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星を追う者たち  作者: 矢口
第五章 地球の風、カグラの嵐
69/222

68:嘘の話をしてくれないか?

「どうしてこうなったんだ?」

 いつかの岩国のような台詞を真顔で呟いているのは、下瀬高千中将である。


 慣れたつもりであったが、やはり状況次第では未だ心臓に悪い、と思う。


 話は勿論聞いていた。しかし、聞くと見るとでは大違いである。

 目の前で皮鎧を着て二本足で立った狼が指示棒を持ち、戦線の現状を彼にレクチャーしているのだ。



 先だって彼は、参謀本部とは全く無関係な所で行われていた陸戦訓練における事故責任を取る形での退職を政府から請われた。

 政治的判断としてのものであり、あの二兵研が関わっている『別地』での問題だと聞いて、蚊帳の外に置かれていた統合幕僚本部の反発たるや凄まじいものがあった。


 首相命令で中佐を大佐に格上げしただけでも越権であると云うのに、独立連隊を指揮させて幕僚本部の指揮権を完全に奪っていたのだ。

『首相直轄の海兵隊扱いならば、政府側が責任を取るべきではないか!』

 面と向かって官房長官にもの申した将官も多く、空気だけならクーデター直前である。


 当然ながら統合幕僚本部は『納得も説得も不可である』として突っぱねたが、下瀬としては『今後を担う佐官に責任を負わせて問題をこじらせるよりはずっと良い』、と考えて申し入れを受け入れた。

 彼自身が出来るだけ早く軍を去りたい、と考えていた事と重なった為もあった。

 日に日に激しくなる派閥間抗争に嫌気が差していたのだ。


 そうして下瀬が退職するつもりで臨んだ記者会見の日に、いきなり事態は急変した。


 記者会見はアメリカ南北戦争に伴う穀物の輸出停止に関わる政府の対応に一気に切り替わり、彼の話などすっ飛んでしまったのだ。

 十八名の事故死については発表はされたが、

『食糧ルート確保に関わる訓練である為、詳細は後日』

 として話は一旦終了した。


 事が此処まで大きくなれば、政府も食糧確保の対策を行っていたのだと捕らえるしか無かったのだろう。 議会は兎も角、マスコミは沈静化した。


 下瀬は二日後に再度首相官邸に呼び出されると、報告書でしか知らなかった『別地』へ赴くように言われ、第二兵器研究所の門をくぐることになる。


 いずれ編成されるであろう方面軍の最高責任者としての視察であった。


 レクチャーによって知ったが戦場においてこれから主導権を持つのは、『目』を持つフェリシア軍である。

 其の作戦への実働対応は、佐官によってなされる。

 よって彼に此処でやることなど無い。

 フェリシア軍の指揮下に置ける国防軍の行為に或いは損害に責任を取るために此処に居る訳である。


 十八名の死亡から、下手をすれば数百名の死亡の責任を取らされる立場になったのだ。

 一度は免職にしようとした以上、首相も虫の良すぎる話であるため、引き受けるも断るも自由である、とは言ってくれた。

 更には、

『現地の特殊な事情を知って、その上で判断して貰いたい』

 と言われて悩んだものの、結局は怖いもの見たさで『視察だけは』と引き受けた。


 しかし、実際関わってくると驚きが隠せないことが多い。

 特殊な進化を遂げた国であり、例えば狼や猫が喋るという話は聞いてはいた。


 そして、そのように興味深い報告ながら国防軍内でも、

『階級が高いから現地視察が可能』という訳ではなく、逆に階級が高く出世街道の中心にいる人物程そこに近寄れない体制が作り上げられたこともあり、幕僚本部において二兵研に対する感情も『別地』に対する反応も好ましいものは何一つとしてなかった。

 

 これでは、別地において起きた事柄について『責任だけは取れ』と言われれば統合幕僚本部内で猛反発が起きたのも当然と言えば当然である。

 シビリアンコントロールとは云え、結局は人が人を動かすのだ。


”視察次第では自分が責任を取る”と手を挙げたことを事を聞いた副首相が、わざわざ面談に訪れ泣いて感謝してきた時、『自分もずいぶんと変わったものだ』、と下瀬はそのことに驚いていた。

 其処まで感謝されたなら、状況が変化した今回はもう少しわがままを通しても悪くあるまい。

 何より、この行動には国民の命を守るという明確な『義』が存在するのだ。


 

 最初に二兵研に向かい『事前の心構えとして見ておいて貰いたい』と案内された付属病院では、本当に看護士達が立ち歩いて喋る『犬・猫』を相手にごく自然に対応していたのに驚きつつも、自分もこのように慣れる日が来るのかと少し楽しみでもあった。


 倉庫に引き入れられると目の眩むほどの光に包まれ、いきなり全く知らぬ土地が現れる。

 いや、実際移動したのは自分であると気付くのに暫し時間を要した。


 移動した先の国の総理大臣である『ヴィンス・バートン』という人物にも会ったが、国家元首への表敬訪問は今暫く見合わせて貰いたいと言われ、これには少々不快を感じた。


 但しすぐに『国によって有り様は違う』と柔軟性を取り戻す事にも成功したあたり、自分の変化は本物と言えたであろうと満足な気持ちにもなる。

 何より、この国は未だ、我々の国とは国交がないのが建前なのだ。

 その国交交渉も行わなくてはならないだろう等とも考える。

 自分が『ガリバー』になった気分であり、長らく忘れていた子供のような冒険心が芽生えていることに気付いて可笑しくなった。



 しかしその暢気な楽しさも一瞬で崩れることになる。

 あの青年の姿を見て、この世界も現実の延長で有る事を確認せざるを得ない下瀬であった。

 青年、即ち『柊巧』 彼は現在、准尉になっていた。

 

 彼の昇進は岸田幕僚長の肝いりである。 


 彼が二兵研に移る前の一年足らずだが、岸田は上官に彼を監視させ、常に連絡が取れる体制まで取っていた。

 直接の上官は当時、駐屯地内で滅多に認められない携帯電話の使用まで認められ、緊急、平時を問わず岸田とのホットラインを繋ぐほどであった。

 それにしても、此処まで彼が国家の命脈に関わってくるとなると、岸田が己の先見の明を誇ったとしても誰もそれを否定できまい。

 と下瀬は心の中で肩をすくめる。


 そして最後に、これこそ、このフェリシアという国の国家機密であろう。

『魔法』の存在。


 魔法と聞いて最初は何かの冗談かと思ったのだが、二兵研主任ヴェレーネ・アルメットによりこの地に送り込まれたことからして事実である。

 そしてアルシオーネ・プレアデス、及びマーシア・グラディウスなる女性達によるデモンストレーションにも驚かされた。

 氷と炎による凄まじい打撃破壊力は、何処に国防軍の出る幕などあるのか聞きたいほどであったのだが、『彼女たちは相当な規格外である』と聞かされ、ほっとしたものだ。


 しかし、ヴェレーネ・アルメットなる女性は何者なのか?

 確かに国籍は我が国にある。

 しかし、同時に彼女はこの国(フェリシア)でも相当な地位にある。

 内政に参加する資格はないというが、一国の軍を掌握しているのも事実だ。


 其処も含めて自分に責任が取れるか判断しろ、と云う意味を含めた視察かと納得するしかなかった。


 こうして一週間が過ぎ、彼は本国に戻る。

 帰ってくると三十分しか経っておらず、妙な夢でも見せられた気分であった。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



「それで、下瀬中将としては、方面軍最高司令官としての地位について頂けるのでしょうか?」

 ヴェレーネ・アルメットの質問は単刀直入なものであった。


 場所は、二兵研の親会社に当たる商社の応接室である。

 会談の参加者は官房長官の曽地(そうじ)裕、国防大臣の池谷信好、下瀬高千、ヴェレーネ・アルメット、広田修身、そして其の後方に、下瀬からすれば『何故か?』柊巧が控えている。


 大臣の秘書官と下瀬の副官達は別室で待たされることになった。


「彼は、何故此処に?」

 下瀬は率直に訊いてきたが、ヴェレーネの答えは驚くべきものであった。

「現在、フェリシア王国は三名の個人とのみ国交を結んでおります。彼は其の一人です」


「個人と国交?」

「そうですね。政府からは何も?」

「うむ、この会談で自分で判断するようにと云われたのだが、実際は政府もよく分かっては居ないのではないのかね」

 そう言って隣の二人を見ると、曽地も池谷も困った顔をした。


 最後の言葉を聴いて、笑い出したのは広田である。

「ご明察です。政府は食糧備蓄については純然な商社間取引として捕らえておりました。

 全く実情を捕らえていない、と言って差し支えないでしょうね」


「しかし、国家と個人とで国交など認められるのかね?」

「そこは、オンラインゲームの個人アカウントのようなものだと思って貰うしかないですわね」

 ヴェレーネが答えた。

「う~~ん。しかしなぁ。ゲームと現実が一緒と言って世論が納得するかね?」

「この世界の何処にもない国ですわ。空想の世界の国と同じです」

「命の危険がある。それは紛れもない現実だ」

 だが、下瀬の言葉はヴェレーネを追い詰めることは全くなかった。


「今から二十年ほど前、あるゲーム会社が作り上げたオンラインシステムには命の危険性がなかったとでも?」

 そう言われて下瀬は思わず声を上げた。

 そのシステムを軍が丸ごと買い取り、現在のシミュレータに転用していることを思い出したのだ。

 ヴェレーネの言葉は続く。

「それに、この世界にない国と個人で国交を結んでいる例は他にもあるんですよ」

 この言葉には、その場に居た誰もが耳を疑ったが巧はすぐに気付いた。

 ヴェレーネの後方に立ったまま、思わず呟く。

「プロテスタントですね」


 巧の言葉で商社マンである広田はすぐに頷いたが、曽地、池谷、下瀬の三名は何のことだか分からない、という顔である。

 ヴェレーネは流石プロテスタントの本場オランダで生きてきただけあって、其処は説明が上手かった。

「中将は、カトリックとプロテスタントの違いをご存じですか?」

「いや、恥ずかしながら」

 下瀬がそう答えたが、曽地、池谷も同じ顔をしている。


 中東やアジア、アフリカの宗教には、ひとつ対応を間違えると命に関わるトラブルになるケースが多いため、国防軍でも教育はきちんと成されているが、キリスト教については全く手が付けられていない。

 何となく知ったつもりで居ることと、同じ西側先進国の宗教であり世俗化が進んでいるため政教が完全に分離されており、話題にしないことが不文律になっているからだ。


 カトリックとプロテスタントの一番の大きな違いは、どの様にして神と結びつくかである。

 即ち、カトリックは『教会』を通して、そしてプロテスタントは『個人』がそれぞれに神と契約を結ぶのである。

 そのプロテスタントが現在の地位を獲得するまでには様々な困難の歴史があった。

 これは丁度、今問題にしている国交を個人で結べるかどうか、と言う問題その物である。


「なるほど、世間にフェリシアとの関係を説明する時にはそれを使わせて頂きましょう」

 曽地は早速、マスコミ対策に繋がる事として考え始めたようである。

 が、法的にはどうなのであろうか?

 其処が疑問となって曽地の声に出る。


 巧が発言を求め許可された。


「国交については国際法上、何らかの条文がある訳では有りません。 

 相互承認の方法はそれぞれの当事国に任されているはずです。

 慣習法として相互承認が『国と国』を対象にしているだけですが、勿論、異議を唱える国はいくらでも有るでしょうね」

「其処を問題にしているんだよ」

 曽地は困った顔をするが、巧はそれこそ杞憂だと言い切った。

「結局いつも問題になるのは、それを認めない国が軍事的、或いは経済的に相互の交流を妨害できる能力があるからなんですよ。 

 バーチャルの世界に介入できる国など存在しないと思いますが、どうでしょうか?」


 政府側の三人は思わず顔を見合わせた。

 確かに、何処の誰が『空想の国』との国交を邪魔できるというのだ。


「しかし、フェリシアには手が出せないとしても、この国には手が出せるぞ」

 池谷の言葉に、巧はニヤリと笑う。

「国中がゲームで遊んでいるだけですよ。少々危険なゲームですが、軍用シミュレータで怪我人が出たことがない訳でもないです。

 何より宗教が絡んでいる訳でもないのに、総理大臣が遊んでいるゲーム内容にケチを付けて外交問題に持ち込んでくる国があったら、それこそキチガイ沙汰ですね」


 この言葉を聴いて三人は誰からとも無く笑い出した。

 なるほど、この若者は異世界との国交を『バーチャル』として押し通すことで、世界に対しては絶対に現実と認めなければよい。

 と言いきったのだ。


 一連の会話で下瀬は何故かこの二人が気に入った。

 いや、本当は巧に対する贖罪意識もあっただろうが、取り敢えず違う形で答える。

「まあ、私は子供が遊んだ後の片付けをする爺さんって訳か」

 この一言で下瀬高千は、ヴェレーネ、広田、巧に続く四人目のフェリシアとの国交権保持者となったのである。

 派遣軍はその随伴員と云うことになる訳だ。



    ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 穀物の輸入が途絶えてから二ヶ月近くを過ぎ、人々が不安な気持ちで師走に向かう十一月二十四日。

 首相から国民へ、一ヶ月早いクリスマスプレゼントがあるという重大発表がなされた。

 公営放送の画面に現れた首相は神妙な面持ちであり、どの様に好意的に見てもクリスマスプレゼントを持って来たサンタクロースには見えない。

 その後、その表情に会わせて発した言葉が立体テレビ(ソリビジョン)の前の人々に良くも悪くも衝撃を与えた。


「アメリカ南北戦争勃発時における穀物確保について大きな道筋が生まれました。

 大変、困難な道筋であり、特に国防軍の一部の部隊にはそのルート護衛のため苦難の道を進んで貰うこともあるでしょう。 

 しかし、道筋が確かに得られた事を此処にお知らせいたします」


 この言葉を聴いて誰もが最初に考えたのは『侵略戦争』という言葉である。

 勿論、キャスターもその点を質問してきたのだが、首相は、その質問を受けた途端に表情をやや明るくさせ、一笑に付した。


 そして、続いて現れた人物が自己紹介を始める。


「公営放送ですので会社の名を出すことは出来ませんが、在る商社に勤めております。広田修身と申します。


 この度。我が社の子会社が、海外の企業と合弁で在るゲームの開発に着手いたしました。

 そのゲームは我が国での販売は認められない『大変、危険なゲーム』であり、当該国の基準においても未だ改良の余地があります。


 その為、軍用シミュレータを使い慣れた我が国の国防軍に協力を依頼してまいりました。

 報酬は不足する年間必要穀物の総量となります。

 これは国防軍への依頼ですので、認められた場合は全て国庫へ納められます」


 その後、首相は

『このゲームに国防軍が参加する事を認めるかどうか、年明けの国会で審議することになる事。また一部の首相権限で動かせる実験部隊は既に期間限定で参加をしており、この取材をマスコミに開放する』

 と約束した。

 マスコミは大手のみならず地方の新聞社、TV局なども含め抽選で行い、ネットへの映像アップロードを約束できる個人にも十人ほど門戸を開くとも付け加える。


 かくして、年明けの国会は『国防軍ゲーム参加法案』という前代未聞の議題から幕を開ける事となったのである。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 同年十二月十五日


 首都、港湾部で五万トンの穀物タンカーが一瞬オレンジの光に包まれたかと思うと消滅した。

 上空を飛び回る数機のマスコミヘリから全国中継されたその映像は、核爆発と見紛(みまが)うほどのものであったが、タンカーが消滅した後、残された周辺船舶に何ら異常は見られなかった。


 タンカーの穀物倉は完全に空であり、その中にはヴェレーネ・アルメットによって厳選された国防軍船舶操作員の他、マスコミや個人のネットユーザー40名が乗り込んでいた。


 僅か三分後。同じ場所にタンカーは現れた。

 但し、五万トンの船倉に穀物を満載してである。

 喫水が大きく沈み込んでいるのを見て、やはり爆発があったのだと誰しもが考えるほどの変化であった。


 再度現れた乗組員や乗員は異世界で四日を過ごし、中世の世界でエルフや獣人を見たと主張するのみならず、国防陸軍がヘリやASを使って巨大な狼や空想上の生き物であるはずのドラゴンと闘っているのを映像に収めたとも言った。


 馬鹿げた話だと誰もが否定したかったのだが、出航前には空だった船倉が穀物に満たされているのがその場で全てのマスコミに公開され、乗り組んだ人々が現地で写してきたという映像が数時間としないうちにTVやネットで流れると、その存在を信じない訳には行かなくなったのだ。


 しかし、政府の答弁は面白いもので、穀物を確保できたのは事実である。

 だが、エルフや獣人、ましてやドラゴンなど『ゲーム』の世界の話である。

 と言いきったのだ。


「近頃のシミュレータは随分と良くできていますからな。 

 外国製ともなればフィードバックで死者も怪我人も出ますよ」

 とは官房長官の弁であった。


 そして、続けて発した言葉が全国民に真実を悟らせたのだ。

「その世界の存在が事実だとしたら、その世界の秘密を手に入れようと各国が我が国にどのような外交交渉をしてくるか、考えるだけで頭が痛いですなぁ。

 存在しない世界のために紛糾するような誤解を与えるのも良くないことだと思いますよ。

 まあ、他国がどうやって『その世界』に行くのかも知りませんがね」


 すっとぼけた曽地の言葉を訳するならば、

「国防軍を『あの映像の世界に行かせてもらいたい』 但し、あくまで『ゲームの世界』へとして」

 と言うことである。

 因みに外交だの紛糾だのギリギリの言葉ではあるが、早い話、侵略戦争を受ける側になる口実は御免だ、という事である。


 ヴェレーネが取材者として選んだ人々は、その点をよく理解できる人々であった。

 騒ぎ立てたのは最初だけであり、『重要な点は穀物の確保が事実として可能となった事』であるという点に主眼を置いて発言するようになっていったのである。


 また、諸外国からの問い合わせに対しては、政府はあくまで危険性の高いシミュレータ実験である、と言う姿勢を崩さなかった。


 アメリカ南北戦争の開始は年明け五月以降である。

 その頃には穀物の備蓄量は一年三ヶ月分を切る。

 馬鹿げた芝居だろうが何だろうが、国民全員が共犯者になるしかないのだ。


 また、国防軍が相手にしているのは現地の人々には対応不可能な、現実には魔法があるのだが、それを知らない地球側としてそう思える、怪物の群れなのである。

 国防軍に死者が出るであろう事も理解できたが、人を相手にしている訳でないのだ。

 と国民から良心の呵責もなくなっていった。


 最も何処にでも馬鹿は居るものである。

『異世界に行かせろデモ』、『エルフちゃんぺろぺろしたいぞ!デモ』、『国防軍の海外派兵反対デモ』などのデモが幾つか行われたが、どちらも大衆の支持を得ることはなく時間は過ぎていく。


 そして、法案は通った。年が明けた一月二十六日のことである。


 因みに、映像からエルフや獣人の女の子達に目の向いた成人男子が入営希望者として殺到し、給養班ですら馬鹿げた倍率になったのは別の笑い話であり、機会があれば語る事もありそうである。


 順調に進んでいるかに見える地球と相反(あいはん)して、現地では全ての隊員が疲弊し始めていた。

 地球では数ヶ月の話であるが、カグラにおいては第四小隊が壊滅して、僅か一ヶ月しか経っていなかったにも関わらずである。


 下瀬を現地においてレクチャーする期間が一週間。そしてその後、地球の三月一日から増援が送られてきたが、彼等をいきなり前線には出す訳にもいかない。

 現地の人々、特に獣人との交流に間違いがあってはならないからだ。


 レーダーが頼りにならない今、信頼関係の構築に失敗すれば、それは連携の失敗、即ち『死』に繋がる。

 魔獣が発する魔力を読み取る力のある魔術師や獣人は彼らの目であり生命線なのである。

 旧来の連隊員の誰一人として、それを疑う者はいない。

 分隊長判断で指揮官に付けてしまった分隊までいるが、池間は黙認した。

 その様な現状では、後一ヶ月は既存の部隊で闘うしか無かったのである。


 いや、新入りの教育のため余分な手間が増えたと感じる兵士が殆どであった。


 カグラも年が明けた一月五日。


 マーシアやアルスも森に入り込むが、流石にカリフォルニア州並の広さがある南部森林は、二人では限界がある。

 ランセは魔力が強すぎて相手が完全に潜んでしまうため、こちらも出撃の割には撃破数が少なかった。

 何より自分の機体が届いていない岩国が、カレシュ単独での出撃を嫌がったため、ランセはひとり勝手気ままに飛んで帰ってくるだけである。



 大型魔獣は未だ六十頭と処理できていない。





サブタイトルは、ちょっと前にも使わせて貰ったF・M・バズビーの「君の話をしてくれないか?」からです。

この方のタイトルセンスというのは実に素晴らしいですよね。

もちろん中身もそうですがね。

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