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第二十五話 短かった

「ということがありました」


 冒険者ギルドの前でモナと落ち合って、彼女から両親の話を聞かされた俺は思わず大爆笑してしまった。しかしそうか、バレてしまってたか。まあ別に彼女にはそのうち教えるつもりだったし、エアコン木箱は欲しいならプレゼントしても構わない。


 父親の辻馬車家業も順風満帆のようでなにより。収入が増えたならモナの家にあっても不思議に思われることはないだろう。ただし彼女と彼女の家族の安全のために、付き合っている相手がエアコン木箱の制作者であることは絶対に他言しないようにと言って聞かせた。


 どうでもいいが第一拠点の屋敷に入ったモナは、凄い凄いを連発している。


「これがレン様のお屋敷ですか!?」

「ここに入った女の子はうちの使用人を除けばモナが最初の一人だよ」

「し、使用人!?」


「モナ、これから話すことはほとんど他言無用だと思ってくれ」

「分かりました」


「俺にはここの他にもう一つ郊外に拠点がある。こっちの屋敷には普段執事が一人いるだけだが、あっちには使用人が執事と料理人も含めて十人いる。そのうち八人、ここの執事も含めると九人が奴隷だ」

「ど、奴隷ですか!?」


「いかがわしい目的で買ったわけじゃないが、昼間に言った好きな人五人のうち四人は奴隷なんだよ」

「そうでしたか」

「どう? それでも俺の女でいられる?」


「み、見損なわないで下さい! 私はレン様が好きなんです! ですからレン様がお好きな方が奴隷なら私もその方々を好きになる自信くらいあります!」


「おお! 失礼した。どうやらモナには色々な秘密を明かしても問題なさそうだね」

「秘密ですか?」


「俺には人に知られたくない秘密が多くてね。だから周りに置いている者のほとんどが奴隷なんだ」

「なるほど。秘密保持のためだったんですね」


「そういうこと。買った女の子の奴隷も基本的に夜伽なしだったんだけど」


「分かります。きっとその方たちもレン様に触れて身も心も捧げる運命を感じたのでしょうね」

「まだ捧げられてないけどな」


 この後は家にあった食材でモナが作ってくれた夕食を共にし、一緒には恥ずかしいと言われたので順番に入浴を済ませた。もちろんそれからはいちゃラブタイムだ。初めてなので出来るだけいい思い出になるように、今夜だけは激しいのは控えて優しく奪った。


 いや、あまりに良すぎて俺が早撃ちしてしまい、そこそこの回数を楽しんでしまったのは仕方がないだろう。最高の恋人が出来た。



◆◇◆◇



 翌朝、やはりモナが作ってくれた朝食を摂ってから彼女を仕事に送り出し、俺は商業ギルドに向かう。大型のエアコン木箱に金貨百枚を出すというとある伯爵家からのオーダーに関し、ギルドの取り分についての返答を聞くためだ。


「イチジョウ様、お待ちしておりました」


 早速シグブリットの案内で応接室に通されると、そこでしばらく待てと言って部屋を出ていってしまう。待つことおよそ十分、彼女は四角い輪郭に黒髪オールバックの男性を伴って戻ってきた。片眼鏡を着けて口髭を生やしている男の眼光は鋭い。


「マスター、こちらがレン・イチジョウ様。イチジョウ様、この人は商業ギルドのギルドマスターでグスタフ・ヘイグマンです」


「グスタフ・ヘイグマンだ」

「レン・イチジョウだ」


 さすがはギルドマスター、威圧感がすごい。もっともドラゴンの百倍の精神耐性がある俺だ。すぐにそんなものは感じなくなっていた。


「で? ギルドマスターが出てきたってことは交渉は決裂と考えていいのか?」

「い、イチジョウ様、こちらはまだ何も……」


「シグブリット、お前が前回即答しなかったお陰で我がギルドは損することになりそうだぞ」

「へ?」

「俺は交渉決裂かと聞いただけだが?」


「その見てくれに騙されたよ。レン・イチジョウだったかな。レンと呼んでも?」

「だめだな。アンタと親しいわけじゃない」


「そ、そうか。ならイチジョウ、お前の言った通りこちらの取り分は金貨十枚でいい」

「分かった。ならこれを納品しよう」


 俺は魔法のバッグから出すように見せかけて、アイテムボックスから電子レンジ大の大型エアコン木箱を取り出した。


「あのギルマス、どうして私のせいでギルドが損をするのですか?」

「そんな簡単なことも分からんのか。イチジョウに聞いてみろ」

「授業料取るぞ」


「大銀貨五枚でどうだ? シグブリットの給金から引いておく」

「ちょ、ちょっとギルマス!?」


「お前、エアコン木箱のバカ売れで給金が倍に跳ね上がっただろ。なのにさらに増やそうなどと愚かな考えを起こすからこうなるんだ」

「そうなのか? なら授業料は金貨一枚だ」


「い、いやですよぉ。いくつもエアコン木箱を買ってお金がないんですから」

「ダメだ。これはお前のためでもある。それとお前の決済な、あれ通さんぞ。ギルド職員だからと言って卸値で買おうとするヤツがあるか」


「えっ!? ダメなんですか!?」

「イチジョウ、金貨一枚で構わん。コイツに教えてやってくれ」

「うー……」


「シグブリット、どうして大型エアコン木箱が供給されないかは分かるよな?」

「魔石がないからですよね?」


「そうだ。需要があって供給されなければ価格はどうなる?」

「はっ! ま、まさか……?」


「ラウドスネークの魔石の買い取り価格は本来金貨二枚が相場だ。しかし今までは需要がなかったから討伐難易度の高い魔物の魔石としてその値が付いていた。俺はそれを二つ使って金貨十枚で大型エアコン木箱を商業ギルドに卸していたわけだ」


「その魔石が値上がり、つまり卸値を上げると?」

「当然だな。だから今回のように特例で大型エアコン木箱を作る場合、売値は金貨百枚、卸値は金貨九十九枚とする」

「そんな……」


「商業ギルドがラウドスネーク相当の魔石を仕入れて持ってきた時は、最初の契約通り金貨十枚で卸すよ」

「ま、待って下さい。それはおかしくないですか?」

「何がおかしいと言うんだ?」


「魔石が値上がったなら、ギルドが提供した場合の卸値は下がってもいいはずです」

「ヘイグマンさんだっけ? この人大丈夫か?」


「俺も今見えないように頭を抱えているところだ」

「え? え? 私がおかしい?」


「最初に取り決めた卸値の金貨十枚は、ラウドスネークの魔石の価値を金貨二枚として算出したものだ。ギルドが仕入れる魔石の値を上げるなら俺は卸値に転嫁するだけだろ」

「ですが約定では……」


「転嫁を認めないなら商業ギルドとの取引を止めれば済むんだよ。別に俺はエアコン木箱が売れなければ困るということはないからな。しかしその場合は小型のエアコン木箱の取引も止める。困るのは誰だ?」


「シグブリット、お前はイチジョウが手持ちの魔石を放出したくないという考えを忘れているのだ。しかも大ヒット商品の唯一の制作者という彼の強みすら分かっていないときた。イチジョウ、担当者は変えた方がいいか?」


「俺はどちらでも構わないが、商業ギルドにとってはその方が俺との関係を良好に保てるかも知れないな。何より個人なのに卸値で手に入れようとしたやり方が気に入らない。転売目的なら俺は商業ギルドとの取引を止めるしかないぞ」


「転売はギルドとしても看過出来ん。横領だからな」

「ちょ、待って下さい! 転売なんかしません!」


「ま、いずれにしても短い昇給だったな、シグブリット」

「ま、待って! イチジョウ様? ギルマス!?」


 シグブリットに恨みはなかったが、互いの利益より自分の利益を優先する相手と組んでも遠かれ近かれ関係は破綻する。ならば失っても傷が浅い今のうちに断ち切るのがお互いのためだろう。


 結局商業ギルドとは今後ラウドスネークか、同等の魔石が手に入るまで特例注文は受け付けないということで手を打ったのである。

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