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第三十四話 褒美は

「まさかドラゴンを従えていらっしゃるとは……」


 残念ながら命を落とした騎士の死体は、俺が貸した魔法のバッグに収められていった。残された者たちは沈痛な面持ちだったが、結果的にお姫様が無事だったので手厚く葬られるとのことである。


「そのバッグは冒険者ギルドにでも届けておいて下さい。急ぎませんのでいつでもいいですよ」

「いけません! あれは確かヒュブル村で手に入るのでしたわよね?」

「はい。そうですけど」


「では新しい物を手に入れてお返し致しましょう」

「そこまでなさらなくても……」


「お借りした物をそのままお返ししてしまっては王族の沽券に関わりますの。ただの見栄だと思ってお受け取り下さい」

「そういうことでしたら分かりました」


「ところであれは何ですの? 見たところお父様……陛下が最近ご自慢なさっている魔動車? に似ているようですけど」

「ああ、あれも魔動車ですよ」


 俺は念話でモナに車から降りてくるように伝えた。


「あら、可憐な方が乗ってらしたのですね」

「実は王女様たちが襲われているのを発見したのは彼女なんです」

「まあ! 貴女が!?」


「モナといいます。俺の婚約者です。モナ、こちらは第三王女のエリス殿下だ」

「えっ!? 王女様!? は、初めまして、も、モナと申します」


「そのように畏まらなくても構いませんわよ。モナ殿は私の命の恩人なのですから」

「い、いえ、お助けしたのはレンさんです」


「レンさん? レン、レン……思い出しましたわ! もしかして貴方はレン・イチジョウ様ではございませんか?」

「あ、はい、そうです。申し遅れてすみません」


「いえ、私としたことが。魔動車を見た時点で気づくべきでした。そうですか、貴方がレン・イチジョウ様でしたか」


 王女様、瞳を潤ませて俺を見るのはやめて下さい。この顔が超絶イケメンだからかも知れませんが、たった今モナを婚約者と紹介しましたでしょ。俺に一目惚れされても困ります!


 いや、別に自惚れているわけでもなんでもないんだよ。実際一人で王都を歩いてるとよく声をかけられるし、冒険者ギルドでは女性パーティーに何度も誘われたりもしている。好きなところに連れていってあげるとか、お姉さんたちの拠点に来ないとか。


 もちろんモナの信頼を裏切るつもりはないし、コレッタたちもいるので今以上のハーレムを作るつもりもない。可愛い女の子は好きだが、見境なしに手当たり次第というほど節操がないわけではないのだ。


「イチジョウ殿、此度(こたび)の助太刀に感謝する」

「亡くなられた騎士の方たちは残念でした」


「いや、我らは元より王女殿下をお護りするためなら命を惜しむことはない。無念ではあっただろうが役目を果たせたことを誇りに思っているだろう」

「あの、レン・イチジョウ様?」

「なんでしょう、殿下?」


「あの魔動車で私をお城までお送り頂けませんか?」

「申し訳ありません。モナの休暇が明日までで、私たちはのんびりするためにやってきていたのです。どうかその儀はお許し下さい」


 平民が王族の願いを蹴るなど、普通なら無礼打ちされてもおかしくない行為だ。しかし俺はそんなものに屈するほどお人好しではない。だが案の定、シェリダンとは別の騎士が剣に手をかけながら叫んだ。


「殿下のお言葉に異を唱えるとは何たる無礼! 即刻訂正せよ!」


 おいおい、アンタの命が助かったのは誰のお陰だと思ってるんだよ。全く腹が立つ。


「死に損ないの騎士風情が死にたいと言うのか? せっかく助けてやったのに恩を仇で返すのが騎士の流儀と言うなら受けて立つぞ」

「なっ! 無礼な!」


「言っておくが俺はお前たちが姿を見ただけで死を覚悟したドラゴンの主だ。ドラゴンに食われたいならそう言え。ポチ!」


 言いながら再び念話でポチを呼び出す。先ほど消えた巨体が現れたとたんに、お姫様と生き残った騎士たちが真っ青になっていた。


「主、今度こそあれやっていいですか?」

「いいぞ、やれ」


「矮小なる人間よ。我が主を怒らせたようだな。その罪万死に値する。我が食らい尽くしてくれよう」

「ひ、ひぇぇぇっ!」


「あースッキリした。主、コイツか? コイツを食らえばよいのか?」

「そうだな、まずはソイツだな」


「ローリン! 何をしているのです! 早く剣から手を放しなさい!」


 ポチがローリンと呼ばれた騎士に顔を近づけて大きな口を開ける。そのあまりの恐怖に彼は尻餅をつき、股ぐらに小さな水溜まりをこしらえていた。


「れ、レン・イチジョウ様、騎士の無礼は私が代わってお詫び致しますのでどうか、どうかお心を鎮めて頂けませんでしょうか」


 もちろんポチには念話で食うなと伝えてあったし、ポチも鎧を着た騎士を食いたいなどとは思っていなかったようだ。鉄臭いのだとか。


「では王女様は先ほどの魔動車で送れとのお言葉を取り消して下さいますか?」

「も、もちろんです! 取り消します!」


「承知しました。ポチ、聞いた通りだ。食わなくていいぞ」

「よいのですか?」

「ああ。用は済んだ。もう帰れ」

「分っかりましたー!」


 ポチの姿が消えると、お姫様と騎士たちの間に安堵の溜め息が漏れた。


「分かっているとは思いますが、俺がドラゴンを従魔にしていることは他言無用に願います。陛下はご存じですので報告の必要はありません」


「そ、そうですか。貴方たち聞きましたわね? 今日ここで見たことは誰にも漏らしてはなりません。第三王女として命令致します」

「「「「ははっ!」」」」


「あー、盗賊の討伐も騎士さんの手柄にして下さい」

「えっ!? ですがそれでは……」


「実は俺、冒険者ギルドでは戦闘職ランクがFなんですよ。盗賊を討伐したことがバレると面倒なことになりそうなんで」


「ランク詐欺……」

「なんか言いました?」

「な、なんでもありませんわ! ただ褒美の件もありますし」


「んー正直な話、金には困ってませんし特に欲しい物もないんですよ」

「ですがそれでは王家の沽券に……」


「分かりました。では保留とさせて下さい。欲しい物が見つかったりお願いしたいことが出来たらその時に褒美として頂きます」

「保留ですか。分かりました」


「ところで王女様はどちらに行かれるところだったのですか?」

「いくつかの領を視察して帰るところでしたの」

「そうでしたか。幸いにも馬車は無事のようですし、お気を付けてお帰り下さい」


 俺とモナはお姫様一行を見送った後、キャンピングカー魔動車に戻るのだった。

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