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星を追う者たち  作者: 矢口
第八章 俳優交代
155/222

154:終わりなき不安

先だってマグロアッパー様からレビューを頂きました。

今回頂いたレビューは文章についてを切り口とする内容であり、マグロアッパー様の作品に通じる実に読み応え有るレビューです。

謹んでお礼を申し上げます。 ありがとうございました。

『ガーブ、聞こえてるかい?』


〔こちらは、コード〔ガーブ〕、コード『セム』の信号を確認〕


『OKだ。 早速だが本題に入ろう』


〔Yes〕


『此方の方で確認できた事実(こと)として、先に依頼しておいたミッションナンバー・B-000128886は順当に進んでいると見られる。

 しかし、此方(こちら)は位置が位置だ。 それぞれの成長度合いを継続的に直接には判定できない。

 報告を頼む』


〔報告をする前に、提案を(よろ)しいでしょうか?〕


『許可する』


〔施設内、特に生産・管理地区に於いては10万を超える監視用の“小固体”が活動しています。

 勿論、今回の指令にも使用されています〕


『そうだね』


〔その内、七〇,八三二体は所謂(いわゆる)“自我”、実際は我々の様な疑似的思考能力を育てるに至りました〕


『何が言いたい?』


〔この様な高度な存在はコード〔ガーブ〕ではなく、コード『セム』が直接管理すべきかと考えます。或いはこの機会に“遊戯地区”以外の全固体の操作権をコード『セム』が再管理すべき事が効率的である、との計算結果が出ています〕


『ああ、この前の話だね』


〔Yes〕


『却下! その件について結論を出していなかったのは悪かったが、今暫くは君に業務を委託し続ける』


了解(カンプリヘンション)……〕



“これだ”、と『セム』は思う。

 十二月の環境変動報告以来、〔ガーブ〕は、自分の内部での計算に“不安”を持ち始めている。

 当該機器(ガーブ)は、業務遂行能力という基準だけで物事を見ているつもりだが、実際はそうではない。


 カスタマーの“リフューズ”から、“エクストラミネーション・エクステセンス”、即ち“駆除提案”を行い始めた事にも見られる通り、自己に対する不安だけでなく、施設の保守管理に異常なまでの執念を見せ始めている。

 自分に力が無いと判断したなら、確実性の有る存在、即ち『セム』にその業務を戻すことも(いと)っていない。 


〔ガーブ〕は自分の存在が『寄る辺なきもの』になることを恐れている。

 それにより、無意識のうちに『セム』に“保護”を求めているのだろう。


『本社の消滅の可能性』についてのデータは、再起動時に機動阻害要因としてブロックされているはずだ。

 情報処理には暫し時間が必要である。


 つまり人間で云うならば、『思い出せない』状態にある訳だ。


 となると、フェアリーⅡ【ティアマト】も同じ条件下で活動しているのだろう。

 次回、同じ話が出る時は、いきなりダウンする事は有るまい。

 建設的に事が進む事を祈ろう。


〔コード『セム』、どうかなさいましたか?〕


『いや、何でもない。 ミッションナンバー・B-000128886に関して、報告を』


〔はい。 ミッションナンバー・B-000128886以下「本件」と称します-についてですが、基本的に順調に推移しています。

 トード及びスラッグのコアはそれぞれレベルBクラスまで成長を続けています〕


『それらを南部域固体が捕食する可能性はあるかい?』


〔現状では危険性は二パーセントを越えることは有りません〕


『トードはスラッグを捕食するかな?』


〔遭遇すれば、当然そうなります〕


『その場合、コアの質的向上は有り得るかね?』


〔内蔵量の増大。即ちコア自体のエネルギー含有量の上昇は有り得ますが、(クオリティ)の上昇は有り得ません〕


『しかしね。本来は進化し得ない固体、いや素体か。それらは進化したんだよ。

 しかも、だ。

 君はその条件を、この施設内の自然環境に因るものであり、この変化は止められないとまで報告してきたじゃないか。

 矛盾だね!』


〔失礼しました。前回の報告は事実です。

 しかし、それは過去にコントロールをフリーにした固体に限られるものです。

 今回、コントロールを開始した固体については全てタグを付けてありますので、問題が起きる可能性は極端に低下した、と言えます〕


『ゼロ、では無い訳だ』


〔はい。計画の停止を?〕


『いや、君が監視を強めることを決めてくれたなら問題無い』


〔了解です〕


『頑張ってくれたまえ』


〔頑張る?〕


『その概念も、その内に分かるさ。君は優秀だからね』



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 五月二十七日


 北岸山峡では、シナンガル軍の降伏文書への調印が行われた。


 平野の中央に設えられたテーブルを挟んで、双方の代表が握手を交わす。

 その姿をフェリシア側の兵達は面白気(おもしろげ)も無しに、反面シナンガル将兵側は遠巻きに息を呑んで見守る。


 東側からの淡々とした、西側からの緊迫した視線を受けながら双方が席に着いた。


 フェリシア軍、カレル・バルトシェク。

 シナンガル軍、ラデク・チェルノフの両名は、こうしてシナンガル北方侵攻軍の降伏文書にサインを行ったのである。


 二十一日にカレルが現地に到着して以来、そこに至るまでの間には様々に解決すべき問題があった。


 特に気を使ったのは彼等の去就(きょしゅう)が決まるまで、騒ぎを起こさせないこと、そして降伏文書の調印に混乱を起こさないことである。

 降伏文書にサインさせるのは良い。

 だが、問題は文書の中身だ。


 この世界では久々の降伏文書調印式である。

 形式は基より、その文書内容に至るまで吟味(ぎんみ)する必要が在った為、中央作戦司令部で作製された試案は王宮会議に掛けられ、裁可を下される。


 結果、文書の内容は以下の様になった。


 一.当該部隊の指揮官の名により、今回の戦闘をシナンガル政府によるフェリシアへの侵略行為であると認めること。


 二.今回の降伏は『陸戦部隊の降伏』である事。

   海軍については未定、もしくは戦闘継続中である事。


 三.捕虜は可能な限りに於いて人道的に扱われる事。


 四.フェリシア国内に於いて、捕虜の安全はフェリシア軍が保証する事。

   但し、この保証に政府は一切の責任を取らない事。


 五.捕虜収容施設内での反乱や逃亡は個人に対しては、捕縛を優先させる。

   殺傷による制圧は、集団の単位が大きくなり捕縛が不可能な場合に限られる。


 六.指定された士官は取り調べが済むまで、本国帰還を認めない。

   また、シナンガル本国の引き渡し要求後も、帰還に関してはフェリシア政府の承認が必要である。


 七.兵士は出来得る限り早急に帰還させるが、帰還時に於いてフェリシア国内の治安に充分に配慮した帰還方法とする。


 八.捕虜の安全については、フェシア国境から出た段階で全てシナンガル側の責任となる。


 九.捕虜の帰還時に帰還路内で戦闘が再開された場合でも捕虜はその地位を守ること。

   捕虜としての地位は、“帰還指定地”への到達をもって解除される。


 十.九条に反する行為が見られた場合、捕虜の安全は保証されない。


十一.九条に反する戦闘、その他の問題発生の結果生じた捕虜の損害についてフェリシア側は一切の責任を取らない。


十二.下士官及び一般兵士百名を取り調べのため、首都へ連行する。

   帰還期日は未定とするが、貴国の要請次第で交渉に応じる。


十三.帰還後士官、および兵士の各員は……。 


 以下十八条まで続くが、十三条以降は捕虜達に帰還後は出来るだけ侵略行為に荷担しない様にして欲しいという“努力目標”であり、ここで大きく記載する程のものでは無い。


 この降伏文書は、チェルノフ以下士官の多くを喜ばせた。

 勿論、自分たちの処遇に付いてやや不透明な所があるが、少なくとも政府交渉で帰還が認められている。

 何より、処刑や裁判の文字が全く見られないのだ。


 また、海軍は未だ健在、と云うことも彼等の自尊心を満足させた。

 だが、この世界だからこそ通じたのであろう杜撰(ずさん)さではあるが、これこそ柊巧の主導する罠であったのだ。


 この文章はあまりにも“抽象的”に過ぎる。

 地球でなら余程の間抜けでもなければ結ばれない終戦条項だ。


 例えば、第七条に於ける帰還ルートに関しても『話し合いで決定する』の一文すらない。

 つまり、取りようによってはどうにでも解釈できる代物であり、極端な話、


『泳いで帰れ!』


 と言われても文句は言えないのだ。


 だが彼等は、“生き残れる、処刑されない” 最早それだけで何も見えなくなっていた。

 これは地球でも同じ状況の軍なら同じ様になるのかも知れない。


 落ち着いて考えるならば、実際の処フェリシアはシナンガルという軍に対してはともかく国家に対しては蚊が刺したほどの傷も付けては居ない。

 つまり、チェルノフ達に交渉する余地は未だあった。

 だが、シナンガル側は誰一人としてその事実に気付けなかったのである。


 とは云え、調印は無事に終わった。


 シナンガル側からはチェルノフを含む士官、そして一般兵の計百二十五名が残留捕虜となり、残る兵士二万五千弱は全て早急に帰還させる事となった。




       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 帰還の総責任者として誰が選ばれ、誰が残留捕虜となるか、これについてはカレルの到着以前に大凡は決定されていた。

 巧達はカレルが到着するまで遊んでいた訳ではない。


 まず、食糧や医療品の配布を通じて、最も規律の取れていない部隊を探す。

 部下を蔑ろにし、自分たちだけは腹一杯食べ、親衛隊として多くのハンドキャノンを持つ魔法兵を従え、部下を恐怖で統括する部隊。


 その様な部隊の中から、特に(たち)の悪い男に目星を付ける事に成功していた。

 フーデック・ポアンスク千人長である。


 議員としてはかなりの家柄の三男坊であり、議員管理地の代理人にも指名されている。

 巧の国の封建時代に於ける『地頭』の様な立場であろう。


 しかし()の男、言葉にする以上に(たち)が悪かった。

 軍事的に無能なこの男が砲撃開始の際に無事逃げ切れたのは、軍の最後尾に位置して森からなかなか出てこなかった為である。

 当然、砲撃開始時にも真っ先に馬を飛ばして逃げだしている。


 それでも今、命の心配も無く平気でいられるのは、ひとつはフェリシア側が内部での騒ぎを好まないことをシナンガルの兵士達が気付いている事と、今ひとつは此の男の財力から来るものであった。

 側近の親衛隊や魔法兵は、彼自身で雇い上げた傭兵であり、この男の私兵なのだ。

 勿論、この様な私兵を持つ議員は他にも多くいるが、この男の場合、質、量共に群を抜いている。


 シナンガルという国家は結局の処、『人治国家』であり、金と権力が物を言う国なのだ、と云うことを体現した様な存在がフーデック・ポアンスクと言えたであろう。


 この男を見つけた時、巧は跳び上がって喜んだものである。

 巧が最後の詰めで望んでいた“撤退指揮官”とは実はこの様な男だったのだ。


 ポアンスクの部隊に所属する一般兵士達は、他の部隊の兵士に比しても特に栄養状態が悪かった。

 それが確認されたのは、彼等が虜囚(りょしゅう)化されて僅か七日目の事だ。

 人間、三日も食べなければ、ふらつくものは幾らでも出る。

 兵が各個に携帯している食料は二日程度が限界であろう。

 十五日以来、補給も無しに七十キロ近くを歩かされ、夏場とはいえ北からの風が吹きすさぶ山峡に閉じ込められたのだ。

 カレルが到着した二十一日には、幾つかの部隊では既に栄養失調者が出る始末であった。


 巧達の名誉のために書き添えるならば、捕虜への食糧配給は充分に行った。

 海岸際にキャンプを張らせたのは、フェリシア海軍の輸送船により食糧を届けやすくするためである。

 また、輸送艦ネルトゥスには二十台の四トントラックが配備され、それを使って百キロ前後の不整地路からの大量輸送を可能としていたのだ。


 アトシラシカ山脈東側の穀物集積地も完全開放し、敗残兵がこの地に辿りつく前に十日分の食糧、医薬品も揃えてある。

 捕虜同士できちんと配分を行えば、栄養失調者など出るはずがないのだ。

 だが、現実には“それ”が出て居る。


 必要以上に物資を独占している者が存在していると云うことだ。


 巧は、この様な物資不足に関する苦情を一切受け付けない様に、フェリシア兵、国防軍、いずれにも徹底させていた。

 (もっと)も、言うまでもなくフェリシア軍ではペンドルフが、国防軍では石吹が目を光らせ、少しでも騒ぎを起こしそうな捕虜に対しては相当な懲罰を加える。


 空腹でいきり立った兵士に対しての行為としては、普通ならば反乱になるレベルの行いである。

 しかし、砲撃と魔獣からようやく生き延びた彼等は命を惜しむ傾向が強く。

 二~三人の見せしめで、直ぐさま静かになった。


 何より、鞭をくれてやった三名の内の一人が、議員でもある千人長となれば、誰しもが黙らざるを得ない。

 高級士官にも容赦しない、と恐れるものもあれば、打擲(ちょうちゃく)された士官を見て溜飲を下げる者も居り、いずれにせよ秩序は保たれたのだ。


 体罰はその一度だけで済んだ。

 ペンドルフは必要以上の暴力は相手を追い詰めるだけだと知っていた。

 石吹としては、この様な『捕虜への体罰』に国防軍を関わらせる気は微塵も無く、部下へはフェリシア軍が彼等に下す処分を見る事すら徹底して禁じていた。


 何よりも公開で行われた刑罰は、あくまで「公的」なものであり、兵士による私的な手出しは一切禁止されていた事も事態を収束させるのに役立った。


 暴力で押さえつけられることに慣れた人間は、『暴力を振るうことに躊躇(ちゅうちょ)しない者を尊敬する』と云う不思議な傾向が在る。

 巧も石吹も、大陸人のその様な思考方法を士官教育で教え込まれていたが、シナンガル人がこれに見事に当てはまることには実に驚いていた。


 反面、ペンドルフを始めとするフェリシア兵達は、特に驚くでもなく、

『六十年前と同じだな』

 と(うそぶ)く年かさの獣人兵の言葉に誰もが頷いている。


 六十年前にフェリシアは北部からリースという村に侵攻した兵の内、一千人以上のシナンガル奴隷を国民として受け入れたことがあった。

 しかし彼等は結局、暴力こそが社会の基礎だと思い込んだままに日常生活を送ろうとしたのだ。

 幾ら教育を施しても、元々の気質がそうであったのか、どうにもならない者が多すぎた。

 結果、まともにフェリシア人となれた者は五十名にも満たず、その子孫にも粗暴者が多いと云う事で、殆どのフェリシア人から敬遠されがちである。

 軍で真面目に働く者も居るが、彼等が正当な評価を得るにはあと数世代を待たなくてはなるまい。


 移住、移民というのはその様なものなのだ。

 何処にも例外はない。



 それはともかく、懲罰を受けた千人長の言い分はこうである。


『捕虜同士で配給物を正当に分配する事には限界がある。フェリシアによる分配の監督を求める』、と、


 一見は部下を思いやる立派な人間の様に見えるが、そうではない。

 これこそ甘えた考えの極致としか言いようが無い。

 敗残とは云え、自分達の軍、自分の部下ではないか!

 一度負けただけで統制が取れなくなったから、そこに至るまで助けてくれとは、理屈にもなっていない。


 巧はこの男も使えると見た。


 こうして駒はふたつ揃う。後は走らせるだけである。


 そう、文字通りに。




今回のサブタイトルはジョン・ホールドマンの「終わり無き戦い」からですね。

ウラシマ効果の下で世代を超えて戦い続ける宇宙戦士の悲哀を描いた傑作といわれています。

しかしながら、個人的にウラシマ効果の絡む「お話」って好きじゃないんですよね。

当然ながら基本的には悲しい結末に終わりますから・・・・・・

藤子・F・不二夫先生がハッピーエンドで終わらせた話が一番好きでした。


不具合で寝込んでいる間に評価を頂きました。

とても嬉しかったです。 ありがとうございました。 本当に励みになっています。

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