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星を追う者たち  作者: 矢口
第五章 地球の風、カグラの嵐
58/222

57:最初のドラグーン

カレシュ・アミアンなんて名前、覚えてる人いるのでしょうか?

スゥエン会談の前にちょっと寄り道です。

「シュナ、もう寝ていいわよ」

 年かさの女中頭に愛称で呼ばれ、就寝の許可を得たカレシュ・アミアンは、

「ありがとう御座います」と一礼して、その場を去る。


 本来、『お辞儀』など必要ないのだが、十歳の頃から仕付けられた軍隊の習慣は中々抜けない。

 彼女の仕事場は堅苦しい場所ではない。

 どちらかと云えばこの要塞内部でも最下層の職場だ。


 いやらしい男達も居るが、彼女が身を守れているのは一重に『竜に好まれる娘』、『元魔法使い』という点につきる。

 顔立ちは整っているのであるから、このような噂でもなければ()うの昔に、彼女の純血は誰とも知らぬ下男(げなん)あたりに無理矢理に奪われていたであろう。

 下層民のそのような被害を一々問題にする国ではないのだ。


 窓の外を見ると月が出ている。 満ち始めているようだが、私にとっては時間の流れなど今後の人生で何の意味があるのだろうか、と彼女の表情は曇る。


「どこかへ行ってしまいたい。でも、何処へ行けばいいと云うのだ?」

 と考えると、その精神の陰りも濃さを増した。


 此処よりは敵国のフェリシアの方がマシかも知れない。

 しかし、どの様な国かも判らない。

 此処より酷い場所かも知れぬ上に、何の力もない十六才の娘がどうやって国境を越えられるというのか。

 何より、あの国には『レンの仇』である巨人が居るのであろう。

 そんな国を頼れるのか?


 結局、飛び立った竜達七頭は一頭も帰ってこなかった。

 他の要塞に居るという事になっているが、皆殺しにされたという噂もある。


 カレシュは後者の噂が事実だと思う。

 何らかの作戦があったのだから、成功していれば大々的に発表されているはずだ。


 何より、いきなり他の要塞において見知らぬ竜の世話が出来る下働きが居る訳は無いではないか。

 ライダーと呼ばれる騎士達は気位が高い。

 慣れるために最低限の世話をしなくては竜が懐いてくれないが、自分で細かに世話をする人達だったとも思えない。


 あの巨人に殺されたのだ。 

 余り愛着のある竜達とは言えなかったが、それでも可哀想ではある。


 人殺しも戦争も、もう嫌だ。

 だが、出来ることなら『レンの仇』である巨人は誰かが倒してくれないものだろうか?

 自分には無理だ。

 悔しいが事実だ。

 だが、あの巨人だけは倒されて欲しい。

 あれに命令した人間が居ると云うならそいつも……。

 それ以外は? それ以外は望まない。


 魔法が戻れば人は殺せるだろう。

 でも、もう人殺しは嫌なのだ。

 同僚として仲の良かった『レン』が死んだだけでも、あんなに悲しかった。

 魔法弾を撃つという行為が、自分が誰かを悲しませることになるかも知れない行為だとは、考えてもいなかった。



 彼女の現在の感覚は普通の魔法士、魔術師として戦場に出たなら生まれなかったかも知れない。

 巧による『殺し』は、それほど凄惨なものだったのだ。

 戦慣れしたヤンがマーシアに感じたものに近いか、それ以上の衝撃であったであろう。



 彼女は貧しい家に生まれた。

 口減らしで奴隷に売られる所を、魔法の力があるなら軍に入っては?と進められた。

 親は嫌がった。すぐには金にならないからだ。

 給料は毎月仕送りする約束で軍に入り、五年で力は付いた。

 最初の頃は他の魔術師から苛められたこともあったが、実力を示せば居心地の良くなる場所だった。

 火炎弾を撃てば、風斬を投げつければ誰もが彼女を褒めてくれた。


『自分は軍隊意外に生きる場所を知らない』


 このように考えるのは、この要塞に来て何度目になるのだろう。

 そう思いながら貧相なベッドに身を横たえ、カレシュは眠りにつきかける。


 まどろみの中で何か妙な感覚がすることに気付く。


 空気が震えている。

 いや、実際に振動しているという訳ではない。

 これは、かなり昔に感じたことのある嫌な思い出しかない感覚だ。


「魔力酔い!」

 魔力に目覚めた人間が自分の中の魔力と精神のバランスが取れるようになるまで、酷く苦しむ事がある。

 カレシュもこれが酷かった。

 奴隷に売ろうと親が考えたのも、病がちな娘だと考えたからだ。


 だが、この魔力は『外』から発せられている。

 何かが起きている。

 フェリシアの魔術師の攻撃であろうかとカレシュは不安になった。


 大丈夫だ。確かに不快感は覚える。

 しかし耐えられぬほどでもない上、少しずつ馴染んできた程ですらある。

 自分にとってはエネルギーを分け与えて貰っている様なものかも知れない。

 だが、普通の人間には耐えられないであろう。


 大急ぎで着替えを済ませると、部屋を飛び出す。

 扉の外では、一見しただけでもかなりの被害である。


 誰も彼もが倒れており、殆どの者が昏倒している。

 辛うじて意識のある兵士も体を丸めて、苦しみに耐えるのが精一杯のようだ。

 気絶した方がマシであったろう。


 魔力の強い方へ、強い方へと自然に足が動く。

 その方向は、日頃から自分が馴染んだ場所であった。


 竜舎。

 二十頭を一纏めにした、二十の厩舎が並んでいる。

 その最も奥。北の城壁に近い場所から凄まじい迄の魔力があふれている。


 これでは主館の兵士達は一溜まりもあるまい。

 下手をすれば死人が出たかもしれない。

 自分の魔法が使えるかどうか試してみるが、やはり駄目だ。

 それでも何故か足は止まらない。

 碧い竜。 

 彼女が古いシナンガル語から(ランセ)と名付けた竜が心配でたまらなかったのだ。

 他の竜には、それぞれライダーが名前を付けていた。

 ランセだけは名前がなかった。馬鹿竜、駄目竜と呼ばれていたのだ。


 血の臭いがしてきた。

 魔力はともかくそちらの方に(あた)って、吐きそうになる。

 普段、家畜の臓物ばかり運んでいるのだ、血の臭いには慣れている筈なのに何故?と不思議に思う。


 分からない事だらけだったが縄張りとなる内部城壁の一角を抜け厩舎を見た時、彼女には一瞬にして判断できたことがある。

 あの子を助けなくてはいけない。


 国の手から。


 近付いて、「やはり」と項垂れた。

 碧い竜は他の竜を襲って、共食いをしてしまっていたのだ。

 彼の魔力は大きすぎて他の厩舎の竜達すらも身動きが出来なくなっていた。


 しかし、彼は今までなんと呼ばれてきた?


 人の言うことを聞かない。

 羽が小さすぎて飛ぶことも出来ない。

 火を噴く? とんでもない。

 唯、其処(そこ)にいるだけの竜。


 他の竜が大きな病気になった時に備えるため、研究の解剖用に廻されるとも聞かされていた。

 そのような弱い竜が何故、他の竜を襲えるのだ?

 何より、この魔力は並ではない。


 カレシュには判る。この子は今なら飛べる。

 翼も充分に育っている。いや、翼の問題ではない何かを感じる。

 何より日が沈む前に見た、彼。ランセはこのような大きな竜ではなかった。

 月明かりに照らされた頭は、厩舎を突き破ってしまっている。

 他の竜の倍の大きさは楽にあるのではないか?


 自分を覚えているだろうか? 一心不乱に他の竜を食べている。

 この厩舎では生きている竜は見あたらない。あの子達も悪い子ではなかった。

 可哀想にとは思うが、カレシュにとってランセほど可愛い子は居ないのだ。


 心の中で彼らに詫びつつもランセを救うために行動に出る。

 もう、友達を失うのは嫌なのだ。


 怖い……。

 でも、思い切って声を掛けてみる。

「……ランセ、ねえ、ランセ。わかる? 私、カレシュよ」


 竜はその声に反応して振り向いたものの、月明かりに浮かび上がる其の口元から胸に掛けては凄まじいまでの量の血に塗り込められており、まるで怪物である。

 まあ、実際ドラゴンとは怪物なのであろうが、今まで世話をしてきた彼女には信じられない光景であった。


 思わず悲鳴を上げる。


 それに対して、竜が吠えた。

 悲鳴も吠声(はいせい)も共に城内に響き渡ったであろう。

 その吠声がトドメとなり、要塞内に意識を保つ者は消える。


 が、問題は声の主である。

 カレシュを見ると厩舎の屋根を破壊して飛び上がり、その壁の後に隠れたのだ。

 とは云っても数時間で育ちすぎた巨軀は隠れ切れてはおらず、そっと壁から首を伸ばし、カレシュを見ると又、首を引っ込める。


 暫し呆然(ぼうぜん)としていたカレシュではあったが、続いて思わず吹き出してしまった。

 この子は自分に怒られるのを恐れている、と気付いたのだ。


「怒ってないから、出てきなさい」

 そう言って、出来るだけ優しく声を掛ける。


 ランセは本当に人間の様に『おずおず』という風情で厩舎の裏から顔を出す。

 厩舎を乗り越えようとしたので、其れは厩舎を更に壊してしまうから駄目だと、カレシュは回り込んで動くように指で指図した処、素直に従った。


 やはり日頃から思っていた通り、この子は頭が良いと思う。

 と嬉しくなるが、今はそれどころではない。

 一時的にでも、この要塞から逃げなくてはならないのだ。


「暫く動いちゃ駄目よ。後は静かにね!」

 そう言って人差し指を唇の前に立てると、フンフンと頷く素振りをする。

 日頃から、騒いだ時によく使うジェスチャーだったので覚えていてくれたようだ。

 

 安心は出来ないが、取り敢えず信用して一旦部屋に戻った。


 廊下を通りざま、先程まで意識のあった兵士を見かけたが完全に気絶していた。

 死んではいない様なので、安心する。


 部屋に飛び込むと、少し考えた。

 帰ってこなくてはならなくなるかも知れない。 

 自分が消えたことも『事故』、で片付けられるようにしておかなくては。

 そう思って、持っていくものは最低限のものにした。

 財布はそのままにして、ため込んだ給金を隠してあった袋だけを持ち出す。


 何時、魔法隊に戻ることになるか判らないため杖も徽章もローブも取り上げられては居なかったが、これも置いていく。

 ベッドの下から袋を出して、国軍の徽章が付いた短剣だけを持つ。


 昔買い求めた服も一緒に其処に詰め込んだ。

 この服なら、部屋から消えていても誰も気付かないだろう。

 此処では汚れ仕事ばかりで、まともな格好などしたことはないのだ。


 急いで厩舎に戻ると、ランセはまるで彫像のように見事に動きを止めていた。

 思わず笑ってしまったが、それどころではない。

 どうするか考えなくては、


 一旦は鞍を取ったのだが、よく考えると紐の長さが全く足りない。

 戻そうとした時、上着を杭に引っかけて破いてしまった。 

 ランセが暴れた時に折れたのだろう。イラッとする。

 思わず、ランセに向かって、

「こらっ!」と怒鳴ると、彼ははっきりと『びくっ!』とした。


 その姿に、なんだか悪いことをした気になった。

 自分が焦りすぎて、まともに行動できていないことを彼に当たってどうする。

 と反省する。


 落ち着いたように見えて、実は彼女は『自分が焦っている原因』がランセにあることすら忘れるほど混乱している。


 ともかく上着はもう使い物にならない。脱ぎ捨てて掃除用のボロ入れに投げ込んだ。

 が、其れは持って行くべきであった。 

 暗闇で判らなかったのであろうが、食われた竜の血は、彼女が服を投げ捨てた辺りまで飛び散っていたのだ。


「ランセ、あなた飛べる?」

 カレシュがそう訊くと、彼は首をかしげる?


 意思疎通が其処まで上手くいく訳ではないだろう。

 しかし、努力しなくてはならない。

 月を指さして両手で羽ばたく真似をすると、ランセは直ぐさま飛び上がった。


「ちょっと、置いていかないで!」

 焦って呼び止めたが、そのまま行かせても良かったのでは?

 と後程、何度か考える事になる一瞬であった。

 

 結局はそうはならずに、ランセは降りてくる。

 血まみれの鼻面を擦りつけようとしてきたので、カレシュは両手で押しとどめる。

 これ以上、少ない服を汚されてたまるものか、と必死だ。


 因みに、このときの光景を偶々(たまたま)、気絶から復帰できた魔力に耐性のあったと思われる将官の婦人が三階から見ていた。

 が、子供が食べられる瞬間と勘違いして再び気絶した。


 ともかくランセに、甘えるのは後だといって伏せさせる。

 そのまま背中に上がり込んだ。

「飛び上がった時、落ちたら死ぬわね」

 そう(つぶや)きが出た。やはり『空を飛ぶ』など考えられることではない。

 恐怖心は口数を増やす。


 昇って気がついたのだが、首の後に頭から肩口まで二列に突起が並んでいる。

 ふむ、っと思い、それを掴んでみる。

 中々、良い感じだ。安心した所でランセに声を掛けた。


「じゃあ、飛ぼうか?」

 その声を聞くと、クィッ、という感じで一声泣いてランセは飛び上がった。


 三日月に照らされつつ飛び上がったは良いのだが、さて何処へ行こう?

 フェリシアに向かうにしても、この子は山を越えられるだろうか?

 何より、もう寒い。

 そう思うと自然に突起を引く形でランセを操り、南東の方角に向かうことにした。

 暖かく、水の多い場所なら何とかなるだろうと考えたのだ。


 ともかく要塞からの脱出には成功したが、二人?の行き先は決まらない。



     ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 横田、岩国両少尉はシエネで整備を済ませた隼を受け取ってきた所である。


 基本的には現場で整備は行っているのではあるが、戦線は少しずつ西へ移動していく。

 整備庫(ハンガー)を担いで歩く訳にも行かない。

 隼の航続距離は増槽(ぞうそう)無しでも一千六百キロあるとはいえ、流石にシエネから往復は難しい。

 増槽を付ければ航続距離は倍になるが、地上攻撃後の引き起こしに難が出る。

 また、それ以前に警戒滞空の時間が長すぎるのだ。

 そのため基本は野外整備で済ませ規定時間を過ぎると第六倉庫に跳ばす訳だが、帰ってくると彼らは必ずシエネ市民のために航空ショーを披露する。

 両少尉は今やシエネ近辺の子供達からのヒーローになっていた


 現在、彼らはデフォート城塞南部の村ゴースに立ち寄って後、南部域のパトロールを行って、東部にあるアルボス軍に合流するルートを跳んでいた。

 ゴースでは石壁の建築に重機が使われるようになったため、兵士達に余裕が出来ていた。 

 そのため滑走路も造り終え、彼らを待っていてくれたのだ。


 兵士の他、三百人ほどの村人達を相手に曲芸飛行を披露し、此処でも拍手喝采を受けた。


 そうしてゴースを飛び立って三十分。南部の警戒を続ける。

 今回に限っては寄り道をしたため、増槽を付けている。

 と言っても、タンクには半分も残っては居ないので“村に置いてくりゃ良かった”などと二人で雑談に興じていた。


 余計な電波の飛ばない空では無線機(ラジオ)もクリアに聞こえる。

 模擬空戦は救難隊が出せる範囲でしか認められていないため、二人ともそれぐらいしか楽しみがないのだ。


「ねえ、横田さん。あの犬の子供達可愛かったですねぇ」

「お前ね、犬じゃないでしょ。ワードッグ。失礼になるから気を付けなよ」

「でしたね。すいません。でも、ほら、あの垂れ耳の」

「あれ、ラビティッツ(=兎人:とびと)じゃねーの?」

「いや、あの耳の大きさはワードッグでしょ」

 などと盛り上がっている。


 因みに二人とも同階級の少尉ではあるが、横田が幾分か年上であるためプライベートでは岩国はどうしても敬語になる。

 何時、階級が逆転するか判らないから止めてくれ、と横田は言い続けるのだが生真面目な岩国は譲らないのだ。


 もう十分も飛べばダニューブ河を越える。

 そんな中、二人の話題は横田の子供の話に移っていた。

「今度、幾つになります」

「六歳、もうすぐ入学だな。女房が着飾らせるのよ。これが金掛かってしょうがねぇ」


「可愛いですからねぇ」

「やらんぞ!」

「何言ってるんですか!」


 岩国は独身である。その為、この手の話題ではよくからかわれるのだが、其処までの趣味は持ち合わせては居ない。

 と、その時、その岩国が今後からかわれ続けかねない言葉を口にした。


「あれ、女の子だ!」

「は? 何を? って馬鹿! 竜だろ!」


 レーダー反応がなかったのは今飛び立った所だからである。

 隼に取り付けた下部装備レーダーはヘリ様のミリ波レーダーであるため下に対する警戒能力は高いが、動かない物体には意味がない。


「碧いですね」

「碧いな」

「ヤバイですね」

「ヤバイな」


 阿呆のような会話ではあるが、巧から警告を受けており『碧い竜』はレーザーガンでしか対応不可能と聞いている為である。


「逃げられるかね?」

 と横田。

「いや、殆ど平行に飛んでるんですけど」

 岩国の返事は無情であるが、続けての言葉はやはりおかしかった。

「女の子、乗ってますよ」


 小振りな碧い竜と東に向かう二機の隼は平行に位置しており、岩国がやや頭を押さえた形で飛んでいる。

 その為、竜の背中がよく見えるのだが、女の子が背中に乗ってこちらをチラチラと見ているのだ。

「お前、幾ら女に縁がないからとは云え、ウイング剥奪される様な事言うんじゃねーよ」


 因みに、横田の台詞の意味は次の通りである。

 航空機搭乗中に、”UFOを見た”などと言おうものならレーダー反応が無い限り、『精神失調の疑い有り』としてパイロット資格を剥奪されるという飛行機乗りの伝説があるのだ。


 事実の可能性が高いので否定もできず、誰もがその手の話題には神経を使っている。

 だが、岩国の返事は意表を突きながらも、言われてみれば当然というものであった。


「いや、そんな事言ったら、『竜、発見』って段階でもう終わってるでしょ?」

「あれっ? そう言や、そうだな。どれ、ちょいとポジション・チェンジだ」


 そう言って、上に出た横田は竜の背中を見ると、

「なんか、娘とTVで見たぞ。こんな光景」

「は?」

「ぼうや~、よい子だ、金出しな。って……」

「CASRACが通常の三倍ですっ飛んでくるような危険な歌、歌わんで下さい」

「それ以前に色々ヤバイ。あんまり逃げられる感じがしない」

「いざとなったら、ループ掛けましょう。背中に乗ってりゃループについてこれないでしょうから」

「ホバリングしてループの真ん中で待たれたら、間抜けなだけだけどな」

「あっ……」


 竜を見つけてから高度を上げ続け、現在高度は三千メートル、速度は既に四百五十キロ毎時を越えた。

 しかし、少女の周りには何らかの効果が働いているらしく、全く苦しげには見えない。髪すらなびいて居ないのだ。

 竜も殆ど羽ばたいているようには思えない。時々、気まぐれに羽根を動かす程度だ。


「今まで見てきた竜と全く違うな……」

 彼らも過去に竜と遭遇し、主武装二十ミリと言うハンデを負いながらもペアの優位を生かすことで、余裕を持って一頭撃墜に成功している。


 しかし、あれは少なくとも弾が通じる相手であった。

 此奴は違う。二人ともそう感じている。

 横田の呟きには自分たちの現状の深刻さを計ると共に、敵の情報の収集を最優先させている事が判る。


「なあ、岩国」

「何です」

「あいつが攻撃してくるようなら、先に逃げろ。ケツはこっちが持つ。 

 情報を持ち帰れ」

「何言ってるんですか、ペアで闘うのが常識でしょ。 

 情報は無線で! あれっ!! 無線……」


「近距離は殆ど近接伝達だから良いにせよ。ジャミング(=妨害電波)食らって、ロング(=遠距離)はパーだよ! 何処まで高性能なんだ。ありゃあ!

 とにかく動きがあったらケツまくって逃げろよ。 

 何にせよこのまま飛べば、いずれ東部防衛本隊に到達しちまう。 

 どっかで一機逃げ切ってASを引っ張りださにゃ。皆殺しになるぞ」


 二人の緊張は否が応にも高まって行かざるを得ない状況であった。





サブタイトルは、ピーター・S・ビーグル『最後のユニコーン』(ハヤカワ文庫FT)より改変です。

好き嫌いがはっきり分かれる小説のようですね。

ファンタジーとして読めば素晴らしいのでしょう。

ただ、主人公が何かを生み出すことが好きな人にはちょっと向かないのかな?

斜め読みして、そう感じました。

もう一度きちんと読んでみたいと思います。

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