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星を追う者たち  作者: 矢口
第七章 愛に生まれ、殺戮に育つのは『世界』
138/222

137:ガーディアン・キャプリス(後編)

 シエネとゴース双方のレーダーサイトに於いて魔獣に仕掛けられた攻撃。

 それは、上空からのマイクロ波送電を阻害するものであるが、マイクロ送電波自体は“別電波の様な何かをぶつけて阻害する”事は難しい。

 と云うよりは、まず不可能である。


『マイクロ波通信』と一言で言ってもレーダーや無線に使われている相互干渉可能なものも当然存在する。

 魔獣がミリ波レーダーを無効化した事からも分かるように、GバンドやXバンドと呼ばれる周波数に対して電子妨害(ECM)対電子妨害(ECCM)戦は未だ健在だ。


 しかし、『送電』となるとそうは行かない。

 まず、単なる無線やレーダーとは電子の波の性質が完全に違うため相互干渉は不可能なのだ。


 当然である。


 宇宙空間で発電した電気を地上に送るに際して、そのマイクロ波は大気より先に強力な電磁波、特に太陽風に乗せられた様々な宇宙線を浴びる事になる。

 このようなものに一々打ち消されていては話にならないため、送電に於いては完全に電子スピンが独立した電子を収束し、レーザー化した上で地上に打ち出す事になる。

 ひとつ間違えると兵器になり得るほどの強力な電波だ。


 そこで地球でなら一辺が平均十キロの平方形、或いは直径が三,五キロに及ぶ円形の巨大な集電施設が必要となる。

 上空から送られてきたマイクロ波ビームは大気で僅かにだが拡散されるため、広い施設と多くのアンテナが必要なのだ。

 それらの小さなアンテナ群から更に集電施設へと集められてマイクロ波はようやく巨大な直流電流に生まれ変わることになる。


 おそらくはランセも含めた親玉クラス巨大魔獣達はこの電力を一気に集める事に成功しているようだ。

 普通にやれば電子レンジで(あぶ)られているようなものだが、彼等の体内には何らかの電力転換の秘密があるのだろう。

 勿論、そのテクノロジーを解き明かすなど幾ら凄腕のレーダー員達とは云え、一介の軍人に出来ようはずもない。


 しかし、マイクロ波送電には大きな特徴がある事だけは分かっている。

 受信しやすい電波は電力への転換出力が弱い。 

 反対に電力転換出力の強い電波ほど受信が難しく、高度な受電装置が必要になる事だ。


 これはテクノロジーがどの様な物であろうと、電波が電波である以上は絶対に変えられない事実である。

 国防軍はそこを突いた。


 今、上空六千メートルの甲殻飛行船からは八岐大蛇に向けて“たっぷり”とマイクロ波送電が行われている。

 但し、この送電を幾ら受け取っても総受信量の3~4%しか電力に転換できないのだ。

 どちらかと言えばマイクロ波と云うより『超音波送電』とでも云うレベルのものである。

 しかし、それを大出力で送ればマイクロ波より先に受け取らざるを得ない。


 奴とて年がら年中、高度なマイクロ波に頼っている訳でもあるまい。

 必ず他の方法でも、特に空気中の摩擦電力などからエネルギーを得ている可能性が高い。

 地球では未だ実用化に遠い大気電流発電などが考えられる。


 この理論は当然ながら推測である以上、対応策は『賭』ではあった。

 だがヴェレーネは柳井の案を聞くと、何故か自信たっぷりにGOサインを出したのである。


 繰り返すが、これは上空のマイクロ波に割り込み、最大出力のこちらの送電波を先に奴にたらふく食わせてしまう事が狙いだ。

 例えるなら魔獣の口の中に“常に代わりの食べ物を詰め込んだ状態”を作る事で、他の電力を得られないまま“栄養失調”にしてしまう訳だ。

 柳井はこれを『コンニャク作戦』と名付けた。

 酷いネーミングセンスであるが、『腹一杯喰ったと思ったら中身はカロリー0でした』

 となれば奴もエネルギー切れになるのは間違い無い。

 作戦名はともかく、当たれば効果は大きいのだ。


 そして、どうやら柳井は賭けに勝ったようである。

 遂には八岐大蛇の動きが、はっきりと鈍くなってきたかに感じられる。


 どれほどの巨大電力を充電完了したばかりであろうとも、対抗力場などと云う爆発的なエネルギーを使用する膜を『生み出して』いるのだ。

 マーシアのように、ダークエネルギーから自然な『状態』を作っている訳ではない。

 無理矢理にエネルギーを集約している以上、燃費はべらぼうに悪い筈なのだ。


 例え百万キロワットのエネルギーを得たとしても三十分持つかどうかであろう、と云うのがマリアン、レーダー員双方の計算結果であった。

 

 柳井は、作戦成功の報告を聞くと同時にモニタに写るマーシアも八岐大蛇の動きの変化に気付いたかの様に、こちらに目線を送った気がした。

 勿論、それは柳井の気のせいではなく、マーシアは実際にデフォート城塞に眼を向けていた。


 が、次の瞬間、凄まじい轟音と空気の振動を誰もが捉える。


 彼等レーダー員も皆、マーシアと同じ爆発音を聞いたのだ。

 

 いつの間にやらハインミュラーは目を醒ましている。

「柳井君、上から来ているぞ! 必要最低限度を残して不要な人員は退避させろ!」

「はい!」


 自身を爆弾とした急降下爆撃。

 AF2による体当たり攻撃であった。

 


      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 現場は地獄のような有様である。

 シエネ城壁は二重に構築されている事は先に述べたが、最初のAF2はその二枚の城壁の間、約四十メートル幅の広場の前方城壁よりに落ちた。


 前方城壁は内側に向けて六階層が階段状の造りになっている。

 段差に魔術師が控える為であったり、物資を搬入しやすくする為である。

 その段差の一段目から三段目までにかけてを凄まじい爆圧が襲う。


 敵の侵攻を許さない、と云う意味では最上部に殆ど被害が少なかった事は幸運であったが、最下層は物資集積所であり、何より食糧の他、大量の火薬が置かれている。


 勿論、国防軍はそれらを一箇所に纏めるような愚を犯していた訳ではないが、それでも音速に近い物体が落下した衝撃と、その機体燃料への引火でTNT火薬百キロ分の爆発は起きた。

 NATO規格にすれば五百ポンド爆弾クラスである。

 耳をつんざく轟音、百メートル以上の爆炎と共に三百メートルに近い爆煙が上がり、墜落点から五百メートルの範囲内は火の海である。

 カグラの重力が地球の〇,八Gで有る事もあって、脚力の向上した国防軍兵士は通常よりも難を逃れ易かったがフェリシア兵はそうは行かず、逃げ遅れた者は遙かに多い。


 城壁の上まで炎が迫り、一瞬だが防衛兵の背中を焼くようだ。

 国防軍兵士のDASシステムバイザーが完全密閉され、十分間の酸素供給が行われる。

 また、フェリシア兵には別途に呼吸用面帯(ガスマスク)が配布されていた事だけは運が良かったと言えた。


 広場へ国防軍消火隊が出動するが、一旦燃え上がった物資は簡単に消せるものでは無い。

 何よりジェット燃料は消火が難しい。

 消しにくいと云う問題以上に発生するガスの毒性が強すぎるのだ。


 煙を吸って昏倒するフェリシア兵士を運び出そうとする国防軍兵士の直ぐ側で、運悪く運搬中であった弾薬に引火したのか二次爆発が起きる。

 一瞬目を背けた消火隊が再び其処(そこ)に目を向けるが、結局は誰もいなかった。


 消火隊のひとりのヘルメットに何かが当たる。

 地面に落ちた“それ”は『人の指』に見えた。


 小便を漏らし、バイザー内に吐き戻し、涙を流し、鼻水にまみれながら、それでも彼等は火を消していく。


 その必死の彼等の頭上に、再び轟音が響いた。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



(マーシア、こいつ!)

“ああ、厄介な事になったぞ”


 八岐大蛇(ヒュドラ)はマーシアへの攻撃の一切を止めた。

 代わりに対抗力場を強化して、面で彼女の攻撃を防ぐ。

 開いた方向に向けては、強い電波が出ているのが分かった。


 頭痛がするほどの強烈な電波。AF2を操っているのは此奴だ。

 失われたキネティックに代わり、この八岐大蛇(ヒュドラ)は新しい護衛を手に入れた事になる。


 いや、そうではない。

 この魔獣は自分が死ぬ寸前までシエネ城壁の破壊に向けて行動する事を選んだのだ。

 今まで何ら動かなかったのが嘘のようである。

 当然、ふたりの脳裏には『軍師』ことスーラの姿がちらつく。


(あの『軍師』かな?)

“間違いないだろうな、糞が!”

(どうしよう、あっち行く?)

“マリアン、それは駄目だ。私が此奴(こいつ)から離れた瞬間に最大出力の粒子砲はレーダー官制室に向かうぞ”

(じゃあ、どうすればいいの?)

“こっちはこっちの仕事をする。向こうは向こうであの女に任せておけ!”


      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 八岐大蛇の粒子砲は収まったものの、変わって上空からAF2が自らを爆弾と化して突入してくる。

 落下速度の衝撃で翼を失うものもあるが、一旦落下コースに乗ったものは其の恐るべき速度を破壊力に変えるべく、最後までジェットを吹かして突入してくる。


 レーダーは殆ど役に立たない。

 上空を見上げると、光の点が十を越えて(きら)めいている。


 まるで雨粒の様だ……、但し、それは死の雨なのだが、


 その幾つかが唐突に上空で爆発した。

 ヴェレーネである。

 雨粒の中央に飛び込んだ彼女は数機を一度に捉えると、見事に高々度での圧縮爆破を起こして見せたのだ。


 だが、広範囲に広がったAFの雨は二つ、三つばかりヴェレーネの手に届かない。


 いや、もっと厄介な事が起きた。

 ヴェレーネに向かって国防軍高射レーザー砲車両の生き残りが攻撃を仕掛けてきたのである。


 途中の薄い雲で拡散されたこともあって、正面に弱い対抗力場を張って対応できたヴェレーネであったが、理由はすぐに分かった。

 距離がありすぎて、レーザー車両はヴェレーネを敵と誤認しているのだ。

 戦場での同士討ち(ブルー・オン・ブルー)は珍しくないとは云え、『自分の上官の顔ぐらい覚えておけ!』と言いたくなる。


 だが、何処の世界に自軍の副司令が、生身で空に浮かんで対空行動を取っている(など)と思う人間が居るだろうか。

 彼等を責めるのは難しい。


 其処へリンジーが向かうのが見えた。

 おそらく誤射を止めるように呼び掛けるのだろう。


 だが、既に2機のAFは上空五千メートルで完全にヴェレーネの手から逃れた。



“転移後、邀撃(ようげき)する”

 そう決めた瞬間、遙か下方でふたつの爆発が起きる。

「間に合わなかった! まさか?!」

 

 地上に落ちるまでに、少なくとも後、十数秒はある筈だったではないか。

 悩む間もなく更にもう一機が北に現れる。

 済んだ事は捨て置いてヴェレーネは其方に向かった。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 ヴェレーネが不審に思った爆発は、ようやく間に合った北部AS隊〇四号機、新田曹長の放った一撃であった。


 正確に言えば二連射である。

 彼は、此処まで来る途中で空軍のAFが乗っ取られた事を後方からの無線で知った。


 水晶球(スパエラ)で一旦は後方に送られた情報が、今度は無線で戻って来る事で、ようやく彼に届いたのだ。

 到着すると、対空レーザー砲車両が高度六千メートル点の何らかを狙って居る。

 レーダーが全く効かない為レーザー距離測定で狙って居るらしいのだが、今日の天候情報によれば四千前後の高度は水蒸気の拡散が激しく、二百キロワット程度のレーザー砲では、あまり有効とも思えない攻撃だ。

 だが、その側をすり抜けるように落下してくる物体があるのを新田機のズームカメラは見逃さなかった。


「おい、高射さんよ。宙に浮いてるのは後回しだ。落ちて来るのを先にやるぞ!」


 そう言われて、高射砲側も納得した。

 新田は高射レーザー車両から五百メートル程の距離を取る。

 二百キロワットレーザーガンは既に装着済みだ。


 二点間から、レーザー距離測定を行い正確な落下スピードと距離を求める。

 その間五秒の早業だ。

 新田もたいしたものだが、高射砲側観測員の腕も又、確かであった。


 相互の連携は奇跡的な呼吸を見せ、落下物はAS31の照準器(ガンサイト)に収まる。


 迷わずの新田の連射はコンピューターの補助を借りたにせよ、見事なものであった。

 シエネ城壁から距離六キロ、高度三千メートルでの撃墜となると、約七千メートルの距離を一撃で仕留めた事になる。

 限られた時間に於いての早撃ちでは過去最速のものだった。


 しかし、その様な記録に今は何の意味も無い。

 彼は唯、第二、第三の城壁の悲劇を防ぎたかっただけである。


 あの煙の中は見えない。だが、パイロットだった時には気付かずとも、歩兵となった今の彼には彼処(あそこ)が地獄である事は分かるのだ。


 其処にリンジーが到着し、上空の浮遊物体の正体を告げるとレーザー砲車長の顔面は蒼白となる。

 新田は“もしや!”と思っていた自分の“勘”が見事に当たり、“あれに手を出さなくて良かった”と心から喜んだ。


 何より城壁での攻防は未だ続いているようだ。

 一刻も早く其方に向かいたい彼は、再びGEHへの換装を進める。



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 十八機のAFはその半数以上がヴェレーネにより墜とされた。残りも時間の問題だ。

 そうなると八岐大蛇は遂に覚悟を決めたようだ。

 マーシアへの攻撃を再開する。

 いや、覚悟を決めたのはこの魔獣に指示を与えている存在であろう。


「あの『軍師』にとってのガーディアンがこの魔獣ならば、まずは此奴(こいつ)を潰す!」

 マーシアは、出来るだけ派手な方法で魔獣を倒す事に決めた。

 相手は既にエネルギー切れを起こして、フラフラなのだ。

 此処ではっきりと力の差を見せて今後の為の威圧とする必要が在る。


“マリアン、済まんが、覚悟を決めてくれ”

(う、うん……)

 マーシアの狙いが分かったマリアンは結果として表れるであろう光景に既に気分が悪くなったようだ。

 返答の言葉も弱い。

“マリアン、同調が強い! お前が吐き気を(もよお)せば、そのまま私も戦えなくなるんだ。

 頼むから耐えてくれ”

(大丈夫! 一年前のシナンガルから色々あったからね。慣れちゃったよ)

 何故かマーシアの遠い記憶にあるような、そんな笑い方で彼は答える。

“……そうか”


 そこから先は凄惨の一言に尽きた。

 

 高さ、幅、奥行き共に三十メートルの物体は、地球で比するものがあるなら十階建てのビルに相当するであろう。

 高さこそ首の長さがその半分を占めるため、本来は五階建てサイズの平べったい蜘蛛から八本の長い首が伸びた竜であった筈だ。

 だが、今、八岐大蛇には首はあっても頭はひとつもない。

 コウモリのように体から電波を発する事で目の代わりにしていると考えられる。


 対抗力場を突破する事に成功すると、頭を失って鞭のようになった首の一本一本をマーシアはハルベルトの圧力を叩き付けるかのように切り刻んでいく。

 


蟷螂(とうろう)の斧』という言葉がある。

 カマキリが威嚇(いかく)のために自分の斧を振り上げるが、人間の前にはその様な虫けらは一溜まりもない。

 その様な事から転じて、“明確な力の差から来る無駄な抵抗”を指す。


 だが、仮に、だ。

 カマキリが昆虫としての大きさや素早さはそのままに、力や打撃圧力、そして身体の頑強さまでもが人間並みだとしたなら、人は果たしてカマキリに勝てるだろうか?


 あの斧が人間の骨並みの強さであり、その一撃が成人男性の拳と変わらないとしたなら、素手でそれに勝てる人間など居るだろうか?

 

 マーシアは今、そのカマキリのようなものである。

 小さく捕らえ所がない素早い動きでありながら、力は魔獣に匹敵する存在。

 そして、その様な存在が決して砕ける事のない鋭利な刃物を持って襲いかかって来るのだ。


 如何に巨大な八岐大蛇と云えど、あっさりと切り刻まれていくのは当然で有った。


 四本目の首を落とした時、残る四本の首の一本がマーシアに叩き付けられて来た。

 人間が虫を潰すような動きを見せたその首をマーシアは右手の平で軽々と受け止める。

 そのまま、振動を送り込むと首は“()ぜた!”

 殆どの首が潰され、身体のあちこちから血を吹き出す魔獣。

 翼をはためかせ逃げようとするが、まるで飛び上がれそうもない其の姿は哀れですらある。

 飛行用のイオンクラフトを起こすエネルギーも残っては居ないのだ。


 遠巻きにそれを見ていたシナンガルの侵攻軍は唯、息を呑み、血が吹き上がる(たび)に小さな悲鳴があちこちで上がっていく。

 一人ひとりの悲鳴は小さくとも、少なくとも数百人が一斉に上げた悲鳴は、遠くシエネ城壁まで届いた。



 その十五万のシナンガル兵に目もくれず、黙々と魔獣を切り刻んでいくマーシア。

 身体には一滴の血も付着しておらず、その銀髪を始めとして軽甲の黒以外の僅かな白い木綿部分すらも綺麗な純白を保っている。

 マリアンが要所々々に於いて、血飛沫(しぶき)を浴びないようにカバーしてくれているのだ。

 本音を云うなら自分が血の臭いに耐えられそうもないからなのだが、マーシアとしても助かっているので敢えて“どうこう”とは言わない。


 そのような流れの中で、彼女は不意に考えを声に出した。

「五本目だ。しかし、おかしい?」


(どういう事?)

 マリアンが尋ねてくる。

“うん、どの首にも魔石の反応が無い。これだけの魔獣だ。

 かなり大きな核になる部分が有って当然だろう? 

 魔力も充分に感じ取れるのだが……、何故かな?“


(あれ、マーシア感じないの?)

“分かるのか!”


 マーシアの言葉にマリアンは、思念を送り込む。

 既に潰された正面の首二本、その付け根の骨は胴体に埋もれている。

 魔石となる骨格部はその二箇所にあった。


“ほう、普通は頭の真下の一本目か二本目の骨なんだがな。珍しい魔獣だ。

 流石は親玉、守りも堅い“

(だね、)

 意外なほどにマリアンは落ち着いている。

 もう少し怖がるかと思ったのだが拍子抜けだ。


 しかし、それなら其れで丁度良い。

 最後の勝負を仕掛ける。

 心臓となる魔石の位置も分かったのだ。迷う必要もない。


 そのまま、マーシアは消えた。


“お前が使った方法をそのまま返してやるよ”

(ちょっ、マーシア! 本気なの!)

“諦めろ……”


 マーシアの中でマリアンの悲鳴が聞こえる。 

 先程の落ち着きは実は虚勢だったのだ。

 恐怖心が過ぎたのかマリアンは気絶し、二人の同調は切れた。


 マーシアが現れたのは八岐大蛇の上空五千メートル。

 そこからハルベルトの槍先に紡錘(ぼうすい)状の対抗力場を張って一気に落下していく。

 八岐大蛇がAF2を操って行わせた急降下爆撃を、そのまま奴に返してやる事にしたのだ。


 天空全体を覆うかのような爆発音が『ドドーン』、と二重に響く。

 音速突破衝撃波(ソニックブーム)である。

 マッハを越えて魔獣に突っ込んだマーシアの一撃は心臓がどうだの、魔石がどうだのというレベルではない。


 八岐大蛇を数千の肉片に変えて吹き飛ばすと当人も地面に十メートル以上は潜り、その後は落下点から数十メートルは離れた地点に頭を上にして飛びだして来る。

 まるで運動エネルギーと地質の関係から信管を上にして地面に顔を出した不発弾だ。

 


 実際、殆ど爆心地と言って良い魔獣の死体、いやバラバラの骨組みを背にしてシナンガル兵に向き合うマーシアは不発弾そのものである。


 マリアンが気絶していなければ粒子砲が構築され、それが彼等の一部くらいは焼き尽くしたかも知れない。

 だが、流石のマーシアも疲れていた。

 

 息を切らして周りを見渡す。マリアンによる補助もなくなった。

 自らの攻撃で上空に噴き上げられた後、降り注ぐ泥と魔獣の血肉にまみれた銀髪は、ぬめりを纏い、顔全体を覆う。

 血泥(けつでい)(まみ)れた髪の隙間から、怒りに燃えた瞳が正面を見据えていた。

 その瞳に気付いた右翼側将兵は完全に恐慌状態に陥り、悲鳴を上げる。

 そこからは“我先に”と逃げ出し始めた。


 誰しもが恥や外聞など、地平の彼方に置き去ったかのようだ。


 荒い呼吸のままに三百メートル程浮き上がったマーシアがシエネ城壁へ目を向けると、三機のASが到着して上空からゆるやかに落ちてくるAF2を次々と撃墜していくのが見えた。

 そのような中、破壊から逃れた二十体の鉄巨人は歩みの向きを変え、弓兵と共に切り通し下の岩影へと消えていく。

 

 一時は参を乱して逃げ出したピナー軍の一部も少しずつ落ちつきを取り戻してきたようだ。


 確かにシエネ戦線においてシナンガルは巨大魔獣を失った。

 だが結局の処、ルナールの狙い通りに両軍は膠着へと(おち)いく事になったのである。





後で変更しても構わないので現時点でのストーリーや文章の評価が欲しくなって来ました。

まあ、読んで下さるだけ有り難いのであくまで「あればなぁ」なんですけどね。

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