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星を追う者たち  作者: 矢口
第六章 海の風、国境の炎
76/222

75:ディファレンス・オブ・オピニオン

「きっと!なにものにもなれない、おまえt」

「出だしから、やる気無くさせる事言ってどうすんですか!!」


 ルナールの厳しい突っ込みに、スーラは少し拗ねてしまった。

 座り込んで人差し指で地面に何やら書き始める。


「ルナールがね~、いじめるんだよ~、スーラはね~、おくさんなのにね~」

 などと妙なこと事を口走っている。

“面倒くさい”と思うが放置も出来ない。 

 なんとか(なだ)めすかして、二人のエルフとの引き合わせを進めた。


 再度、スーラにフードとマスクを被せると『軍師』が現れたようであるが、声は出さずにエルフ達をじっと見ているだけである。

『最初からこうできていたなら』

 と今更ながらに思うが、昼間は侍女達の目もある為、そうも行かなかったのである。


 ルナールはエルフ達と交渉し、二名のエルフに自分たちの行動への協力を依頼した。

 見返りは女性のエルフ達の帰郷を認めることである。

 成功報酬と言うことになるので可能性は低いのだが、それは彼らも駄目で元々と割り切った。

 その上で首都に使いを送り、期限を付けてではあるがエルフ二名を『ルナールの私物』として認めさせたのである。

 これには、ワンの力が大きく働いた事は言うまでもないであろう。


 彼らの首輪を外す前にスーラに引き合わせたのは、軍師に彼らの力の確認をさせるためである。

 また、エルフ達の危険性も調べさせた。


 この行為に、ふたりの侍女達は、

「お嬢様の前に奴隷、しかもエルフなどを連れてくるとは!」

 と、あまり良い顔をしなかったのだが、そこは何とか勘弁して貰う。


 侍女達の態度に辟易しつつも、反面スーラは良い侍女に恵まれているようで良かった、と何故か安心したルナールであった。

 出がけの光景が、あまりにも彼女に対して優しさに欠ける有り様だと感じられたからである。


 この国の人々は権力に弱い。

 同時に(うと)ましいものを集団で排除しようとする傾向も強い。

 要は優しくないのだ。 何故、人に優しくないのか。

 それは『勇気がない』からである。

 人を守るという事、集団から白眼視された者に手を差し伸べる事は勇気が必要だ。

 それ無しに、本物の『優しさ』は存在しない。


 侍女達はスーラを守るという事では、議員階級であるルナールに抗議の意を示し、一応その『勇気』を見せた。

 しかし、本物かどうかは未だ分からないのが辛い所である。

『ワン家が彼女を見捨てようとしている』

 という噂に半信半疑であるだけで、それが事実ならスーラにそっぽを向く可能性もある。

 実際、後ろ盾のない奴隷に対しては情の欠片(かけら)も見せない。


『冷たい』、と云う事は場合によっては必要な事もある。

 だが、優しさがないということは『弱い』という事、ただそれだけなのだ。

『本当の意味で強い国にしたい。その為には国民ひとりひとりが強くなくてはならない』

 ルナールはいつしかそのような事まで考え始めていた。



 軍師の見る処、エルフの二人は安全面でも精錬・製錬いずれの能力面でも合格であった。

 しかし、まずは基礎から教えなくてはならない。

 暫くはガンディアに留まり、彼らと共にルナールも鉄や鉛の精製について学ぶ事になる。


 (精錬=鉱石から原料を取り出す事  

  製錬=原料を鍛えて使用できる製品としての精度を高める事)


 

     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ルナールは今、スーラお嬢様と二人で平原にいる。

 一月とは云ってもこの辺りでは雪も殆ど降らないため、僅かだが冬咲きの花も見られる。

 周りには何もなく、お付きの者達も随分と距離を取ったところに控えさせた。

 ここなら『軍師』と話をしても誰に訊かれる心配もない。

 スーラお嬢様の身の安全に関しても万が一の際にも問題のない場所でもある。

 

 巧達の世界でも政治家がゴルフ場で話をする事があるが、あれも同じ理由である。

 周りに遮蔽物はなく盗聴は出来ない。

 しかも、プレーをしながら常に動き回っている。

 あれ以上に密談に的確な場もあるまい。

 この場での二人も、ゴルフという訳でもないが常に歩き回ることを怠らなかった。


「しかし、解りかねる事柄が二つありますね」

「一つは?」

 スーラの姿で軍師の声を出されると違和感が半端なものではない。

 その為、スーラには例のフードとマスクを身につけてもらっているが、侍女や兵士達にとって、その姿は『お嬢様の悪ふざけ』にしか思えていないであろう。


「まず、魔法士の存在、と言うより『ハーフエルフ』ですね。 

 そうそう簡単に生まれるものでは無いと聞きますが?」

「あなただって多分その末裔でしょうに」

 軍師は呆れたと言うかのように、肩をすくめる。


「この際、私のことは置いておいて下さい。 

 実際どうなっているんですか?」

「どうもこうも、『数をこなしている』だけでしょうね」

 見た目十才の少女の口から出て良い台詞(セリフ)ではない。

 フードとマスクをしていてくれて助かったとルナールは心底から思った。


「でも……」

 続けて、軍師が珍しく言いよどむ。

「でも? 何ですか?」

「確かに多いわね。その分、力は弱いけど。 

 多分、『維持機能』のバックアップの殆どが生命維持に使われているんでしょうね」


『維持機能』? これまた意味不明な言葉である。


 ルナールがその点について問うと、

「例の『首輪』が子供を作り易くして、魔力の遺伝を行い難くしている。 

 そういうことよ。 

 彼らに触れることが出来ればもう少し解るんでしょうけど、この姿では侍女達も許しはしないでしょ? 今暫くは推測で語るしかないのは許してね」

 そう言って軍師は侍女達の方を見る。

 マスクのため表情は掴めないが、特に感情を顔に表しているとも思えなかった。


「単純な意味では理解できましたが、言葉一つとっても未だ秘密が多いようですね」

「それを知るための旅だって気付いてるんでしょ?」

 軍師は口元だけで笑った後、もうひとつの疑問は何かとルナールに問う。



「いや、『精錬』もしくは『製錬』ですよ。 

 質のよい鉄が出来たとした場合、フェリシアに対抗できる武器が揃うだけなのでは?」

「ああ、なるほどね。それなら心配ないわよ。

 フェリシアって国はね、今でこそ基本的には武器に『鉄』を使っているけど、『鋼鉄』や『ミスリル』くらいならすぐに生み出すわよ。

 あの国は、こっちが鉄を使っているからあっちも鉄を使っているだけなのよ。

 環境の保護を優先させているんでしょうね。

 まあ、(つぶて)の素材だけはどうしようもなくて、この世界とは別のモノを使わざるを得なかったようだけど」


 これにはルナールも驚いた。

『鋼鉄』というのは、通常の鉄を作る以上に難しい。

 炭素を抜く技術に置いて、どうしても高温と高圧が必要だからだ。

 地球においては産業革命期にコークスと呼ばれる『石炭を蒸し焼きにして高温を維持できる燃料』が生まれてからようやく大量生産が出来るようになった。


 それ以前は原料となる鉄鉱石や砂の質と職人の腕、根気に左右されるものであったのだ。

 その為、カグラにおいても鋼鉄を使った武器は所謂(いわゆる)、『業物(わざもの)』と呼ばれる程に数が少ない。


 その上、『ミスリル』など伝説上の金属ではないか。


「ミスリルなどという金属が本当に有るので?」

「あなた手に取ったでしょ?」

 軍師は何気ない口調であるが、ルナールは先程以上に目を見開かされる羽目になった。


「もしかして!」

 そう言うと、肩掛けの鞄から金属片を取り出す。

 岩国の『隼』の一部である。

 首都に送った直後に議員達、特にワンによって検分された後にルナールに戻されてきた。

 つまりアクスの試験にパスとまではいかなくとも、今まで作り上げられたモノに比べれば数段上の素材(マテリアル)だと確認された訳だ。


 これを再現し、更に上の素材を作り上げることがルナールに与えられた軍師からの命令と言うことになっている。

 ワン家と議員達が、現時点においてルナールに自由に振る舞うことを許している理由がこれなのだ。


「これが、ミスリル!」

 巧の世界では『超々ジュラルミン』と呼ばれるアルミニウム合金である。

 元の『超ジュラルミン』は先の大戦で零式と呼ばれる艦上戦闘機に初めて使われ、それ以来進化を続けてきた。

 現在、航空機や人工衛星の外版や骨格はカーボンナノチューブと呼ばれる素材にまで発展しており、これなどはまだ低レベルな部類であるが、この世界では『これ』が作れなければ次の段階に進むことは不可能である。

 つまりは、どうあってもこの素材の製法をモノにしなくてはならない。

 礫の素材も調べが着くならばミスリルに近づく良い研究材料になるであろう。


 しかし、それらの未知の物質をフェリシアはすぐにでも生み出せると聞けばルナールでなくとも驚くのは当然である。

「では、何故それを武器に使わないのでしょうか?」

「使ってる奴は居るんじゃないの? 目立たないってだけでね。 

 それだけの代物なら手放す奴も居ないでしょうしね」


 軍師の言葉は多分事実であろう。

 僅かながらだが、フェリシアのどこかにそのような武器か埋もれている可能性は高い。


 事実、マーシアのハルベルトなどは彼女の炭素脱硫による硬化を何度も掛けられ続けた挙げ句、触媒に様々な元素を使ったこともあって元々は(はがね)であった物が何時の間に構造が逆転してしまい、クロム鋼をチタニウムで強化したような素材になってしまっている。


 現在(いま)では三十式の足回りに使われる合金より強度も粘度も高くなってしまった。

 あれこそ(まさ)しくミスリルといえる。


 王宮も『それ』を普通の者が使っていたなら召し上げてしまっていたであろうが、使っているのがマーシアなら他国に流れる心配もない。

 何より、あれは作ろうと思って作れるモノではなく偶然の産物に過ぎないと言う事も理由の一つであろう。

 マーシアの身分である自由人(バロネット)が最大の障壁かもしれないが。



「しかし、軍師殿の言い方では『武器を作る事は特に目的にして居ない』と聞こえますが?」

「そうよ」

「では、何に使われるので?」

「完成しなくても良いのよ。あなたに『あるモノ』を見せたいの。

 議員達が何を考えているのか、それがどれほど愚かなことなのか理解してもらうための第一歩ってところね」

「つまり、無駄なことをやらされている、と?」

「ごめんね。でも必要な無駄なのよ」

「矛盾してますね。しかし騙されるよりは良いです」

「ま、結果は知らない方が楽しいって事もあるわ」

「……楽しい事実ではない、と先ほどから言っているように聞こえますが?」

「あ、分かる?」

「……まあ、良いでしょう。色々、諦めてますからね」

 二人の今日の会話はここまでである。


 お嬢様の体が持たないようだ。

 スーラに戻ったとたん、彼女は寝込んでしまった。

 

 いきなり『くたり』と言う感じでスーラの体勢が崩れた。

 自然な動作でルナールはその体を受け止める。そのまま抱き上げた。

 厚手のコートを含めても、羽のような軽さが年相応のかわいらしさを浮かべる寝顔とともにルナールに苦笑を引き出させる。


 侍女を呼んでスーラを引き渡し馬車に乗せると、宿舎に使っているこの町の議員会館へと一団は帰っていくことになった。

 スーラお嬢様のピクニックは『お昼寝』の為、急遽中止である。


 普段は厳めしい軍人達が彼女を起こさないように気遣う静かな笑い声を添え物に、何やら武装に似合わぬ微笑ましい行列が丘を下っていく。

 道行きに花を踏みつけぬように気を遣う程、兵士達は穏やかな顔付きであった。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ルナールと軍師の話し合いが、目的を明らかにしないままで有るにも関わらず円満に進んだのに対し、目的がはっきりしているのに会話が全く円滑に進まない一団が居る。


 こちらサミュエル・ルース御一行様である。


「ルースさん。あんた巫山戯(ふざ)けんなよ!」

「巫山戯けているのは、そっちだろ!」


 巧とルースの言い争いは、オベルンの一言から始まった。

「君たちは他人の領土に軍事基地を作ろうというのだ。

 当然、その見返りは有るんだろうね?」

 巧もルースも、その言葉自体は予想していた。

 しかし、其の『利益』について考える主体は、両者とも『自分ではない』と思い込んでいたのだ。

 勿論、巧には巧なりの交渉計画があり、その提案は予定していた。

 だが、ルースの姿勢がいくら何でも酷すぎると腹を立てているのだ。


 すぐさま結論が出る利益でなくともよい。

 しかし賭では困る。ノーゾド、ガーイン共に商業国家ではない。

 いや、国家とも呼べない部族体なのだ。

 部族長達を釣り上げる餌が必要である。


 それで当然、『考えてきたのだろうな』とオベルンは訊いたのだがルースは、

「そりゃ巧君の担当だろ」

 と悪びれもせずに言ったのだ。


「味方を作るためには『利益』が必要なのは当たり前のことだろ!

 あんた、そんな事も考えて無かったのか?」

 巧の怒鳴り声にルースは平然と返す。

「まさか、ノーゾドやガーインが絡むなんて思いもしなかったんだよ!」

「ここに来るまで五日もあったろうに……」

 巧の最後の言葉はため息混じりになるが、これでは(らち)があかない。


 ふとオベルンを見ると、なにやら含み笑いの様相である。

 その顔つきを見て巧はある人物を思い出した。

 その人物がそのような顔つきをするときは答えを知って居つつ、

『自分で考えて世界にたどり着いてみろ』

 という挑戦状を巧に叩きつける時である。


 彼の理論思考は子供の頃から其の様にして鍛えられてきた。



「相手の利益というのは早い話、相手が何を欲しているかだ」

 巧の言葉にその場に居た部下達一同も頷く。

「で、それを知るためにはどうすればいい?」

 そう言って山崎に目を向ける。ルースを見なかったのは嫌がらせだ。


「おい、俺と話をしているんじゃないのかよ?」

 気付いたルースは、そう言ってきたが露骨に無視した。

 山崎は少し考えたが、

「相手に訊くのが普通ですが、誕生日のプレゼントだって本人に訊けない理由というものがありますからね。 

 特に今回は足下を見られるわけにもいかないが、相手が納得する利益でなくてはならない訳ですから……」

 良い線まで入っているのだが、後一歩で答えが出ない。


 すると、桜田がオベルンに問いかける。

「あっちの経済活動はどうなってるんですかね?」

 会計課らしい質問だ。


「何故かね?」

 オベルンの『問』に桜田は『答えを導き出す方法として考えるのだが、』と前置きしてから話し始めた。

「ん~~、指導的立場にある人々が利益を独占しているのか、利益が集団内できちんと分配されているかが気に掛かりますね」


 その言葉でルースもやっと気付いたようだ。

「なるほど! 相手が求める利益が『個人的利益』か『社会的利益』か、それぐらいは考えてシミュレートしておこうって訳か」

「です! 出来れば両方ですね。 

 たとえば挨拶代わりの手土産として相手が『本当に欲しい物』をうっかりくれてやった後から本格的に交渉に入った場合は、ルースさんは用済みって事ですから、その後は何も進まなくなるでしょうね」

 桜田の説明は見事なまでに『立て板に水』である。

 面白くなってきたので、巧はしばらく様子見に徹することにした。


 反面、桐野と石岡は珍粉漢粉(ちんぷんかんぷん)という顔なのでいつもの如く面倒見の良い岡崎が説明してやる。

「要は相手のボス連中が利益を独占する奴らなら『物』で済むけど、集団全体の利益なら物じゃあ追っつかない。 

 技術なり貿易権なりの無形の利益を準備しなくっちゃいけないって事さ。

 で、どっちが本当にほしい物なのか見極めてから交渉に入らなくちゃいけない」


「慧ちゃん、頭良いねぇ」

「なるほど!」

 桐野と石岡は話の内容よりも、岡崎の説明の上手さに感心している。


 二人の頷きと共にオベルンが拍手して笑った。

「いや、皆さんお見事! その通りです。 

 ノーゾドもガーインも新たな利益を求めている。さて、それは何か?」

 全員が次の言葉に注目する。


 が、笑って『宿題です』といってその場の話は終了することになった。

 特にルースに対しては、

『到着前にあなたに最初に答えを聞くので、正解にたどり着いていない場合、今後は投資を縮小せざるを得ませんよ』

 と脅し、いや宣言を入れて会合は厳かに閉められた。


 悩むルースはさておき、巧達は出発の準備に入らなければならない。

 桜田があれだけヒントは与えたのだ。

 今後、彼が王となる以上は交渉術の基礎である相手の要望を捉えるトレーニングにちょうど良いであろう。

『気付いてくれなくては困る』と、誰もがルースを放置することにして、LAVと三十式の搬入についてオベルンと話を進めていくことになった。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 この時期になれば当然ではあるが、巧達に対抗するかのようにシナンガル内部においてもフェリシア侵攻への準備が進んでいた。

 そのうちの一つがシナンガル中部、竜の育成要塞から一キロ程離れたところにある要塞付属の魔法研究所において行われている研究である。


 シナンガル魔法研究所は規模も研究内容もフェリシアの魔導研究所に及ぶべくも無いが、フェリシアとは全く違う方向性での研究が進められていた。

 もし巧がその研究内容を知れば、『俺向きの研究だね』と苦笑いを浮かべたかもしれない。


 現在、研究されている内容は大きく分けて三つ。

 そのうちの二つが、実用に入るための最後の実験段階に入っている。


 所長のルーイン・タオジェは研究の進展に満足している。

 四二歳になる彼女にはルーイン・シェオジェという娘がいる。

 娘はようやっと十五歳になったばかりであるが、その能力はあらゆる面で親を越えていた。


 タオジェは自ら実験のため、ガンディアの奴隷エルフと交わり、シェオジェを生んだ。

 結果として生まれたハーフエルフであるシェオジェは、魔術師として戦場に出される普通の魔術師と違い、母親の狙いに違わず特色ある能力を示した。

 そうして現在は母親と共に魔法研究所で様々な研究に手をつけている。


 タオジェはエルフと交わるに当たって、能力の高い父親を選んだ上で彼を一年にわたり他の女性と交わらせなかった。

 そうして魔力が強く能力も特殊なハーフエルフの娘を得る事に成功したのだ。


 娘のシャオジェの研究はこの世界で一般的に認識される魔術と言うよりは多分に巧達の地球における『科学』により近い物であると言えるであろう。

 それは、彼女一人の頭脳から生まれた研究成果では無いにせよ、若く思考に柔軟性のある彼女であるからこそ実用化できたと言える。

 資金は当然のこと、タオジェの熱意を買ったワン・ピンによって様々な情報が親子に与えられた。

 当然、その陰にアクスの力が働いていたことは疑うべくも無い。


 スーラが変化して以降、スーラの手紙によってワンはアクスから様々な情報を得る手段を手に入れた。

 ワンや議員達はルナール一人に頼って事を進めている訳ではないのだ。



 アスタルト砂漠中央北部、魔法研究所の実験による数度の爆発が認められたのは一月も半ばを過ぎてであったが、その爆発は今まで大陸で見られた黒色火薬の爆発ではなかった。


 見る者が見れば気付いたであろう。

『マーシアが(ごく)(まれ)に使うことのある水を使うとも消す事の叶わぬ火炎弾によく似ている』と……。

 

 

     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 地球


 国防空軍ではフェリシア派遣について、上層部と現場での温度差が日を追って増していた。


 また上層部も二派に分かれて意見を交わす日々が続いているが、法制化された以上は内閣の命令には法的根拠が存在しており、後は期日までに派遣軍規模をどのようにするかという問題だけである。

 何より、現地では独立混成団として指揮及び責任は陸軍中将である下瀬高千が取ることになっている。

 空軍はその指揮下に入る以上、規模については大きな問題なのだ。

 大きすぎてはいけないが、小さすぎて今後の発言力に影響が出てもいけない。


 あっさりと結論が出た問題もある。

 航空部隊指揮官についてだ。

 初期から現地にいる五十嵐という大尉に任せることになった。

『別地政府』からの要望である事が最大の理由であるが、こちらとしても現時点の当人の所属が二兵研である以上、いざとなれば『切り捨て』ることが出来るのは実にありがたい。


 但し、空軍の今後の権益につながる可能性と派遣規模を考え佐官に昇進させた。

 いくら何でも一小隊六機のみ、という訳にも行かないのだ。

 更に言うならば参謀会議にも参加できずに使い走りにさせられてはたまらない。

 何より本人も出世させて貰った以上は二兵研側ではなく、本来の所属である空軍に気持ちを寄せて来るであろうとの期待もある。


 どこまでも打算の産物であったが、これが組織というものだ。

 

 上層部の最後の対立点はアメリカとフェリシアどちらに比重を置くかである。


 現在、情報が断片的にしか入ってこないフェリシアに相当数の軍を派遣するより、今後の予算確保の面を考えるならば、第二次アメリカ南北戦争への派遣部隊編制を急がせるべきではないか、とする『米派遣派』と、フェリシアという『別地』は今でこそ架空の地だが、今後国防において『食料』という大きな役割を永続的に担保する土地になりかねない。

 決して軽んじて良い派遣命令ではないとする『(ほう)派遣派』(鳳=フェリシアの略称)の綱引きは、結局のところ『鳳派遣派』に軍配が上がった。


 二兵研が新型戦闘機の開発に着手し始めたとの情報が入ったためである。

 あのヴェレーネ・アルメットならば、陸軍兵が扱える戦闘航空機を生み出しても不思議(おか)しくはない。

 ASという前歴があるのだ。

 しかも『別地』に置いては、この世界の戦闘機とは全く能力が違う機体が必要なことも視野に入れる必要があるだろう。


 最悪を考えるなら何時、空軍不要論が生まれるか解らなくなる。

 レーザー防空網の整備と云い、新型機の開発と云い、ヴェレーネ・アルメットという女は国家にとっては兎も角、空軍という組織にとっては『魔女』どころか『死神』と呼んで差し支えない存在であった。


 空軍上層部は急ぎ二兵研に渡りをつける必要が出てきた。

 ヴェレーネを怒らせる前に打てる手は打っておくべきである。

 どの様な機体であれ、これから生まれる新型は空軍所属に廻して貰わなくてはならない。


 取引材料となるハンガーで休眠中の機体は保管繭(コクーン)から次々と回復させられていく。

 が、問題は二兵研からの希望機種はすべて複座機であった事だ。

 二〇五〇年代ともなると戦闘機の殆どはレーダー手が必要な機体など無いに等しい。

 FR-3Dと呼ばれる複座偵察機を再武装化することになったが、面倒な事この上無い、と整備員達がぼやく事(しき)りである。

 但し幾人かはこの機体の整備に熟練することがフェリシアの地を踏む資格になる事に気付いており、疲れを知らぬが如くその整備に取り組んでいく。

 そのような人物は主に若手整備員達であった。



 いつの時代も、若者は冒険の臭いに敏感なようである。

 



サブタイトルは、ウィリアム・ギブスン&ブルース=スターリング合作の「ディファレンス・エンジン」からですね。

実際『機械式(歯車を使った)コンピュータ』の計画は19世紀後半~20世紀初頭にあったのです。

そう言う意味で、「高い城の男」サイバーバージョンの物語なのでしょうね。

因みに機械式コンピュータが発達しなかった最大の理由は、『埃』だそうです。

小さなゴミ一つで凄まじい計算ミスが出てしまったのだとか。

改良が進んだとしても今のような高速処理は当然無理だったでしょうね。

(後はやはり『熱処理の問題』かと思われます)


今回のディファレンス・オブ・オピニオンは「意見の相違」という意味ですが、原作タイトルにある「エンジン=情報処理」の意味も込めて、様々な「計算」と「計算違い」の予感も物語に組み込んでみたつもりですが、上手く行ったでしょうか?

願わくば、どなた様からでも感想をお聞きしたいものです。

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