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第四十三話 泣きっ面が

 やっちまった。寝室に忍び込んできたのはコレッタである。R15なので詳細は省くが、昨日の入浴時にジェリカにたきつけられて俺に抱かれに来たというわけだ。ジェリカ、何を言った!?


 まあしかし、隣で幸せそうに静かな寝息を立てているコレッタは寝顔まで可愛い。いずれはこうなると思っていたし、いいきっかけだったということにしよう。ちなみに今夜からルラ、ルリ、ルルが順番に来るそうだ。それが彼女たちの望みなら叶えない理由はない。モナに報告しておかなければ。


 ところでこの別荘は建坪がおよそ二百坪、延べ床面積は約三百六十坪の豪邸である。一階部分には三十人を余裕で収容する食堂と、屋外の露天風呂に出入り出来る男女別の温泉大浴場を完備。十人がゆったりくつろげる談話室もある。


 二階部分は室内露天風呂を備えたラグジュアリーな寝室が六つと、迎え入れる気はほとんどないが八畳のゲストルームが八つだ。主な用途はコレッタたちとかくれんぼになるだろう。こちらにも大きな露天風呂があり、皆で雪見風呂を楽しめるようにした。


 不壊なので積雪で建物が潰れてしまうようなことはないが、要所要所を温泉の熱で温めて積もった雪を溶かす設計になっている。建物は何ともなくても、解けた雪の塊が落ちてきて怪我をしないとも限らないからだ。


 周囲は第二拠点と同様に高さ十メートルの外壁が敷地を一周し、出入りの門も外から見えるのは一カ所のみ。しかも柵や格子ではない完全な一枚扉なので敷地内を覗き見ることは出来ない。


 逆に門の外の様子はインターホンに取り付けたカメラ木箱で確認することが可能だ。もちろんカメラ木箱は外からでは分からないようにカムフラージュしてある。これも商材になりそうだな。ただ今のところ一般家庭に普及させるつもりはないので、王侯貴族相手の商売になりそうだ。間違いなく高値で売れるだろう。


 別荘に滞在して五日目の朝、コレッタたち四人の女の子は心身ともに全員俺のものとなった。多少気まずくなるかと思ったら、以前にも増して距離が近くなったような気がする。とにかく最低誰か一人は俺にくっついているので、愛おしさは倍増どころの騒ぎではなかった。


 その間、求人の面接もかなり進んだ。先日フェルナンドとジェリカが来た時には採用出来そうなのは会計一人と雑用事務一人、料理人も一人で接客要員は三人だった。


 しかし後から面接した者の中によさそうな人材がいたそうで、結果候補は会計二人に雑用事務は四人。料理人が二人に見習いが三人。接客要員は実に六人にも上っていた。


 その中から俺が最終面接を行い、会計二人と雑用事務が二人、料理人二人に見習い二人、それと接客要員三人の計十人を採用したのである。


 それから約半月、十月も半ばに差しかかろうというところで店舗の開店を迎えた。倉庫にはまだ暖房用木箱しか保管されていなかったが、これを発売したところ思った通りの大人気商品となったのである。


 エアコン木箱と違って大型の物は作らず安価なイートンの魔石を使用し、気軽に買えるよう価格設定を大銀貨一枚(日本円換算で一万円)にしたのも大きな要因と言えるだろう。しかもこちらはエアコン木箱と違って設置工事などが必要ない。日中は居間で使用し、夜は寝室に持ち込むという使い方も可能なのだ。


 なお暖房用木箱は王都ではまだ発売していない。俺の専売にするか王国の専売にするか、または商業ギルドの専売にするかで検討されているところである。これが決まるまで俺は自由に販売することが出来るが、ひとまずギルドへの製品登録は済ませておいた。


 すると案の定、ユノトス伯爵領を食い物にしている悪徳商人が現れた。ギンザーニ商会の会頭、マウリシオ・ギンザーニと名乗る男である。この商会は会頭一人のみで決まった従業員を雇わず、都度必要に応じて人材を確保するやり方を取っているらしい。(こす)いやり方だが商人として間違っているわけではない。


 商談をしたいとのことで、五日後に日程を調整して店舗の応接室に呼んだ。実はこの五日間というのが、彼を懲らしめるための仕込みに必要だったのである。


「初めまして。ギンザーニ商会のマウリシオ・ギンザーニと申します」


 マウリシオは俺の想像と違いスラリと高身長で、ダークブルーの髪を七三分けに整えた清潔感溢れる見た目だった。この手の商人にありがちの、でっぷりと太った総金歯とかイメージしてたよ。鼻筋が通っており少し垂れ気味の目元は、ユノトス伯爵から話を聞いていなければ好印象を抱いてしまっただろう。


「レン・イチジョウだ。商談したいとのことだが、暖房用木箱のことで間違いないか?」

「はい」


「ここでの販売価格はご領主様であらせられるユノトス伯爵閣下より補助金を受けてのものだ。卸値はもっと高いぞ」

「では店舗で買わせて頂くとしましょうか」


「それは出来ない。販売を許されているのはユノトス伯爵領の領民に対してのみだからな」


 マウリシオがユノトス領民でないことは鑑定眼で確認済みだ。


「なるほど。では卸値はいかほどになりますか?」

「一台金貨一枚だ」


「そうですか。そこから三割ほど値引いて頂くことは叶いませんか? と申しますのも暖房用木箱はまだ王都では売られていないと伺いました」

「その通りだ」


「ならば王都での販売を当ギンザーニ商会にお任せ頂きたいのですが、この地から王都まではかなりの距離がございます」

「馬車で五日前後だったか。それで?」


「当然運搬費もかかりますので、その分を多少ご負担頂けないかと」

「わざわざ値引きなどしなくても、俺が向こうに帰って販売すれば済むことだ。話はそれだけか?」


「い、いえ! ならば値引きは結構ですのでギンザーニ商会に」

「ふーん、まあいいや。で、何台仕入れる?」


「出来れば三百、いえ、五百台をお願い出来ればと」

「在庫が一掃されるな。イートンの魔石を仕入れてきてくれ。悪いが魔石の代金はそっちで負担しろ。商品は魔石と引き換えに渡す」


「承知しました。確かイートンの魔石は銀貨三枚(日本円換算で三千円)程度が相場ですので問題ありません」

「分かった。では暖房用木箱五百台の発注で契約書を作らせよう。代金は申し訳ないが初めての取引なので先払いとさせてもらう」


「もちろん構いませんが、その前に一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「売値の制限はありますか?」


「俺は商品を買った客がそれをどうしようと関知しないことにしている。好きにするがいい。ただあんまり暴利を貪るなよ。寒さは人命にも関わるから、なるべく客が買いやすい価格で売ってやってくれ」

「承知しました。ではこちらが金貨五百枚の手形となります。よろしくお願いいたします」


 マウリシオは持っていた手形に金貨五百枚と書き込んだ。これをギルドに持ち込めば金貨に変わる。もちろん今回の取引に不満を抱いて不渡りにしようものなら、ギンザーニ商会の信用は地に落ちるはず。最悪は口座が凍結されることもあり得るというわけだ。


 これで一通りの仕込みは完了した。イートンの魔石は生活ギルドで手に入るが、マウリシオはそこで愕然とすることだろう。さて、悪徳商人の泣きっ面が楽しみだ。

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