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第二十四話 愛情は(モナ独白)

 私はモナ。三カ月前に冒険者ギルドに就職が決まった新人の受付嬢です。うちは五人家族で両親と長女の私、あとは十二歳と九歳の弟二人がいます。それまで我が家の家計は苦しかったのですが、私がギルドで働くようになって少しは楽になったのではないかと思います。


 一カ月の研修を終えて私は一人の冒険者様の主担当となりました。なんでもその方は若いのに毎月上薬草を納品される方で、私の家庭事情を知ったギルマスが少しでも成績を上げられるようにと担当させてもらえることになったのです。


 そして初めてその方にお会いした時、私の胸の鼓動はビックリするほど早くなりました。十七歳、一つ年下の彼の名はレン・イチジョウ様。荒くれ者が多い冒険者ギルドの中にあって、気高く輝く一輪の花のような方でした。


「あ、あの、初めまして。本日からレン・イチジョウ様の主担当をさせて頂きますモナと申します」


 よかった、噛まずに言えました。


「これからよろしく。上薬草の納品を頼む」

「は、はい!」


 これが上薬草。私はまだ薬草の見分けはつきませんが、この方の納品される上薬草はとても高品質だと聞かされました。買い取り価格は一本金貨五枚です。父が一生懸命がんばって働いたお給金の二カ月分以上ですが、それが五本もあります。金貨二十五枚、うちなら一年くらい暮らせるかも知れません。


 私はまだ対応した経験はありませんが、冒険者様の中には強い魔物を討伐して大金を手に入れる方もいると聞きました。でもレン・イチジョウ様の冒険者ランクは戦闘職F、目利きDですから、そういった大物討伐とは無縁なのです。なのに毎月きちんと上薬草を納品されており、冒険者でありながら安定した収入を確保されている希少な方だと伺いました。


「参った……」


 ある日仕事から帰ってきた父が疲れたように項垂れています。父は辻馬車扶助会に属する御者を生業としております。今までも売り上げが思うように上がらずに落ち込んでいることはありましたが、今回はいつもより深刻そうです。一体何があったのでしょうか。


「扶助会がエアコン木箱を馬車に取り付けろと言ってきたんだ」

「エアコン木箱って、最近話題になってるアレよね」


「ああ。一台金貨一枚と大銀貨五枚。それにホースとやらの取り付け工事費なんかが別にかかる」


 母も知っているようです。我が家にはとても買えるようなものではありません。そもそも今は品薄で、たとえ買えてもこの夏には間に合わないと言われているくらいの人気商品です。それを馬車に取り付けるなんて、扶助会は何を考えているのでしょう。


「商業ギルドにかけ合って数は確保したそうだ」

「そんな! ただでさえうちは生活がギリギリだというのに……」


「購入資金は扶助会が立て替えることも可能と言っていた。返済は十回の分割で利息は一割だそうだ」

「一割!?」


「大銀貨一枚と銀貨五枚だな」

「そんな大金……」


「あなた、扶助会を辞めるわけにはいかないの?」


「王都の馬車停が使えなくなる。使用料を支払って権利を借りることは出来るが、個人ではなかなか難しいんだよ。高いんだ。他にも割安な馬のエサ代など、扶助会の恩恵は計り知れない」


 扶助会は例えば三台分のスペースを借りて、それを複数会員の辻馬車に使わせています。だから個人で借りるより割安になるそうです。エサ代も大量に仕入れるから安く抑えられているのだとか。


「会長は絶対儲かると言うんだ。まあ、確かにあの人は先見の明があるとは思う」


「だ、大丈夫よ、お父さん。私ギルドで担当させて頂く冒険者様が決まったんだけど、その方は毎月上薬草を納品されるから私の成績も上がると思うの」

「上薬草? なんだそれは?」


「買い取り価格が一本金貨五枚の薬草よ」

「「一本金貨五枚!?」」


 夫婦二人して同じ顔で驚いてます。仲がいいんですよね、お父さんとお母さん。


「それを毎月五本納品される方なの」

「ま、毎月五本て、金貨二十五枚じゃないか!」

「あなたの年収と変わらないわね」


「私のお給金、まだ手つかずだからエアコン木箱は買えると思う。工事費までは足りるか分からないけど」

「いやいや、それはお前の稼いだ給金なんだから」


「いいのよ。それに上げるわけじゃなくて毎月少しずつ返してくれればいいわ。利息もいらない」


 本当は品薄じゃなかったらうちに一台買おうと思ってたんですけど、一割の利息を払うなんてもったいないです。それに父と母にはこれまで育ててもらった恩もあります。こんな時くらい、役に立ってもいいではありませんか。


 そういうわけで、無事に父の馬車にも無事にエアコン木箱が取り付けられました。数日後、父は帰ってくるなり私を抱きしめました。嫌ではありませんが、やっぱり嫌です。


「ちょっとお父さん、苦しい、暑い」

「聞いてくれモナ! 売り上げが凄いんだ!」


 父によるとこのところの暑さのお陰で、エアコン木箱が付いた辻馬車はとにかく引っ切りなしにお客様が利用して下さるそうです。私たち家族も夜は仕事を終えて帰ってきた父の馬車で過ごしているくらいですから、あの快適さは知っています。あれを知ってしまったら蒸し風呂のような家の中ではもう寝られません。


 家族五人には狭いですけどね。とにかく父の収入が増えることは間違いないようです。たった一つの小さな小さなエアコン木箱。それがこんなにも私たちを豊かな気持ちにさせてくれるとは思いませんでした。


 そして私にも嬉しい出来事が。なんとあの素敵な冒険者様、レン・イチジョウ様とお付き合いさせて頂くことになったのです。


「俺の女になってほしい」


 そう言われた時、私は天にも昇る思いでした。そして今日は彼のお家に。前任のジェリカさんからの手紙にあった凄いことをしに行くのです。


 ただレン様から両親には友達と遊んでくるから少し遅くなると言うように言われました。何故だか分かりませんが、嫌われたくはないので言われた通りに両親に伝えました。


「なんだ男が出来たか? なら泊まってこい。ついでに子供作ってこい」

「そうね、早く孫を抱いてみたいわ」

「お、お父さん! お母さんまで」


 もちろんレン様にらそういうことをして頂くのですが、こう面と向かってしかも両親から言われると恥ずかしくて堪りません。


「で、どんな男なんだ?」

「冒険者様の方です」


「冒険者だぁ? それはちょっと……」

「そうね、悪いことは言わないわ。冒険者は生活が不安定だとお母さんも聞いたことがあるくらいだし」


「でもその冒険者様は前に言った毎月上薬草を納品される方よ」

「なに!? 父さんの十倍稼ぐあの冒険者か!?」


「そうよ。だから心配しないで」

「むう、その冒険者なら大丈夫か。名前は?」


「聞いてどうするの? 冒険者様の名前なんて知らないでしょ?」

「いやいや、父さんだって『ドラゴンスレイヤー』くらいは知ってるぞ」

「Aランクのパーティーね」


「もしかして相手は『ドラゴンスレイヤー』の誰かなのか!?」

「違うわよ。名前はレン・イチジョウ様。私より一つ年下だけどとっても素敵な……」


「待てモナ、今レン・イチジョウと言ったか?」

「え? ええ、そう言ったけど」


「どこかで聞いたことがあるような気がするんだが、思い出せん」

「レン・イチジョウ様は冒険者様としては有名な方ではないと思うわよ」


「いや、レン・イチジョウ……イチジョウ……はっ、まさか!」

「どうしたの?」


「前に扶助会の会長が口を滑らせたことがあってな。口外はするなと言われていたんだが」

「会長様が? どうして?」


「レン・イチジョウ、その人がエアコン木箱の制作者なんだよ!」

「えっ!? 嘘でしょう!?」


 そんなこと彼から聞いてないです。いえ、それは無理もありません。主担当とは言ってもお会いしたのは今日で二回目だったのですから。


「いいかモナよく聞け! 絶対にレン・イチジョウと子供を作れ! そして結婚しろ!」

「お父さん! 私そういうの嫌い!」


「そうよあなた。さすがに今のは見損なったわ」

「え? ええっ!?」


「お父さんの気持ちは分からないではないけど、彼はきっとそういう打算は嫌う方だと思うの。それに私は彼が本当に好きなの。エアコン木箱と結婚するわけじゃないのよ!」

「うっ、そうだな。すまん」


「でも今日は彼の家に泊まってきてもいい?」

「「もちろん! 何日でも!!」」

「ちょっとお母さんまで」

「あ、あらごめんなさい。つい……」


 私の両親って変わってるのでしょうか。でも私の幸せを願ってくれているのは間違いありません。ちゃんと愛情を感じますから。感じます。これ、愛情ですよね?


——あとがき——

本日は土曜日なので、19時過ぎくらいにもう一話公開する予定です。

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