97:別荘夜想曲《ヴィラ・ノクターン》
三月二五日 シナンガル首都シーオムから北、二百キロ。
ルナールとスーラは現在ロプ湖の北東にあるアダマンの別荘を訪れていた。
アダマンに確かめて置かなくてはならない事が出来たのだ。
また、何れにせよ此の旅が終わればアダマンを交えての会合が開かれることになっていた。
そのため何事にも根回しは必要であろう、との判断がふたり揃って一致した事も彼に会う必要性を後押しした。
”ふたり”とは、当然だがスーラを含まない。
先立ってのガンディアにおけるシェオジェの実験を見届けた後、スーラ、即ち『軍師』の指示に従ってシーオムから北西にある入り江までルナールは集団を移動させた。
かなりの強行軍ではあったが、片道を十二日程かけてようやく辿り着いた時、最後の三キロ程の道のりを軍師は二人だけで移動するという。
「いや、それはちょっと拙いでしょう?」
ルナールとしては、安全面の問題からそう主張したのだが、軍師は其れを一蹴した。
「何人連れて行っても良いけど、そうなると帰りには殆どの護衛を殺す事になるわよ」
そこまで言われてはルナールとしても引き下がるしかない。
やむを得ず、侍女達の為の馬車を利用して二人で移動する。
途中からは馬車を降り、歩く。
二十分程で丘に上がると、遠くまで入り組んだ入り江の数々を見る事が出来た。
地球ではリアス海岸と呼ばれる形状の海岸地帯である。
ある入り江まで来ると軍師に崖下を見る様に言われ、ルナールは首を傾げた。
何も見えない訳ではない。
崖下の海岸線の砂浜に初めて目にする『それ』が何か、さっぱり分からなかったのだ。
唯、相当に巨大な物である事は予測できたため僅かに息を呑む。
崖下までは更に時間が掛かる。
九十九折りの獣道を四十分は歩く。
今は良いが夏は今以上に草が茂って更に歩きにくいだろう、等とルナールは思う。
北からの風も和らいだ今の時期が、一番歩きやすい時期だ。
とは云え、やはり幼いスーラの体力が気に掛かるが、軍師は一向に気にした様子もない。
一休みしようと、水筒を差し出すルナールの表情から彼の懸念を読んだのか、軍師が不意に口を開いた。
「此処ではね、『エネルギー』の補給が容易いのよ」
「エネルギー?」
初めて聞く言葉である。
「ま、あたしがあたしとして存在する為の食事の様な物ね」
水筒の水を一口煽って彼女はルナールにそれを返すと、直ぐに立ち上がり歩を進めた。
「なるほど……」
取り敢えず意味は分かるが、何故『此処ならそれが容易い』のかは教えてもらえない侭であった。
下まで降りてみて、ようやくルナールは見えていた『それ』の大きさが分かる。
長さは五十メートルを軽く越える様だ。
胴回りは中央部分が直径十二~十三メートルと云った処であろうか。
丸みのある円錐形の頭頂部に口が広く底の深いグラスを逆さに繋いだ様な白乳色の物体である。
つまり、海面方向に行く程に直径は広がっている事になる。
頭頂部が海岸に乗り上げているが真水で洗った様に表面の光沢は美しい。
所々に黒や黄色の線が歪み無く見事に引かれており、赤い塗料で彩られた部分も僅かに見える。
尾部の方が海水に浸かっているが、其の部分にも特に傷んだ様子は見られない。
頭頂部を中心にあちこちに軽く焼け焦げた跡があるものの、それすらも酷い破損とも思えなかった。
だが問題は中程の一部である。
沖合の岩礁にでも腹をこすったのであろうか、人の身長の三倍程の長さに激しく損傷しているのだ。
その部分にだけは牡蠣や船虫がへばり付き、さすがの物体にも腐食が始まっているかに見える。
その傷口を見た時、ルナールはようやくワン家と一部議員集団による無闇な鉱山開発と製錬の意味が掴めてきた。
つまり、この『何か』を修繕したい、と云う事なのだろう。
軍師に考えを述べると“正解”と簡潔な答えが返ってきた。
だが、『これ』は結局のところ何なのか?
其れが分からない。
軍師に素直に尋ねる。
「これはね。空から降りてきたの」
「空? つまり『竜』や、例の『鳥』の様に飛ぶものなのですか?」
軍師は頷くだけだが、翼らしき物は見あたらない。
「翼も無しに飛ぶものなのでしょうか? それとも、其れも壊れてしまったと?」
ルナールの問いに軍師は口角を僅かに引き上げた。
今までにない自然な笑いである。
何故か不気味さを覚える。
「カタパルトで石を飛ばすわよね」
「ええ……。しかし、結局は落ちてきますよ」
「そうね。でも、どうして落ちるの?」
ルナールにとって軍師の質問は意表を突く物だった。
「は?」
「だから、“どうして投げた物は落ちるのか?” そう訊いているのよ」
「いや、考えた事もありません。当たり前の事でしょ?」
「当たり前ねぇ?」
軍師は少しの間、顎に手を当てて考えていたが、自分を納得させる様に何度か頷くとルナールに対して説明を進めていった。
全ての物体には『引力』という『物を引きつける力』がある。
物体が大きければ大きい程、或いはそのものが『重い程』力は強い。
この大地は『大きく、重い』
その為に、上がった物体は落ちる。
だが、その力以上の力を出せば『引力』を振り切って自由に跳べる。
つまり軍師の説明によれば、『目の前にある何か』や『コージ・イワクニが操る鳥』は其の様にして飛ぶのだという。
しかし、コージの『鳥』は結局の処、この星から出る事は出来ない。
それほどの力はない。
と、此処まで軍師が話した時、ルナールは首を傾げた。
「昔から言われてはいますが、この大地はやはり丸いのですか?」
これを聴いて軍師は遂に声を出して笑った。
「ああ、そうか!
事件以前にはカスタマーには殆ど『処理』が成されていたのよねぇ」
そう言って笑い続ける。
ルナールとしてはかなり不快だが、別段馬鹿にされている訳では無い事はわかる。
ただ“何か、知らない事”に振り回されている現状が気にくわないだけだ。
「意地悪は、それくらいにして頂けませんか? 大地は丸いのですか?
それから『処理』とは?」
ルナールの苛立ちに対して軍師は高圧的に出るでも無しに、親しく優しげな声で答える。
「ごめんね。その質問に答える前に、この中に入ってみましょう」
そう言って軍師は中央の裂け目を指した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マークス・アダマンの別荘は、大理石をふんだんに使った美しい建物ではあったが、北風を避ける為の樹々の中に設えられた庭園が主役で在り、建物は飽くまでも“添え物”と云った風情を保っていた。
但し、その主館は主張無く“小ぢんまり”としているにも関わらず、庭を引き立てる為に計算された或る種の品格をも感じさせている。
一般に建物に派手な装飾をして豪華さを競うシナンガル議員の邸宅にしては珍しい造りである。
四月も間近の緩やか日差しの中、別荘の主は二人を迎えると、『まずは、寛ぐ様に』と言って湯を用意し、新しい衣類を準備して食事の席を設けた。
一通り皿が出尽くすと、アダマンは執事一人を残してディナーホールから使用人全てを退出させる。
残った老人は信用がおける人物なのであろう。
先程から執事の鏡とも言えるべく、背筋を伸ばした侭に身動きひとつしない。
アダマンが認めた以上、彼は存在しない存在として扱うべきなのであろう。
ルナールが其処まで考えた時、アダマンが口を開いた。
「で、何処まで分かりましたかな?」
アダマンの質問は抽象的だが、返答には具体性を求めている。
しかし、それを分かっていながらも、
「色々、ですね……」
と、ルナールはそこからしか話を始められなかった。
彼の隣の席ではスーラが年の割には幼い食事の仕方をしており、ルナールは時に彼女の口元のスープやパンくずをナプキンで拭ってやりながら話を進めなくてはならない。
『ムグムグ』という擬音でも出そうな食べ様であり、良家の令嬢とは思えない食事風景である。
ワン・ピンは自分の娘のマナーについては、かなり甘く育てた様だ。
「具体的に」
アダマンの再度の質問に、ルナールは見たまま、聞いたままを話した。
まずはこの大地が丸いと云う事。
これは、帰りに丘に上がり水平線を見た時に実感できた。
確かに丸いのだ。
大地は丸い。しかしあまりにも巨大すぎてその上に居る我々には実感できない。
そして、この大地は太陽の周りを回っていると云う事。
何より、夜空に輝く星は全て太陽と同じに燃え続けているのだという。
いつまで燃えるのか?
ルナールの問いに、『軍師』からは数十億年から百億年という気の遠くなる様な返事が返ってきた。
そこからはルナールにも、海岸で見たあの『何か』の正体が掴めて来た。
つまり、他にも同じような『人が住む大地』が存在し、そこからやって来た乗り物があの『何か』なのだと。
但し、『処理』という言葉の説明については“今は其の時期では無い”と『軍師』に断られたが、実は其処にこそ問題が有ると思われる、と彼自身は考えている。
ルナールが其処まで話した時、アダマンが頷いた。
「やはり、君は思った通りの人物だったね。
だが、そこからもう一歩進んで考えられないかね?」
アダマンの問いに答える事はルナールには苦痛であった。
軍師の発した『処理』という言葉から正答の可能性は高いと自負している、だがだからこそ辛い事実ではないか。
語ってどうするのだ。
しかし、口にせざるを得なかった。
「我々は、いえ、我々の先祖は『罪人』だったのではないのでしょうか?
故郷の事をどの様にかして忘れ去らされてしまっているのでは?」
ルナールの言葉にアダマンは再度頷く、
「かも知れないね。だが、別の可能性も有る。
余り悲観的にならない事だ」
「アダマン様に対して御意見する様で恐縮ですが、別に悲観はしておりません。
唯、仮に私の考えが正鵠であるなるならば『あれ』が飛んだ所でどうしようも無いでしょう。
間違っているにせよ、何処へ行けばよいのかも分かりも致しませんでしょうに」
ルナールは自分たちの祖先が本国、つまり別の星で罪を犯して『流刑』に処されたのではないかとの考えを披露した訳だが、その問いに対してはアダマンは首を横に振る。
「其れはあり得ない事だ」と。
「何故、そう思われるのでしょうか?」
その問いにアダマンはテーブルの上に両手を組んだまま答えた。
ルナールに向ける其の細い眼は常に睨み付ける様に鋭い。
「仮に此処が流刑星だとしよう。
過去五百年間、他にあの様な物が流れ着いたと言う話を聞いた事があるかね?」
そう言われると、ルナールも答えに詰まる。
更に、アダマンは続けて衝撃的な言葉を発した。
「何よりだ。我々は“何時でも故国に帰って良い”そう言われてもいるのだよ」
ルナールは目を見開く。
「軍師がそう言ったのですか?!」
思わず隣の席に目を向けるが、スーラは満腹感からか既に船をこぎ始めていた。
ルナールは執事に命じると侍女を呼んで、彼女を寝室に運ばせる様に言いつける。
その際に口をきちんとすすがせる様に注意まで入れる彼は、まるで実の妹の面倒を見る兄の様でもあり、その光景にアダマンがかすかに笑みを漏らした。
尤も、侍女への指示の為に立ち上がりアダマンに背を向けたルナールが、それに気付く事は無かったのだが。
スーラが侍女に抱かれ部屋を出ると話が再開された。
アダマンはルナールに、“軍師が現れる以前から鉱山開発が始まっていた”事を思い出したかと尋ねる。
ルナールが問われた事の意味を理解し、やや恥ずかしげに肯定するとアダマンは、更に此の星の人間が他の星への帰郷が許されている根拠を、或るひとつの『名前』によって伝えた。
『威厳有る存在』
「何者ですか?」
「わからん。だが、害はない。
……と言いたい所だが、あれを見せられた後では、意外とこの混乱は『奴』に原因があるかも知れんな。
帰還に関しても、かなり昔かららしいが奴が其の可能性を示している。
だが肝心の方法を“知らん”と言い続ける」
「では何故、此の様な馬鹿げた鉱山開発を?」
ルナールの疑問は当然で有る。
それに対するアダマンの返答はまたも簡潔であったが、ルナールにはおおよその事が掴めた。
「セントレア……」
つまり、フェリシアの首都にこそ故郷への帰還の方法があり、彼の王宮は 其れを秘匿していると『威厳有る存在』は語ったのであろう。
それが百二十年前の事だったのだ。
考えを纏めつつ在るルナールにアダマンは更に問い掛ける。
「ルナール殿は『軍師殿』が『威厳有る存在』と対立している事を知っているかね?」
そう言われてみて思い出したのは、『軍師』と初めて対面した日の事である。
彼女は誰かに毒づいていた。
だが、反面、誰かと連絡を取りたがってもいた気がする。
「もう一人、『軍師』と協力関係に在る存在が居るようです」
素直に伝えると、これはアダマンも初耳であったらしく興味を示してきた。
「何者かな?」
「『あちらに自分が居たならば、口論で終わっていた可能性も有った』と語っては居ましたが、こちらにいる存在、詰まり今アダマン様が仰った『威厳有る存在』よりは親しげで“相談に値する相手だ”、との物言いでしたね」
最後の言葉にはアダマンも頷く。
「此方の『威厳有る存在』は『軍師殿』と全く話をしない訳では無い様だが、重要な話をしようとすると反駁する様だ」
「完全な敵対関係ではない、と?」
「うむ。私の見る所、実は上位にいるのは『軍師殿』なのではないのか、と思うのだよ」
「反乱ですか?」
「反抗、と言う程度かも知れないが、その為に『軍師殿』が困っている事だけは確かだな」
ルナールは今までの話を聞いている内に、アダマンという人物はフェリシア侵攻についてどう考えているか知りたくなった。
素直に問うてみる。
返答は“馬鹿げた行為だ”であった。
「何故でしょうか?」
「我々の故郷は、実は例の『鳥』など凌駕する程の文明を誇っている。
これは不思議な事だが、『威厳有る存在』の前に立てば、その光景を在り在りと見せてくれるのだよ」
「まさか!」
「ルナール君、君は『あの物』の内部に入ったのだろう?」
アダマンがルナールを呼ぶ呼称が『殿』という儀礼的呼称から、友人の様な物に変わった。
秘密を共有する仲間という雰囲気からか、未だ若年と言える彼に気遣いをさせない為かは知らないが、ルナールはそれだけで重苦しい話が少し楽になるのを感じる。
やはり、アダマンという人物は人を扱うのに慣れている。
兎も角、問われてルナールは返事を返す。
「はい」
「では聞くが、あの内部、どれ程人が居たと思うかね?」
ルナールは「あれ」即ち、大気圏再突入用の救命艇の内部の様子を思い出す。
「何やら体を縛り付ける為と思われる紐の付いた椅子が五十か六十程、ありました」
「うむ。正確には六十四席だ」
アダマンは修正を入れ、猶も話を続ける。
「この世界の歴史は五百年程前にいきなり始まっている。
あの船……。
そうだね『船』と呼ばせて貰うが、あれに乗っていた六四名から高々五百年間で人口が四億を超えると思うかね?」
ルナールとしては当然だが首を横に振るしかない。
「では、あれ以外にも多くの『船』が在ったと?」
「そう考えるのが自然だろう。何より、あの船は小さすぎる。
月までも行く事は叶うまい」
「月が故郷なのでは?」
「君は月に水や緑がある様に思えるかね?」
アダマンの最後の問いにも首を横に振るしかないルナールであったが、少々反論を試みてみる事にした。
「フェリシアは自在に故郷と行き来している可能性も有るのでは?
あれほどの『鳥』をどこからか持ち込んでいるのですよ」
アダマンは首を僅かに傾げる。
「あれは……、何か違うな」
「と仰いますと?」
「私が『威厳有る存在』によって見せられた物の中にあの様なものは無かった。
いや、類する物は有ったが、あの様な“子供だまし”なものでは無い。
何より君の持ち込んだ『ミスリル』だが、質が悪すぎる。
あの程度の物を持ち込むくらいなら故郷には我々四億人、一瞬で皆殺しに出来る程の武器も存在するのだから、それを持ち込めば良い」
驚愕の一言である。
シルガラ砦を一瞬で破壊出来る鳥を指して“子供だまし”と言い、挙げ句には
“四億人を皆殺しに出来る武器”と来たのだ。
其の様なものが存在するのか?
ルナールの思考は停止寸前である。
だが、アダマンは更に追い打ちを掛けていく。
「私はね、――――――だと、思っているんだ。
話せば長くなるが根拠もある。
『軍師殿』の言葉に気を付けていれば君ならば分かるだろう。
仮に私の考えが間違っていたとしよう。
そうして故郷に辿り着いたとしても、我々は『あの社会』で生きる能力はない。
だからフェリシアに侵攻する事は馬鹿げていると言っているのだよ」
そして一息吐くと、何かを決意するかの様に付け加えた。
「我々はこの世界で、新しく歴史を作るべきなのだよ」
アダマンの予想については置くにせよ、確かにルナールにも“あの様なもの”はこの世界には要らない気がする。
いや、いずれ現れるにしても我々には早すぎる代物の様な気がするのだ。
と云う事は其の様なものが日常化している世界で我々は生きていけるのか?
『不可能だ!』
ルナールもアダマンと同じ結論に辿り着く。
それに何より『軍師』も言っていたではないか、あれらの兵器を使ってシナンガルを荒らさせるが、
『最終的には出ていって貰う』と。
何もかも我々の世界には異質であり、危険な物なのだ。
それを考え直すべきであろう。
幸いにもこの世界には『魔法』が在る。
別の形で国家の発展を考えるアダマンは正しい。
思わず頷くルナールであったが、ふと疑問が首をもたげる。
「ならば何故、今回の侵攻計画に異議を唱えないので?」
「痛い目に会わないと分からない輩は幾らでも居る」
アダマンの答えは何時も簡潔だが、実に分かり易い。
唯、ルナールの理解力もそれ相応である為、互いに話が通じるのであろう。
「なるほど……、仰る通りですね」
思わず苦笑も漏れた。
自国の軍に痛い目に遭って貰うことを望むルナールとしては、単純な笑いではないのだが。
話は一旦終わりにして明日、又、軍師を交えて話をしようと言う事になった。
先に立ち上がり、一礼して場を辞そうとするルナールをアダマンが呼び止める。
会談が和やかに済んだことで油断していたルナールは、アダマンの言葉に心臓が跳ね上がるのを意識する程、驚かされることになった。
「尋ねるが、君はこの国の奴隷制度をどう思うかね?」
『背筋に氷塊が投げ込まれる』とはこの事であろうか。
マークス・アダマンと言えば、奴隷の『分割統治方式』の提唱者である。
ルナールが“もしや、自分の狙いが知られたのでは”と恐れたのも当然で有った。
しかし、此処で取り繕う言葉を発しても自分が日頃から奴隷に対してかなりの自由を認めている事はすぐにばれてしまう事なのだ。
何より、自分の出自の問題でもある。
本音を交えた無難な答えを選んだ。
「あまり、好きでは在りません。私も元は奴隷の子ですから」
その言葉にアダマンは頷く。
但し、その頷きは単なる頷きではなく、何時か首都の会合で見たものと同じで満足げな笑みを湛えていた。
サブタイトルは、イアン・マクドナルドの「火星夜想曲」からです。
名作との誉れも高い本ですが、目を通したことがありません。
「何時になるやら、」ですね。




