第二十八話 金貨一万枚の
「ようこそ、オーガス・ラドルファス・シュロトヘイム国王陛下」
「ようこそではないわ! 全く、あの手紙を受け取ってから今日まで、余がどれほどやきもきしたと思っておる!」
俺が王様に宛てた手紙の内容はだいたいこんな感じだ。
『親愛なる国王陛下へ。
ちょっと面白い物を造ってしまいました。おそらく世界中を探しても同じ物、似たような物は存在しないでしょう。
きっと金貨一万枚(日本円換算で十億円)を積んでも欲しいと思われるに違いないと自負しております。
ご興味がございましたら、先日と同じ私の屋敷にお越し下さい。もちろん、ご興味がなければ捨て置いて頂いて構いません。
ただ、この機会を逃せば二度とお目に入れることはないでしょう。また、今のところ同じものを造る予定もございません。
それでは、今後の陛下のご健康とさらなる王国の繁栄を心より願っております』
王様と一緒に敷地内に入ってきたのは、前回同様マシューとレイダーと名乗る二人の騎士だ。
「それは大変失礼致しました」
「よい。それより早く見せてみよ」
「はい。あちらにございます」
俺が指さした先には、マイクロバスサイズの魔動車が停まっていた。ボディーの色は白にしておいたが、要望があれば簡単に変更出来る。確か王家のイメージカラーはコバルトブルーだったか。
「あれは何だ? ただの箱ではないのか?」
「そんな物で陛下を呼びつけたとあっては、私はそちらの騎士様お二人に斬られてしまうでしょう。さあ、ご案内しますので私についてきて下さい」
「う、うむ」
乗降口はマイクロバス魔動車に向かって右側にある一カ所のみだ。外からドアを開くにはハンドルではなく、開閉板として取り付けた十センチ角の銀色に光る部分に触れればいい。閉じるのは内側にある開閉板に触れるか、運転席にある同じ見た目の開閉板で操作する。
「陛下はそちらに設置した陛下専用の座席にお座り下さい。騎士様お二人はあの二席の王族専用座席以外でしたらどちらに座って頂いても構いません」
「余の専用座席と申すか。うむ、まあまあの座り心地だな」
「へ、陛下! 調べる前に座らないで下さい」
「何を申すか。レン・イチジョウ殿が余に危害を加えるようなことをするわけがなかろう」
「で、ですが……」
「イチジョウ殿ならそのような回りくどいことをせずとも、ドラゴンを呼び寄せれば済むと思わんか?」
「そ、そうでした。ところでイチジョウ殿、我々は陛下の脇に立っていても構わんかね?」
「安全のためにお座り頂きたいのですが、今日はそんなにスピードを出しませんし、その辺りの手すりにしっかりと掴まって頂けるなら構いませんよ」
「手すり? この棒のようなものか?」
「はい」
「相分かった。そうさせてもらおう」
「では走らせます」
「走らせる? うおっ!」
騎士二人が手すりに掴まったのをルームミラーで確認してから、俺は操縦桿を前に倒した。マイクロバス魔動車はゆっくりと走り始めたのだが、まさか動くと思っていなかった二人は少しよろけてしまう。仕方なしに俺は操縦桿を引いて魔動車を停止させた。
「大丈夫ですか?」
「も、問題ない」
「言わんこっちゃない。いいから二人とも言われた通りに椅子に座れ」
「しかし……」
「余は座れと申した」
「「はっ!」」
「それでは改めまして」
二人が着席したのを見てから、再び操縦桿を前に倒す。しばらく敷地内を旋回して、元の場所に魔動車が戻ったところで停止させた。
「いかがでしたか?」
「まず聞きたい。馬がおらぬのに何故動く?」
「魔石を動力源としております。製法は秘匿させて頂きますが、おそらく知っても同じ物は造れないでしょう」
「ほう」
「この魔動車はただ馬なしに動くだけの物ではございません。まず最大で陛下が普段お乗りの馬車のおよそ三十倍の速さで走ることが出来ます」
「さ、三十倍だと!?」
「まあ、その速度で走るにはそれなりの技術が必要ですけどね」
「揺れを全く感じなかったのだが?」
「それはこの魔動車が浮いて走っているからです」
「浮いて? どういうことだ?」
「文字通り、地上からこのくらい浮いて走行しております」
手振りで二十センチくらいを示した。
「な、なんだと!?」
「それとこの魔動車、壊れません」
「壊れないとは?」
「剣や弓、破城槌、魔法にもビクともしないでしよう。特に魔法は跳ね返します」
「まさか……真か!?」
さすがに着地している状態で破城槌で横から突かれたら横転はするだろう。しかし乗員はエアバッグで衝撃から守られるし、車体も自動姿勢制御ですぐに立て直せる。浮いている時なら横滑りするだけだ。
「とても信じられん。浮いているところを見せてもらえんか? それと不壊が本当かどうかも確認したい。剣で斬りつけてもよいか?」
「どうぞ。浮いているところをご覧に入れますので、いったん魔動車から降りて下さい。あと斬りつけるのは構いませんが、攻撃は跳ね返されますし剣が刃こぼれしても責任は負えませんよ」
「構わん。まずは浮くところを見させてもらおう。不壊の確認はマシュー、レイダー、やってみよ」
ドアを開けて外に出た三人は浮遊走行を見て驚き、騎士二人はボディーや窓など至る所に剣を振るう。しかし当然だが傷一つ付けることが出来なかった。着地用のタイヤ部分も含めて不壊ボディーなのだから当然だ。そして警告した通り、二人の剣は刃こぼれを起こしていた。怪我がなくてよかったよ。
「いかがでしたか、王様?」
「うむ。これは確かに金貨一万枚というのも頷ける。たださすがに予算をつけねばならぬ」
「ですよね」
「だがこれがあれば緊急時の避難にも使える。必ず予算をつける故、他に売ってはならんぞ」
「そのご心配には及びません。こちらは陛下に献上致します」
「献上だと!? これをか!?」
「はい。その代わりと言ってはなんですが、お願いしたいことがございまして」
「申してみよ」
「実はこれを小型化した物がございます。それを使ってうちの使用人が市場に買い物に行ったりするのですが、彼女たちは非力なので賊などに襲われて奪われかねません」
「小型の魔動車もあるのか!?」
「はい。そこで騎士の方をお二人ほど護衛にお借りできないかと思いまして。平日のみ、午前九時から午後六時くらいまで常駐頂けると助かるのですが。もちろん騎士の方の給金はこちらで負担致します」
「それでこれが献上されるのだな。よかろう」
「あ、使用人は奴隷身分ですので、偏見のない方をお願い致します」
「心得た。マシュー、レイダー、二人とも聞いたな。直ちに人選せよ」
「「ははっ!」」
ただの護衛ではない。王国騎士が護衛につくのだ。コレッタたちにとってこれ以上に安全な外出はないだろう。




