉で手に入りやすいため、天然物を試そうと思ったことすらないそうだ。
彼女の仕事が終わるまでまだ時間があったので、俺はひとまず王都の第一拠点の屋敷から瞬間移動で第二拠点に向かった。わざわざ第一拠点を経由したのは人に見られないためである。
第二拠点の敷地はすでに半分くらいが壁で囲われており、残りはほぼ人目につかない部分のみとなっている。川からの用排水路も完成済みだ。ざっと辺りを見回し人目がないことを確認してから壁をさらに拡張する。間もなく完成するだろう。
こちらに建てる屋敷はそれなりの大きさにするつもりなので、そろそろ人を雇うことも考えなければならない。が、その前に第一拠点の屋敷の使用人だ。そっちには一人で住み込んでもらいたいと思っている。
特に瞬間移動やアイテムボックスやら、俺の秘密を守る上でも奴隷を買うのが一番だろう。奴隷との契約には必ず主人の秘密に対する守秘義務が課せられるからだ。シュロトヘイム王国には歴とした奴隷制度があり、彼らの人権はしっかりと守られていた。
虐待は禁じられているし、衣食住の保証は奴隷を買う上で絶対条件とされている。夜の相手をさせることも可能だがその場合は同意を得るか、最初から愛玩奴隷として売られている者を買わなければならない。
俺は特に夜伽を求めているわけではなく、家の維持管理を任せられればいいと思っている。だからちゃんと働いてくれれば文句はないし多少の給金も出すつもりだ。
日本人なら奴隷という言葉に忌避感を抱く者もいるかも知れないが、俺は彼らが不当に扱われるのでなければあまり気にならない。もちろん不幸な事情で奴隷になるしかなかったなら同情もする。
しかしこの世界では奴隷にならないと生きていけない者もいるらしいし、犯罪を犯して奴隷に落とされるなら自業自得としか言いようがない。ただし奴隷を虐待したり過剰に労働させる主人には嫌悪感を感じるのも事実だ。
王都に戻った俺は早速奴隷商を訪ねてみることにした。この都市にある正規の奴隷商は一つ、グライムスという館だ。さすがにジェリカに聞くわけにはいかなかったので生活ギルドで確認すると、館はカタリーナ・グライムスという女主人が営んでいるとのことだった。
「いらっしゃいませ。当グライムスの館へようこそ。お若いお客様ね。どのような奴隷をお探しかしら?」
「俺を客として扱うのか?」
そう尋ねた理由は、奴隷商を訪れる個人には二種類いるからだ。一つは当然奴隷を買おうとする客。もう一つは自分を買い取ってもらおうという者だ。
これは俺の推測でしかないが、若い者は家がよほどの金持ちでもない限り奴隷を買う余裕なんてないばずである。となればここを訪れる若者は多くが身売り目的ではないだろうか。なのにこの女主人は最初から俺を客として迎え入れた。鑑定眼でも持っているとしか思えない。
「不思議かしら?」
「まあな」
「うふふ。どうぞ、お掛けになって」
俺と女主人がローテーブルを挟んでソファに腰かける。この主人、年齢がまるで読めない。見た目は二十代半ばの若さで、スリムな体にピッタリとした紺一色のチャイナドレスのようなものを着込んでいる。
ただスリットが腰の辺りまであり、足を組むと太ももの付け根まで見えてしまうのだ。しかも穿いてないように見える。日本にいた頃の俺ならどうということはないが、十七歳のこの体には少々刺激が強過ぎた。
薄紫の大きな瞳に同じ色の腰まで届く長い髪。もちろん顔も美形だか笑うと人懐っこい表情になる。全体的に細いのに胸が小振りのメロンほどあり、腰がめちゃくちゃくびれている。ぜひ一度お相手してもらいたいものだ。いかんいかん、今夜はジェリカと約束があった。
お相手してもらえるわけでもないのに、俺は勝手に自己完結させた。猿かよ。
「ひとまず一人購入したい」
「目的は?」
「王都に屋敷を買った。住み込んで維持管理を任せたいと思っている」
「それなら家政婦を雇えばよろしいのでは?」
「人には明かせない秘密があってね」
「どのような秘密かしら?」
「手間を取らせた。他を当たろう」
俺が席を立つと、彼女はクスッと笑って着席を促した。
「ごめんなさい。秘密を探ろうという意図はないの。ただ犯罪に関わるような秘密なら何とか誤魔化そうとする人が多いから試しただけ」
「理由は分かったが気分がいいものではないな」
「でも貴方……お名前を伺っても?」
「レン・イチジョウだ」
「レンさんとお呼びしても?」
「構わない」
「レンさん、お歳は?」
「十七だが?」
「やっぱりそのくらいでしたか。年齢は見た目通りなのにいやに落ち着いているわね。いきなり席を立つとは思わなかったわ」
「おしゃべりではなく商談に来たんだからな」
「あら、それにしては視線が男の子だったわよ」
「そ、それは……」
見透かされていたか。まあ女は男が自分のどこを見ているかなんてお見通しだって言うしな。
「レンさんならしてもいいわよ。正直貴族や金持ちオヤジの相手にはうんざりしてたの」
「はあっ!?」
「初めてなら優しく食べてアゲル」
「いや、初めてでは……」
「うふふ。男の子ってそういうところ見栄を張っちゃうのよね」
めちゃくちゃ鳴かせて分からせてやった。ジェリカもそうだがこの世界の女は弱過ぎるような気がする。それとも女神の加護やスキルが仕事しているのだろうか。しまった、どうしよう、ジェリカの分。まあなんとかなるだろ。俺は絶倫だ。
あと彼女もジェリカと同様に下着は着けていなかった。
「やだ、あんなの初めて。私がレンさんの奴隷になりたいわ」
「冗談はよしてくれ」
「あら、私ではご不満?」
「不満はないがどんなに美味いものでも毎日食ってると飽きるだろ」
「私は飽きないけど」
「時々なら相手してやるよ」
「そう? なら明日は?」
「一週間は無理。先約がある」
「妬けるわね。ならその次の一週間は私ね」
実際のところを言うとカタリーナは第一印象通りすごくよかった。だからこの申し出は俺としてもありがたかったが、女に現を抜かしているほどヒマではないのだ。それに一週間もほったらかしにすると必ずジェリカが怒る。
「気が向いた時に訪ねてくるよ」
「どうしたら気が向くのかしら?」
「週に一回か二回は来るよ」
まあ、それくらいは会いたいと思う相手だ。
「ホント? 約束よ」
「それより商談」
「あ……」
ようやく本来の目的を果たせそうだ。
——あとがき——
次話は少し切ないかも知れません。




