61:チェイサー
主人公にどうも色恋の話がないので、サイドの皆さんに頑張って貰うことにしましょう。
「まわせ~~!!」
竜が飛び立つと同時に、岩国は急ぎ駐機場へと走った。
カレシュを追いかけて説得しなくてはならない。
彼女から聞いた話は僅かだが、その言葉の端々には幸せでなかった人生が垣間見えたのだ。
『同じ境遇に戻してどうするのだ』
自分でも分からない使命感が彼を動かしていた。
ヴェレーネは岩国の『意識』を読んだ訳ではない。
だが、彼の一連の振る舞いを見ればこうなるであろう事は簡単に予測が付いた。
今後のカレシュの有り様は全て岩国次第という訳だ。
機体に乗り込もうとする岩国に、横田が声を掛ける。
「岩国! ちゃんと連れ戻してこいよ!」
「はい!」
其処までは良かったのだが、ついで横田の口から出たからかいは岩国の心を抉った。
「あと、お前。うちの娘の視界に入ることは今後、禁止な」
笑顔で言われると、余計に堪える。
既に撃墜されたかのように岩国機はよたよたと飛び上がっていった。
「頑張れよ!」
笑って見送る横田であったが、面白い話のネタが出来たのだ。
基地内に広めるのは彼の義務であると確信して、酒保に向かって軽やかな足取りで進んで行く。
その後開かれた賭場の掛け率は、四対一だったそうである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
十一月十日
遂にスゥエンが独立を宣言した。
形式上ドラークは幽閉された形となり、代表にアンドレア・ハーケンが就いた。
実際ドラークは丘の消失以来、体調を崩してしまっていたのだ。
因みに地域民四十万の内、脱落したのは僅か二万という少なさである。
逆に、奴隷解放の噂を聞きつけた奴隷が本当に逃げ込んでくる始末であり、人口は増えつつあった。
脱落者が少なかったのは、目の前の丘が消えたという事実が大きかった。
この恐るべき兵力が後方に付いているという事が大きな支えになったのである。
反面、噂として流れた奴隷解放については意見が分かれた。
しかし、それも二年間の猶予があり、今のところは不安要素にはなっていない。
また、軍は反乱自体を『造反偽装』であるとして首都との連絡を切らさなかった。
こちらが反乱を起こさなければ『鳥』はスゥエンの敵になる。
何より、丘を丸ごと消し去るマーシア・グラディウスまで敵には回せない、と必死の抗弁であった。
首都としては信用する者としない者の割合は半々であったが、その造反偽装を信用する議員達ですら、
『時間が経てば、独立は本物になる可能性はある』
として、警戒を怠る事は無い。
また、当然のことながらスゥエンからの『竜』の補給要請は理由を付けて断られた。
巧の作戦は成功したのである。
次回のシナンガルによるフェリシア侵攻時には相当数の兵力が北を向く事になるであろう。
同時にスゥエンが補給路として機能する事もなくなった訳であり、シナンガルにとっての打撃は小さくはない。
何よりも“相互不信”という大きな楔が打ち込まれた事は大きい。
竜の配備が断られた事から
『やはり、完全に信用されるのは無理か』、と云うのがスゥエンの大隊長達の一致した感想であった。
彼らの中からも首都に対する不信は強まっていく。
そのような中、ある大隊長は呟いた。
「フェリシアが本気になると云う事は、実は恐ろしい事なのではないのか」、と。
この言葉は、彼だけが持つ感覚ではなかったであろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
買いかぶられて迷惑なのはフェリシア側である。
確かに攻めるだけなら、充分に戦えるかも知れない。
だが、侵略を図っても四億の人間を統治する事は絶対に不可能なのだ。
つまり、防衛戦以外の戦闘が出来たとしても戦争目的は達成できない。
その証拠に、たった一人の人間の去就すらも決めかねているではないか。
その一人とは、カレシュ・アミアンである。
彼女は、飛び立った直後に岩国に捕捉されたものの、時速五百キロを超える速度で逃げを打った。
時速六百キロ迄は竜の体型から出すのが不可能だったのか、或いはわざと速度を抑えたのかは知らないが、結局カレシュは岩国に説得されデフォート城塞南部のゴースに降り立ったのだ。
ゴース駐留軍司令官であるアイアロスも、これには困ってしまった。
が、放置する訳にも行かない。
何より岩国機に帰還命令が出ていないと云う事は、ヴェレーネが岩国に任せたと云う事なのであろう。
確認すると、実際そのような返事だ。
「まあ、仇討ちさえ考えないと言うなら、岩国少尉の好きにさせたら」
と、ヴェレーネの返事は無責任極まりないものではあったが、こちらで判断して良いと言う事なのだろうと考え、暫くは彼女を留め置く事にする。
ランセは南部の林に潜んでハティウルフを狩っている為、ゴース駐留軍としては助かっている事も事実であるが、これもアイアロスにしてみれば困った事態である。
ゴース軍はアイアロスの方針で、アルスの力を殆ど使わずに魔獣に対峙してきた。
未だハティウルフには遭っていないものの、それに対する訓練も怠っては居ない。
このような幸運に頼って国を守るなど有ってはならない事なのだ。
といって追い出して敵に回す訳にも行かず、持て余すとしか言いようがない。
反面、もう一人の責任者であるアルスは日頃やる事が無く暇を持て余していたので、妹分が出来たと大喜びである。
魔法はどれくらい使えるのかと、色々試していたのだが……。
「相変わらず、駄目なの?」
「すいません」
場所は、ゴースの村に立てられたアルスの個人邸宅内部である。
彼女の実家はフェリシアでも有数の商家として名を上げて居り、この程度の出費は出費の内に入らない。
カレシュは『捕虜』扱いで其処に止め置かれているが、実際は単なる居候状態である。
「別に謝る事じゃないのよ。でもね、あなたほどの魔力があって全く魔法が使えないってのが、どうにも不思議なのよねぇ」
アルスは首をかしげるがこればかりはどうしようもなかった。
「でも、それでどうやって仇討ちなんてしようと思ったの? あの竜は使わないんでしょ?」
「はい……」
俯くカレシュを見ていたアルスは少し悪戯心が湧いた。
「岩国さん、心配してたわよ。仇討ちなんか止めて幸せになるべきだって」
「えっ!」
カレシュの顔が赤くなった。
「あ、やっぱり好きなんですわね」
アルスは意地悪く笑う。
「からかったんですね!」
そう言って頬を膨らませるカレシュをアルスは抱きしめつつ言い聞かせる。
「いやですねぇ。本当ですよ。
それに、ここのところ魔獣の出没率が上がってますから、あまり彼に心配掛けちゃいけませんわよ」
半分はからかいつつもアルスの心配は事実であった。
魔獣の撃破数は増えており、このペースなら残り二ヶ月では駆除が完了する。
しかし、それも八十頭と言われていた魔獣が残り半数を切った頃から、単体ではなく群れて現れるようになった為である。
アルボス軍に配備されたレオパルトも、ハティウルフサイズにまで育ったヘルムボアを一度に三頭相手にして辛うじて仕留めたが、挙げ句その直後にドラゴンまで現れたため、リンジーの巧みな操縦技術に合わせてハインミュラーが機銃掃射で追い払うという離れ業までやってのけているのだ。
ドラゴンも飛ぶ際には二頭一組というパターンが増えてきた。
動きの良い竜まで現れ始めている。
画像認識が可能になったミサイルを積んでいるA-10は兎も角として、隼ではそろそろ対抗できなくなるであろう。
また、A-10自体もドッグファイト向きの機体ではない。
三機調達の前に機種変更に迫られる事態になる可能性もあり、こちらも問題だ。
小型の魔獣に至っては数が増えたどころではない。
二万のアルボス軍も疲弊しつつある程に出没回数が増えた。
彼らほど後方に気を遣わざるを得ない軍はいない。
ゴース軍からも、その半数を廻して援護に当たる事になった。
今の処こちらは五千もいれば充分であるとアイアロスが判断したのだ。
戦局は混乱を極めつつある。アルスは自分の出番が近い事を感じていた。
だが、そのような中、アルスの予感が的中する。
無線に入った一言。
「岩国がやられた。ゴースから南、約八十キロ地点だ。
川を越えて隣の国に飛び込んだ模様。ヘリ部隊の救援求む」
横田の声がゴース陣の本部に鳴り響いた。
救援要請を受けた、ゴース陣に待機する国防陸軍の動きは速かった。
アイアロスに許可を取ると、未だ十機しかないスーパーコブラの二機をシエネから魔方陣で跳ばせる事にした。
AH-2Sは総重量で五トン強であるため、乾燥化して一気に二機送らせる。
しかしながら、流石に人を一人運ぶ程度の事とは訳が違うのだ。
五時間は掛かる、との事であった。
先に武装や燃料は送ってもらっているため、此処で再武装化する事になる。
五時間というと長いようだが、AH-2Sの最高速が四百キロとは云えども常に最高速度が出せる訳ではない。
また、すぐに捜索に入る兵士の疲労も考えるとこれが最も良いと考えた。
救難用のヘリについては更に時間が掛かりそうであった。
オスプレイにするにしても魔方陣の容量を超えている。
誰もが、ヴェレーネのように質量を無視して物体を跳ばせる訳ではないのだ。
間に合うにしても、低速での救難者捜索には向かない。
中央陣地でUHタイプの汎用ヘリを三機運用していたが、間が悪かった。
二機はアルボス軍へ同じく遭難者の救助へ向かっており、一機は重整備の真っ最中だったのだ。
取り敢えず、AH-2Sでの捜索を行い。 その後、オスプレイなりUHなりを飛ばす事になる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
横田と岩国がその竜達に遭ったのはゴースの東から百キロ、南へ同じく百キロ程の地点である。
南北の飛行限界距離は警戒壁から百キロと決めて飛んでいたため切りがよい距離であったが、相手の数は切りがよいだの悪いだの、の問題ではなかった。
一気に四頭の竜と対峙する事になったのだ。
速度ならさほど問題は無い。竜が三百いや二百五十キロ以上の速度を出した事など過去に一度もなかったのだ。
だが、今回の竜達を見た二人は嫌な予感を持たざるを得なかった。
黒い事に変わりはない。
しかし、気のせいであろうかそれぞれ僅かに青み掛かって見えたのだ。
予想は嫌な意味で当たった。
竜達の速度は、優に時速四百キロを越えた。
多対少と見た時から二人は一撃離脱戦法で対応する事を決めていた事が命運を分けたと言える。
隼は一般に軽戦闘機という扱いであり、一撃離脱には向かないと思われているが、三型以降は馬力、降下強度、上昇力などから軽戦とは言い難くなっている程である。
「いけるか?」
横田の声に、岩国は軽やかに“当然”と答えたものである。
一気に上昇した後、反転、一撃で二頭を撃墜した。
かなりの近距離まで接近して頭を吹き飛ばしたのだ。
体に集弾させても鱗が固すぎる部分が多い
羽根を狙っても良かったのだが、生き残って地上陣地を荒らされるのも避けたかった。
「お、良い感じですな」
そう言った岩国は耳元に異常を感じた。無線が通じていないのだ。
一瞬だが不安を覚える。
と同時に、残りの内の一頭の竜が迫る。
振り切ろうと上昇するが、軽々と付いて来た。
火炎を吐く。初めて受ける竜からの攻撃である。
上昇しながらひねりを入れて躱したが、教導隊並の動きを見せた自分に驚かされる程、際どい所であった。
「五百は飛んだな」
岩国が思わず呟いたのは火炎の飛距離である。しかもその体格も相まって火砲と呼ぶにふさわしい威力であった。
既に高度三千メートルまでには上昇しているのだが、しっかりと付いてきている。
これは、どれ程のものかと気になった。
相手の力を見たい。そう思って更に一千程上昇したがどうやら高度三千辺りが限度のようだ。
機体を躱すと下方で横田が低空に向かって竜を引きつけているのが見えた。
あそこから、ループを使って後方に付くのだろう。
と、自分の相手を見失っている事に気付く。
『しまった』と思ったが、遅かった。
岩国の相手をしていた竜はいつの間にか横田の方に向かっているのだ。
火炎を吐く為に横田機の後方に付くつもりだ。ループを見計らっている。
急降下したものの先程の様に余裕を持った速度ではなく、隼改の降下限界ギリギリの速度である時速八百キロで有るため照準が定めにくい。
相手の八時後方から狙う。背中で良い。そう思ってトリガーを引いた。
距離が離れていた事もあり弾は全て弾き返されたが、横田機からの注意は逸れる。
そして、竜の首がこちらを向く。この速度では機体の強度的にロール展開も出来ない。
(昔、一式陸攻が平行飛行していたB-17の回転銃座で落とされたって話があったな)
等と岩国が考える中、竜の口から数発の火炎弾が飛び出した。
出来る限り機体をひねったが左の先端に喰らった。側面に直撃もあり、左頬が焼けそうである。
複合防炎素材装甲を貫通してはいないが、かなりの衝撃を感じる。
一瞬の衝撃だったため熱量が保存されなかったのが幸いしたが、二十ミリ弾に耐えるキャノピーには黒い煤がついてヒビが入っていた。
機がきりもみを始める中、何とか平行に戻そうとするが計器が上手く読めない。
機体が回転する。このままでは墜落する事は間違いない。
機首を引き上げようとするのだが上手くいかない。下手な操作をすれば分解しそうだ。
まだ高度はあるのだ。
岩国はそれに気付き、速度を絞るのを止めた。
逆にエンジン出力を上げて右フラップとラダーで何とか機を固定に入る。
真っ直ぐになるのに数分かかった気がするが実際は数秒から十秒そこそこといった処であったろう。
速度は時速四百四十キロ。それ以下には落とせない。
速度を落とせば機体も落ちる事は間違いないだろう。
くそったれな状況である。
ラダーも無茶な使い方をした為か火炎弾の衝撃からか分からぬが、かなりやられている。
フライ・バイ・ライトと呼ばれる機体を動かす電子機器に異常は見られないが、通常の戦闘機とは違い余分な安全装置は付いていない。正確に動いているかどうか怪しい。
後方を見ると、垂直尾翼までわずかにだが溶けかかっていた。
これで、よく水平に保っていられるものだと我ながら感心する。
実際、彼の足は忙しくフットバーの固定、開放を繰り返しているのだ。
無線が入ってきた。横田機である。
『残り二頭とも片付けた。そっちは大丈夫か?』
ほっとして無線を返そうとしたのだが、通じない。
横田が側に付いてきた時、翻訳機に切り替えると辛うじて通じた。
「見ての通りですよ。ドジ踏みました。すいません。
ほぼ真っ直ぐしか飛べませんし、下は森です。詰みましたね」
『救難要請を出す、っておい! 城塞の壁を越えそうだな』
「はい。飛べるだけ飛んで、降りられる所を探すしかないでしょうね。
脱出速度に落とせそうにもないです。というか、脱出装置もやられました」
隼の脱出装置の火薬量は少ない。装置が作動していたとしても時速三百キロ以下に落とさなくては脱出は不可能である。
『地図上では、国境を越えると砂漠が広がるようだからその手前になら平地があるだろう。
ビーコンは大丈夫か?』
「無線は駄目ですが、そっちは多分大丈夫でしょう。でも『いざ』となったら、この機は爆破しますよ。
機銃の構造を相手には渡せませんからね」
『南部の魔獣が川を越えるのは何度か見ている。樹が密集した林も捜せよ』
「分かりました。燃料の問題もあるでしょう。戻って下さい」
『まだ、暫くは大丈夫だよ』
そう言って横田は岩国機について行く。
国境を越えても着陸さえすれば拾い上げる事もできるのでは、と考えたのだ。
単座機ではあるが一人くらいなら機体の胴体に押し込んでも良い。
だが、そうは行かなかった。もう一頭、竜が現れたのだ。
岩国機に注意を向けさせる訳にはいかないため一撃離脱は使えない。
横田機は青黒い竜と格闘戦になり、遂には岩国機を見失う事になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「という訳だ。 補給を頼む」
ゴースに降り立った横田の要望は聞き入れられなかった。
単騎で飛ぶ事を、航空司令も兼ねる五十嵐が認めなかった。
何より補充の二十ミリ弾が百発も無い。
後、数時間では届くと言うが、それならAH-2Sに任せるべきである。
方面軍本部に直接許可を貰うしかない。
横田はそう考えた。
この数ヶ月間、地球軍はフェリシア軍の下部組織という形態で運営する事になっているのだ。優先指揮権はアイアロスにある。
方面軍の本部に直訴に及んだ。
しかし、アイアロスの返事も『拒否』であった。
地球軍が幾らフェリシアの風下に甘んじて居ると言ってもそれは、諍いを起こさないための方便である事を彼も知っているのだ。
「我々が貴国の独立連隊の司令権を無視した段階で、この連合軍は瓦解する」
アイアロスは横田にはっきりとそう言った。
これは正論であり、横田も分かってはいた。しかし、行動せずにはいられなかったのだ。
緊迫した情況に静まりかえる仮設指令室。
その項垂れる横田の耳に叫ぶような可愛らしい声がいきなり響いた。
「あ、あの! あたしに行かせて下さい!」
室内の全員が声の方向を見ると、いつの間に指令室に入り込んだのか知らないが『捕虜』の手が挙がっていた。
「夜ですねぇ。そうですねぇ」
何とか不時着に成功した岩国に緊張感はない。と言うよりも緊張感を出さないように頑張っていると言うべきか。
川を越え、八十キロ程飛んだ所で意外と早く平野は見つかったが、何処まで続くか分からない。
着陸するにしても時速三百キロ以上の高速で不整地に降りる事になるのだ。
殆ど墜落と同じと言っても良かった。だが、彼はやってのけた。
平原の広さに助けられたとは云え、主脚を折ることもない見事な着陸と言えたであろう。
「死ぬかと思った……」
と最初は息を切らしていたが、周りを見ると穏やかなものだ。
日が沈むにはもう少しある。
サバイバルキットを持ち出すと、銃を確認して機体の下で少し体を伸ばす。
南方は僅かな林の他は開けており、北側に遠く森が見えた。
「フェリシアとは逆の風景だな」
独り言の後はビスケットをかじり水を一口飲む。
ビーコンは出ている。
「機体は……、駄目だな、こりゃ。すまんなぁ、俺がヘマしたばっかりに」
そう言って体を起こすと、彼らしく几帳面に隼に頭を下げた。
最終的にはどうしても爆破しなくてはならないのだ。機に対して申し訳なく思う。
近くの雑木林で薪を拾ってきたが、夜間にこれを使うのは状況次第であろう。
今夜は隼のコックピットで眠るのが一番安全だ。
保温用に石を焼いて機内に投げ込んでおく。
内装床のジュラルミンが溶ける事もあるまいし、いずれにせよ燃やす機体だ。
救難にAH-2Sが出されるであろう。夜間も飛べる機体であるとは云え、この広い大地で目標物もなくビーコンを捕らえるのは難しい。
本来は衛星と組み合わせて使う上に、ビーコンそのものは大した出力でもないのだ。
救難は明朝になるであろうと岩国は一晩耐える事を覚悟する。
同時に気を張りすぎないように先程のような阿呆な独り言で気を紛らわせているのだが、やはり不安感は大きい。
日が沈みきる前に二十ミリ機銃は外し終えた。
野外整備を出来るだけ自分でやっておいて良かった。明日は翼内の十二,七ミリを外さないといけない。
そう考えながら彼は眠りに就いた。
サブタイトルが思いつかなくて、SF作品から探すのは無理かな、と思っていたら「西澤保彦」さんという作家(読んだ事はありません)の本にストレート・チェイサーというものがあるそうなのでそれに引っかけたという事にでもしました。 無理くりですなぁ。
時間が掛かった割には書き進められなかったことは申し訳ないです。




