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第四十話 別荘は

「可能でしたら領内に五百坪程度の土地を二カ所頂きたいと考えてもおります」

「二カ所?」


「もちろん土地の代金はお支払い致します」

「ふむ。何のために?」


「一つはいつでも温泉に浸かれるように別荘を建てたいと考えております」

「温泉を引くということだな?」

「はい」


「もう一つは?」

「倉庫です」

「倉庫?」


「閣下は暖房用木箱を領民にも買えるようにされたいと仰られました」

「うむ。確かに言った」

「ですが出入りの商人には任せられないとも」


「今は彼奴(あやつ)が領外との流通を一手に握っておるからな。口惜しいが言いなりだ。彼奴を通せばどれだけ価額を吊り上げられることか」


「そこで倉庫です。エアコン木箱、暖房用木箱はもちろんのこと、この領では入手困難で悪徳商人に頼らざるを得ない商品を私が調達して保管。必要に応じて販売するというのはいかがでしょう?」


「悪徳商人……」

 ジェリカが思わず吹き出していた。


「なっ!? まさか彼奴を通さずに!?」

「そうです。管理や販売はこの町の生活ギルドに任せてしまえば、多少の雇用も生まれるのではないでしょうか」


「それは願ってもないことだ! フェルナンド、どう思う?」


「どう思うもなにも……レン・イチジョウ殿には失礼かも知れませんが、少々話が美味すぎるように思えてなりません」

「確かに私もレン・イチジョウ殿に悪意は感じぬが、何か別の意図があるなら正直に話してくれないか」


「そうですね。強いて言えば悪徳商人への報復でしょうか」

「報復?」


「私の知らないところで私の作った物によって暴利を貪るのが許せないんです」

「なるほど。そういうことなら納得出来ますね」


 俺の大嫌いな転売行為をした商人だ。どうやって息の根を止めてやろうか。ひとまず暖房用木箱は転売が罪になるように専売にしておこう。王様に頼めば何とかなるだろう。何なら王国か生活ギルドの専売にしてもいい。今更だがエアコン木箱をそうしておかなかったのが悔やまれるよ。


「王都の商業ギルドと同じ額で卸しても私には十分に利益が出ます。余分な運搬料がかかりませんから」

「なら倉庫は私の方で建ててもよいぞ」


「いえ、失礼ながらそれですとこの冬には間に合わないでしょう」

「貴殿は間に合わせることが出来ると?」


「敷地を囲う壁と建物で、一週間もあれば完成させられます」

「まさかそれもスキルだと言うのか!?」

「ご内密にお願いします」


 それから今後この地に別荘を置くにあたって、入領税を何とか出来ないかと相談してみた。額は大したことはないのだが、別荘への出入りは基本的に瞬間移動のスキルを使う。つまり城門を通らないわけで、そのままだと脱税になってしまうのだ。


「うむ。確かに脱税は死罪もあり得る重罪だ」

「あらかじめ一定額を納めておくというのはいかがでしょうか」


「いや、我が領への貢献度を考えれば入領税など微々たるもの。イチジョウ家関係者の入領税は免除としよう」

「ありがとうございます」


「土地だったな。別荘については温泉旅館の建設予定地だったところに空きがある。建設開始直前に既存の旅館の支配人たちから反対の声が上がったんだ」

「それだけで中止になったんですか?」


「土地の所有者が(いん)(とう)(けん)を渡さんと言い出したのが決め手だったな。それが原因で他の旅館との交渉も不可能となって計画倒れしたんだよ」


 引湯権とは温泉を引き込む権利のことである。源泉が湧き出る土地の所有者が認めなければ、温泉を引くことは出来ないのだ。


「気難しい人なんですか?」


「いや、新たに温泉旅館を始めようとしていたのが領外の者だったから反対していたようだ。個人で引き込むなら問題ないだろう」

「安心しました」

「後は倉庫の土地だな」


「父上、あの孤児院の横の空き地はいかがです?」

「おお、あそこか! 確か八百坪ほどだったな」

「孤児院?」


「三日前に部屋に子供を招き入れて食事をさせたのは覚えているだろう?」

「ええ、もちろん」

「その子供たちが暮らしている孤児院だ」


 領主としても援助はしているが、育ち盛りの子供が二十人以上いてとても足りないそうだ。


「倉庫の管理などの仕事はないだろうか。見回りでもいい。隣だから朝から晩まで見張ることも出来るだろう」

「なるほど。異論はありません。給金と食事はこちらで提供します」


「そうか! やってくれるか!」

「倉庫の横に食堂と風呂も造りましょうか。孤児院だけでは人手も足りないでしょうから生活ギルドで求人を出すことにします」


 面接はフェルナンドにジェリカが手伝ってくれるそうだ。そうなるとどんな人材が必要になるか吟味しなくてはならない。


「まずは見張りですね。冒険者を雇おうかと思いますがいかがでしょう」

「レン君、ランクの基準は?」

「うーん、戦闘職のC以上が望ましいね」


「そう。残念ながらこの町にはCランクの冒険者やパーティーは片手で数えるほどしかいないの。しかもあまり評判がよくなくて……」

「そうなんだ」


「ならば領主軍から兵を派遣しよう。重要な施設だからな」

「よろしいのですか?」


「構わん。フェルナンド、人選は任せる」

「かしこまりました」

「レン・イチジョウ様、少しお聞きしてもよろしいかしら?」


 質問したのは伯爵家の長女フレデリカである。


「はい、どうぞ」

「レン・イチジョウ様は普段王都で活動されている冒険者ですのよね?」


「まあ、主にそうですね」

「なのにどうして遠く離れたユノトス領にそこまで肩入れして下さるのですか?」


「簡単なことです。まず私は温泉に目がない。それと先ほども申し上げましたが、私の知らないところで私が作った物を転売して暴利を貪っている商人が許せないんですよ」

「それで別荘なのですね?」


「ええ。しかもこれから冬に向けてどんどん寒くなります。雪なんて降ったら温泉は最高ではないですか」

「この地の雪は深いぞ」

「閣下、雪見温泉は堪らないですよ」


「雪見温泉……」

「「「素敵!」」」

「コレッタたちも別荘が完成したら連れてきてやるからな」

「「「「ぜひ!」」」」


 これで別荘、第三拠点になるのかな。倉庫の土地の確保も出来た。実はね、ご令嬢フレデリカ様にはああ言ったが、ユノトス伯爵領に貢献するのはジェリカのためというのが一番大きい。未練があるとかではないよ。短い間ではあったが世話になった礼だ。心からの本心である。


 そうして俺たちは伯爵邸を辞して、ユノトス伯爵領の最高級宿ハイジックに戻るのだった。

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