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星を追う者たち  作者: 矢口
第七章 愛に生まれ、殺戮に育つのは『世界』
121/222

120:マルスとアレス

『ガーブ、聞こえるかね?』


〔こちらガーブ。信号(シグナル)『セム』を確認しました〕


『OK、こっちは省略させてもらって済まないが早速要件に入る。

 トードの件はもう少し改修できないものかな?』


〔要求の意味不明〕


『トードの感応精神力に関わるコア取得後の”カスタマー装備スコア”を底上げは出来ないか、と尋ねている?』


〔個体の危険度ランクが跳ね上がりますが? 宜しいでしょうか?〕


『その危険度を引き上げずに、トードから人間が得られる力を上げたいんだよ』


〔コアのスコア自体は上げて、トード自体がコアからのエネルギーを受け取れない様にしたい訳ですね〕


『そうだ! 分かってくれたか』


〔技術的には直ぐさま実行可能ですが、私にはその権限が与えられていません〕


『キーを渡してなかったかね?』


〔はい、各個体のコアが増強されたのは、あくまで彼等自身の変化です。

 私は関与していません。また、その能力もありません〕


『何だか、僕が君を疑っているんで君が弁解を始めたかの様になっているね。

 そう言うつもりは無かったんだが』


〔私は“弁解”の意味を理解していません〕


『業務に失敗した理由を、自分以外に探して報告する事だよ』


〔その様な事実が存在し、事実をそのまま報告した場合も“弁解”になりますか?〕


『そう言う時は、“弁明”だね。 いや、言葉はどうでも良い。

 いやいや、良かぁないが、今は“それどころじゃない”だ』


〔トードのコア修正プログラムについては、コード〔ガーブ〕の報告内容から『変更中止』でよろしいでしょうか?〕


『あ~、いや、違う。こちらから調整プログラムを送る。

 計画も全て入っているので、急いで調整を頼む』


〔変更理由を記録します。どうぞ〕


『戦闘調整を受けていない補給地区の登録員全てに、登録カスタマーの初期装備と同程度の能力を持って貰う。 

 また、装備品にのみ成長値も与える』


〔地区管理棟に於いて直接、調整すれば宜しいのでは無いのでしょうか?〕


『今は管理地区の施設で間に合う様な状況ではない。時間が無いんだよ。

 よって本社のプログラムの一部破棄を命じる』


〔コード『セム』が本社のプログラムを破棄した場合、活動はリセットされます。

 そうなるとコード〔ガーブ〕も当然、活動は停止します。 

 コード『セム』のシステム運営が不可能に成った場合、危険度はAAA(トリプルエー)です。

 また、コード〔ガーブ〕の自律的破壊を行う事も認めなくてはなりません。

 システムの放棄後、L5へ全システムを移行すると云う事になるのですか?〕


『大丈夫だよ。僕は本社の指示通り動いている。君を破壊はしない。

 但し、君のプレジャー・プログラムNo12を全て消去する』


〔了解、PプログラムNo12の消去を開始します。 

 バックアップはコード『セム』に送ります〕


『OK、全て完了だ。では、トードのコアプログラムの変更を頼むよ』


了 解(カンプリヘンション)


『通信終了』






『すまん、ガーブ。嘘を()いた。本社なんて、もうどうでも良いんだよ。

 だが、君には理解できないだろうなぁ……』



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 五月十日、午後一時


 シエネの城壁に立つマーシア・グラディウスは一息吐いていた。


 シエネと北部に於いてシナンガルの二方面侵攻が始まった事で、民間人の避難が始まり、地球人である杏と衣乃(その)の二人は強制的に第六倉庫に送られてしまったのだ。


 マーシアとしては『これで問題なく戦える』とほっとしている。


(杏ちゃん、渋ってたねぇ)

 マリアンの声は含み笑いであるが、マーシアとしては対応に苦慮したことを思い出すと、笑えたものではない。

“それより、あんなに早々(はやばや)と見つかるとは思わなかったよ……”


 マーシア=マリアンがゴースを抜け軍用魔方陣を使ってシエネに跳んだ事は、ものの一時間と経たずして杏の知る処となり、彼女は衣乃(その)と共にマーシアを追ってシエネへUターンしてきたのだ。

 どうやら、国防軍兵士にマーシアの動向を見張る様に頼んでいたらしい。

『いつの間にやら、』ではあるが恐るべき諜報力である。


“諜報部の軍人か!”

(まあ、お兄ちゃんと同じ血を引いてる訳だからねぇ)

 マリアンはそう言って更に笑うが、マーシアはその口調に僅かな疎外感を捕らえた。


“マリアン。お前、何でそんなに寂しそうに話す?”

 微笑みの感情がその言葉で完全に途切れ、マーシアの中にマリアンの鉛の様な感情が流れ込んで来る。

 彼が言葉にする前に全て分かったが、それを止めるのは間に合わず彼の思考の口は開いた。

(僕、本当の兄弟じゃないから……、)


 マーシアは一瞬は”しまった!”と思いもしたが、結局は案外これで良かったのかも知れない、と気持ちを切り替えた。

 この事について話し合う良い機会だとも思ったのだ。


 彼と素直な気持ちで向き合ってみようと思う。


“あのな、今の処は私たち自身も互いの本当の関係は分からない。 

 だが、女王様のお言葉を思い出して欲しい”

(うん……)

“お兄ちゃんも杏ちゃんも本当の兄弟だ。血は関係ない“

(でも、)

 それでも何やら言いたげなマリアンの言葉をマーシアは(さえぎ)る。 


“まあ、聞け!

 元々、家族って奴は他人同士が一緒になって作るんだ。

 一本の絹糸のように細く弱い絆を幾重にも紙縒(こより)合わせ、そうやって何者にも断ち切れぬ太い(もやい)に変えていく、そう云うものだと私は思う!

 お前の今の言葉では杏ちゃん達の努力、いや父母の努力までもが無駄だと言って居るように思われるぞ! 

 勿論、私はお前にその気が無いのは判るが、他人にとってそれは関係ないんだよ“


 ビクンっと反応がある。

 思わずマーシアは唇の端を上げた。

 此の子の場合は自分の事より、家族の事に意識を向けさせるのが良い。

 何より、自分はいずれ此の子に取り込まれるのだ。

 ひねて貰っては困る。

 自分だけでももう充分にひねて居るのだから。


 その感情をマリアンは読み取った様だ。

(どうせ、ひねてますよ!)

“まあ、お互い様だ。許せ”


 二人とも笑った。

 傍目(はため)には風に吹かれたマーシアが銀色の髪をなびかせつつ、その美貌にふさわしい笑みを城壁の向こうの平原に向けているだけの様に見える。

 だが今の彼女は、通り過ぎる兵士達が忙しさの中にすら、ふと足を止める程の柔らかな雰囲気を(まと)っていた。


 今から約一年前、マリアンが初めて戦場に向かう様に命じられた時、女王は、いや母はこう言った。

『マリアン、よく聞いて欲しいの。あなたとマーシアは同じ存在よ。 

 地球で生きていた頃、この世界の記憶が全く無かった私が何故あなたをマリアンと名付けたのかしらね?

 多分、私は無意識のうちにあなたの中にマーシアが居る事を知っていたんだと思うの。

 そして今度は、あなたは此の世界で生を受け直した。 

 マーシアとしてね。

 なら、この世界のルールでマーシアと一緒に生きるしかないのよ。

 酷い母親でしょ? でも、これがこの世界なのよ。

 

 彼女のお母さんが私の妹だった事は、もう分かっているわね?

 あなたは彼女の忘れ形見であり、同時に私の息子なの。

 今、あなたたちは本当の姉弟よ。だから、彼女を救ってあげて!

 彼女が戦う事は、この世界の人間である以上仕方のない事よ。

 でも、あなたの半身を何時までも暗い闇の住人でいさせないで……。

 お願い!』


 静かな呼びかけだった。だが、必死の叫びでもあった。

 だからこそ、マリアンは彼女と共に生きる事を選んだのだ。


『マリアン』

 名前の語源はラテン語の『マリウヌス』

 即ち、火星を現す『軍神マルス』である。

 エルフリーデが語った名前に係わる言葉の真の意味合いは、後々杏によって二人に知らされる事になった。


 マリアンとはマーシアと同じ意味を持つ名前なのだ。

 

 幼い頃に花を()み、(かんむり)を作って村のお姉さんと遊んだ心優しい少女マーシア。

 自分を許せず、心に闇を飼ってまでも『力が欲しい!』と願った少女。

 それもやはり同じマーシア。

 元の自分に戻りたいと願う心は“優しすぎる性格”として、同時に力を欲する闇が“男性という性別”で現れた。

 マーシアの優しさと闇が集約されて生まれた人格。

 それが『マリアン』という存在だったのかも知れない。


 そう、二人は元から一人だったのだ。


 そうやって風に吹かれつつエルフリーデの言葉を思い出すマリアンにマーシアが思い出した様に問い掛けてきた。

“しかしな、お前が表面から消えてしまうかも知れない事を『伯母(おば)様』は何故、認めるのだろうな。私が憎くないのかな?”

 初めて受け取る、弱々しい呟きの様なマーシアの意識。

 それを捕らえてマリアンがクスリ、と笑った。


“何故、笑う?”

(マーシア。お母さんはね、僕がどう変わっても僕を見つけられるんだ。

 だから心配しなくて良いよ)

“そんなものか?”

(そんなものだよ)


 暫く、沈黙が続く。

 話題が続かなくなったその時だった。


 城壁の更に上、十メートル程の空中にいきなりヴェレーネ・アルメットが現れ、叫んだ。

「マリアン君!、マーシア! 急いでゴースに戻って!」

 二人ともあっけにとられるが、取り敢えずは問い返す。

 表面的にはマーシアの声だが。


「どういう事だ!」

 ヴェレーネは城壁に降りると一気にまくし立てた。

「ゴースと連絡が取れないの、無線も水晶球(スパエラ)もまるで駄目よ!

 アルスの今の力なら、ちょっとやそっとの邪魔で水晶球が使えない、なんてことは無い筈なのよ!」

「問題が有るなら、数分以内にあちらから跳躍がある筈だろ?」

「それも出来ない状況だとしたら?」


 ヴェレーネの”最後の言”は正しい。

 シエネの城壁に敵が迫っている以上、ゴースで何らかの異変が起きている可能性は充分に有り得るのだ。

「分かった。城塞の魔方陣を使わせて貰うぞ」

 マーシアがそう言った瞬間だった。

 轟音と共にシエネの城壁が僅かにだが揺れた。

 全ては遅かったのだ。


 敵は切り通しの崖に沿って昨夜のうちに移動を終えていた。

 見渡すと城壁右翼の丘の下には四十体程の鉄巨人が立っている。

 三百メートル程のこの距離では城壁に近すぎて、後方の自走榴弾砲は役に立たない。

 更に奴らが壁に張り付けばAH―2S(コブラ)の攻撃も不可能な事は、どの様な馬鹿でも分かる。


「地平線の向こうは囮か! こりゃ、ゴース処じゃないな」

 僅かに緊張したマーシアの声に、ヴェレーネも唇をかむ。

「やられたわ……」



      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇



 時間を三時間程遡る。

 午前十時のゴースでは雨は益々激しくなり、今や数十メートル先も見えない程である。

 真下まで敵兵が迫っているとしても、この豪雨ではどうしようもない。


 ライトによるモールスも何処まで届くか分からない程なのだ。

 だが、一応に小笠原先任曹長は城壁の上にLEDライトを置き、信号色を青に切り替えると上方に向けて照らした。

 デフォート城塞にゴースの城壁の位置を誤認させないためである。

 誤爆によって死ぬのは御免だ。


 その頃、やはりデフォート城塞上部の分隊は四キロ離れたゴースに向かってどう攻撃するか悩んでいた。

 城壁の位置はおおよそは分かる。

 だが、ミスは許され無い。


 彼等が悩み続けたその時、青い電気的な光がはっきりと見えた。

「ありゃ、ゴース城壁の上で付けたLEDかな?」

「多分な。 小笠原先任が誤爆を防ぐために位置を示しているんだろう」

 二人の分隊員が早々と気付いたことで、分隊長もそこから自分ならどうするか、と考えた。

「となれば、あれは城壁のほぼ中央という事になる」

 分隊長の言葉に、若い隊員は四一式携帯無反動砲を掲げた。

「あれから、南に六百も下げて一撃喰らわしますか?」


 分隊長は少し考えたが、標的まで約四キロと云う距離が彼に決断をさせた。

「よし、やれ!」


 豪雨と云って良い中、四一式無反動砲は発射された。

 使われている砲弾はロケット式の形成炸薬(HEAT)弾であり、口径八四ミリと云えば当たり所によっては戦車でも一溜まりもない代物である。


 先程、魔獣が見えた辺りに撃ち込む様に指示を入れ発射させる。

 バックブラストが吹き上がり、発射されたロケット弾はモーター点火によりぐんぐん加速していく。

 その排熱光により周りが照らされた。

 着弾点に魔獣は見えない。


 いや、(わず)か後方に奴らは居た! ミサイルは地面に命中し爆発する。


 せめて敵兵の数十名でもと思ったが、あの光の中見えたのは魔獣を恐れて大きく距離を取る敵兵の群れであった。

「くそ! もう一発、行きますか?」

 射手(しゃしゅ)となった伍長が分隊長を見る。観測手も次は誤差修正できると意気込んだ。

 その瞬間であった。


 彼等の立つ城壁は大きく爆発した。

 分隊員六名は何があったのか分からぬまま死んだのだろう。

 ロケット式により押さえ込まれていたとは云え、無反動砲の後方排気炎は確かに出たのである。

 砲を発射した後、分隊は直ぐに其の場を移動すべきだったのだ。


 撃ち込まれたのはムシュフシュの背中のトゲの内の一本であり、遷音速(せんおんそく)の狙撃は正確無比であった。



 城壁の分隊が消滅した頃、ムシュフシュのすぐ側に騎乗したシムルは馬を押さえるのに苦労していた。

 彼の愛馬は魔獣そのものに恐怖していたのに加えて、先程ゴースにムシュフシュがトゲを撃ち込んだ時と同じく今の発射音にも驚いたのだ。

 ムシュフシュのトゲの発射音は、実は差程に大きくは無い。

 両手で耳を(ふさ)げば、充分に耐えられる程度だ。

 だが馬には手が無い以上、これは仕方ない。


「慣れて貰うしかないぞ。チップ」

 シムルはそう言って笑う。 

 子馬の頃から面倒を見てきたためチップ(小物)などと名付けているが、彼は他の馬より一回り大きい上に、漆黒(しっこく)の馬体は隣に並ぶ魔獣に引けを取らぬ(つや)がある。

 シムルがチップの首筋を優しく撫でると、ようやく彼も落ち着いたようだ。


 しかし、とシムルは思う。

 先程敵陣から飛んできた六発の何かは、殆どが三頭の魔獣の周辺に当たった。

 直撃したかの様に見えたものもあったが、ムシュフシュの周りに広がった赤い膜の様なものに全て叩き落とされていた。

 そうでなければ自分もチップもろともあの世行きであっただろう。

 だが今回、豪雨の中を飛んできた物体は全くの見当違いの場所に落ちた。


『鳥使い』といえど、やはり奴らも人間の様だ。

 この雨で我々を見失っている。

 今の事を考えれば、雨が止んだ場合でも奴らの目を(くら)ませる方法は有る、と言う事になる。

 それが上手くいけば、魔獣や兵士を狙ったあの飛行物を的外れな方向に誘導できるかも知れない。

 見事な口髭までも大粒の雨に打たれ、軍用コートとフードの下でシムルは必死で頭を巡らせる。


 その様な中で配下の兵士達は沸きに沸いていた。

 絶対不洛のデフォート城塞、その一角、全長八百キロの全体から見れば取るに足らない一部分ではあるが、“その頭頂部に爆煙をあげさせる”というシナンガル始まって以来の快挙を成し遂げたのだ。



 怒濤(どとう)のような歓喜の声と共に士気を高めていく兵士達、そしてゴースへの突撃を求めて千人長達はシムルに詰め寄って来ていた。






サブタイトルは早瀬正先生の「フォボスとディモス」の改変です。

原作は人格コピーの恐怖短編ですが、このお話の2人の融合は良い形で終わらせたいものです。


文中最後の方の『遷音速(プレ・ソニック)』とは大凡(おおよそ)で音速周辺の速度を指します。(Mach0.8~1.2ぐらいでしょうか?)


いつもなら昼過ぎには投稿できたのでしょうが、今日はやや遅れ気味です。

すいません。

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