142:★闘いと兵士と
まず始めに此の様な時間に投稿することをお詫びします。
書き換えたあらすじにも有りますように、ASの挿絵を提供していただきました。
そこで(たまりしょうゆ様が描いた単体のみの方が断然に”カッコ良い”のですが)それを加工して、主人公の『柊巧』を差し込まさせて頂きました。
前置きが大変長くなりました。 それでは本日もよろしくお願い致します。
カレル率いる囮の撤退部隊は縦に長い列を作り草原を早足で進む。
先頭部隊の国防軍は既に発射基地から五キロ前方地点の防衛線となった丘の中腹に位置し、陣地を構築し始めた。
“構築”と言っても、元々から発射基地のフェリシア兵により殆どの陣地は出来上がっている。
相田達五五名は、東西に弧を描いて延びた防衛線の各所に分隊を分散させ、邀撃準備に入るだけである。
既に発射基地から降りてきた別動の一個小隊三十名も加わり、国防軍は八五名となって後続の撤退部隊の登坂援護に当たり始めた。
フェリシア軍六百名全てが到達すれば、約七百名で六万五千名を相手にする事となるのだ。
だが、その裏に隠される事実を苦く噛み締める者は多い。
「見た目だけなら、“コッラー河の闘い”だな」
相田の言葉に頷くのは副官として常に側に付いている城之内陸軍曹である。
「見た目だけ。正しくそうですね」
『コッラー河の闘い』は、一九三九年十二月から翌四十年三月にかけてアールネ・ユーラネイテン中尉率いるフィンランド兵が僅か三十二名でソ連兵四千名の猛攻を凌ぎきった歴史に名高い戦闘である。
だが、これから行われるのは戦闘ではない。
殺戮なのだ。
完成された包囲網からの砲撃は全て歩兵砲撃中隊によって行われる。
十二旅団三十連隊の中隊指揮官は全く別の上官であり、部隊配置から砲撃間隔まで全て中隊長の指揮下に在る。
だが砲撃の開始、終了の決定権だけは基本的に相田が持つ。
実際は其の上に立つカレルが持つと云う意味だが、軍が別である建前上、そう言わざるを得ないのだ。
また、カレルの方針から実際に相田が令を下すことに変わりはない。
例外は防衛戦が突破されても”彼ら”が令を下せない時くらいであろうか。
この虐殺の言い訳をするならば、より大きな殺戮を避けるための殺戮とも言える。
しかし、その様な言い訳は声にするだけ虚しいと誰しもが感じていた。
その中でも特に重い責任を背負った相田が、それに押しつぶされそうな表情を隠し切れていない事に気を揉んだ城之内は、余計なことと思いつつも言わずにはいられない一言を口に出す。
「民間人を殺す訳ではありません」
「そうではある」
城之内の言葉に相田は短く答えるだけである。
短い言葉に様々に意味が含まれる。
そうではある、だから自分は納得している。
そうではある、だが割り切れない、と。
今、ひとつだけ明確な事がある。
作戦は動き出しており、彼の感情では、いや誰の感情でも止められない。
また、止めてはならないのだ。
相田の答えを受けると、考えても仕方ない事を頭から追い出すように城之内は話題を変えることにした。
「バルトシェクさん、いや『中佐』ですか。あの方をどう思いますか?」
「どう、とは?」
相田も話に乗ってきた。
彼も明日を考える事に疲れていたのだ。
「つまり、指揮官としてですね」
「優秀だな」
相田は即断であるが、城之内は首を傾げざるを得ない。
「ランスールの防衛戦以外は歩いただけですよ?」
「おれが評価するのは、其処だよ」
ランスールに到着するまで、相田、レオーニ両小隊は少なくとも五百を越える敵を撃破し、僅か八十名の連合中隊とは思えぬ損害を敵に与えている。
ランスールに於いて敵は二度の攻勢を仕掛けたものの、その後は無理押しをせずに包囲網の構築に留めていた。
確かに一万を超える大軍を二度にわたって押し返したカレルの手腕は見事であるが、ランスールの城壁が在るならば指揮官が城之内であったとしても、あの程度の時間は持ちこたえたであろう。
相田がカレルの何処を評価したのか不思議でならない。
頭に疑問符を浮かべる城之内に相田は語る。
「我々がランスールに辿り着くまでの撤退活動はバルトシェク中佐にも逐次連絡がいっている。
本来なら二十三名の死者があの段階で出て居てもおかしくは無かった」
「手前味噌ながら、上手くやったと思いますよ」
城之内の自賛の言葉に相田は頷いて言葉を継ぐ。
「そこで、だ。阿呆な指揮官なら結果だけを見る」
「と言いますと?」
相田の弁を纏める。
近代装備を持つとは云え、高々八十名の部隊が無傷で一万二千の敵兵を引き付ける事に成功した。
普通の指揮官なら、その時点で事を甘く見る。
いや、”打って出て相手に損害を与えることも出来る”と勘違いしてもおかしくは無い。
森林に於いて敵兵は分散してしか進軍できない。
大軍が連なって進軍した場合、罠があれば後続の部隊が前方を押し出して損害が拡大する為だ。
罠に嵌った一部隊が全滅する可能性が有るなら、損害は少数であるに越したことはないのだ。
相手が其の考えで軍を進めるなら、戦場設定次第では七百の軍で二~三千の兵を完全に殲滅することも可能であっただろう。
だが、カレルはその誘惑に乗る気配すら見せなかった。
彼はこの作戦の最終目的を明確に把握していたのだ。
その様な小さな戦闘で勝っても結局は撤退部隊揮官であるカレルの名誉心が満足させられるだけであり、それ以上の意味はない。
いや、下手をすれば警戒を深めた敵軍の進行速度が下がり、包囲が完了して山裾や窪地に潜んでいる国防軍兵士の疲労が溜まるだけである。
唯でさえ心理的な圧力が高い作戦である。
その精神的疲労は並みのものでは無い。
つまり、敵を引きつけることに成功した以上、拙速である事以上に重要なものなど無いのだ。
「はぁ~!」
感嘆!としか言い様のない声を城之内は上げた。
話を聞いてカレルの自制心の高さや指揮官としての意志の強さを知り、同時にそれを理解している相田にも驚かざるを得ないのである。
「戦場は高揚感を持って迎えられ、それから……、酷い疲れに襲われる場所だよ。
それは君も知っているだろう?」
相田の言葉に深く同意して頷いた城之内は、ふと部下のローテーションに思い至り、その場を離れる許可を得た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
メカニックデザイン及び作画:たまりしょうゆ様
翌五月十四日、午前八時
早朝から始まった戦闘は、既に二時間を超えた。
思いの外、敵の集まりが悪い。
後方の部隊が未だ森の中でうろうろとしているのだ。
残り一万と云った処であろうか?
また、五万を超える軍勢も統一行動が取れて居らず、旗幟や三角旗は広大な三日月型の平野にバラバラに立っている。
山頂近くから平野を臨む巧にも、その列が方形陣としてまとまりが悪すぎる様に思える。
やや散兵的で中途半端なのだ。
どうやら敵軍内部で部隊の位置変更が随時行われており、陣地攻略の方法を決めかねているようだ。
ようやく防衛陣地に突出の考えがない事を知ったらしく、最前列にいた重装歩兵が後方に回され、中央に騎馬が揃うと歩兵が前方に出て来る。
陣地までの登坂を考え、緒檄は弓兵と魔法兵を中心とした兵列に切り替わった様だ。
連続した部隊変動は一見は敵の無能に見えるが、そうとばかりも言えない、と巧は思う。
混乱と言うには各部隊の移動が実に整然としているのだ。
六ヶ国戦乱が終わっての数百年、兵士同士が平野で闘うなど、ノルン大陸ではあり得なかった。
南西諸島なら兎も角、シナンガル-フェリシアの闘いは少数が多数を翻弄して終わりだったのだ。
昨年からの戦闘は全てトーチカや城塞を挟んだ防衛線ばかりであり、会戦とは言えない。
この戦場も勿論そうであるが、彼等は今までの其れを『会戦』に持ち込みたがっているのであろう。
シナンガルの上層部は古い文献を漁って戦闘の方法を学び、兵を訓練し、糧秣を整え、補給路となる街道を整備してきた。
挙げ句、気球やスクロースに見られるように自らの魔法力の劣勢をカバーする技術まで研究し、長い準備期間を得てフェリシアへの侵攻を企てている。
全く持って甘く考えられない敵である。
下手をすれば銃器に関わる文献まで掘り起こしているのかも知れない。
そう考えると、ヴェレーネの用心深さが今更に分かる。
「ヴェレーネには悪いことをしたよなぁ、とは言っても“こう”なった以上、今更の話なんだが……」
巧がそう言って天を仰いだ時、左手に加わる力を感じた。
『クリール』である。
巧にすっかり懐いたクリールは、何故か巧の顔を見てニコニコと微笑んでいる。
「何か、良い事あったか?」
そう訊くと“でへへ”という感じの笑顔で大きく頷いた。
ふと気付くと、昨日に比べクリールの様子が少し違う。
外見に微妙な変化が見られるのだ。
ドレスは確かに昨日の侭である。だが、顔立ちが少し違って見えた。
真っ赤な髪と瞳は少しくすみ始め、やや明るさを失っている。
ところが髪質は逆で、跳ねていた髪がしっとりとした感じのストレートヘアーに変わりつつある。
髪が伸びている様にすら感じた。
「体調が悪い、とか? まさかね?」
顔を覗き込み口を開けさせる。
我ながら馬鹿馬鹿しいとは思うが、マリアンが風邪を引き始めの頃に喉の炎症を起こしていないか、良く見てやったものである。
自然とその癖が出る。
クリールも素直に口を開けて巧の診療? を受けた。
だが、ふと我に還る。
「兵器相手に馬鹿か、俺は!」
そう自問してクリールの口を閉じさせたが、直後に彼女(?)は怒って巧を叩いてきた。
兵器とは思えない行動であり、ポカポカっと子供の様に殴りかかって来る。
その手の柔らかさも相まって本当の子供のようにしか思えず、何故か可哀想になる。
根負けした巧が最後まで診療を続けると、ようやく機嫌を直してくれた。
機体に乗り込むと付いて来る。
シートの真後、リクライニング用の隙間に立って巧の肩越しにスクリーンを見ている様だ。
クリールのお陰でハーネスバーが下ろせないが、ベルトもある上に今回は遠距離射撃のみである。
南部のように魔獣と格闘戦がある訳でも無い、と割り切った。
いよいよ戦闘が活発化してくる。
数分後に連絡が入る。
敵の結集が完了した三十分後にロケットが打ち上げられ、それを合図に殲滅は開始されることになった。
相手が目標の奪取に失敗して気落ちした瞬間を狙って、更に追撃を掛けると云う訳だ。
攻撃タイミングについて連絡を受けた時、『歩兵中隊長もえげつないねぇ』と巧は言ったが、実はこれは城之内の案である。
城之内は『柊曹長ならどのタイミングを選ぶ?』と考える事で、この“えげつない”案に辿り着き、上申を行ったところ見事採用されたのだ。
本来の池間の案では、“砲撃が始まると同時に発射を行う事で敵を混乱させる”であったが、現状のシナンガル兵の思わぬ規律の高さと散兵の状況から、歩兵中隊長は此方の案に軍配を上げた。
変化のない戦場に痺れを切らし掛ける中、他のASからの規定コールを捉える。
岡崎が戻ってきたのだ。
回線を開いて話しかけると昨日とは違い、かなり落ち着いていた。
どうやら一旦帰したのは正解だったようだ。
自分の言動を振り返る時間を持ち、仕切り直す事で気持ちを切り替えることが出来たのであろう。
岡崎なりに“個人反省会”を行った訳だ。
岡崎は巧から北側二キロまでの近場に位置した。
今のうちに測量を済ませようと呼び掛けると、”既に準備は終えた”と返事が返って来る。
実に良い。
測量は翼飛竜が現れた時、二点間からの測量によって瞬時に距離を掴む為のものだ。
二~三分で測量が完了すると、十分を待たずに北部山脈を背景に数頭の翼飛竜が現れた。
距離は約四十キロメートル。
南部戦線で菅生中隊長が記録した十六,四キロを遙かに上回る距離であるが、彼方の竜は本物であり、この距離では威力不足で墜ちるはずもない。
翼飛竜相手だからこそ可能な攻撃距離である。
ヘルメットを被り直して巧はバックアップに廻る。
射撃の全てを岡崎に任せたのはASに搭乗しての戦場に慣れて貰うためだ。
少々手間取ったが、先の正確な測量が功を奏して五分の間に十二頭の竜が墜ちた。
地上の敵は未だ自軍の損害に気付いていない様だ。
晴れ渡る空の下、二百キロワットのレーザーが反応する空気中の水蒸気も殆ど存在せず、僅かなイオン反応すら見せることは無い。
彼等は仲間の竜が何故墜ちて行くのか、自身の騎乗竜が何故墜ちるのかを理解できぬままに死んでいったのであろう。
岡崎は今、それに気を回す事もなく、唯々自身の上げた戦果に満足していた。
“今は其れで良い”と巧は思う。
闘いの中の兵士は生きた道具である。
そして考え過ぎる『道具』は長生きできないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
発射台最高度からでも見る事の叶わぬ北部山脈の北側斜面。
そこでも翼飛竜は次々と墜とされていった。
南部戦線に現れる翼長四十メートルにはやや及ばないが、それでも翼長は三十メートルを越えるものが殆どを占める。
改良を重ねた結果の成長であり、巨大な敵と言えた。
速度も時速二百キロ以上は出ており、放射火炎も二百メートル近い射程を持っている見事な竜である。
しかも生物である以上、ヘリに比べ機動力は竜の方が高い。
普通に考えれば戦闘ヘリは高度を取って、より上空から竜を探すべきである。
だが発射基地と連携する作戦である以上、時間が惜しい。
相手には殆ど熱が無く、しかも森の中に潜んでいるのだ。
そこで小西は二機の編隊を高々度に置き、自らを低空での囮とした。
敵は直ぐさま小西機という餌に食いついて来る。
森の中から凄まじい速度で飛び上がられ、側面に付かれた小西機に向けて吐かれた火炎は一千度に迫る高温である。
だが、上空から見ていた二機の部下四名の中で、彼を心配する者は一人としていなかった。
一瞬の動きであった。
増槽を装着したままの小西機は、まるで固定翼機のように、ひねりを加えて火炎を避けつつ上昇すると、今度は真上に向けていたその頭部を右真横に回転させ、頭を真下に向けて空中で垂直に機体を固定する。
固定翼機ならそのまま下降する事になる『ハンマーヘッド』と呼ばれる空中戦闘機動である。
機体の動きを金槌の頭に見立て、それが振り上げられ、そして振り下ろされる動作に似ていることからこう呼ばれる。
だが、小西機と云うハンマーは振り下ろされる事無く、その場に静止しているのだ。
これにより小西機は真下の竜に対して直径八百メートルの全方位狙撃位置を持った事になる。
HMDの視界に連動したM230-三十ミリチェーンガンが其れを可能とした。
甲高い発射音が短く響く。
直後、翼飛竜は空中で挽肉にされた魔法士と騎士の二人を背中に積んだまま、穴だらけの姿で墜ちて行った。
墜ちた竜も、今は原型すら留めていまい。
ついでとばかりに、小西はその位置をキープすると射撃手に森への一斉射撃を命じる。
激しい銃撃に追い立てられるように、数頭の竜が跳び上がると、降下してきた二機の編隊機が真横から其れを襲い、僅か数十秒で二十を越える竜と其れに倍する人命が天に召される事となった。
壊し屋の名に恥じぬ殲滅戦である。
ミサイルの使用許可は長尾からすでに降りてはいる。
だが、小西は部下達の気持ちを思計って、その命令を出さない。
彼も又、此の闘いに於いて、“アンフェア”などと云うハインミュラーが耳にすれば、鼻で笑うに違いない苦い意識に支配されている。
機銃のみの戦闘は小西小隊にはなんらハンディとはなっていなかったが、いずれミサイルを使わざるを得ない時が来るならば、これは偽善も良い処だ。
勿論、小西自身のみならず部下達も皆それに気付いてはいる。
だが、生身の敵を機銃で撃つだけでも精神がどうにか成りそうなのだ。
誰もが“せめてもの逃げ道”を塞ぐ気にはなれなかった。
「前方に魔術師と竜の火炎、後方が騎乗騎士か……。まるで俺たちだな」
小西には翼飛竜の存在が自分たち戦闘ヘリ部隊に重なって見えた。
小西の呟きに無線からは、“なるほど”と部下達の声が響くが、その声も何やら物憂げである。
それでも新たな獲物を求め、小西達は西へと飛んだ。
当人達の意志に関わらず客観的に見るならば、今の彼等は血に飢えた狼の群そのものである。
だが、彼等以上の狼たちが地上で暴れ廻るその時も、また刻々と近付いていた。
サブタイトルの元ネタは、A・C・クラークの「都市と星」からです。
既読の方も多い名著でしょうが、僕は少年時代に所謂ジュブナイル版を読んだきりだと思います。
今調べて見ると「銀河帝国の崩壊」がジュブナイル版のタイトルだったそうで、”道理で内容は知っていてもタイトルと結び付かないを訳だ”と納得しました。
探してちゃんと読み直したいと思いました。(読書感想文みたいな後書きですね)
さて、最後になりますが、今回挿絵に使ったAS20は非武装のロールアウト直後
のタイプです。
2話程後で完全武装版を出すことになります。
これが『実に格好良い!』ものですから、自分の余分な絵でたまり様の絵を邪魔したくありません。
背景だけ入れたオリジナルで見ていただきたいので、そちらの発表後に今回のオーファンも差し替えたいと思います。(プロローグのものはそのままです)
たまりしょうゆ様、本当にありがとうございました。




