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第十八話 王様が

『主様、王城から使者が参りました。至急登城せよとのことにございます』


 第二拠点で老夫婦と上薬草の栽培について話していたところに第一拠点のギルバートから念話が届いた。


『俺は不在。冒険者ギルドから城には行かないと伝わっているはずだと言って追い返せ』

『主様はどこにおられるのかと尋ねられました』


『ここの場所は教えてやって構わん』

『かしこまりました』


 そんなやり取りがあった一週間後、豪華な馬車が百人以上はいると思われる騎士を伴って第二拠点にやってきた。ギルバートからは王族が馬車で旅立ったとの連絡は受けていたが、さすがに誰が乗っているかまでは分からなかったようだ。


 ここは王城がある王都の中心地から馬車でほぼ半日の距離だが、まさか王様が直々にやってくるなんてあり得ないよな。約束だから本当に王様が来たなら会ってやるつもりだが、王子とか王女とかを含めて王族というだけなら門前払いしてやる。


 ところが、だ。


「こちらはレン・イチジョウ殿の住まいと聞いた! シュロトヘイム王国国王、オーガス・ラドルファス・シュロトヘイム陛下のお成りである。速やかに門を開かれよ!」


 なんてこった。とりあえずエルンストに応対に出てもらおう。それにしてもこんなところに本当にやってくるとは、王様ってそんなにヒマなのか?


「これはこれは、ようこそお越し下さいました」

「うむ。全く陛下を呼びつけるなどなんたる無礼か。すぐにレン・イチジョウを呼んで参れ」


「お言葉ですが我が主がお会いになるのは国王陛下のみでございます。方々はどうかそのままでお待ち下さい」

「な、なんと無礼な! 陛下に馬車を降りてお一人で入れと申すか!」

「その方が無難でございますよ」


「ええい、そこへ直れ! 無礼打ちにしてくれる!」

「よさんかエイセル卿」


「へ、陛下!? 危険でございます! 馬車にお戻り下さい」

「よいと申しておる。エイセル卿は下がっておれ」

「ですが……」


「エイセル閣下、陛下のお言葉です」

「し、しかしだな……」


 国王の傍にいた騎士がエイセルと呼ばれた貴族を制する。


「陛下のお言葉に異を唱えるは反逆と同義。たとえエイセル閣下でも許されることではございません」

「くっ! 承知した」


「では通してもらおうか」

「我が主からは数名の騎士の方のご同行は構わないと仰せつかっております」


「うむ。ではマシュー、レイダー、()に同行致せ」

「「ははっ!」」


 さすがにここまでくると国王一人だけというわけにはいかないだろうから、俺は念話でエルンストに騎士の同行を許すと伝えた。もっと大勢ぞろぞろ入ってくると思ったのに、二人だけとは本当に肝の据わった王様だよ。


「ようこそ、オーガス・ラドルファス・シュロトヘイム国王陛下。私がここの主のレン・イチジョウと申します」

「うむ。出迎え大儀である」


 王様は思っていたより若い。年齢は五十歳前後ではないだろうかと思ってステータスを見ると、やはり四十七歳だった。


 布製で先が尖った聖職者が被るミトラのような帽子を被っており、優しげな目元に穏やかな表情というのが第一印象だ。体つきはマントを着ているためはっきりとは分からないが、それほど大きくはないように見える。


「屋敷は手狭な上、ここにおりますのは庭師の老夫婦以外は奴隷のみですので、こちらに椅子とテーブルを用意致しました。ですが茶をお出ししてよいかどうか分かりません。いかが致しましょう」


「身分など構わんよ」

「陛下!」


「マシューよ、ならば問うが(けい)は貴族が淹れた毒入りの茶と、奴隷身分の者が淹れた清涼な茶、どちらを飲む?」

「そ、それは……」


「レン・イチジョウ殿、茶は余にのみ出してくれ」

「ただ今ご用意致します」


 コレッタが運んできた茶を、王様は毒見もさせずに口に運んだ。騎士は慌てていたがこの王様、なかなか好感が持てる。


「それで陛下は本日、どのようなご用向きで?」

「うむ。競売にドラゴンの素材が出品されたと聞いてな。出所を確かめたらレン・イチジョウ殿との報告を受けたのだ」

「なるほど」


「他にドラゴンの素材はないかね? あるなら競売の相場より高く買い取るぞ」

「献上せよ、ではないのですね」


「はっはっはっ! 余は様々な素材を手に入れてくる冒険者に敬意を払っているのだ。献上とは搾取以外の何物でもない。そうは思わんかね?」

「お言葉、痛み入ります」


「で、どうなのだ?」

「残念ながら他には持っておりません」


「ふむ。それでは仕方がないな。時にレン・イチジョウ殿よ」

「はい?」


「冒険者ギルドのボリス・バレストレームより聞いたのだが、余が会いに来れば面白いことになるそうではないか」

「ああ、そうですね。ただ……」

「ただ、なんだ?」


「これからご覧になることを陛下はもちろん、そちらの騎士お二人にも口外しないと固く誓って頂きたいのです」

「よかろう。卿らも分かったな?」

「「御意」」


『ポチ、(イン)(ビジ)(ブル)の魔法で姿を消して瞬間移動でここに来い』

『はい!』


 俺は念話でポチを敷地の真ん中に呼び寄せた。


「ではお三方、敷地の方をご覧下さい」


 そしてインビジブルを解除させる。この後は打ち合わせ通りに頼むぞ、ポチ。


「な、なんと!?」

「どどど、ドラゴン!?」

「う、うわっ!!」


 エルンストが最初に王様が馬車から降りて一人で入る方が無難と言ったのは、ドラゴンに驚いた馬が暴れ出す可能性があったからだ。本来馬は臆病な性格なのである。


「三人とも落ち着いて下さい。あれは私の従魔です」

「まさかドラゴンを手懐けたと言うのか!?」

「「じゅ、じゅうまぁ!?」」


「矮小な人間よ。我の姿を見たなどと、一言でも他言すればこの国が滅ぶと思え」


「や、約束しよう」

「言いましぇん!」

「誰にも言いましぇん!」


 王様は何とか威厳を保っていたが、騎士二人は抱き合ってビビりまくっている。それで大丈夫なのか?


「そうだポチ。王様に鱗を一枚プレゼントしてくれ」

「分かりました!」


 ブチッ!


「こちらをどうぞ、我が主」

「王様、もぎたてのドラゴンの鱗にございます。今日の記念にお収め下さい」


「あ、ありがとう……じゃないわ! 何なのあれ! 何なのブチッて!」

「陛下、素が出ております」


「素がで……おほん。褒美は何を望む? ドラゴンを手懐けた上に鱗の対価だ。爵位でも領地でも金でも、遠慮なく申すがよい」

「ドラゴン素材の出所を秘匿して頂ければと」

「そんなことでよいのか?」


「そうですね、万が一他の貴族様が嗅ぎつけた場合には陛下のご威光をもって対処頂きたく存じます」

「約束しよう」


 しばらく放心状態だった騎士二人が回復するのを待って、王様一行は帰っていくのだった。

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