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星を追う者たち  作者: 矢口
第九章 激戦区一丁目一番地
197/222

195:彼等の戦場(前編)

 激しい爆音と共に上空を飛ぶ三羽の『鳥』

 発見されるのではないか、とシナンガル軍の誰もが恐れるが、自身も気付かぬ幾つもの理由によって、この森に潜む彼等はAHの探査機器から完全にその身を隠しきっている。


 ひとつは百三十頭を数える竜にあった。

“モドキ”であったのも今や昔の話であり、ルナールが、或いは現在はテレンシオ・ベルナール軍によって得られた魔獣の頸骨が此等(これら)の竜の餌となることで、本来の『翼竜』としての力を取り戻し始めている。


 つまり、赤井が見込んだ通り、これらの竜は電子的な妨害力場を常時発しているのだ。

 確かに一頭一頭ならば未だに力は弱い。

 だが、五頭も一ヶ所に集めたなら、半径一キロは軽くカバーしてしまう。

 その上に、二万を超える兵士達の熱源ひとつ漏らすこともないおまけまで付く。

 これにルナールの通信能力が“だめ押し”となり、現在のシナンガル軍は広大な森に見事に潜みきっていた。


 二万五千名を捜し出すには歩兵による掃討戦しか無いが、兵力数から考えれば森に跳び込んだ場合、掃討されるのはシーアン・地球連合軍の方で在る。

 敵が自軍を発見できぬ事は単なる幸運だ、と誤解した侭のルナールではあるが、先の理由から森林内の戦闘は無い、とも考えていた。


 昨日、夕方に魔法陣から現れた伝令による最終の命令は彼を一旦は驚かせた。

 早朝に鉄巨人の半数を森から運び出し、代わりの“物”を受け取る。

 同時に、運び出された鉄巨人の護衛には大型竜(ドラクール)一個中隊を付ける様にとの命令も下された事で、ルナールはエーベルト・ベセラの真の狙いに気付いた。


 いや、ベセラの狙いというよりも『軍師』の狙いだ。

 河川を使った“東進”である。

 地図を睨むと、“なるほど”と頷き、第一中隊に護衛に入るように命じる。


 伝令が退出した後、ルナールはふと思考を口にした。

「確かにこの作戦は有効だろう。スゥエンの鳥使いは全てシーアンに集まった可能性が高い。

 つまり数に優る我が軍に見合った作戦ではある。

 また、ルートも実に合理的だ。

 だがな『軍師』よ、貴様の作戦は結局の処、何時も同じ事の繰り返しではないのか?

 何よりイワクニの言葉が事実ならば、『鳥』は最終的に百も集まると言うのだぞ。

 この程度のことで、奴らを押さえ込めたとなど思うなよ」


 そう言って彼は『軍師』を見下す心情を表すかの様に鼻を鳴らした。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  


 八月二十一日

 

 国防軍は現在シーアン城内と回廊部にその殆どを留め、警戒に当たっている。

 巧とクリールは、連れだって政務庁から僅かに離れた広場に向かって歩いていた。

 これから作戦開始前の最終確認が行われるのだ。


 マーシアは分遣小隊員と共だって先に集合地点へと向かった。

 彼等の好意を知って以来、後暫くは一緒に居たくなった様だ。

 


 人間というものは不思議なものだと巧は思う。

 いや、実は自分だけがこの様な考え方をする人間なのかも知れないが、己の心情の変化に驚いているのは確かだ。


 今まではマーシアとマリアンを守る事が、巧にとって何を置いても第一の命題であった。

 何時だったか池間に云われた通り、『家族を守る為なら軍をも利用する』気持ちであったのだ。


 だが、絶え絶えの息の下で長谷が発した言葉が、彼の本来の心情を明らかにしつつある。

 守るべき存在は家族だけであった筈だが、次いでヴェレーネとの契約がそれに含まれた。

 その家族と契約を守るために利用していた筈の『軍』という組織。


 だが、考えるに軍は組織かもしれないが、その中で共に闘っている仲間は利用できる存在では無い。

 今までも『軍』を利用しているのだ、と言い訳をしていたが、仲間までも利用する事は結局出来なかった。

 その中途半端さが、長谷の危機を招いたのだ。


 彼は無事である、との連絡が再度入った。

 地球で再生処置を受け復帰まで最低で半年は掛かるだろうが、兎も角、最悪の事態だけは避けられたのだ。


 今後、戦死者が出ないとは言えない。

 必要とあれば優先順位も付けるだろう。

 だが、今回のように自分のエゴで部下を危険に晒すことだけは二度と有ってはならないと思うのだ。


 クリールがいつもの如く、巧の軍服の裾を摘んで付いて来る。

 その姿に、意味なくも思わず問い掛けた。

「なあ、こんなに都合良く考えを変える俺は、ずるいかな?」

 その言葉に首を傾げるクリール。

「ま、お前に言っても分からんか……」

 蹴飛ばされた。



 ASが届いた事で巧は歩兵小隊を直接指揮する事から離れる。

 しかし、それでもマーシアを守りたい、と言ってくれた仲間達を無用な危機に曝したくないと云う気持ちに変わりはなかった。

 何より、マーシア自身も同じ事を願っている。


 ならば決断すべきなのだろう、と赤井に全てを任せた。


 部下を集め、指揮権の移譲を行う。

 小隊は再編成され四分隊及び指揮官補佐員等による二十八名となった。

 小隊長は元副官である大出(おおいで)准尉が、新副官は大出の代理であった辻村曹長がそれぞれに繰り上がる。

「大出、辻村、後を頼む!」

「ASの出番が無くなったら、いつでも戻って来て下さい」

 大出がそう言うと、辻村が眉を顰める。

「准尉、それはASが撃破された時ですから、ちょっと拙いのでは?」

 これには大出も確かに拙いと慌て、それを見た誰もが笑う。

 巧もこれからの事を考え緊張していたが、辻村の言葉に随分とほぐれさせてもらえた。


 その後、赤井による中隊への訓辞が行われたが、その中で赤井は巧からの言葉を全体に通す事となった。

「最後になるが、フェリシア軍所属マーシア・グラディウス少佐についての通達である。

 本来、彼女はフェリシア軍属である以上、此の土地に居てはならない人物である。

 よって此処からの彼女の身分はフェリシア自由人(バロネット)となる。

 つまりマーシア・グラディウス一個人としての参加だ。

 今後、彼女を階級名で呼んではならない。また、」


 此処で赤井は言葉を区切り、巧へと視線を向ける。

 最後の確認をしたのだ。


 黙したままに巧は頷いた。迷いは無い。

 その表情を確認した赤井は何事も無かったかの様に言葉を継いでいった。


「また、マーシア・グラディウス殿には、今まで通り“魔獣対応”を主として貰うが、今後は“対人戦闘”にも参加して貰う」


 この言葉に、巧の持っていた先遣小隊からは動揺のざわめきが上がる。

 この小隊の隊員達は殆どがスゥエン会談以来の十三連隊編制組である。

 つまりマーシアとの付き合いも長い。

 やはり長谷の言葉通り、彼等もマーシアに人を殺して欲しく無い、という気持ちが強くなっていたのだ。

 だが、だからこそ決断して良かった、と巧は思う。

 その様な仲間達だからこそ守りたいのだ。マーシアならそれが出来る。


 ASの側に立つ巧に向けて辻村が視線を送ってきたが、その表情は何とも複雑なものであり、巧には彼の心情を読み取る事は出来なかった。

 辻村自身、どう言って良いのか分からなかったのだろう。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  



 十一時を廻ると遂に竜の攻勢が起きた。

 森の中を歩いて移動したのであろう。殆どが城壁の側から飛び立っては低空から城壁を攻めてくる。


 その為、ヘリ部隊の反応は大きく遅れた。

 大型竜を主体にAHを引き付けては、森に下がる事の繰り返しである。

 低空を城壁に沿って飛ぶ為、下手にチェーンガンすら使えない。


 近接信管を使ったAAMは三十分の戦闘でようやく七頭を墜とす事に成功したが、竜は次第に分散し、最後は森へと潜んでいく。

 低空で森の上空を飛べば木々の隙間から火炎弾が飛び出すため、下手な深追いも出来ない。


 最後に降りた地点を狙って掃射もするが、やはり敵の数は多すぎる。

 二~三頭倒しているうちに他の竜は地を走って位置を変えてしまっただろうと報告は続く。


 巧は城門前に設置された仮設指揮所で無線を聞いていた。

 ASを起動できる準備を進めながらも、赤井から参謀役としての待機を命じられたのだ。


 今回の空戦の成果は多めに見積もって十頭という処だろうか?

 前回と違い、AHの数に余裕があった事は大きい。

 緒戦で一割に近い撃破は敵に取っては痛いだろうと赤井は笑う。


「まずまず、でしょうか?」

「うん。だが此方の九機も南方までだいぶ引き付けられた。

 彼等が戻るのに三十分は掛かる。……となると、」


 赤井の言葉が終わらぬうちに、集落の石垣を越えて散発的に陸兵が現れる。

 防衛線は前回の主戦場となった橋よりも三百メートル以上前方に押し出してあり、夜間のうちに塹壕や掩蔽物まで多数設けてある。

 最早、敵の突撃に意味は無い。


 三日前の戦闘を数倍に拡大した虐殺が始まった。


「これが囮とはね……」

 仮設司令部から六百メートル以上前方で行われている戦闘。

 敵兵の数は優に三千を超える。

 いや、窪地に伏せた兵を含めれば倍だろう。

 モニタを睨みながら赤井が溜息を吐く。

 その言葉に巧が応じようとした時、無線から声が響いた。


『かなり優秀な囮ですよ、こいつらは!』


 怒鳴り声はAHで先行した小西である。

「どういう事かな、小西少尉?」

『司令官、いや失礼、今は参謀長ですか。

 こっちの竜の話です。こいつら滅茶苦茶下手くそで本当に困りましたよ!』


 小西の怒りに赤井が首を傾げて問い掛けた。

「下手なら、楽に堕とせるんじゃないのか?」

『空戦って奴は下手が裏目に出る事もあるんですよ!

 今回みたいに陸まで自由自在に動ける連中ですと“特に、”ですね!』

「よく分からんな?」


 小西が言うには、北部戦線で出会った竜騎士達はある程度の訓練が出来ていたらしく、見事な滑空や側面展開(ロール)迄も見せてくれていたという。

 だが小西達にとっては、それこそが有り難かった。

 要は形が出来ているからこそ、次の行為の予測が付いたのだ。

『今回の連中は下手くそすぎて、あり得ない動きをしてくれるんですよ!

 最初は高等技術者の集まりかと思って、引いたのが失敗でした。

 お陰で殆ど逃げられちまいましたよ!』


 スライドロール中に勝手に竜の背から落ちる兵士が続いた為、ようやく新兵だと気付いたが、“時既に遅し!”だった、と悔しがる小西の怒りは話の内容からユーモラスにすら感じる。

 だが本人にして見れば、そう見られるだろうとも気付いている事が、怒りを増幅する要因になってしまうのだ。

 下手な慰めも言えない赤井としては、『後方に気を付けて帰ってこい』としか言いようが無かった。


 モニタを睨みながら、巧は大きく息を吐く。

「やはり甘くは無いですか。どうにも今日も拙い様ですね」

 その言葉に赤井も頷いた。

 言葉の意味は、敵の波状攻撃である。

 敵は突出しては引く、を繰り返している。

 この様な戦法を使われた場合、絶対数の違いは疲労度となって現れるのだ。


 それに耐えきれなくなった此方が打って出れば、彼等は大きく下がり、森の中のいずれかに潜んだ本隊が一気に襲い掛かるのだろう。


 五千近くを倒したとは云え、相手は未だに万単位。

 地球の軍制に合わせるなら二個師団相当である。

 中隊如きでは相手にならない。


食事(メシ)はどうしてるのかな?」

 赤井は言外に食事時の炊煙を狙ってミサイルを撃ち込みたいと言っている。

 確かにそれだけで事は大きく変わる。一気に勝敗が決してもおかしくは無い。

 だが、この三日間、それらは見えなかったと報告が入っている。


「おそらく魔法陣ではないのでしょうか?」

 巧の言葉は、初日の失敗からヒントを得ての考えだが、これは間違っていない。

 つまり南の広大な森のいずれかで分散して煮炊きをし、それを前線まで魔法陣を使って送っているのだ。

 物質だけならば生命体と違って差程魔力を消費しないとマーシアも言う。

 人ひとり送る魔力量でも糧秣なら百人~二百人分は跳ばす事が出来る、と。


 シナンガル軍も糧秣を魔法陣で送ったことは過去にもある。

 だが、完成品を送るという発想迄は無かった。


 この様な補給方法はこの世界でも初となる試みであり、兵站の革命を『軍師』は軽々と生み出したのである。

 彼女に敵意を持つルナールですら、此には感謝せざるを得なかった。


「となると、後は連絡待ちか……」

 赤井の言葉に今の巧はようやく頷く事しか出来ない。

「そうですね。

 攻勢が考えられる都市は四ヶ所ですので、今日中には何らかの動きがある筈なんですが……」

「君は、本命を何処だと見ている?」

「スゥエン、と言いたい処ですが、あそこはフェリシアに近すぎますね」

此処(シーアン)から出来るだけ遠い方が良いのでは?」

「移動時間も考えますと、まず無理ではないか、と」

「なるほど、だが一都市を墜とすのなら、まずはこのシーアンに戦力を集中するのが一番良いのでは?」


 赤井の問いは当然だと納得しつつも、巧は敵の狙いを説明していく。

「それはそうなんですが、別の見方もあります」

「と言うと?」

「一つは、我々の武装も集中運用が可能となる事です」

「なるほど! 敵に取っちゃ我々、特にヘリは少ないに限るだろうな」

「また分散によって得られる利点はスゥエンに与えるダメージの問題でもあります」

「ふむ、そっちは?」

「シーアンが落ちた場合、地形的に今後、スゥエンまでの街道防衛が難しくなるという問題がでますね」

「それは分かる。此処は大軍さえ置けば立派な要所となる。

 だが、他の土地を落とすにせよ、此処と首都スゥエンを一気に分断など出来るものかな?」


 赤井の口調は、疑問と云うよりは試験官による口頭試問である。

 その為か、巧の答えも演習時の机上説明の様になってしまう。


「まず、この国の河川は複雑に入り組んでいる上に、密林の中を抜ける川筋も珍しくありません。

 此処を秘密裏に行動出来るなら大軍の移動も難しくないでしょう。

 そうして南部の都市を陥落()とす事に成功すれば、シーアンという都市の価値も大きく減ずる事になります。

 また、スゥエン国南部の街の周辺は特に水利に恵まれています。

 仮に陥落とされたなら今後の食糧生産に響く事は間違い有りません」

「では、その攻勢側の補給はどうする? 十万を喰わすのは並大抵の事じゃないぞ」

 赤井の問いかけは近代軍の士官としては当然のものだが、やはり魔獣のみを相手にしてきた事からか、この世界の常識にまだまだ疎いと言わざるを得ない。


 巧は反論を短く済ませた。

「中尉、この世界の補給は現地調達。つまりは略奪です。

 農業生産的に豊かな土地ほど攻める価値があるんです」

 この言葉に赤井は大きく頷く。

「成る程、これはうっかりだな。

 確かに、地球でも中東やアフリカではゲリラの日常の手だ」


 こうして現状を確認したは良いのだが、結局は黙り込む二人。

 彼等は今暫く、各地に送り込んだ連絡員からの報告を待つしか無いのだ。




 十四時四十分、その時は来た。

 無線兵が声を上げる。

「狙いはハルプロムです。鉄巨人六体、兵数……、凡そ十万!

 猶、輸送物資の中に鉄巨人の手足とおぼしきものが多数確認されます。

 最終推定数は三十を超える可能性在り!

 上陸点は目標都市から一日の距離になります」


 赤井が首を傾げる。

此処(シーアン)とシルガラとの中間点か」

「どちらかと言えばシルガラ寄りですね。思った以上に遠くまで行きました。

 だが、“なるほど”です。

 あそこならシルガラまでの水路のみならず陸路までも押さえる事になります。

 我々も知らない河川の集合点を押さえたのでしょうね。

 次いでシルガラをも押さえれば、南部からスウェンまでの北上は容易(たやす)い」


 巧の答えに頷きつつも、赤井は直ぐさま問い直す。

「兵力としては充分だが、鉄巨人とやらはミサイルの敵ではないのだろ?」

「多分、マーシアの出番になるのでは無いでしょうか?」

「高位魔獣って奴が後に控えてるって事か?」

「ええ」

「なら、偵察隊による攻撃は?」

「予定通り、“無し”でお願いします」

 頷くと赤井はしみじみと言葉を吐き出す。

「高位魔獣って奴は、確かに俺も一度は見てみたいが、魔獣そのものは南部で腹一杯だからなぁ」

「会わないに越した事は無いですよ」

 そう言って笑った巧だが、次の瞬間にモニタを見て眉を顰め、それからの光景に声帯を固めてしまった。


「馬鹿な!」

 巧の代わりに声を発したのは赤井である。

 今、話題にしたばかりの鉄巨人が五体。

 木々の隙間に展開するものを含めると、十体を数える。


 それらは城壁から四百メートル以上南の木々の合間を縫って姿を現したのだ。

 いや、それだけなら別段、赤井にも巧にも驚きは無かっただろう。

 赤井がこの様な声を出す理由は無い。


 鉄巨人出現の可能性は考えられたものであった為、前線にはATM(対戦車ミサイル)が配備されていたからだ。

 だが、発射されたミサイルは、鉄巨人に特に被害を与えた様には見えなかった。

 これが赤井の驚愕を引き起こしたのだ。


 一瞬、巨体はグラリと(かし)いだ様にも見えたが、結局はそれだけだった。

 その巨体が薄紫色に輝いている。


「物理対抗力場!」

「南部でも一度しか見たことは無かったな……」

 言った切り息を呑む赤井。


 いや、更に拙い事が起きつつあるようだ。

 緩やかに前進する鉄巨人の後方に、更に列をなす黒い存在が見える。


 巧も初めて見るものだが、あれこそが魔術師トレ・コリットの仇だ。

 数十体の鉄兵士。

 少なく見ても四十はいるだろうか。

 威圧効果を上げる為にだろうか、人形にも関わらず、その全てが黒いマントを身に纏っている。

 マントに合わせて黒光りする鋼の身体は、命を持たず、死を恐れぬ、闇の使いが如き姿である。


「出る!」

 巧の側にいたマーシアが立ち上がった。クリールも椅子から飛び降りる。

『量子収斂』に不安があるという言葉が気に掛かるが、自分の力を知るマーシアを信じて、“任せる”と答えつつ、巧自身もASへと足を向ける。


 だが、その時巧のDASメットに声が入った。

『柊少尉、すまないが、今はマーシアさんには出て頂きたくない。

 あなたのASのみで鉄巨人を押さえて頂きたい。

 特にあの鉄兵士は、我々二人の手で倒さなくてはならない!

 魔法ではなく、貴官と私とで倒さなくてはならないのだ!』


 日頃の冷静さに見合わぬ(いきどお)った声を発したのは、最前線で指揮を執る相田了少尉であった。





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