第十二話 コレッタも
生活ギルドで求人を出してから、半日も経たないうちに応募が殺到しているとの連絡が入った。王都は一見華やかだけど、平民は日々の生活を送るだけで精一杯なんだよな。定収入が得られる仕事は少ないし、あっても給金がべらぼうに安かったりする。
だから冒険者ギルドという、いわゆる依頼を仲介する機関が成り立つわけだ。そのギルドでさえ、受付嬢などの給金は安いってジェリカがボヤいてたっけ。政略結婚とはいえ幸せになってもらいたいものだ。
俺がこうして吹っ切れたのはコレッタのお陰だと思う。彼女といると楽しいし、俺のことをとても気遣ってくれているのが分かる。そう言えば抱きしめて慰められたんだっけ。元四十一歳の中年オヤジだったことを考えると恥ずかしくて穴に潜りたいよ。
それでも温かな気持ちになれるのは、十七歳の体に俺が適応しているからなのだろう。そうとでも考えないと理解が及ばない。うん、それでも思い出すとかなり恥ずかしい。
話を戻そう。生活ギルドの職員が対応に追われてどうしようもないから早く選んでくれと言うので、とりあえず応接室を借りて面接を始めることにした。
求人の条件は野菜や植物の栽培に対する知識があること。もちろんプロである必要はない。待遇は住み込みで三食つき。週に二日は休みで勤務時間は基本的に八時間。開始と終了は相手が植物系なだけに早い時もあれば遅い時もあるが、そこは臨機応変に。給金は衣食住を保証するので月に一人金貨一枚。夫婦なら金貨二枚だ。
実は後で知ったのだが、この待遇は王都では破格だったらしい。普通は衣食住の保証なしで金貨一枚でもかなりいい条件なのだそうだ。しかも週休二日なんてどこにもないとのこと。応募が殺到するわけだよ。
ソッコーで募集は打ち切ってもらったが、その時点ですでに夫婦や兄弟姉妹の十五組を含めた七十人が応募してきていた。夫婦などの二人一組を優先するとしていたのに、単独応募が四十人以上いたと聞かされて閉口せざるを得なかったよ。
とにかく面接だ。人数が多かったため、全員の面接を終えるまで三日を要してしまった。その中から何とか二組の老夫婦を選び最終面接を行う。まず一組目はボランとハンナ、六十三歳と六十歳の夫婦だ。
二人いる息子はすでに独立、娘一人も嫁いで今は夫婦で二人暮らしとのこと。家庭菜園とわずかな蓄えを切り崩して何とかやってきたが、そろそろ生活が苦しくなってダメ元で生活ギルドに登録したそうだ。
息子たちは心配してはくれるものの、両親の生活を支えられるほど裕福ではなく、むしろ自分たちが日々生きるので精一杯らしい。将来に不安を抱えていたところに俺の求人を見つけ、縋る思いで応募したのだという。まさに俺の理想だが、決めるのはもう一組から話を聞いてからだ。
するとハンナがこんなことを言い出した。
「あの私たち、住み込みで食事の心配もないとのことですので給金はいりません。もう一組の方が困ってらっしゃるようでしたら、二組とも雇って頂くわけにはいきませんでしょうか」
「こらハンナ、募集は一組なんだ。そんなことを申し上げては失礼だぞ」
「でもあなた、もしかしたらその方たちも毎日に不安を抱えているかも知れませんし、私たちだって雇って頂けないとこの先どうなるか」
「要するに自分たちも落とされたくはないということですね?」
「はっ! そんなつもりでは……」
「みろ! ハンナが余計なことを口走るから!」
「いやいや、お気持ちは分かりますので奥様をそう責めないであげて下さい」
それから俺は努めて和やかに微笑んだ。
「お二人は採用したいと思います。もう一組をどうするかはこの後の面接で決めますが、給金はちゃんと出しますよ。最初の約束は違えません」
「なんと!」
「あ、ありがとうございます!」
そして二組目。こちらも老夫婦だがボランとハンナほどの悲壮感は感じられず、どちらかと言うと俺を若僧と見て見下しているような雰囲気だった。そこで俺は先ほどのハンナの提案を伝えてみる。
「先に面接したご夫婦の提案なのですが、自分たちは給金はいらないから、二組とも雇ってほしいとのことでした」
「食うにも困っているということですかな?」
「どうでしょう。そこまでは分かりませんが」
「雇い主殿はお若いから分からないかも知れんが、そういう者は何かとトラブルを起こすものだ。我々ともうまくやっていけるとは思えん」
「そうですわね。募集は一組とのことでしたし、それに意見するのは図々しいと申しますか」
「だな。その夫婦はやめておいた方がいいぞ。若い者は年寄りの言うことを聞いておけば間違いはないだろう」
採用はボランとハンナの夫婦のみに決まった。あとで生活ギルドの職員から聞かされたのだが、不採用となった夫婦は散々俺に悪態をついていたのだとか。採用しなくて正解だったよ。
間もなくして購入した奴隷八人の登録が終わったとカタリーナから連絡が入ったので、俺は彼らを受け取って第一拠点の屋敷に連れ帰った。エルンストとギルバートを除く六人はコレッタとの再会を涙を流して喜んでいる。
「ギルバートはこの屋敷を守ってほしい」
「承知致しました。一つお尋ねしても?」
「もちろん。なにかな?」
「ここには私一人なのですか?」
「当面はそうだね」
「主様、家族が王都にいた場合のことなのですが」
「再婚するならしていいよ。ここに住めばいいし」
「よ、よろしいのですか!?」
「そのためにここにはギルバート一人なんだ。ご家族と再会出来なかったらもう一人使用人として奴隷を買うつもり」
「そんなお気遣いまで……」
「ご家族が見つかることを祈ってるよ」
ギルバートは思わず目頭を押さえていた。
「エルンストとダーグとエメリ、リネアの四人を第二拠点に連れていってくる。すぐに戻るけどコレッタ、ギルバートたちの世話を頼む」
「はい。旦那様」
「戻ったらギルバートとルラ、ルリ、ルルの四人は冒険者ギルドに行こう。ギルバートは家族の捜索依頼を出して、ルラたち三人は冒険者登録だ」
するとコレッタが俺に近寄ってきた。
「旦那様」
「どうした、コレッタ?」
「あの、私も冒険者ギルドに登録してはダメでしょうか?」
「コレッタも? どうして?」
「登録すれば旦那様について行けるかなと思ったんですけど、やっぱりダメですよね?」
「んー、危険な依頼の時には一緒には行けないけど、素材探しくらいならいいかな。登録しよっか」
「はい!」
「その時は私たちがお館様とコレッタをお護り致しますのでご安心下さい」
「頼りにしてるよ」
皆には俺の能力、特に瞬間移動やアイテムボックスに加えドラゴンを上回るステータスであることなどを伝えた。当然それらは厳秘情報として、守秘義務の中でも特に厳しく取り扱われる。
余談だが俺が思っていたよりもはるかに強いと分かって、護ると豪語したルラたち三人は真っ赤になっていた。可愛いなあ、もう。
そしてエルンストたち四人を第二拠点の屋敷に送り届けてから、ギルバートとコレッタ、三姉妹を連れて冒険者ギルドに向かい全員の登録を済ませた。
試験の結果、ルラがなんとギルバート同様に戦闘職のBランクを獲得。ルリとルルも無事にCランク冒険者となった。コレッタは戦闘職、目利きともにFランクだったが、単独で依頼を受けることはないので問題ないだろう。本人はちょっと涙目になっていたが。
その後ギルバートは家族の捜索を依頼。報酬は一人発見につき金貨五枚、家族を三人とも発見した場合は金貨十五枚となる。成功報酬ではあるが、依頼未達成による違約金はなし。ランクによる受注制限もなしとした。つまり多くの冒険者が気軽かつ片手間に受注出来るようにしたのである。
なお、王国にはおらず足取り不明と分かった場合でも、情報提供料として規定報酬の半分を支払う。これでかなり受注される確率が高まるだろう。
またギルバートを除く五人で冒険者パーティー『新緑の翼』を結成し登録。まずはルラたちの装備を整えるために、ギルドに紹介してもらった武器などを扱う店に向かった。
動きやすい革鎧はコレッタとお揃いの王都で流行の一品だ。柔らかそうな生地のミニスカートは冒険者としては実用的ではないが、可愛いとの理由で三人ともそれを選んでいた。色はルラが水色、ルリが黒、ルルが赤である。ちなみにコレッタのミニスカは白だ。
それから間もなく、俺たちのパーティーは冒険者ギルドの中で目覚ましい活躍を始めるのだが、それはもう少し先の、まあよくある話だ。
——あとがき——
GWも本日で終わりですので、明日以降は原則1日1話の更新とさせて頂きます。時間はだいたい19時過ぎくらいを予定しています。




