第十七話 競売に
応接室に入ると大柄なオッサンと昨日の依頼担当主任グンターが、向かって右側のソファに座っていた。ただ、グンターは心なしか縮こまっているように見える。
「俺はギルドマスターのボリス・バレストレームだ。こっちのグンターは知っているな?」
オッサンはギルマスだったのか。袖のない黒の革ジャンみたいな鎧から突き出た筋肉の塊のような腕はコレッタの腰より太く見えた。全身ゴツゴツのスキンヘッド、口髭はシェブロンのような形で上唇全体を覆っている。
元はAAランクの冒険者だったとか。ドラゴンの亜種であるワイバーンを討伐して名誉ランクを取得したそうだ。ギルマスが高位の冒険者だったなんてのもよくある話だよな。
「それで? 俺たちはどうして呼ばれたんだ?」
「昨日お前が帰った後に『ドラゴンスレイヤー』の連中が報告に来てな」
「俺の話が事実だったと分かったわけだ」
「ああ。グンターはお前を虚偽報告で処分すると言ったと聞いている。失礼した」
「馬車代と危険手当だっけ? もらえるんだな?」
「当然だ」
「ソイツの処分は?」
「それはレン・イチジョウ、君次第だな」
「と言うと?」
「一つは濡れ衣を着せたということで王国に訴えることだ。有罪が確定すれば犯罪者となるから冒険者ギルドも懲戒解雇となる」
「他には?」
「そこまでしなくていいと言うならギルド内での処分だな。一番重いのは降格。次は減俸だ」
「た、頼む! 訴えるのだけは……」
「冒険者ギルドって、王国にはこのラドルファス本部しかないのか?」
「いや、他領の大きな都市と一部の村などには支部がある」
「ならそのどこかに飛ばすってのは?」
「ま、待ってくれ! それじゃまるで左遷……」
「グンターさんよ、俺はこれでもアンタにかなりムカついているんだ。顔も見たくないくらいにな。それにお前、昨日『新緑の翼』のメンバーを奴隷と言って蔑んだだろ」
「そんなことがあったのか!?」
「ああ。三人は奴隷で俺とこのコレッタは戦闘職Fランクだってバカにしやがった。ギルドの職員が身分やランクで冒険者を蔑むとはどういう了見だ?」
「グンター! 冒険者ギルドの規約を言ってみろ!」
「しゅ、種族や身分、ランクで冒険者の扱いを変えてはならない……」
「つまり彼の報告は調べもせずに虚偽と見なし、Aランクの『ドラゴンスレイヤー』の報告で本当だったと認めた。そういうことだな!?」
「はい……」
「グンター、お前には他からもいくつか苦情が上がってきている。これまでも何度か注意はしたはずだが規約違反を見逃すわけにはいかん」
「ぎ、ギルマス……」
「半年間の職務停止。その後はランケル村支部への出向を命じる」
「ら、ランケル村支部!? あそこは閉鎖予定だったはずでは?」
後で聞いた話だが、ランケル村は寒村で人の出入りもほとんどなく、支部とは言っても仕事などほとんどないらしい。かつては炭鉱の村としてそこそこ栄えていたそうだが、その炭鉱も何年も前に閉山されているとのこと。
「つ、つまりギルマスは私にギルドを辞めろと仰るわけですね?」
「そうは言わんが辞めるなら止めはせん」
「分かりました。辞めさせて頂きます」
「そうか。達者でな」
グンターは怒りに満ちた形相で俺を一瞥すると、そのまま応接室を出ていった。逆恨みもいいところだ。
「レン・イチジョウ、改めてすまなかった」
「彼のことは苦情を言うつもりだったが、処分にはおおむね満足だよ」
「そうか。今回はこちらに重大な落ち度があった。だから馬車代や危険手当の他に詫び料として金貨十枚を上乗せして支払おう」
「了解した。ところでギルマス、これを見てくれ」
俺はポチからへし折った牙と爪、それと最初に自分で剥がして寄越した鱗を取り出した。俺が無理矢理剥がした鱗は取りあえずアイテムボックスの中に入れたままだ。
「こ、これはまさか!?」
「拾い物だ」
「拾い物……? それにしては抜け落ちたと言うより無理やり……」
「拾い物だ」
「ワイバーンの物ではないな」
「そうなのか?」
ここはすっとぼけておこう。バレている気もしないではないが、そう簡単に認められるわけがない。
「で、これをどうするつもりなんだ?」
「ギルドで買い取れないか?」
「不可能ではないが、競売にかけた方が高値がつくと思うぞ」
「出品者として素性を知られたくはない。うちには奴隷が多いからな」
「余計ないざこざは避けたいということか。ギルドは競売に出すし、買値よりもかなり高値がつく可能性が高いが差額は支払えんぞ」
「構わないさ。それぞれいくらで買い取れる?」
「そうだな、鱗が金貨百、いや、この大きさなら二百枚出そう。牙と爪は折れている状態だから多少値が落ちる。両方とも金貨五十枚といったところだ」
「分かった。それでいい」
「出所だが貴族は何とか抑えられても王家に尋ねられたら隠せんぞ」
「辞めたグンターが知らないうちに買い取っていたということにすればいいだろ?」
「アイツ、最悪は殺されるかも知れないな」
「それはさすがに寝覚めが悪いか。仕方ない。どうしてもと問われたらバラしていいよ」
「なるべく時間は稼ごう」
「あ、そうだ。もし俺に会いたいなら城に呼びつけるんじゃなくて、予約を取って王様自身が会いに来いと伝えてくれ。城には絶対に行かんし王様以外とも会うつもりはない」
「なっ! そんなこと言えるわけがないだろう!」
「いや、言った方が面白いことになると思うぞ。褒美をもらえるかも知れない」
もちろんそんなことが簡単に認められるわけがないだろう。十中八九無礼者扱いされるはずだ。それで騎士とか兵士とかが押し寄せて来たら、度肝を抜いてやるだけだがな。
「コレッタ、甘い物でも食べてから帰ろうか」
「はいっ!」
ずい分ほったらかしにしてしまったのでむくれているかと思ったが、さすがはコレッタだ。拗ねるでもなく満面の笑顔で答えてくれたのだった。




