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星を追う者たち  作者: 矢口
第八章 俳優交代
152/222

151:廃坑の声(前編)

 シナンガル軍が北岸山峡に辿り着いた五月二十日の前日には輸送隊ヘリを使ってカレルは先回(さきまわ)りを行い、その地に立っているはずであった。


 だが、そのカレルの出発を遅れさせるに充分な事件が幾つか起きてしまう。


 まず、最初はシナンガル全軍が森の北から這い出してきた翌日の五月十五日。

 発射基地の技術者を全員引き上げさせようと、準備を進めていたところ、ふたつのことが殆ど同時に起きたのだ。


 いずれも来客である。

 唯、一人は予期せぬものだが結果としては重要な対談相手となり、もうひとつは『招かれざる客』そのものであった。

 これらの客への対応から大きな収穫も幾つかは生まれることになるのだが、手間を喰ったことには間違いは無い。



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  



 トリエ・ルニッツが部下を引き連れ、フェリシアの北西部の防衛基地、『トガ』を出発したのは四月の十日のことである。

 それ以前に、トガにおいて大型のカエル『ジャイアント・トード』が現れ、畑を荒らすという“小さな騒ぎ”が起きた。


 だが、『トード』即ちカエルは基本的に温かい地域を好む生き物である。

 それにしてはトガは緯度が高すぎる。 これはおかしなことだ。

 また行動から見ても北から現れては南を目指している事がはっきりとしたため、南部にはジョバンニ・シェストラント以下九名。

 そして北部は到達不能山脈の(ふもと)を東へ向かい、アトラトシカ山脈に至るまでのルートをトリエ率いる同じく九名が、それぞれ実態の調査に向かう事となった。


 北部には狼の他、熊などの大型の獣が居ることは知られているが、魔獣の存在が確認されたことはない。

 最小、最弱の魔物と言われる“ユニコーン・ラビット”ですら大陸中央道から北に現れたことはないのだ。


 ジャイアント・トードはそのユニコーン・ラビット以下の魔獣とも呼べぬ魔獣ではあるが、これが新たな魔獣の出現の前触れとなるかも知れない。

 トガの要塞司令官はその点を恐れ、二人の新任十人長に南北の調査を命じたのである。


 期限は半年。


 長い様だが広いノルン大陸の八分の一近くの範囲を調査するのである。

 如何(いか)に転移魔法が有るとは言え、これでも短すぎる程だ。

 だが今回は早めに基礎調査を終え、本格的な調査のために議会から予算を得ることが目的である。

 何処まで行っても金、金、金の世の中であるが、其れが無くては軍が動かないのもまた事実であった。



挿絵(By みてみん)



 現在、トリエは発射基地に付属した防衛中隊指揮官室に招かれている。


 この地に()いてシナンガル軍とフェリシア軍の戦いが有ることは、フェリシア・地球側に於いても一部の者しか知らぬ極秘情報であったため、翼飛竜の出現に驚いた調査隊一行は、行動が制限された数日を森の中で過ごした。


 そうしているうちに、南方の高台に銀色に輝く物体を見つけることになる。

 ロケット発射用のガントリー・クレーンであった。


 それを目指す最中(さなか)、聞いたこともない様な爆発音が響く。

 トガに駐留する『鳥』達が発した事のある音によく似ていたが、その数百倍の規模の轟音であった。


 先に進むと全ては終わっていた様であるが、岩場にいた“鳥使い”達に出会うと、彼等はトリエ達が“平野部いる事”に酷く慌てて、馬ごと岩場まで引き上げてくれる。

 そうしてこの戦場の指揮官に面談を申し込むことになったのだが、これがトリエにとっては思わぬ幸運となった。



       ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 



「ふむ、確かにこちらも三月以来、新種の魔獣として認定されていますね」

 トリエの報告書に一通り目を通した後は考える様に瞑目(めいもく)していたカレルだが、別の書類を取り出すと、その髪の毛と同じ(とび)色の瞳をだけを動かす形でトリエのルート調査記録と比較していく。

 自らの机の奥から取り出した書類は、王宮から既に届いていたトガに関わる報告書であった。


 両方を照らし合わせて一通り読み上げると、カレルはようやく顔を上げてトリエを(ねぎら)う。


「いや、ご苦労様です。全員騎馬かつ跳躍魔法士とは云え、僅か四十日弱でこれだけのルートを走破し、調査にも脱落点が殆ど見られない。大したものだ!」


 カレルの言葉に、トリエの後方に立った副官は大きく息を吐いた。

 小柄なトリエの髪の毛にその息が掛かるほどである。

 副官だけではなく自分自身も緊張していたのだ、とトリエはその時になってようやく気付いた。


 地球で言えば東南アジア系の体格と顔立ちであるトリエは、日頃から表情が豊かだと言われる。

 だが、その彼も今回ばかりは歯を見せる様な素直な笑顔で賞賛に応じる事は出来無い。


 相手が大物過ぎるのだ。


 (もっと)も、その大物は自分が大物であると感じたことなど一度もない。

 上司にこき使われ、或いは部下の世話を焼くだけで精一杯である。

 その上、この一年は異世界からの客人に驚かされっぱなしで、自分の地位を振り返る余裕も無くなっていたのだ。


 その様な事は知らない“緊張のトリエ”がもたらした記録は、国家にとって実に有益なものと言えた。


 ノルン大陸は広い。


 それに反するようにフェリシアの首都は東に偏りすぎている。

 これが国内中央部への情報拡散の遅れを生み出していた。


 だが、今回のトリエ達のチームの活動記録は今後北部へ広がる通信施設の建設にも役立つ。

 彼等は国内の北部山脈の(ふもと)を完全に調査走破した初の一団である。

 勿論、一千八百キロの距離を僅か四十日程度で調査しただけでは、まともな調査とは言い難い。


 しかし、取り敢えずの調査ルートは確定された。

 安全な道筋を得る。これは非常に重要な事だ。


 また何より、トリエ隊は山中の集落において、過去のジャイアント・トードの出没例をかなりの例として集めていた。


「トード」は北部の農民達の間では単に“大物”と呼ばれ、ここ十年で“それなりに”は名の知れた生物では有ったが、魔獣とは認識されていなかった様である。


 だが、それも仕方のない事だろう。


 なにせ、あの弱さだ。

 農民(どころ)か子供でも対処できる以上は“ちょっと困った存在”程度の認識であり、兵の出動を要請したこともなければ、街に降りた農民の口に上がったことも無かったのである。


 だが、トガの『谷の村』の住民は元シナンガル人であり、魔獣の存在について(うと)い。

 その為、直ぐさま軍に報告することになったのだ。

 これが、トードの存在を中部地域、そして首都へと伝えることとなった訳である。


 この調査の中で、バロネット達がジャイアント・トードの発生時期に現れては、大漁の買い取りをしていくことが知られた。


 “魔獣としては”という前置詞が付くのだが、トードの肉は腐りにくい。

 その為、季節の小遣い稼ぎとして北部の村々では、肉は燻製に、骨は防具用などの加工品用としてバロネットに売りつける、という事が常識となっていた。


 トードがその頸骨(けいこつ)に弱いながらも魔力を纏っているなど、農民達の誰一人として気付いてはいなかったのである。

 北部の農民はその殆どが人類種であり、魔力を『読む』ものなど、まず存在しなかったのだ。

 仮に居たにしても、確実に見逃されていたであろう。


『シナンガルに流れた“クズ魔石”の正体は十中八,九これだろうな』

 カレルはそう結論づける。

 だが、これが魔獣と認定されたのは、今年三月も末に入ってからだ。


 公布も完了して居らず、この魔獣の頸骨(けいこつ)の自由流通が完全に違法化されるのにあと二年は掛かる。

 この国は広すぎるのだ。

 広報組合が幾ら小麦の配給と共に情報を伝達する役割を持たされているとは云え、それも完全とは言えない。


 だが、地球の先進国ですら法律の公布から施行までは半年から一年は期間を措くのだ。

 決して遅過ぎるとは言えないだろう。

(公布=国民に広く知らせること。施行=法律などの運用実施) 


 今ひとつの問題は、このジャイアント・トードの生態である。

 どうやら、この固体は北部で生まれたものではなく、実は南部で普通のサイズのカエルとして生まれ、何年も掛けて次第に北上を繰り返す様なのだ。

 そして北部で何らかの特殊な餌を()んで、ある程度大きくなると、今度は南部を目指し、その旅の終わりに於いて本物の魔獣になる様だと推定された。


 確かに南部には『バスターフロッグ』という、かなりの強さの中型魔獣が居る。

 大きさは二~四メートルはあり、毒も持つ。その上に肌の弾性は非常に強い。

 このために通常は刃物をまるで通さないのだ。

 過去最大の固体は、巨大な口と毒針を持つ長い舌の力で成牛一頭を一飲みした記録もあり、チームを組んで対抗しなくてはならない魔獣のひとつである。


 対応策として、まずは火炎魔法で表面の毒を蒸発させた後に肌の弾性を()いでいく。

 その後ようやく斬檄(ざんげき)に移る事で、辛うじて倒すことが出来る。


 ドラゴンや大型のヘルムボアが現れるまでは、虎型の魔獣『ガーグル』と並び魔法、剣技、それぞれが揃わなければ倒せぬ最も厄介な魔獣の一種、といえた。

 その『バスターフロッグ』とあの“ちゃち”なトードが、まさか同じ生物の可能性が高いとは! と報告書は驚きを隠していない。


 確かに、ここ数年間、『バスターフロッグ』の姿を見た者も少くなく、不可侵域から北上する魔獣にも含まれていない。


 この大量発生は、今まで南下出来なかった数年分のトードが移動を開始した、と見るべきなのだろう。

 しかし、今こそ南部は巨大魔獣が跋扈(ばっこ)する危険地帯ではないか。

 如何(いか)に強力な『バスターフロッグ』と云えど、ヘラジカ型魔獣“アクリス”程度にも勝てはしまい。

 彼等の刃物の様な角はフロッグの舌など紙も同然に切り裂く。

 肩の高さまでで四メートルを越え、二十トンを越える重量で内臓ごと押しつぶしてくる大型哺乳類型魔獣には、人間にこそ手強い相手になるとは云え、結局はカエルでしかないバスターフロッグは決して勝てない。

 はっきり言えば、単なる餌である。


 魔獣が本能で動くなら、今こそ身を潜める時期なのでは無いだろうか?

 誰しもが持つ疑問ではあるが、今、その答は出そうにない。

 だからこその調査規模の拡大要請であり、今後の調査は急がなくてはならない。

 対応を誤れば、山村や設置される通信設備にも大きな被害があるかも知れないのだ。


 また、中部域で現れている『スラッグ』、あれはどうだろうか?

 あの巨大ナメクジはその特性から『ステップ・スラッグ(足踏みナメクジ)』とも呼ばれる。

 (もっと)も、最初にシナンガルで命名された、『シムラス』という名の方が“通り”が良くなっているので今後はシムラスが固有名詞となるだろう。


 さて、ジャイアント・トードと違い、こちらには幾つか厄介な特性がある。

 まず、とてつもない悪食(あくじき)で草や野菜は勿論のこと、毒草、果ては細めの樹木までお構いなしに食べてしまう。

 挙げ句、信じられぬ事だが、動きが速い。


 まあ、ナメクジにしては、という程度だが、それでも人の動き程度には動く。

 流石に走るほどの速度は出ないが、歩き廻る速度程度でも充分に危険だ。

 シムラスが『ステップスラッグ』とも呼ばれる由来である。


 好んで人を襲いはしないが、怪我人程度が全く無い訳でも無い。

 何より農作物の被害が大きすぎる。


 対応策として火が考えられるのは当然だが、これが思ったほど効かなかった。

 住民側としては痛い事である。


 強力な火炎で一撃、或いは長時間と云うのなら何とでもなるが、下手な一瞬の高温では意味がなかったのだ。

 空気中の水分を取り込むのか、或いは表面に炭素の膜を作るのか知れないが、炎に対しては蒸発膜による液体の保護現象、所謂(いわゆる)『ライデンフロスト現象』を身体の表面で引き起こしてしまう。


 よって中途半端な勢いと持続時間を持つ炎はシムラスの怒りを買うだけである。

 火を放った者の臭いを追いかけ、避難のために飛び込んだ家屋を丸かじりにした個体まで出たとなると、立派な魔獣と言える様になった。


 大陸中央部には水系統の魔術師、魔法士が出来るだけ多く集められ、彼等を瞬時に凍らせてたたき割るか、水分を抜いて干からびさせた後で燃やすかしている。


 ナメクジもカエルも共に卵生であり、どれだけ卵を産まれるのか分からず、また中部域では川の水を飲料水として使って良いものかも分からず、井戸水便りである。


 人口が数万を超える街ならば、水道橋が整備されている所が(ほとん)どだが、“その水道の中にあの様なものが住み着いていたら”と思うと落ち落ちともしては居られない。

 体液に毒性がないのは有り難いことだが、気持ちの問題は大きいのだ。 


 最後の問題は、シムラスはナメクジである以上、当然骨など無いが“魔石の核”を持っている事だ。

 これが、思ったよりも純度が高い。

 いや、現れた当初はトードと同じで『ゴミ魔石』であったのだが、次第に純度の高い核を持つ個体が現れ始めたのだ。

 このようなものが合法的にシナンガルに流れては(たま)ったものではない。


 そして、問題は更に続く。

 トリエの報告では、ここ数週間で倒したジャイアント・トードの首の骨までも、魔石の核としてかなり強くなっていると云う。


「後半の闘いは大変だったでしょうね? これだけの魔石を生み出せる核を持つ魔獣なら、騎士団を派遣しなくてはなりますまい。或いは北の村々の閉鎖も考えるべきかな?」

 カレルは一応そうは言ったものの、実際の処トリエの返答がどの様なものか、察しは付いていた。


 トリエはやや、申し訳なさそうに答える。

「申し訳ありません。その件についてですが、最高純度の核を持つトードとは五日前に一度闘っただけでして、確証が無いため報告書への記載が躊躇(ためら)われました。

 つまり……、」


 言葉を継ごうとする、トリエより早くカレルは答を出した。

「今までのトードと大差ない。いや、全く違いなど無い、ですね?」


 トリエの目は見開かれ、はっきりと驚きを示している。

 少しからかいすぎたか、と反省しつつ、カレルはトリエに種明かしをする。


「もう一人、トガから出立した人物が居ますね?」

「ええ、ジョバンニ・シェストラント十人長とその配下、九名です」

「うん。彼等は平野部の多い中部を行動していたんで君たちよりはずっと早く動き回れたようです」

「報告が?」

「殆どはトードについてじゃないんですがね」


 そう言って、カレルは先のシムラスについての報告をトリエに伝えた。

「ジョバンニ・シェストラントの報告の殆どは、中央部の村々からの報告と何ら代わりは無かった。

 だが一点の大きな違いとして、魔石の核についての変化を知らせてきたんですよ。

 様々な場所のシムラスを比較できたのが大きかったんでしょうね」


「つまり、その結論が?」

「うん。君の話と同じです。だが、これで確証が持てた。実に助かりましたよ」

 そう言って、カレルはトリエに握手を求めて来る。


 此処でトリエはようやくホッとした顔を見せた。

 これにより、本格的な調査のための予算は降り、その為の人員も整備されて行くであろう。


 また、トリエにとってその安心とは別に、感動さえする事もある。


 いずれ首都に報告に向かうつもりであったが、偶然にも此処で戦闘が行われていることを知り、”決着がつくまでは、”と山中に潜んでいた。

 トガでも懇意(こんい)にしている『鳥使い』達の仲間が中心の戦闘であると知ってからは勝利を疑うことは無かったが、問題は事が終わってから出会った人物だ。


 戦闘総指揮官が『魔導研究所主任研究員兼事務長』であるカレル・バルトシェクと聞いて、トリエはカチカチに固まっていたのだ。


 トリエは手先の器用な男である。また、魔術師と魔法士の中間程度の魔力はある。


 いつかは魔導研究所に籍を置き、新しい魔法具、魔導増幅器の開発を夢見てきた。

 人類種が魔導研究所に籍を置くことは難しい。

 しかし、前例が無い訳でもないし、現在も人類種三十人前後の在籍がある。


 “希望(のぞみ)はある” そう思っていた。

 そこにいきなり、当の研究所のNo2が現れたのである。


 優秀な軍人でもあると聞いて居たため、かなり緊張して報告を行ったが、話に聞く以上の人格者であるらしい。


 カレルは見た目、未だ二十代だが、其処(そこ)は妖精種である。

 実際の年齢は三百歳にも届こうかという年らしい。

 六ヶ国戦乱の最終期を見届けたと云う噂もある人物だ。

 それが自分の様な若造にも分け隔て無く接してくれている。

 トリエは益々、研究所へのあこがれが強くなった事に気付いていた。


「まあ、報告は一旦此処(ここ)までにして、(くつろ)ぎたまえ。

 茶でも出そうじゃないか。

 実は、その核について研究を進めたいと思っているんだが、シェストラント十人長からの報告書に面白いことが書いてあってね」

 公的な報告も終わったカレルは口調を砕けたものに変えつつ、トリエに茶を振る舞うために自らティーセットに近付いていく。


 面白いこと、とは何であろうか?

 トリエはカレルがその事について口を開いてくれるであろう雰囲気を感じて期待した。


 と、其の時である。 一人の兵士がノックも無しに飛び込んで来た。

 いや、転げ込んできたと言う程の勢いである。

「カレル司令! 大変です!」


 カレルは滅多に腹を立てると言うことをしない。


とは云え眉ぐらいは(ひそ)める。

「君ね、お客様がいらっしゃるんだよ。もう少し落ち着きたまえ」

 だが、兵士は引かなかった。

「茶なんぞ飲んでる場合ではありません。サカザキ主任が襲われました!」

「何だと!」

 なるほど兵士の言う通りである。

 これには流石のカレルも落ち着いては居られない。


「トリエ君。済まんが、茶はまた今度だ!」

 慌てて防炎・耐寒効果のある魔術師のケープを身に纏う。

 騎士の上着であるサーコート代わりとなるカレルの即席戦闘服である。


 その姿にトリエも立ち上がった。

「お手伝いします!」

「助かる」


 走りつつ、カレルは伝令兵に尋ねる。

「相田少尉はどうした?」

「今、救出に?」

「救出?」

「魔獣です!」 

 その言葉にカレルのみならず、トリエと副官も息を呑んだ。


 事の起こりは二十分ほど前である。


 ロケットの発射司令施設は、発射台から三百メートル程離れた洞窟内に置かれていた。

 万が一、ロケットそのものが爆発しても爆圧が届かぬ方向に入り口があり、即席だが防火扉も備え付けてある。


 但し、時間が無く最深部の調査は完了しなかった。

 ともかく、此処を中央官制室(RCC)として打ち上げを行い、第2段目まではコントロールを行う。

 ほぼルートに乗ったなら、後はゴースに繋いでそちらで部下にコントロールを引き継ぐシステムだ。


 坂崎とその部下一名の計二名で打ち上げコントロールは充分だが、作業員六十名近くも共にロケットの設置作業を行っていた。

 だが戦闘終結後には発射台(ガントリー)も、ロケットの建造塔もあっさり解体された。

 一月間の建設ラッシュが嘘の様である。


 しかし、それでもまだまだやることは多い。

 この地に地球の最新技術の痕跡(こんせき)(わず)かにでも残す訳には行かないのだ。


 護衛と共に官制室の補助電源の解体を行っていた時、それは突如として現れた。


 またもや巨大な虫である。

 確かに装甲ワーム程の巨大さでは無い。


 それでも長さ二メートル以上はある『巨大ムカデ(センチピード)』であった。


 廃坑の奥がどうなって居るのかは誰も知らないが、少なくとも官制室や電源室に使われていた空間の高さは八メートル以上、広さは幅十メートル近くあった。

 やや広すぎる洞窟ではあったが、この廃坑の出入り口のみ例外的に二メートル×二メートルの幅であり防火扉の設置に向いていたことから、此処が選ばれたのだ。


 だが、考えてみればおかしかったのだ。


 鉱石を運び出すのにこれ程広く、高く洞窟を掘る必要など無い。

 この広さは自然に出来たものでは無く、何者かによって高さが得られる様に削り取られた跡が確かに存在していた。

 しかし、時間との闘いが、その点を見逃させる事となる。


 迂闊(うかつ)、と言えたであろうが、坂崎を始め設置技術者達は戦闘のプロではないのだ。

 また地中型魔獣などフェシア人ですら、一部の自由人(バロネット)以外、そうは知らなかった以上、こればかりは責めようもあるまい。


 だが、今起きている現実は現実である。

 何を言っても今更なのだ。


 洞窟内に現れた巨大ムカデ(ピード)はLEDライトに照らされた範囲だけでも四十体以上おり、なまじ洞窟の広さが在るため、坂崎を始めとした六人の作業員は包囲される形となってしまった。


 大型発電機(ジェネレータ)を盾にして立てこもるが、天井に向かって這い上がるものもおり、護衛分隊は先にそちらを攻撃せざるを得ない。

 上を取られて作業員の中心に落ちてこられたなら、もう助けようは無いだろう。


 発射要員も皆、土地が土地だけに拳銃は渡されていたが、(ろく)に銃など撃ったことは無い。

 坂崎など下手に扱えば自分の足でも撃ちかねない腕前である。


 しかし、こうなるとそうも言っては居られない。

 Czを基本モデルとした三二年式拳銃が火を噴くが、ムカデ(ピード)の身体は防弾チョッキの様であり、貫通力に優れる九ミリ・パラベラム弾でも表面に傷を付けるのが“やっと”だ。


 一応、ある程度の打撃力(ストッピングパワー)は有るため(ひる)んで近寄らなくなるだけマシではあるが、十五発入る弾倉とは云え、弾にも限りはある。


 洞窟内でRPGなど大型の兵器や火炎魔法は使えない。

 強すぎる兵器は落盤を引き起こしかねず、火炎魔法は元素が足りなさすぎる。

 何より元素消耗による酸欠が恐ろしい。


 ウィンドカッターも此の様な閉鎖空間内では、どの様に広がりながら飛ぶか分からぬ為、そうそう簡単には使えない。

 何より今回は国防軍主体の作戦であり、魔術師の数が少ない事も災いしていた。


 内山がM2を取りに戻ったのだが、車両に戻す様に指示した直後とあって、こちらは指定車両の確認に時間が掛かっているようだ。


「ともかく、坂崎さん達に近寄らせるなよ。

 ライトの破壊に気を付けろ! それと硝煙で視界が塞がれる可能性が有る。

 単発で撃て!」

 相田の指揮で辛うじて死者は出て居ないものの、最初の襲撃で弾き飛ばされた者や牙に()かって深手を負った者が数名出て居る。

 それらの兵員の搬出も急がせなくてはならない。


 何より技術者達と兵士達の間には七~八頭のムカデが立ちふさがり、其れ以上先に進めないのだ。


 四八式の七,六二ミリ弾は、確かにムカデの身体を吹き飛ばしているのだが、身体が半分になっても暴れ廻り、まるで手が付けられない。

 更に厄介なのは吹き出す血には僅かながら毒が含まれている様であり、長時間一人の兵士が、同じ場所で銃撃を続けられない事だ。

 これでは射線を保持しきれない。

 酸素供給システムを持つDASメットも十分間の限界を向かえようとしていた。


 全員が焦る中、遂に一頭のムカデが遂に技術者達の銃撃を抜ける。

 鎌首を持ち上げて最前列にいた作業員の一人にせまった時、慌てた作業員男性の乱射する銃弾はすぐに尽きた。


 彼の持つ銃のスライドは後退したままになっており、弾薬切れが傍目(はため)にも分かる。

 弾倉を替える時間など無く、終わりを悟った彼の悲鳴が洞窟内に響いた。


 だが、その時震える足で彼の前に立った男が居る。


 信じられぬ事であったが、それは坂崎昇だ。


 本来彼にそんな勇気は無い。

 しかし、作業員男性の悲鳴と共に坂崎の脳内には“彼の家族の光景”が飛び込んできてしまったのだ。


 銃を構えて立ち塞がったのは、彼自身にとっても無意識の行動だった。

 巨大な(あぎと)が坂崎の頭に迫る。



 誰もが目を閉じ掛けた、その時! 斬檄が一閃した!






サブタイトルは、日本ハードSFの旗手と名高い堀晃氏の「遺跡の声」から頂きました。

といっても、自分はこの方の存在を全く知りませんでした。

結構、評価が高いようですので今ある本を読み終えたら、挑戦でしょうか?

しかし、「なろう様」内でも読みたい作品は実に多いですから、ホントいつになるか分かりませんね。

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