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星を追う者たち  作者: 矢口
第八章 俳優交代
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159:開放への道(中編)

 結局、海洋作戦は少しばかりの変更を迫られることになった。


 コペルは魔獣と闘わない訳ではない。

 しかし、敵の第一撃はネルトゥス自身で防ぐか、避けるかしなくてはならないのだ。

 何より、大型魔獣相手では、作戦に参加するフェリシア海軍が無事で済むとは思えない。


 そこで、小西隊はいきなりの攻撃は行わず、幾つかの通信筒を投下して敵の出方を覗う事となった。

 その様な中で敵艦隊からは翼飛竜が軍使として現れ、小西隊は彼を巧の下まで案内する事となる。 



 その中で話し合われた議員階級の将官・士官の返還談判は物別れに終わった。

『彼等には全員、徒歩で帰還して貰う』

 これは譲れない一線である。


 フェリシアに侵攻して捕虜になった場合、どの様に階級の高い者であろうと、帰国には北部の海岸線を徒歩で帰ってもらう。

 フェリシアは(これ)を既成事実化したいのだ。


 そうなれば『捕虜』の一言は『地獄』と同義語である。

 フェリシア軍も国防軍もシナンガル兵を虐待などしない。

 だが、国に帰るには地獄を通り抜けなくてはならない。

 では、それが嫌なら?


 その場合は期日を切って戦闘を再開し、『全滅』するまで闘って貰う迄である。

 この『全滅』とは軍事学上の兵員三十パーセントの喪失ではない。

 文字通り“全ての”兵員が地上から“消えて”貰う事を指している。



『本国に帰ることが出来ないのだから、』と下手に情けを掛けて『居留地』などを認めれば軍事侵略が人口侵略に変わるだけである。


 巧の世界でも人口侵略は大きな問題になっている。

 例えば二〇五〇年代のドイツは既に中東系宗教国家である。

 初対面の際、実は巧はハインミュラーに嘘をついた。

「移民は多いが何とか上手くやっている」という一言だ。


 正しく笑い話である。


 ドイツに白人は最早三十パーセントと残って居らず、食事も中東戒律を守った『許可食品』の流通が主流となりつつ有る。

 一例を挙げるなら現在のドイツでは“豚を喰う”など(もっ)ての(ほか)の行為であり、ソーセージなどは全て兎の腸詰めに切り替わった。


 デンマーク、スウェーデン、オランダなどの白人比率は平均十六,二パーセントと、目を覆わんばかりであり、フランスはキリスト教国家の守護者を宣言し、辛うじて文化を保っているがやはり人口比の関係から劣勢である。


 スペインの『インビヨルタ・レ・コンキスタ(逆再征服)』は成った。


 イギリスは大陸系・中東系移民に乗っ取られる寸前で地方政府が回避の方向に舵を切りつつあるのだが、それも上手くいくかどうか未知数である。


 キリスト教そのものが消える寸前だというのに英国国教会とIRAの争いは未だ続いているのだ。

 いや、現状を招いた責任を相手に押しつけ、争いはより激化していると言って良い。


 西部のウェールズ地方は本土との地峡に検問を造り、北部のスコットランドは『ハドリアヌスの長城』を再構築して、いずれの地方政府も共にイギリス連邦から脱退可決寸前という深刻さだ。

 ユニオンジャックは歴史の舞台から、今まさに消え去ろうとしていた。


挿絵(By みてみん)


 

 今から三十年以上前の二〇一〇年代イングランド、特にロンドン市民は自分が人種差別主義者(レイシスト)と呼ばれることだけ(・・)を恐れ、公共の場での中東宗教法的行動の制限を呼び掛けるデモ隊に卵を投げつけて追い出してしまい、代わりに二十年掛けて非成文法である“英国憲法の消滅”と”女性の人権の剥奪”を手に入れた。


『地獄への道は善意の石畳で敷き詰められている』

 旧約聖書の外典から転用されイギリスの諺にもなった言葉だが、偽善を戒めたこの言葉を思い起こしたものは当時のイギリスには存在しなかったのであろうか?



 現在イングランドでは女性は九才からの婚姻が合法であり、そこに本人の意志など関係はない。

 親の意志と中東宗教法が全てを決める。

 

 過去のデモ隊追い出しの中心となったのは『善意在る人道的』な、或いは『事なかれ主義』の自称“先進的で文化的な人々”であったが、現在、彼等は他の白人国家がイングランドを奪還してくれる事を願うだけである。

 平和主義的な彼等は、当然ながら自ら闘う事は一切せず『誰も自分たちを助けてくれぬ』と声を潜めて他国を罵る事に忙しい。


 第二次アメリカ南北戦争の結果次第ではNATO(北大西洋条約機構)解体も有り得るが、今の処はロシア共和国連邦の存在がそれを許さない。

 (もっと)も、そのロシアも軍人の中東系人口が総員数の四十パーセントを占めつつ有り、混乱ぶりは旧西側諸国と似たり寄ったりである。


 南半球の島国であるニュージーランドは大幅に移民を制限し、現在は余裕を持って文化を護っている。

 しかしながら自国だけが大陸系移民により変化することに耐えられないオーストラリアからの政治的圧力と第二次アメリカ南北戦争の影響は凄まじく、文化保守政策を陥落させようとする内外からの攻撃は激しくなるばかりなのだ。 




 少しでも隙を見せたなら、同じ事がこの世界でも起こりかねない。

 国防軍の兵士達が『虐殺』とも言える攻撃に対して“辛うじて”ではあるが心理的に耐えられたのは、この様な世界情勢を知った上での事だったのだ。


 その様な訳で、六月十日以降に北部山峡に残る兵士は休戦状態の解除と見なされる事、艦隊は捕虜への補給を行う際に、フェリシア海軍の臨検を受ける事、などが伝えられた。


 それに対してシナンガル軍使は、『申し入れは認められない、自由に行動させて貰う』と返答してきた訳である。

 此により交渉は完全に決裂。

 シナンガル艦船による捕虜への補給活動までもが認められなくなった。


 捕虜への補給はフェリシア海軍が行い、シナンガル海軍を相手にネルトゥスは戦闘へと突入する事となったのである。


 戦闘と成らずとも、敵の艦隊に近付くだけで水底(みなそこ)の魔獣も共に相手とすることとなるが、結局はコペルを引きずり出すまでの勝負である。


 巧からの連絡を受けた山崎は遂に腹を括った。

 まずは現在副官扱いとなっている桜田を呼び出す。


「桜田! 技術班全員と最後の詰めを終わらせて置いてくれ!

 それと、おまえさん作戦開始と共にCIC(戦闘指揮司令室)から出て寝っ転がってるつもりでも無いだろうが、万が一の戦闘時には必ずあそこに居て欲しい」

「まったく、人使いの荒い……」

「器用な自分を恨め!」

 ふたりの会話を聞いていた石岡が、申し訳なさそうに桜田に声を掛ける。

「すいません。 レーダー要員を俺が指導できりゃあ良かったんですが……」


 その石岡に向かって桜田はヒラヒラと手を振った。

「岡崎君がいない今、あんたが砲術長なんだから自分の仕事に専念しなさいよ。

 コペルさんが完全に当てにならない以上、あんたの戦闘指揮にこの艦の命運が掛かってんだからね」


 桜田の言葉に石岡は胸を拳でひとつ叩く。

「はい、それは任せて下さい! 訓練の時間だけは嫌って程有りましたからね!」


 海上に漂っていた一月間、彼等は模擬戦闘、特にオスプレイから発射される多弾頭模擬弾の邀撃(ようげき)訓練を繰り返してきたのだ。

 最も近い訓練に於ける五回の試験攻撃弾に対する撃墜率は百パーセント。


 一応に守りは堅い。


 そんな中、桐野だけが、ややうつむき加減である。

 彼女は今まで『銃』にのみ(こだわ)って、他の戦術技能や機器操作資格の取得を(おこた)ってきたことを今更ながらに悔やんでいるのだ。


 勿論、山崎にせよ桜田、石岡、岡崎のいずれも地球では艦船装備の操作技術や免許など持たない。

 しかし、二〇五〇年代の防御施設はユニット化されており、艦船に搭載されたレーダーや航空砲が、そのまま陸上で使用される事は珍しくない。


 逆を言うなら陸軍で扱ったフェーズド・アレイ・レーダー(SPY-3)やパトリア・ネモ一〇五ミリ榴弾砲が艦首の主砲になっている光景があちこちで見られる。

 これにより各国とも機器の互換性と生産時の予算の削減に成功している訳だ。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



 これらの使用は基本的には兵科別の技能だが、志願すれば座学レベル、見学レベルの講習を受け緊急時の使用資格を得られる。

 兵士の絶対数が不足する国防軍に於いて、伍長以上の兵士は大抵ふたつ程度の兵科外資格を持つのが普通なのだ。


 だが、桐野はそれらの資格をひとつも持たない。


「まあ、まあ。此処は地球じゃないんだから緊急時にはどうとでも言い訳は効くわよ。

 石岡君の隣に着いてだいぶ勉強したんでしょ?」

 慰める様に声を掛ける桜田に、石岡が半ば呆れた様に返事を返してきた。


此奴(こいつ)、C-RAM(槍衾)の砲撃センスも並みじゃないですよ。

 一キロ内外なら兎も角、十キロ前後での“集弾率九一パーセント”って、本職でも“そうは居ねぇ”です」


 石岡の言葉に桐野はやや照れた様に、だがはっきりと笑顔になった。

 他に資格を持つ兵員がいる以上、彼女がトリガーを引く訳にはいかないだろうが、自信が無いよりは良い。

 唯今回、彼女はCICの補助席で仕事もなく座り続けることになる。

“これを苦い薬として、今後を頑張って貰うしかないだろう”と桜田は思い、ふと自分はいつの間にこんなに部下の事を考えられる人間になったのか、と自らの成長に嬉しくなった。


 足取りも軽やかに、階下のブリーフィングルームに降りていく彼女の後ろ姿を山崎は少しの不安と共に見送ったのだが、彼はもう少し艦長代理としての威儀(いぎ)を示しておくべきであった。

 作戦総指揮の権限は柊巧少尉、引いては中央作戦司令部にある。


 いくら実行指揮官とは云え、桜田の独断の余地は薄いことを彼は今一度示すべきであったのだ。

『後から悔やむから“後悔”と言う』とは(けだ)し名言なのである。



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 


 六月五日


 シナンガル捕虜達は順次に出発していく。

 此処から二百キロ区間には補給地は置かれ、出発までの間にオスプレイがピストン輸送によって補給物資を運び込んである。

 その後も、この百キロ区間、八箇所の補給地には随時オスプレイが降り立ち、不足分の補給物資を集積していく事になる。


 だが、問題はそこを過ぎてからだ。

 いよいよ開けた場所もなくなり、垂直離着陸が可能な機体も都合良く着地点を見つけられない。

 有るにしても、捕虜達が歩くであろう森林から数百メートルは上がった断崖の上層部なのだ。

 この最終補給ポイントこそが敵が船舶を使って将兵を救出できる最終地点でもある。


 此処から先は投下補給が基本となる。

 補給の成功・失敗は兎も角、『最終救出可能ポイント』を全ての捕虜が通り過ぎるまで、敵による海からの救援活動が行われる事を許してはならない。


 繰り返すが、降伏文書の条項により、彼等の帰路は『徒歩』と確定しているからである。


 これは絶対に譲れないラインだ。

 此処で捕虜達に地獄を見せなくては、シナンガル上層部は北方侵攻について再度考え出すであろう。


 “今後、北からフェリシアに向かうのは絶対に御免だ!”という意識を今回参加した将兵・軍属の全てに、そう、上は将軍から下はコックに至るまで、確実に植え付けなくてはならない。


『北方侵攻ルートを口にする者は暗殺される事も覚悟しろ、』と生き残った兵士達が公言するほどの地獄を見せる。

 それがこの作戦の“要諦(ようてい)”なのだ。


 現時点ですら道など存在しない山中や渓谷を岩肌にへばりつく様に進む捕虜達の歩みは遅く、最後の集団が出発した五日後の六月十日午後になっても先頭集団は五十キロとは進んでいなかった。


 予想されていた事とは云え、あまりの歩みの遅さに後から押し出されて死者が増大しないか、監視の小西隊ですらひやひやとする。

 事実この五日間で、既に二十人近くが滑落死を遂げているのだ。


 小西隊は今、海際に細く伸びる断崖に出っ張った僅かな(すそ)を“そろりそろり”と進む二百人ほどの集団の上空を旋回中である。

 この断崖を抜けると山裾(やますそ)はかなり広がり、森が出来るほどの土地の余裕がある。

 其処から南に向かうと彼等がランスールへの進撃に使ったルートがあり、其処にはラムジェットにより先行したアームド・スカウト、二機が睨みを効かせている。

 彼等が其処まで辿り着ければ次の補給地まであと僅かだが、それが叶うまでどれだけの犠牲者が出るのであろうか。

 回り道などは一切存在せず、此処を通りたくなければ、後は標高二千メートルの断崖を装備も無しに登り切るか、二十数キロを泳ぐしか西へ進む方法は存在しない。


 その光景を監視するAH-2S、三機の無線にはパイロットと銃撃手(ガンナー)達の声が様々に交差していた。

 フロントグラスに雨粒が当たる。

 AH(コブラ)の飛行可能な範囲ではあるが、確かに雨が降り始めた。


 カグラでも北半球はそろそろ雨期である。

 赤道近くなれば梅雨と呼べるほどの雨が降るだろう。

 北部だからこそ、季候の大きな変動はないものの、これから数日は少なめの雨が続く事も予想された。


「いくら作戦とは云え、(ひで)えよなぁ……」


「あっ! また一人落ちた。……じゃ、ねぇな。もう一人道連れで二人だわ」


「よう、こんな事、思い付くよなぁ……」


「敵に回したかぁないねぇ」


「誰を?」


「そりゃ、お前……、こんな事思い付いて先頭に立ってる奴だよ」


「これだけの汚れ仕事だぜ。命じるだけで後に隠れてる奴より、ずっとマシだろうが!」


「まあ、そう言や、そうなんだが……」 



「お前等、やかましい!」

 小西が怒鳴る!


 今の彼は珍しく不機嫌だ。

 昨日は救難の手漕ぎ(カッター)ボート二隻を沈め、沖合に見える四隻の船の内から最も大きな一隻を選んで喫水下に三十ミリチェーンガンを叩き込んだ。


 六百トンクラスの船が沈むのに十分と掛からず、脱出できた者はどれ程居ただろうか?

 下層に居た兵士達は皆、海の藻屑(もくず)と消えたであろう。


 自身で行った行為とは云え、その一方的な(なぶ)り方が気に入らないのだ。


 回頭して沖合に逃げる残りの船を追う事はしなかった。


 シナンガル人の操船技術は低い。

 彼等は自分たちでは、かなり沖まで出たと考えても、実際は数時間で岸が見える範囲までしか船を出す事は出来ない。


 ノルン最北端から二百キロは離れたアクリス島の発見なども単なる幸運の結果に過ぎない。

 飛び飛びに小島があった事と、その小島を大陸の岸と勘違いして移動した事などの幸運が重ならなければ決してあり得なかった事なのだ。


 結局彼等から岸は見えないであろうが、こちらは少し高度を上げれば敵艦隊を発見する事は別段難しくは無い。

 巧から、或いは山崎から敵艦隊の位置情報を求める通信が今すぐに入ってもおかしくは無いのだ。


 連絡を送り、AH-2Sからのレーザー誘導を行えば、洋上に浮かぶ六百を越える艦船は数時間で消える。

 ネルトゥスのミサイルセルを十も開けば、多弾頭ミサイルは充分にその数を揃えるであろう。

 一応その心配は無いと知ってはいるが、いつ作戦変更が在るやも知れない。


 何より()の闘いは、此処からが長い。


 敵には当然地獄だが、それにつきあうこちらも無傷では居られないのだ。


『切り上げ時は決めてある、とは言っていたが……』

 小西は巧の言葉を思い出し、その切り上げのポイントに捕虜達が早々と到達して貰いたいとものだ思う。

 三機だけで警戒活動(ワッチ)を行っている訳ではないが、部下達の疲労は激しく、機体整備の頻度も上がっている。


 次第に墜落の危険性が積み重なっていく。


 また陸上部隊も苦労しているだろう。

 現在、巧達二機のASが南部への通路を塞ぐ低い尾根を押さえているが、其処から西に進めば、更に南に抜ける事の出来る尾根越えのルートは二十を下らない数が存在する。

 その位置にも石吹歩兵中隊配下の兵員は先回りして最短でも二週間程度を耐えなくてはならない。


 場合によっては破れかぶれになった捕虜達との戦闘も有り得る。 


 幾ら山脈とは云え、船舶による救助限界点までの山裾は、なだらか且つ大軍を広げる事の可能な地点も数カ所存在するのだ。

 武装を途中の補給点で順次返還していく以上、彼等がその気になれば戦闘行為は可能である。


 一見して相手を刺激する危険な武装返還ではあるが、これにも当然意味は在る。

 まず、国境までの道のりで大型の獣が現れた場合を見越しての自衛武器であり、相手に自分たちで自分を守る責任を取らせたのだ。


 そして更に、もうひとつの意味。


 勿論、国防軍との交戦の為ではない。

 だが彼等は返還された武器を、最後の最後で“その為”に使うであろうか。


 中央作戦本部はいざ知らず、“柊巧”は是非そうあって欲しい、と考えている様だ、と小西悠真は見る。



 巧の期待はさて措き、最後に登坂可能な低い尾根を過ぎると其処から先は、高度一千から二千メートルの土地を捕虜達は歩き、其処から上を抜けようと思うなら最低でも標高六千メートルを登らねば成らない。


 つまり、其処から先は稜線を越える事は事実上不可能だ。

 “それならば”と、今度は下に降りる道を探そうにも、其の様なものも何処にも存在しない。


 殆ど全てが断崖である。


 また国防軍の目を盗んで海岸への道を見つけ、それを下る事に成功したとしても、必ず味方の船に拾ってもらえる、という保証もない程に入り江は複雑であり、挙げ句、岸の近くには船を寄せ付けぬ岩礁も多い。


 これは先にゴースから打ち上げられたゼータⅠの衛星写真の解析結果から確実である。

 その距離約二千八百キロ。

 つまり彼等は国境線を越えても、更に一千キロ以上は船に救われる事も叶わず、唯々山中を西へ進むしか生き延びる方法はない。


 翼飛竜による救出、という方法も考えられるが、ネルトゥスのロングレンジミサイルと搭載航空隊である小西隊が一度でも妨害を行えば二度とその様な試みは成されないであろう。

 何より翼飛竜により二万五千という数をすくい上げるのにどれだけの時間と労力が必要であろうか?

 食糧や医薬品を投下するのが精一杯の行動であろう事は考えずとも分かる。


 正しく、捕虜達が『生き延びる道は只ひとつ』なのである。

 これでは部下達が“柊巧”を恐れる意味も分かる。


 だが、巧は殊更(ことさら)に“残虐”なのではない。

 また“仕方ない”などと、卑怯にも戦争を言い訳にしている訳でも無い。


 其処に在るのは、“意志”それだけなのだ。


 情に厚かろうが、酷薄であろうが、その根底にあるのは“必要だからやる”、“守るべき者を護る”という意志であり、彼は自分の力の弱さを、或いは限界を知っているからこそ妥協を許さない。


 小西はそう思うのだ。





文中の『ハドリアヌスの長城』とは紀元1世紀頃ローマ帝国がブリテン島(イギリス本土)に侵攻した際に現在のスコットランドとイングランドの境界線近くに築いた防衛城壁で地図の通りイギリス本土を東西に118kmにも及んだ。

出典はウィキペディア・コモンズCC フリー素材です。


あとエッセイが日刊ランキングに入っててびっくり!

もうこんな事無いんだろうなぁ! 278位だそうです。

ありがとうございました。

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