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星を追う者たち  作者: 矢口
第七章 愛に生まれ、殺戮に育つのは『世界』
116/222

115:フェリシアのツバメ

 エミリアは二日の内にかなりの情報を集めてきた。

 其れによると、アトシラシカ山脈の中西部に『鳥』が墜落(おち)た事は確実である。

 鳥は二人乗りの小型のものであったという。


「あの物騒な小さい方か」

 ジゼッペルの言葉にエミリアは興味津々である。

『鳥』の存在は知っては居たが、自由人が募集された頃からは彼女はホテルの支配人室に缶詰だったからである。


「強いんッスか?」

 目がキラキラと輝いている。

 その目を見て、少し呆れ気味にだがジゼッペルはエミリアを揶揄(からか)える滅多にない機会だと、思わせぶりに口を開く。

「お前な、自分の魔法でこの街(プライカ)を完全に破壊するとしたら、どれくらい時間が掛かると思う?」


 エミリアの火炎弾攻撃力は相当なものであり、本人は当初は近衛に入隊して試験にせよ試合にせよマーシア・グラディウスとの一騎打ちを望んでいた。

 処がエミリアが首都に出て来るとマーシアが“休眠”という不思議な行為に入り、二年は表に現れないと聞く事になる。

 やむを得ず祖父を頼ってシエネに向かった。

 暫く自由人となって南部で魔獣狩りを行う事で力を付けようと考えたのだ。

 偶然だが彼女の生き方は少しながらマーシアに似かよっている。


 祖父はエミリアの話を聞くと一応に理解は示したものの、マーシアとの一騎打ちなど認められるはずもなく『自惚れるのもほどほどにしろ』という言葉を残して二百十年の生涯を閉じた。

 病のためにエルフとしては短命の部類であった彼だが、マーシア・グラディウスの恐ろしさぐらいは知っていたのだろう。

 死ぬ前に自由人仲間のジゼッペルに、エミリアに気を遣う様に頼んでの死であった。


 祖父の件は兎も角、エミリアは自分の強さはどれ程のものかに興味がある。

 彼女は十四歳以前の記憶が無く、それまで自分がどの様にして育ち、どの様に力を付けたか知らない。

 その為、強い者との闘いに憧れるが父親の(いまし)めが彼女を縛っていた。

『お前は特殊だから、人様に手を出してはいけないよ』

 そう優しく微笑んだ父は、祖父以上に病弱であり儚い人であった。


 今や天涯孤独の彼女としては、すぐにでも軍に入りシナンガルと闘いたい程であるが、祖父の面倒を見てくれたジゼッペルに借りがある為に動けない事もまた事実なのだ。

 その欲求不満からか、自然と此の様な話には身を乗り出す。


「この街……ッスか? あ~兵も同じ数として?」

「そうだなぁ? うん、それでいい」

「う~ん、何だかんだ言って相手も抵抗するッスからねぇ。

 市民を無用に傷付ける訳にも行きませんから、二十日(はつか)は掛かるッスかねぇ?」

 陥落(おと)せない、とは言わない辺りがエミリアの自信の表れである。

 自分なら出来る、とばかりに鼻腔(びこう)が僅かに広がる。


 その姿を見て、ジゼッペルは耐えきれないとばかりに笑い出した。

「何が可笑しいんッスか!? 失礼ッスね!」

 頬を紅潮させて怒りを露わにするエミリアにジゼッペルは詫びる。


「いや、すまん。だがな、お前がマーシア・グラディウスと戦えるのはまだまだ先だな。

 まっ、頭脳なら勝っているかも知れんがな」

「どういう事ッスか?」

「あの『鳥』な、」

「なんッスか?」

「あれなら一羽あれば、半日で()の街を落とすだろうよ。 

 市民も多少は死ぬ、という“条件付き”ではあるが、な」

「まさか!」

 だが、驚くエミリアに対して、ジゼッペルはもう一撃入れることにした。

「で、此処(ここ)からはシナンガルでしか知られていない話を元にして言うんだがな」

「何ッスか?」

「マーシア・グラディウス。あの女なら……」

 そこまで言ってジゼッペルは指を三本立てた。


 それを見てエミリアはゴクリと喉を鳴らす。

「み、三日ッスか?」

 ジゼッペルは首を横に振る

「いや、三秒だ」

「はぁ~~!」


 流石にエミリアもこれには腹を立てる。

「人を馬鹿にするのも、いい加減にするッス!」

「いや、別に……、」

 怒り狂ったエミリアにジゼッペルの弁明は結局の処聞き入れられず、話は元の方向に戻された。


「でも、それほど強い『鳥』が何で落ちるんッスか? 

 いや、落ちたぐらいで乗ってる人間が死ぬもんッスかねぇ?」

 ジゼッペルはエミリアの疑問は当然だとしながらも、あれは結局『からくり』であり、故障すれば一溜(ひとた)まりも無い事を告げる 。

 また、地上にいる間に、何処(どこ)かを壊してしまえば飛び立つ事もままならない事も教えた。

 何より、乗っているのが跳躍可能な人物だけとは限らないではないか、との言葉にエミリアも納得する。

 ジゼッペルは流石に魔獣も相手にしてきた自由人だけあって、敵の弱点を探る事には長けている。

 また、この観察眼を使って様々なネットワークやコネクションを造りあげる事によって若くして財を築く事にも成功した。

 政治的、戦略敵な思考力はエミリアには劣るであろうが、現場での勝負勘には鋭いものがあるのだ。


 ジゼッペルから知らされた『鳥』の力に一度は驚いたエミリアだが、考えをまとめる内に次第と言葉付きに冷静さが戻って来る。

「つまり攻撃が効かない訳ではないけど、あちらの火力と機動力がでかすぎるって事ッスね」

「そうだ」

「なら、楽勝ッス!」

 いよいよエミリアは自信たっぷりである。

 どうやら彼女は、自らの『戦闘技術』に相当の自信が在る様だ。

 ジゼッペルも実際の処、エミリアの戦闘力がどれ程のものか知らないため、いずれは見極めなくてはならないとは思っているが其の機会に恵まれない。


 それはさて置き、『鳥』に乗っていた二人の内一人は見つかったと言うが、『鳥使い』達の捜索は前にも増して鬼気迫るものがあるという。

 相当に重要な情報を持ったまま、もう一人が消えたらしいとエミリアは話を進めていく。


「で、ですね。どうやら死んでるらしいッス」

「ほう、何故分かる」

「見つかった方も死んだそうッス。なんか黒い袋に入れられて大きな鳥で運ばれたそうッス、けど」

「けど?」

「そいつは鳥が落ちたのとほぼ同じ地点で見つかったらしいんッスよ。

 で、もう一人は鳥から先に飛び降りたらしいんッス。ただし怪我してたんで長くは持たないだろうって言って死んだそうです」

「良く、そこまで分かったな!」

「医務班の獣人が話して居るのを聞いた仲間がいまして、運が良かったッス」

「なるほど。どこら辺で降りたのか分かるかな?」

「もう、捜索隊が出たそうなんスが、自分に言わせれば見当違いの場所を探してるッスね」

「どういう事だ?」

「山で迷ったら、どうすればいいか分かるッスか?」

「下に降りるんだろ?」

「阿呆ッス!死ぬッス!」


 エミリアの率直(そっちょく)処か子供がケンカ相手を馬鹿にするかの様な物言いに、ジゼッペルもついついムキになってしまう。

「じゃあどうすんだよ! 登れ、って言うのか!?」

「GGが活動してた南部は山岳地がないから、わかりにくいッスね。

 半分は当たってるッスが、半分は間違いッス」

「どういう事だ?」

 首を(かし)げるジゼッペルに、エミリアはまるで基礎学校(エレメンタリー)の教師の様な口調に変わって説明を始めた。

 ただ、酷い訛りは相変わらずであるのだが。


「遭難した時は、其の場を動かずに救助を待つのが基本ッス。

 下に向かって下手に動き回ると体力を失うッスよ。

 素人は知らないっしょうが、山の下りは登りの三倍、体力使うッス。

 挙げ句に水際の滝(あた)りに追い詰められたりすると、もう尾根に戻る力も残らないから『跳べない』普通の人間は間違い無く死ぬッス」

「俺たちは自由人(バロネット)だぜ。 救助なんか当てに出来るか!

 大体、誰が助けに来るんだよ!」

「だから互助会(ギルド)を作ったんじゃないッスか?」

 反論を叩きつぶすエミリアにジゼッペルは返す言葉もない。


 へこむジゼッペルを無視してエミリアの口は更に廻る。

「で、ですね。其奴(そいつ)は多分、尾根を登ったと思うッス」

「何故だ? 動かないのが基本なんだろ? それに奴らには仲間もいる。

 事実、救助隊は出ただろ?」

「そうッスね。でも、其奴が降りた地点と鳥が落ちた所が五十キロぐらい離れてたそうッス」

「ふむ、それで?」

「少しでも見つけて貰いやすくするためには、高くて開けた場所に行くのが一番ッス。

 後、自力で降りるルートも見つかるかも知れません。

 上から下は見やすいッスからね」

「だが、見つかっていない」

「だから、多分ですが尾根から滑り落ちたんッスよ」

「なるほど!」

「奴ら、多分山岳のプロっす。だから逆に下は探してないッス」

「でも、それなら俺たちはどうやって探す?」

「あいつ等、魔術師を捜索隊に入れてません。そこが狙い目ッス」

「というと?」

「自分、『跳べる』ッスよ。結構、何度でも」

 エミリアはそう言って笑った。


      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 四月二十日


 プライカから南部戦線本部及びシエネ中央作戦司令部に一風変わった通信が送られた。

 カグラ初の無線暗号通信であったかも知れないその文言(もんごん)は、

「Swallow was swallowed(ツバメは呑み込まれた)」と、人を食ったかの様なものであった。


      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇


 四月二十二日

 

 シエネの東、国防軍キャンプに設置された基地司令室に一人の男が通された。

 魔術師のフードを目深に被り顔は分からないが、案内役の国防軍兵士もやけに緊張した面持ちである。

 会議室に通された男を待っていたのは、四人の人物であった。


 最初に口を開いたのはヴェレーネである。

「御一人ですか?」

 (いぶか)しむと言うより、正直に驚いていた。

 まさか、シナンガルの人間が身ひとつで交渉に訪れるとは思わなかったのである。

 彼は頷くとフードを取って良いかと訊いてくる。

「時間が無い」と、やや焦り気味だが、それも理解できたので早々に話を進める事にした。


「お初にお目に掛かります、殿下。この度は会談を引き受けて下さった事を感謝します」

 フードの下から現れた顔は、ルナールの腹心であるシムル・アマートである。

 ヴェレーネに『殿下』と呼びかけたのは、彼女が王家に属することを知っている現れである。

 フェリシア内のスパイ網は、かなりの質の様であるとヴェレーネは読み取った。


 フェリシア側の参加者はヴェレーネ、カレル、池間、そしてオブザーバーとしてハインミュラーである。


 進行役のカレルがまずは口火を切った。

「御一人で此方に来られる事に不安は在りませんでしたか?」

「いえ、私を害してもフェリシア側には何ら利は無い、と言われておりますので」


 この言葉にヴェレーネは“やはり”と考える。

 この会談要請は彼の希望ではないのだ。

 カレルもそこに気付いたのであろう、誰から、そう言われたのかを尋ねる事になる。

 だが、シムルは其れに対する返事を頑なに拒んだ。


「この会談が表に漏れた場合、私は利敵行為で処刑でしょう。

 その事に他人を巻き込みたくは在りません」

 言葉の意味として、彼が何者かに操られている事は確かである。

 しかし、彼はこの件がシナンガルに流れ自分が処罰されるにしても”命じた者の名を出す気は無い”と暗に言い切ったのである。

 シナンガル側が調べれば、彼に命令を下した者に直ぐさま突き当たるであろう。

 しかし、シムルの証言無しでは処罰は出来まい。

 彼は拷問にでも掛けられる前に自裁(じさい)する可能性も高い。

 かなり肝が据わった男である。いや、忠義者と言うべきであろうか。


 何にせよ、この会談はシムルの一存で行われるという形を取る事を確認した上で話は始まった。


「侵略中の相手国に頼み事とは、厚かましいとは思わなかったのでしょうか?」

 柔らかい口調ながら、やや厳しめのジャブを発するヴェレーネの発言ではあったが、シムルに(ひる)む所は無い。


「戦争という行為は、得てして自分勝手な理屈で始まるものです。

 ただ、それを良しとしないからこそ私はこうして会談を願い出ました。

 話をそうやって切り捨てるつもりなら、最初からこの場を設けないでしょう。

 いかがですか?」


 オレグの作製した“プロファイル”は正しかった様である。

『シムル・アマートという男は、公平・公正であるが故に、支配・被支配の理論のシナンガル社会では余り良い評価を得ていない。

 しかし、フェリシア的な価値観で言えば充分に交渉に値する相手である』

 これがオレグの出した結論であり、そのプロファイリングに沿って考えるならば信用できる相手と言えた。


 この席にオレグを置かないのは、彼自身が先入観を持ってしまった為、必要以上に相手に好意的になる事を恐れた為であるが、ヴェレーネ以下3名の幹部もシムルに悪い感情は持てなかった。

 だが、シムルの出した要望は到底、納得できるものでは無い。

 彼は、現在の戦闘に置いてシナンガルが大敗した場合、逆侵攻を願い出てきたのである。

 四人の顔にはっきりと困惑の色が浮かぶ。


 池間が発言を求める。

「理由が分かりませんな」

 簡潔であるが芯を突いていた言葉に、シムルは奴隷制度の廃止を行いたいのだと訴えてきた。

 確かに奴隷制度が廃止という事になれば、表向きの侵略理由である”亜人の隷属化”という名分は失われる。

 妖精種や亜人に人権を認めない、という前提でシナンガルの侵略は行われているのだ。

 国内においても戦争理由が失われる事になる。

 フェリシアにしても決して損な話では無い。


 だが、一地区の大隊長代理如きが、何故そのような事を望むのだ。と問われてオレグは困った顔をした。

「私が奴隷制度に正義を感じられない、という理由ではいけませんか?」

 シムルの返事は意外性があるにせよ、あり得ない答えとは言えなくも無い。

 地球の歴史に()いても、純粋な倫理的理由から奴隷の解放に力を尽くしたり、大量虐殺から民衆を守った個人や組織が存在しない訳ではないからだ。


 しかし、戦争中の相手国の人間である。無条件に信用する訳にも行かない。

 挙げ句、シムルは僅かな情報の提供すら拒む始末である。

 混乱の種になる怪しげな情報を持ち込まれるよりは余程良いのだが、虫が良すぎるとしか言いようが無い。


 現時点で、シムルの提示した条件としては『逆侵攻を行うならば、自らの配下である約一万の軍はサボタージュを行い、戦闘に参加しない』と云う其れだけの事である。

 条件としては弱い、とヴェレーネが()ねつけると、シムルは信じられない事を言ってきた。

「では会戦に於いて私の指揮下の一万が、(かなめ)の部分に布陣します。 

 そこを全滅させれば五十万の敵でも壊滅できるという事でいかがでしょうか?」


 これには誰もが驚かざるを得ない。

 確かに会戦というものは数に拘わらず重要な基点が存在し、その敗北が周りに与える影響は大きい。

 例え全体の三パーセント程度でも、要となる軍団を潰せば勝敗が決することも決して珍しくはないのである。

 しかし、それでも一万は多すぎるではないか。

「味方を生け贄にすると?」

 池間の声はややくぐもったものになる。


 彼は今、味方二十三名を殺す『可能性の命令』に心を乱している最中なのだ。

 そこに明確に一万を生け贄にする、と言われては驚きより怒りが先に立った。

 不快感を表にする事は出来ないが、声が僅かに引きつった様になるのはやむを得なかったであろう。

 ハインミュラーまでもが目を閉じて、気を落ち着ける体制に入った様だ。


 だが逆に平然としているのはヴェレーネである。

 いや、それどころか其の場に居る誰もが、先程のシムルの提案を聞いた時以上に肝を冷やす言葉を発したのだ。

「少ないですわね。最初に十万は殺してくれないと安心して進軍できませんわ」

 今度はシムルが顔を引きつらせる側に立たされる。

 ヴェレーネは更に追い打ちを掛けた。

「スゥエンの丘の事は知っていますわね。あれを思い出して下さいな。

 別段、あなたの協力無しでも十万処か平原で百万は消せますのよ。

 大体、(かなめ)に飛び込んで相手が壊滅しなければ、此方(こちら)は包囲殲滅されるだけですわ。

 その様な罠みたいな、いえ“罠そのもの”としか言えない話、そうそう乗れると思っていますの?」


 相手から見れば当然としか言いようが無い言葉に、シムルは黙り込まざるを得ない。

 無意識に唾を飲み込む彼にヴェレーネはとどめを刺す。

 やや、怒り気味の口調は外交上の演技を交えてはいるが、本音も混ざっているのであろう。

「ロンシャンだろうが、シーオムだろうが、押さえるにしても別段私たちに利益はありません!

 此方(こちら)は降りかかる火の粉を払っているだけですわ!」


 今回の交渉はこれまで、として『次回は何らかの有意義な提案を求める』と述べてヴェレーネは会談を打ち切る事にした。

 シナンガル軍内部に反戦派が居る事が確認できただけでも“今は、良し”としたのだ。

 だが、引き上げる際にシムルは妙な事を口走る。


「私も、意味を分かって話す訳では有りませんが、女王様にお伝え頂きたい事があります」

「何でしょうか?」

「“係員の長”としての職責を全う下さいます様に、と」

 その言葉を聴いたヴェレーネは僅かに眉をひそめたものの、返事を返す事は無かった。



 四月二五日


 アクル(ヘラジカ)島、と名付けた北方の島に待機していたチェルノフ艦隊は後続の三百隻を湾内に残して、当初の百三十隻を持って出航する。

 フェリシア内部のスパイ網から入った情報によると、例の『鳥使い』の死体が手に入り、その死体が手首に繋いでいた鞄から、敵軍の配置計画が明らかになったのである。


『船』に関しては、アトシラシカ山脈の北西側僅か九十キロの地点にある鉱山の村で打ち上げ準備をしている様であるが、問題は警備である。

 どうやら、フェリシアとしては西からの攻撃を恐れて移動させただけ有って、警備を厳重にしたいのだが、人手が不足しているのが現状の様だ。

 北からの侵攻に気付かれた様ではあるが、シナンガルの目的は亜人の確保だと思われており、首都側の防衛体制を厚くしている様である。

 だが、あの船は最終的に、妖精と亜人達が『故国』に逃げ帰るための実験であろう。

 そちらも、見逃す訳にはいかない。

 

 フェリシアは防衛線の本命を山脈の東と考えて首都に向かう山道の最南端に『鳥使い』を中心とした二千五百名の強力な守備隊を要している。

 その街道沿いの村々の住民四万人近くは首都方向に避難を開始したそうである。

 ならば、山脈の東は進むだけ無駄である。

 人質も取れない上に四万程度の兵数で『鳥』を相手にする訳には行かない。

 もう少し人数を揃え、波状攻撃で『鳥使い達』を疲弊(ひへい)させなくてはいけない。

 何より人質と後続の為の補給路の確保。

これがチェルノフに与えられた第一の使命である。

 目的を見失ってはいけない。

 首都に急ぎたいのは山々である。だが、急がば回れとも言うではないか。

『勝ち易きに勝つ』事をチェルノフは狙う。

 山脈の反対側の西側に入ると小さな村があるが、此方にも僅かながら『鳥使い達』が居るようだ。

 但し、この村に『鳥』は居ない。

 先日、『鳥』が落ちた事で、首都方面を残しては『鳥のからくり』の全てを点検し始めたというのだ。

 これは大きなチャンスである。


 狙いは決まった。

 目標の村の名は『ランス-ル』、上陸地点から50km程離れており人口は三百人弱、兵士は鳥使い三十名とフェリシア兵五十名である。

 此処を押さえて人質を取れば、マーシア・グラディウスの砲撃処か『鳥』の攻撃すらも不可能であろう。

 しかも、この村は例の『船』の打ち上げ予定地への侵攻路から四十キロ程手前に位置する。

 万が一、敵の撤退戦が行われたとしても、其れを追えば『船』も同時に押さえる事になる。

 避難民を常に追い続けて彼我の距離を詰めつつ発射予定地に到着できるなら、やはり鳥もマーシアも怖くはない。


『汚い』と言わば言えである、とチェルノフは破れかぶれになっている。

 大陸の西の汚染は再び激しくなったと聞く、議会は鉱山開発を止める気配は無い。

 議会が求める上質の鉄の秘密を明け渡さぬフェリシアに責任の一端は在るでは無いか。


 自分でも、やや押しつけの理論ではないかと思わなくもない。

 しかし、チェルノフの人生に於いて教え込まれてきた価値観では、シナンガル人の行いに異を唱える側が間違っている事が前提だ。

『支配する者』と『支配される者』は決まり切ったものであり、これは“常識”である。

 よって正義はシナンガルにあるのだ。






サブタイトルは、漫画「うる星やつら」の「つばめさんとペンギンさん」からです。

英語のswallowには「燕」=「鳥」の他に「飲み込む」という意味があります。

『鳥』の情報を飲み込んだ、グリッド協会とシナンガルを表すために使わせて貰いました。

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