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星を追う者たち  作者: 矢口
第七章 愛に生まれ、殺戮に育つのは『世界』
94/222

93:魔獣殲滅?

 C-2Wは空中警戒管制機(AWACS)としての専用機ではない。

 単なる輸送機である。

 しかしながら巧の国の旧軍での悪癖(あくへき)を受け継いだという訳でもないが、余裕がある空間を使って機能を付加した部分があり、僅かだが空中警戒の役割を持つことも出来た。


 付加機能を指して悪癖と言ったのは、兵器というのは結局一つの兵器に『あれもこれも』と詰め込むことが一番良くないのだ。

 何でもやろうとすると、結局何も出来ない失敗作が出来上がってしまう。

 隼などは例外的に航続距離、爆弾搭載量、格闘戦機能と全てのバランスが取れた傑作機となったが、後に現れた戦闘専用機にはやはり遅れを取る事になった。


 一九七六年に現れたF-15と言う戦闘機が五十年の長きに渡って世界の空を支配することが出来たのは大戦がなかったこともあるが、何よりその単純明快さが最大の要因であろう。


『大馬力高速制空戦闘』 


 この一点にのみに特化した事からパイロットの生存率が飛躍的に高まり、結果として彼らの飛ぶ空に於いて他の航空機が敵対存在を許される事はなかった。


 そうして二〇〇〇年代以降の技術向上によりマルチロールと呼ばれる「多機能戦闘機」が主流になりかけたものの結局は莫大なコストが邪魔をし、コストダウンに成功した頃には対空レーザーの時代が始まってしまったのが今日(こんにち)の世界である。



 C-2Wに話を戻す。

 AWACS専用機というわけではないが、やはり大型機だけ有ってそのレーダーレンジとアビオニクス(航空管制電子機器)はF-3Dよりも格段に上の性能を誇る。


 彼らは二機のF-3Dと別れて一時間と立っておらず、未だ明確にF-3Dの姿をそのレーダーレンジに捉えていた。


 が、レーダー観測員にとっては信じられないことが起きた。


 高度七千七百メートルを飛んでいた筈の二機が一瞬にして高度一万二千メートルの上空に移動したのを観測機器は捉えたのである。

 搭乗員達は、機器の故障を疑ったが電子機器は三重のセーフティによって監視されている。


 狂いはあり得ない。

 また“念のために”と点検を急ぐがやはり故障や異常とも思えない。


 次の瞬間、先程と同じく観測された二機は一瞬で高度を二千メートルは下げた。

 同時に三八〇ノット即ち時速七〇〇キロ程で飛んでいた機体はいきなり六五〇ノット、ほぼ音速である時速一二〇〇キロで急降下を始めたのである。


 墜落、の動きではない。

 何より慌てて繋いだ二機の無線からは、彼らが何者かに戦闘を仕掛けている会話が在り在りと伝わってきたのだ。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 機体に軽い振動が伝わる。 


 岩国は機体が音速を超えたのを感じた。

 空気密度との関係であろう。速度計は六八一ノット(時速一二六一キロ)を指したところだ。


 垂直降下対応ギリギリの速度であるはずが、機体の警戒装置(アラーム)は何ら反応しない。

 また、この先に敵がいるというのだがレーダーレンジには何も写っていない。

 当然、肉眼でなど何も捕らえようがないが、凄まじい勢いで機体に添って大気が流れていく事だけは分かった。

 対抗力場に全てを任せている事からF-3Dのカタログスペック以上の能力は出ている。

 しかし地上までは未だ未だ距離があるにせよ、速度を保てば六分弱では地面に激突することになるのも事実なのだ。


「なあ、マーシアちゃん。信じてるぞ!」

 横田が叫ぶ!


 が、横田の叫びに応えたのはマーシアではなくアルスであった。

『お任せ下さいな』

 彼女の声がインカムに響いた途端、二人のパイロットの周りから音が消えた。

 続いて色も消える。


 いや、音や色、(どころ)か機体そのもの、挙げ句は自分を包むコックピットも消え、最後には唯、自身の感覚だけが空中に放り出されている。


 次の瞬間、遠くにキラリと光る物がある。


 二人の意識はほぼ同時に互いがどう動くべきかを判断した。

 見えないスティックを(あやつ)りフットバーを蹴飛ばす。右にいた岩国機は右に、左にいた横田機は左に機体をロール展開させた。


 ほぼ同時であった。


 その機体の腹を凄まじい迄の熱線が通り過ぎる。


 対抗力場が激しく反応して眩しいほどの碧い炎を一瞬だが生み出す。


 八八万倍の速度に打ち勝ち、二人のパイロットは荷電粒子ビームを正面から回避したのである。


 そして、横田・岩国の二人には“見えた”

 普通自動車程度の大きさ、その表面に鱗を(まと)った爬虫類を思わせる円筒形の生物的形状バイオロジカル・シェイプ

 しかし、それは確かにDACS(姿勢制御装置)を搭載した『キネティック弾頭』の如き荷電粒子砲であった。

 

 二人は全く同時にHMDヘッド・マウント・ディスプレイに照らされた照準点に迷い無く三〇ミリ機関砲弾を叩き込む。

 見える者が居たならば三〇ミリ機関砲弾の弾頭のひとつひとつが薄く紫色に輝いているのに気付いたであろう。

 マーシアによって対抗力場を応用したコーティングが発射と同時に機関砲弾のそれぞれに成されているのだ。

 そして、その砲弾コーティングは相手のモース硬度など無視する程の『衝突対象物分子分解』の能力を備えている。


 彼我(ひが)の距離は既に一キロを切った。

 F-3D胴体側部、左右対称に装備された機銃口から発射された全ての砲弾は余すところ無く『物体』の中心を(つらぬ)き、その破片を空中に撒き散らして逝く。


 と、次の瞬間、高度七千メートルにおいて燃料気化爆弾(サーモバリック)の爆発とも見紛(みまが)う程のふたつの閃光と爆圧が現れた。

 

 僅かな衝撃を感じつつも、対抗力場に守られた二機のF-3Dはその光の中を突っ切り、更に黒煙の中を抜けると高度五千五百メートルで水平飛行に移行する。


 横田が上空を見上げると青空に『煙』だけが雲になりかけて棚引(たなび)いていくのが見えた。

 ふと、気付くと音も色もその身に戻っており、スティックの感触は直に掌に伝わっている。

 いや、シートもベルトもラダーも、そして対Gスーツが体を締め付ける感覚さえもが元に戻っていた。


「なん、だったんだ……。今の、は……」

 横田の声に岩国が反応する。

「レーザーって……、見える物、だったんですね……」

「うん……」

 間抜けな返事になってしまった。 

 と横田は思ったが、今は子供の様に驚いても良い時なのだと、何故だか分かってもいたのだ。




     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



『トガ』……、フェリシア最北西部に位置する『地名』


 過去に二度の侵攻があった場所でもあり、山脈を(くだ)った西側対面距離百キロメートルの位置には分断工作によって骨抜きにされたとは云え、最大十二万の軍を直ぐさま動員できるスゥエンが存在する。

 そしてトガはそのスゥエンと対峙するために砦を(よう)しており、現在、『トガ』とは砦の名をそのまま指すことも多い。


 トガの砦の東の谷間に村が生まれて、そろそろ半年になる。

 

 砦は最少時に於いても最低一千名の兵を抱えている。

 そして、その南方に一時的に生まれた『廃村』は既に砦の補給拠点としての必要性からも()うに復興を終えてはいた。

 しかし、やはり其れは純軍事的な補給の為の施設であり、『村』と言っても兵士の為の保養所の様な位置づけであった。


 そうそうに麓のリースまで一々(いちいち)兵を降ろす訳にも行かないのだ。


 よって兵士にとっては東に新しく村など作らなくとも、別段に不足しているものなど無かったと言っても良い。



 と、言いたい処であるが、其れは軍を知らぬ者の言葉である。

 いや、『人』を知らぬ者の言葉と言っても良い。


 人間は、人間の普通の生活から離れて生きていくことは中々に難しい。

 特に軍の補給点として復興された村は、あまりにも目的性が見えすぎて、人の生活の場と言うよりも『軍人を慰撫(いぶ)する』事を目的としていることがありありと見えた。

 そして、そのような中で作られた『自然な村らしさ』ほど、人を白けさせるものは無い。


 砦の南に隣接する村は此処を故郷とする人々の村ではなく、国と軍の依頼で訪れる人々の商業活動の場なのである。

 長くとも七年程で人は完全に入れ替わってしまう。

 勿論、いくら軍からの依頼とは云え、此の様な僻地に生活する以上、大多数は善良で親切な人々と言えた。


 希に、僻地手当を高額に割り当てられている兵達から搾り取ることしか考えずに契約を結ぶ商人も居ないではない。

 しかし、そのような人間は最後には兵士達からそっぽを向かれ、苦情が貯まれば契約が切れた途端、これまた姿を消す。

 いずれにせよ、人工的に作られた村であり、この六十年間この地に根を下ろした者はそう多くはないため、兵士もやや気持ちがすさむのは事実だ。


 よってこの砦の任期は四年を越えない様に議会も王宮も気を遣っていた。

 シエネに一任すると云うには、あまりにも重要な土地であったのだ。



 その王宮から『あくまで可能性ではあるが』との前置き付きで連絡を受けては居たものの、実際に五十数名のシナンガル奴隷が砦壁(さいへき)(もと)に立った時、兵達は誰一人として驚きを隠すことは出来なかった。


 五百キロメートル。 

 その気になった人間にとって、それはどうということはない距離なのかもしれない。


 だがシナンガル東部は獣も多く、何より人里など殆ど無い。

 つまり他者からの旅の助けなど全く受けられない地域である。

 スゥエンを避けたというならば、まともな道すら辿(たど)れたかどうかも怪しい。

 その中を唯の一人として脱落者を出すこともなく、彼らは此処(トガ)まで辿り着いた。

 

 様々な困難、いや仲間同士での(いさか)いも数知れずあったと聞く。

 しかし、それを乗り越え、時間にして三ヶ月を僅かに過ぎて彼らはライン山脈の尾根に辿り着き、そして自然に結界を越えフェリシアに入国したのであった。


 

 普通に考えれば彼らは厄介者である。

 しかし、砦の兵士達にとっては、『民を守る』という兵士としての絶好の機会が出来た事を内心喜ぶものが多かった。


『スゥエンを警戒』だの、『睨み合いが続く』、だのと言えば聞こえは良いが実際のところスゥエンは巧の分断工作によって全く身動きが取れないことなど一兵卒にまで知れ渡って居る。


 時たま、ヴェレーネが仕掛けた魔法石の反応に従って山道に兵を伏せると、シナンガルのスパイが掛かる。

 これを捉えるか殺すかが仕事の大半だが、それすらも月に一度もあれば多いほどだ。


 その中に現れた、みすぼらしい奴隷達。

 しかも、彼らは新しく村を造り、この国の国民として根を下ろしたいという。

 敵意がないのは結界を越えたことで分かる。


 となると、後は彼らに教育を施さなくてはならない。

 全く持って『何も知らない連中』なのだ。



 人間には様々な『欲』があるが、その中に『教育欲』というものが存在する事を多くの人々は知らない。

 誰かにものを教えること、それによって感謝されたり、教えを受けた人間が成長する姿を見ることを喜びとする感情。

 それが『教育欲』である。


 少々、品のない言い方に置き換えると『自分の色に染める』という奴である。


 

 さて、その教育は当然のことながら『砦の兵士達』に一任されることになった。

 面倒である、とか、何で俺たちが、などと一応形だけは不平を漏らすものの、“ある種の喜び”に彼らは逆らえなかった。


『先生』であるとか、『師匠』或いは『旦那』などの“自分を頼りにして来る言葉”である。

 いや、元奴隷達の口調は紛れもなく“彼らを神聖視する言葉”ですらあった。

 この言葉が彼らの教育欲に更に火を付けていくことになる。


 元々、僻地の割には兵士の数は過剰であり、守備隊長も兵士に与える仕事に困っていたほどである。

 刺激に飢えていた兵士達にとって流入してきた奴隷達の数が少なかったことも幸いし、教育活動は負担にも感じられなかった。

 何より元奴隷達は自分たちで困難を乗り越えたためか自立性・自律性が共に高く、これによって兵士達の信用を得ることにも差程に時間は掛からなかった。


 トガの新しい村はフェリシア国民となる為の学校であり、その教師は主に砦の若き兵士達が担う事になった。

 新しい風がトガに吹き、兵士達の活動は活発になっていく。


 四月に予想されるシナンガルの大侵攻に対しても油断は出来ないものの、兵士は武人と教師として、元奴隷は村人と生徒としてのバランスを持った新しい地域生活が生まれ始めていた。




 そんなトガにおける三月十八日。


 浅く残った雪をかき分ける様にして、砦に走り込んできた者が居た。

「お~い! ジョバンニさん。トリエ先生。急いで門、開けて! 門!」

 八メートル以上の城壁から、ジョバンニが下を眺めると『谷の村』と呼ばれる、元シナンガル人の村の子供達数名が走ってくるのが見えた。

 最初に声を掛けてきたのは十歳になるかどうかというアルフォンスと呼ばれる少年である。

 この子はジョバンニの剣の生徒でもある為、どうにも気安い。


 彼らは、南の村に設置された学校に行き、同時に兵士に対しては徒弟制度によって、それぞれが得意とする手作業の弟子となっている。

 トリエと呼ばれる兵士は日頃は大人しく目立たないが、冶金技術や象眼技能に優れている為、弟子入りする生徒が多い。


「アル、おまえね。 

 トリエが『先生』で、俺が“さん”ってのは、どういう事だい?」

「そう云う“せこい事”言ってるから師匠はいつまで経っても十人長に上がれないんだよ!」

 

 砦の下から返ってきた少年の言葉はジョバンニの胸を貫き、城壁から落下してもおかしくないほどのダメージを与えていたが、彼は何とか踏ん張った。

「もう、お前には『剣』は教えん!」

「ああ! ずるい! ちゃんと師匠って呼んだだろ!」


 叫ぶアルフォンスの頭に周り数人の少年達からげんこつが飛ぶ。

「お前! ホントいい加減にしろよ。師匠が本当にへそ曲げたらどうするんだ!」

「『礼儀は守る!』 教えて貰っただろ!」


 様子を見ていたジョバンニは“失敗したかな?”と思う。

 元奴隷の子達は(いま)だ、主従関係に強く縛られている。

 勿論、フェリシアにも主従関係がないとは言えないが、それは徒弟(とてい)制度の範囲であり、奴隷と支配者の感覚ではない。

 アルフォンスは基本として練兵場での礼儀はきちんと守っているのだ。

 これくらいの軽口は許してやって欲しい、と思うのだが。

 確かに人間、付けあがると切りが無い。

 

 案外、今怒鳴っている年長の少年の方が正しいのかも知れない。

“教育は難しい”などと考えながら年長の少年に声を掛ける。

「リーン! アルは兎も角として、何か問題かい?」

「はい、師匠! 魔獣が出ました」


 リーンと呼ばれた少年は十三歳ほどで、その年齢(とし)の割に長身、亜麻色の髪、涼やかな碧い瞳の少年である。

 彼は落ち着いた口調で報告をしてきたが、その中に含まれる単語、『魔獣』は落ち着いて聴いていられる様な代物ではなかった。




 二百名以上の兵士が砦から緊急に飛びだす!

 だが、結果はあっけないものであった。

 アルフォンスやリーンを含む少年達が嘘を吐いていた訳でもなければ、勘違いをしていた訳でもない。


 確かに『魔獣』は存在した。

 しかも総数は四十四匹という大軍である。


 しかしながら、何というか……、

 あっけないものは、あっけないとしか言いようが無かったのだ。


 魔獣は初めて見るタイプの魔獣であり、回収した首の骨からも確かに魔獣である事は間違いなかった。

 しかし、その首の骨から得られる魔力は、多分に魔法石に製錬すれば子供が火遊びを数回も楽しめば尽きてしまうほどに弱々しいものであったのだ。


 当然、『魔獣』も其れに応じた力しか無かった。


 砦の守備隊長によって『ジャイアント・トード』と、姿そのままに名付けられた魔獣は大型化した『蛙』であった。


 大きさは一メートル弱、重さは五十キロ程度だろうか?

 凄まじい筋力であり、下手に正面に立って体当たりを喰らえば骨の一本も折れてしまいそうだが体の表面が普通の蛙と同じ程度に柔らかい為、ぶつかってもひっくり返されるのが関の山である。


 勿論最初は、そうやって突撃されることによって、村人も兵士達も怯んだことには間違いはない。

 しかし、その魔獣は筋力を除けば呆れる程に『弱かった』



 口の大きさから見て、小さな子供程度なら一飲みであろうが、動きは通常の蛙をそのサイズに拡大した程度の速さであり、体のサイズの問題からも舌の力は成人女性を一瞬で呑み込むという程のものでは無い。

 ナイフ一本もあれば、子供でも巻き付いたその舌を切り取り反撃に移ることが出来る。

 脇腹に思い切りロングナイフを突き立てれば、皮膚の柔らかさから心臓まで一気に届いてしまう様であり、繰り返すが『魔獣』と言うにはあまりにも弱すぎた。


 但し、家畜、特に小型の鶏や子豚などの被害には気を付けなくてはなるまい。

 又、人間も五歳以下の子供ならナイフを持っていても呑み込まれてしまう恐れがある。

 一応に危険な害獣として考えなくてはならない存在では有った。


 兵士の到着前には三割方が村人に倒されていた四十四匹の魔獣は、驚いたことに最後は谷間の村の人々によって調理され食われてしまった。

 シナンガルでは魔獣は一般的な存在ではなかった為、普通の蛙と同じ感覚であったのであろう。

 なにより彼らは、奴隷時代に蛙や蛇などは貴重なタンパク源として、幾らでも食べ慣れていたのだ。


 蛙を食べ終えた村人からは守備隊長に次の様な申し出があった。

『鶏肉の様であり実に美味かった。まだまだ残りがある。

 腐らせるのももったいないので、砦の皆さんもどうか?』

 

 この申し出を隊長以下一千名の兵士達が、誰一人として受ける気にならなかったのは言うまでもない。


「魔獣を食った奴なんて初めて聞くよ……」

 詰め所のテーブルに着いたジョバンニが剣についた蛙の脂を拭き取り、手入れをしながら呟いているとトリエが近付いてくる。


「なあ、ジョバンニ」

「どうした?」

「あの蛙たち、どこから来たんだろうな?」

 そう言われて、ジョバンニは今更ながらに、はっとした。


 あの様な魔獣、どこから湧いたというのだ?

 南方に現れているハティウルフや、ヘルムボア、ドラゴン、其れと滅多に見られないがガーグルと呼ばれる四メートル程の蛇の様な鱗の肌を持つ虎、アクリスと呼ばれる凶暴性の高い大型ヘラジカなどは全て南方のビストラントから北上しているのは分かる。

 その他の小さな魔獣も全てそうであろう。


 だが、今回現れた『ジャイアント・トード』は果たしてどこから来た?

 トリエの言葉は放置しておけるものでは無かった。



 その後も『ジャイアント・トード』は、何度か現れたが、どうやら南に向かう様であり、踏みつけられる農作物や家畜の被害にさえ気を付ければ、村人達には程よいタンパク源として歓迎された。


 首の骨は砦の地下倉庫に放り込まれたが、王宮からは、

『蛙は季節ものである以上、出没しなくなってから纏めて引き取るのが良いであろう。

 報償は出すので、誰がどれだけ倒したのか記録はきちんと取っておく様に』

 と伝達があった為、子供達はちょっとした自由人(バロネット)ごっこを楽しむことになった。


 様々に有名バロネットを名乗った彼らは、チームを組んで蛙狩りにいそしんだが流石に『マーシア・グラディウス』を名乗る命知らずは居なかった。

 彼らも砦の師匠や先生からマーシアの名を聞き及んだ上、存命だと知ると『おふざけ』にも使える名ではない、と教えられるまでもなく納得したのである。


 また蛙狩りに際しては相手が幾ら弱いとは云え、あの巨体である。

 怪我をする子供は幾らでも出た。

 放置しておけば村内たった八名の子供達に死人が出ないとも限らない。

 その為、村の大人達や砦の教師達は子供達の教育に更に気を遣っていくことになる。



 そのような中、ジョバンニとトリエはそれぞれ十人長となり、部下を引き連れて或る命令を受けることとなった。

 ジャイアント・トードの生態に関わる疑問を最初に口にした二人に任務が申し渡されたのである。


 トリエは、北部及び東部に於いてジャイアント・トード出没点の調査を、ジョバンニは南部に向かい、最終的に何処で越冬なり産卵なりを行うのか?

 と言う調査であり、即ちこの世界で地球軍の活動を除けば数十年ぶりの魔獣の生態調査が行われることになった。


 その中でトリエは北部に於いて、またジョバンニは南部に於いて、それぞれにフェリシアにおける魔獣の生態の大きな変動を知る事になる。



 四月十日、城門前の二十騎の馬影はそれぞれ南北へと二つに別れて旅立った。




サブタイトルは、梶尾真治氏の名著「サラマンダー殲滅」のもじりです。

これ読んだ事無いんですよね。(当然、気にはなっています)


ストーリーをちょっと聞くと、新谷かおる氏の「砂の薔薇」に重なる気がするのは私だけでしょうか?

まあ、読んでみないと分からないですよね。

「黄泉がえり」は素晴らしかったです。

最初に読んだのは「未来(あした)のおもいで」だった気がします。

後は何か読んだかな?


11月13日変更

タイトルは最初「魔獣殲滅!」と断言でしたが、「魔獣殲滅?」

と疑問形へ変えさせて貰いました。


何だか、話の内容と合わない気がしました。

話が「やったかな?」とか「これ、魔獣か?」って感じですので、すいません。

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